はんぱもののラブライブ!   作:夕藤

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第十一話 リーダーはもう

『わかったわよ! じゃあ、歌とダンスで決着をつけようじゃない!』

 

 カラオケのマイクを使いそう宣言するにこ。

 それに対し、彼女の後輩たちは次々に口を開いていく。

 

「決着?」

「歌とダンスの点数でセンターを決めるってことですか?」

『その通り! 歌とダンスが上手い者がセンター。どう? それなら文句ないでしょう?』

 

 ふふんと自慢気に言うにこに対し、反応は様々だった。

 カラオケが苦手という海未に、歌う気がしないという真姫。そしてジュースを美味しそうに飲みながら悪役のような顔をして自分がセンターになるよう細工を試みるにこを見る雪。純粋にカラオケを楽しもうとする穂乃果、ことり、凛、花陽といった具合に、本当に様々である。

 

 

「……何で私がトップバッターなのよ……」

 

 厳正なる即席あみだくじで決まったトップバッターは、μ'sの作曲者である真姫であった。

 トップバッターからいきなりの大物というだけあってか、皆が緊張した面持ちで画面を見つめる。

 

 採点モードにしか出ない音程が合っているか分かるというギミックを見続けていたものの、流石は真姫である。音程を外す事はなく、ビブラートやこぶしなど様々な高得点に繋がるマークを叩き出す。

 最後まできっちりと歌い上げたその得点は――

 

「……九十八点って、これ高いの?」

「す、凄いよ真姫ちゃん!」

「ふーん。ま、当然よね」

 

 九十八点。様々なカラオケ機種がある中で高得点が出づらい、厳しい採点をする機種でこの得点を叩き出す真姫の歌唱力は凄まじいものであった。

 にこが雪の横で少し焦ったような表情を見せるも、雪はずごっとドリンクを飲み続ける。

 

「次は私だねっ」

 

 真姫の次はことりだ。

 独特の、脳が蕩けると言われるような声で歌うのは可愛らしいアイドルの曲。これまた九十点台をたたき出し、次の凛へとマイクを手渡す。

 その後、花陽、にこ、穂乃果、そして海未という順番で歌いきり、みんなが九十点台を叩きだした所で、次はダンスかと席を立とうとした雪に――

 

「次は雪ですね」

「……は?」

 

 マイクが手渡された。

 

「ルーム料金払ってるんだし、雪ちゃんも! ね?」

「……一曲だけなら、まあ」

「天海先輩の歌って聞いたことないにゃ!」

「そう言えば、何だかんだ言って穂乃果も聞いたことないなぁ……」

 

 ピピっと次の曲が入った。生憎と、雪の歌える曲はそう多くはない。今回歌うのはとある携帯ゲームで知った曲である。

 ピアノの伴奏が主となっているその曲に、雪はそっと音を滑らせた。

丁寧な歌い出し。普段の素行とは裏腹に、優しい音色と透き通るようなソプラノの声で優しい歌詞を紡いでいく。

 四分にも満たない歌は、ピアノの音と共にそっと静かに終わる。歌詞の確認の為に画面に釘付けにしていた目をμ'sメンバーに戻してみれば、そこにはなぜか口をあんぐりと開けたまま固まっている皆の姿があった。

 雪が首を傾げていれば、一転して明るいドラムの音がひびき、雪の点数が表示された。

 

「ああ、九十九点」

 

 真姫よりも僅かに一点高い点数に、思わず雪がぽつりと零す。

 画面に最近人気になり、多忙になったと話す女性の声優のCMが移りだした瞬間、何かが爆発したように穂乃果達が口を開いた。

 

「え、えぇぇ!? 雪ちゃんこんなに歌うまかったの!?」

「今の曲、聞いたことない曲だったのに凄く感動しました!」

「中々やるじゃない。ブレスがもっと続くと、百点いってたかもよ?」

 

 かけられる賛辞の言葉に、雪は思わず手で顔を隠した。褒められるのは、やっぱり慣れていないのである。

 

「つ、つつつ次行くわよ! 次!!」

 

 にこが焦ったように次の戦う場所、ゲームセンターに向かうように指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「次はダンス! 今度は歌の時みたいに甘くないわよ……! 使用するのはこれ! アポカリプスモードエキストラ!!」

 

 聞くからに難易度の高そうな物を選ぶ当たり、にこも人が悪い。

 まともにプレイ経験のない人が出来るゲームではないだろう、という口コミと、そのゲームをやりこんだ玄人のプレイ動画を携帯で見ながら雪は溜息をついた。

 

「何かできたにゃー!」

 

 まあ、その口コミもあてにならない時はあるが。

 

 持ち前の運動神経を駆使し、見事高得点を叩きだした凛に対し、にこは思わず「はぁ!?」と大きな声で反応する。しかし咳払いでその場を誤魔化し、にこ自身もそれなりの点数を叩き出す。

 日頃の練習の成果もあってか、みんなが程よく均等な点数を取っていく。今後練習を優先させる順位付けも兼ねる事ができるので、雪もこっそり携帯のメモにそれぞれの得点を書き込んでいく。

 

「雪ちゃんで最後だねっ」

「えっ、また私もやるの!?」

「折角来たんだからぁ~」

 

 全員分のダンスを見届けた所で、再び穂乃果にやるよう促され雪は渋々ゲームに百円玉を滑らせた。

 

「Oh…どの曲もあんまり知らないんだけど……」

 

 思わずぽそりと雪は呟く。しかし百円玉を入れた以上はやらないと勿体無いかと溜息をついて、先ほど見た動画と同じリズム感の良いアップテンポな曲を選択した。

 

「穂乃果、ついでにこれも持っててね」

「おぉ、本気だ!」

「もったいないし」

 

 雪は愛用のパーカーを脱ぎ、穂乃果に手渡した。ブラウスの袖を丁寧にまくり上げ、画面に指示される通りーーではなく、

 

「えっ!?」

 

 先ほど見た動画と同じように、ステップを踏み完璧なダンスを踊り始める。()()()()の振り付けを一つ一つ丁寧に、雪は再現していく。

 それを見ていたメンバーは唖然とし、最後の決めポーズを決めた雪を見た。

 

「……あんたほんとに人間?」

「酷くないですか?」

 

 初見プレイで高得点を叩きだした凛よりも僅かに上の点数をたたき出し、雪はそのままゲームの台から降りた。

 にこがそんな言葉を投げかけるのも、無理はないだろう。雪の動きは到底素人には見えなかったのだから。

 

「雪ちゃんやっぱりアイドル……」

「い・や!」

「だよねぇ……」

 

 穂乃果の誘いに雪は即答した。最早何度目かも分からない勧誘の言葉に苦笑しながらも、雪は再びパーカーを着て鞄を持った。

 

 ここまでの得点を総合すれば、歌も踊りも、μ'sメンバーの中では決着は着いていない。このままではずっとリーダーが決まらないのでは、と誰もが危惧したところで、再びにこから新しい戦いが設けられる。

 

「歌もダンスでも決着が着かないのなら、最後はオーラで決めるわ!」

「オーラ?」

「歌も駄目、ダンスも下手! でも何故か放っておけない……それはずばり、オーラ!」

 

 火がついたにこを止められるメンバーは、現状μ'sの中にはいなかった。それどころか花陽が分かります、と相槌を入れている。

 

「で、でも、そんなものどうやって競うのですか……?」

「そこでこれよ! 雪!」

「ああ、だから持って来いって言ったんですか」

 

 コレ、と雪が鞄から取り出したのは、何枚ものチラシだった。

 そのチラシこそ、次のライブの内容を明記した簡易的なチラシである。愛らしいイラストと、わかりやすいレイアウト。白黒ではあるものの、チラシとしての役割は十二分に果たしてくれるだろう。

 

「何枚あるの?」

「とりあえず手始めに二百五十枚くらい」

「に、二百五十枚!?」

「じゃあ一人三十一枚くらいね?」

 

 ガサガサとにこが手早くチラシを三十枚ずつに分けてメンバー全員(・・)に渡していく。

 

「……また、私もですか?」

「広報活動もアイドルの基本よ! マネージャーを名乗るんなら、これくらいは当然のことでしょ?」

「ぐ……」

 

 ガンバリマス、と小さな声で雪が呟いた。チラシの束を抱え、盛大に溜息をつくと――

 

「よろしくお願いします」

 

 爽やかな笑顔で次々とチラシを配布していった。

 元々こういった素質でもあったのだろうか、そう思う程度には、雪は次々とチラシをさばいていく。

 一方ことりもこういったことには慣れているのか、はたまた雪と同じように偶々才能を持ち合わせていたのか、あっという間にチラシを配り終えた。

 

「終わったよ~」

「あ、私も」

「えぇ!? もう!?」

「いや、だってチラシ渡すだけだし……」

 

(正直、これは競うまでもないと思っていたんだけど)

 

 そんな事を思いながら、雪は穂乃果に腕を引かれるままμ'sの部室へと戻ってきた。

 しかし結果は見るまでもないだろう。

 

「皆おんなじだねぇ……」

「ダンスの点数が悪い分カラオケの点数が良い花陽に、カラオケの点数が悪いことりはチラシ配りの点数が良いし、後は皆似たり寄ったりって感じだし」

 

 これじゃあセンターは到底決められないだろう。

 

「にこ先輩も流石です。みんなより全然練習してないのに、同じ点数なんて」

「あ、あぁ…当たり前でしょ」

「でもどうすんの? これじゃあ決まらないでしょ」

「それなのですが……」

 

 雪の言葉に海未がおずおずとメモを見ながら口を開いた。

 

「一応トータルでは雪が一番得点が高いんです」

「え゛」

「歌は真姫ちゃんよりも少し高かったし、ダンスも凛ちゃんより少し高かったよね?」

「チラシ配りでもことり先輩と殆ど同じタイミングで配り終わってたにゃ」

「やっぱりリーダーは雪ちゃんが――待って雪ちゃん。そこは扉じゃなくて窓だよ」

 

 雪が静かに荷物を纏め窓から帰ろうとするのを、ことりが即座に腕を掴んで止めた。動揺すると奇行に走るのが雪の悪い点である。

 

「マネージャーがリーダーなんて示しがつかなくない? そ、それにほら、そもそもセンターを決める為にリーダーを決めるのに、マネージャーがリーダーになったら結局センター決まらないでしょ?」

「うーん……じゃあ無くてもいいんじゃないかな?」

『えぇ!?』

 

 穂乃果の突拍子のない言葉に、メンバー全員が驚いた。

 

「無くても……?」

「うんっ。リーダーなしでも全然平気だと思うよ?」

「確かに、今のところリーダー無しで練習もできてるし歌も歌えてるけど……」

「リーダーがいないグループなんて聞いたことないわよ!」

「大体、センターはどうするのよ?」

「それなんだけどさ、私考えたんだ。みんなで歌うってどうかな?」

「? みんな?」

 

 皆で歌い、順番にスポットライトを浴び、皆で一つのステージを作り上げる斬新な発想。センターという役割に固執している人間には、到底思いつかないようなその発想に、皆がくすりと笑う。

 

 歌も踊りも、そういったものを作るのは簡単だ。

 

「皆が歌って、踊って、皆がセンター。そういうの、見てて面白いと思うよ」

「でしょでしょっ?」

「私も賛成っ」

「好きにすれば?」

「凛もソロで歌うんだー!」

「私もっ?」

「やるのは大変そうですがね」

「仕方ないわねぇ……ただし、私のところはかっこよくしなさいよ?」

「了解しましたっ」

「善処します」

 

 結局これが、μ'sにあったスタイル。センターは無し、と決まった所で穂乃果がじゃあ練習しようと真っ先に屋上へと駆けて行く。

 

「でも、本当にリーダー無しでいいのかな?」

「いいえ」

「もう最初っから決まってるでしょ」

「天海先輩の言うとおりね。不本意だけど」

 

 ことりの疑問に海未と雪が答え、真姫が納得がいったという顔でそう付け足した。

 

「何にも囚われないで、一番やりたいこと、一番面白そうなことに怯まず真っ直ぐ向かっていく。それは穂乃果にしかないものなのかもしれません」

 

 海未の言葉を聞きながら、雪は音楽プレヤーをポケットから取り出し、No titleと表示される曲を見た。

 

「……これからのSomeday……うん。ぴったり」

 

 ――七人の曲。

 PVの撮影は、どういう感じにしようか。確か穂乃果達は学校全体を使いたいと言っていたっけ。それなら生徒会に申請をして、理事長にも一応断っておかなければ。編集作業にかかる時間はいくら位だろう。全部一度で撮れるといいのだけど、きっとやり直したりするだろうからメモリーカードを買ってこなくては。

 ああ、それから今日練習するなら今からスポーツドリンクを作って、今度電子メトロノームも部費で落としてこよう。

 

 これからやるべき事を頭のなかで考えながら、雪は屋上の扉を開け仲間たちの元へと駆け寄っていった。

 

 

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