はんぱもののラブライブ!   作:夕藤

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第十三話 勉強と、大嫌いで憧れだった人

「そもそも、海未達の私に対するイメージがちょっぴり間違っているんだよね……」

 

 海未に正座をさせられ小一時間ほど説教を受けていた雪は、痺れた足をぷるぷると震わせながらそう言った。

 

 そもそも英語が出来るのは自身の父がイギリス人だったからだったからだ。外国を愛し通訳者として活躍した母と、そんな母を愛した商社勤めの父の間に生まれたのが雪であり、仕事上の都合によって転勤族――しかも、よりにもよって海外メインの転勤族になってしまった両親に着いて行く事になったのだ。両親の傍らで勉学も教わっていたからこそ、英語を含め今では十三ヶ国語をマスターしていたし、引越し先の学校で勉強に遅れないようにするために、他の教科も満遍なく理解するに至っていた。

 

 パーカーを着ているのはヨーロッパ周辺にいた時の名残であり、あの辺りでは寧ろ制服を着崩さない方が浮いていたくらいだった。ピアスだって、小学生ですら開けている国もある。即ち、雪の今のスタイルは外国で培われた『浮かないための』対策でもあったのだ。

 

「けれど、ここは日本です」

「それ言われると、厳しいんだけどね。まあ長い間こうだったんだから許してよ。それよりも、さあ勉強勉強」

 

 早めに会話を切り上げると、雪は凛の教科書を取り上げページを捲る。

 

「凛、テスト範囲は何処から何処までか分かる?」

「え、えっと最初の単元から四つくらい……なはず」

「そう、じゃあ此処の例文とこっちの文、それからこっちの文を全部覚えて」

「えっ!? ぜ、全部ですか!?」

「当然。あとこれから私、会話は全部英語でするから。凛も質問も答えも英語で答えてね」

「と、突然過ぎにゃー!」

「Rin,Do not scream」

 

 叫ばない、と早速英語で注意する雪に、その場にいたメンバー全員が目を丸くする。

 たった一言の英語なのに、自分たちの話す英語とは確実に違うのだ。本場の英語、というのはこうも違うのかと誰もが思った。

 

「え、あ……あいすくりーむ?」

『凛の英語ってそんなに壊滅的なの? 何で叫ばないでがアイスクリームに変わるの?』

「ま、待つにゃ! 何言ってるのか分からないにゃー!!」

『叫ばないの』

 

 雪の持論ではあるが、外国の言葉を覚えるためにはまず友達を作る事が大切だと思っている。人によっては恋人だったりとするが、まあ原理は同じだ。

 『相手のことがもっと知りたい』『相手ともっとお話したい』

 一緒に買物へ行ったり映画を見に行ったり。その上で必要になるのは、やはり会話である。相手の言っている事を理解し、自分の考えを伝えるために相手の言葉を用いて話す。最初は単語だけでもいい。片言だって構わない。少しずつ慣れていけば、一ヶ月も経った頃にはある程度の会話ができるようになる。

 

 だからこそ、雪は凛に英語で話しかけていた。厳しすぎるかもしれないが、凛は花陽にヒントを貰いながらscreamの単語の意味を調べている。これはいい傾向だ。

 

「いやぁ、でも私も雪ちゃんがハーフだって言うのは初めて知ったよぉ」

「穂乃果、私の身の上を覚えるよりもまずはこの公式を覚えてくれる?」

「…………あい」

 

 次は穂乃果の数学を指摘する。

 教科書の公式を覚えさせている間に、ノートやノートに挟められたプリントを見て何処が苦手なのかを把握していく。そしてルーズリーフを取り出して幾つかの注意ポイントを書き込んでから海未とことりに手渡した。

 

「海未とことりはこの単元を中心に穂乃果に教えてあげて」

「は、はい。分かりました」

「注意書きだけなのに凄い分かりやすい……」

「残るはにこ先輩なんですけど……」

 

 雪はここでにこを見た。

 幾ら勉強ができると言っても、あくまで高校二年生のレベルの話だ。マンガやアニメのように三年生の問題や大学生の問題までスラスラ解けるというわけではない。人に教えるには人の三倍理解していなければ教えられないと言うくらいだ。こうなったら腹をくくって三年生の単元にまで手を伸ばすか、と雪が思ったその時――

 

「にこっちはうちが担当するわ」

 

 不意に、部室の扉が開かれた。

 立ち聞きでもしていたのだろうか、いやこの際どうでもいいと雪はその人を見る。

 

「――お願いします、希先輩」

 

 これで、準備は整った。

 

 

 鞄の中から黒縁のシンプルな眼鏡を取り出してかける。髪も気にならないよう、一つにまとめてお団子ヘアに変えると、他のメンバーから感嘆の声があがった。

 

「天海先輩、眼鏡なんですか?」

「裸眼でも支障はないんだけど、勉強するときは眼鏡してるから。さ、勉強始めちゃおうか」

 

 赤ペンとシャープペンシルを持ち、雪は一人ひとりの勉強を見て回る事にした。

 

 

 

 

 

「――ってなるから、此処はこうなるわけ。分かった?」

「えぇっと、これはここにかかるんだよね? でもここの二は一体どこから来たの?」

「この数の最小公約数が二なだけよ。一番簡単な数にしたいから、此処で約分したの」

「なるほど!! じゃあここはこれに二をかけて……こう?」

「正解!」

 

 

「えーと、此処はどうなるの?」

「ことりは……ああ、そこね。海未は?」

「私も同じところです」

「じゃあ二十九ページの公式の応用だね、それ。ここがxだと思うかもしれないんだけど、問題文を通してみるとこっちの方がxだから……」

「あ、そっか! じゃあこの公式に当てはめればいいんだ!」

「そうそう。また躓いたら呼んで」

 

 

『凛、そこの単語スペル違うよ』

「にゃっ!? ど、どこ!? あ、違う! えっと、うぇ、うぇあ?」

『そこのPreciousのところ。Presiasになってる』

「ほんとだにゃー! ありがとうございます、天海先輩!」

「凛ちゃんが英語を理解してるなんて……」

「驚天動地ね……」

『そこの二人は大丈夫そうだけどね……くれぐれもリスニングだけは満点取ってよね』

「が、ガンバリマス」

「私は別に」

 

 

「にこ先輩はどうで――」

「にっこにっこにー……!」

「――……駄目なんですか」

「うちもわかりやすく説明しているつもりなんやけどね……心折れそうや」

「ちょっと教科書とノート見せてください……ああ、これ途中式が一個ずれてますね。というか、考え方がずれてる気も? 此処は無理にたすき掛けを使うんじゃなくて、普通の方法でも出来る事を抑えておいた方が良いと思います」

「何で二年のアンタが解けるのよ……」

「いや、教科書に載ってます」

「雪ちゃん頭ええんやねぇ」

 

 流れるように各自のレベルに合わせた勉強の解説を進める雪に、希達は純粋に尊敬の念を抱いた。

 教職関係の就職を目指せるのでは、と思うほどに相手を気遣った勉強スタイル。厳しく教える一方で、褒めるときはしっかり褒める。飴と鞭のしっかりとした教え方である。

 

「これで服装指導とかが入らなければ尚良し、って感じなんやけどね」

「……sorry」

「と、そろそろ時間ですね。私は弓道部に行きますので、雪後は頼みます」

「Ok,Leave to!」

「今のは……任せて、であってるかにゃ?」

 

 勉強は、少しずつ身についてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(疲れた……)

 

 流石に三人の赤点保持者と、他にも勉強を教えて欲しいと頼み込んできたメンバーに教えるのは骨が折れた。

 太陽もすっかり沈んだ頃、私はため息を付きながら帰路につく。

 

 珍しく希先輩が所用があるとかで、今日は晩御飯を一緒に食べられないらしい。あの美味しい料理を食べられないのは少しばかり残念だけれど、でも改めてあの人もお節介だと思う。普通、後輩に毎日甲斐甲斐しく世話を焼くだろうか。壁を作っているようで作っていないような、本当に厄介な人だ。

 ……厄介といえば、あの生徒会長も厄介だな。うん、本当に色んな意味で。

 

 帰り道、本来ならば晩御飯を考えたり音楽を聞きながら帰るところなのだろうけれど、私は違った。何を考えても結局μ'sのことや、生徒会の事を考えてしまう。

 ……本当に、そこまでに大きな存在になっているということなのか、と苦笑する程には、考えてしまうらしい。

 

(ああ、ほんと、穂乃果ちゃんにはやられたなぁ……ああ、そういえば)

 

 学校を本気で存続させたいと思うのなら、μ'sの存在は絶対に外せない要になる。なら、そのμ'sをどうやって世の中に売り込んでいくかが今後の課題になる。オープンキャンパスや学校祭だけではまだ足りないだろうから、商店街や地元の小学校、そうだ、動物園なんかも良いかもしれない。遊園地は流石に無理かもしれないが、ダメ元で聞いてみるのもアリだろうか。

 

「雪」

 

 そんな事を雪が考えていると、突然後ろから声をかけられた。

 冷たく、抑揚のない呼び方。雪は思わず振り向いた事を後悔した。

 

「久しいな。電話にくらい出たらどうだ?」

 

 苦手だった。

 

「着信拒否、解除してくれないだろうか? これでは電話の意味がない」

 

 大嫌いで

 

「……英玲奈」

 

 ――憧れだった。

 

 

 

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