はんぱもののラブライブ!   作:夕藤

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第十八話 人気に溜息

 『僕らのLIVE 君とのLIFE』

 μ'sが九人になり、オープンキャンパスで初めて披露された曲。

 メンバー全員をくまなく撮影していた雪は一つ一つの見せ場のシーンをより厳選し一つのMVとして完成させると、ふぅと息をついた。

 

「ホームページも色々とデザイン変えるのには骨が折れたけど……でも何とか形になってよかったぁ。あーあ、こんなに大変だったなら最初っから私が請け負っておけばよかった。にこ先輩必要ないところまでいじりすぎだったし」

 

 自室に一人しかいないことをいいことに、雪は日頃の愚痴をぽろぽろと零していく。

 穂乃果は全体をあまり見ていないし、ことりは衣装ばっかりに目が行くときあるし、と。メンバー全員に思っている事をぽそぽそと呟いた後、自分の顔をぺちんと叩き気合を入れなおす。自分ばかり甘えてなどいられない。穂乃果たちを全力でサポートするのが今の自分の責務だ。

 

「ああ、そうだ」

 

 気合を入れなおしたことにより、雪は大事な事を思い出す。動画の再生数を見る限り、μ'sの注目度はそれなりにあがってきている。このあたりで、アイドルなどにありがちなうちわだのブロマイドだのグッズ販売について触れておかなければ、後々大変なことになるのだ。主に金銭面で。

 

 μ'sはただでさえ衣装に凝っているので衣装代がかさんでしまうのだ。今はそれぞれが持ち寄った布や古くなってしまった衣類、それから僅かながらの部費で何とかやりくりしている状態だが、それにプラスで機材代や諸々の雑費が掛かってしまっている。

 幸いなことに、今アイドル研究部の赤字について知っているのは雪のみである。

 

 それを一挙に解決する方法はあれしかないか、と雪は溜息を零しながら電話をかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ちゃん雪ちゃんビッグニュース!」

「廃校が先延ばしになった事ならもう聞いたよー」

「そうそう廃校が先延ばしにって何で聞いてるのー!?」

「今朝出会い頭に理事長直々に」

 

 誰よりも早く部室に来ていた雪は、自分の持ってきたノートパソコンとキーボード、マウスを無理矢理繋げてHPの管理やPV、写真の編集を行っていた。

 凛と花陽はそんな真面目に仕事をしている雪の姿を見て邪魔をしないようにと部室の掃除をしていたところだったのだが。

 

「でもまあオープンキャンパスのアンケート結果が良かったっていう事は音ノ木坂学院に少しでも興味を持ってもらえたって事。前のオープンキャンパスに比べて変わった所は数点しかなかったから、そのアンケート結果の数字にμ'sが関係していないわけがない」

「つまり?」

「……つまり、μ'sがアンケート結果に大きく貢献したって事。分かった?」

「おぉ! わかったよ雪ちゃん!」

 

 本当に分かっているのかいないのか。小さく溜息を吐くと、穂乃果はぷくっとその頬をふくらませる。

 

「むぅー!! あ、そうだ。雪ちゃんこっちは知ってる?」

「こっち?」

「ふふふ……じゃじゃーん! 部室が広くなりましたー!!」

 

 そう言いながら、穂乃果はアイドル研究部に隣接されている空き教室へと続く扉を開けた。この点については、雪も初耳だったので素直におぉと感嘆の声を漏らした。

 

「あの狭さに慣れてたけど、そう言えば今までのアイドル研究部の部室って準備室だったんだもんね……よく十人で使えてたよ」

「これからも今まで使っていた部室の方をメインで使って行く予定だよ! こっちは、雨が降った時に発声練習とかダンスのフォーメーションだけ確認できればそれで良いよねって話になってるんだ」

「……このくらいの広さなら、フォーメーションだけと言わずのびのび踊れるんじゃない?」

「まあ、そのあたりも視野にいれる予定なんだけど、きっと衣装とかは此処に置くことになるから」

「ああ、それじゃあこの部室も狭くなってくから無理か」

「…………そう、だね」

 

 雪のさらりと零した言葉に、穂乃果は少しだけ驚いた。それは、自身と同じくμ'sが今度も活動していき、新しい音楽や新しいダンスを披露していく事が前提の言葉だったからだ。

 うまくいかない。これだけできれば十分。そんな事を思っていれば、そんな言葉は出てこない。

 

(……それ言ったら、雪ちゃんはきっと恥ずかしがって否定するんだろうけど)

 

 自分だけではなく、雪もしっかりと前を見ている。μ'sが今後どうなるのかを考えてくれている。それが分かっただけで、穂乃果の顔は緩みに緩んだ。

 

「……何ニヤニヤしてるの? 気持ち悪い」

「いやぁ、何か嬉しくって」

「まあ、嬉しいには嬉しいけど……安心してる場合じゃないよ」

「天海さんの言うとおりよ」

「絵里先輩」

 

 雪の背後から現れたのは、生徒会の仕事に区切りをつけて部室にやってきた絵里であった。海未がそっと扉の前から一歩身を引き、それに合わせてことりも少しだけ身を引いた。

 

「生徒がたくさん入ってこない限り廃校の可能性はまだあるんだから、まだ頑張らないと――」

「うっ……ひっ、うぅ……」

「――……え?」

「嬉しいです!!」

「ぅえっ……!?」

「まともな事を言ってくれる人がやっと入ってくれました!!」

 

 絵里の厳しい発言に対し、海未が涙を零しながら絵里へと詰め寄った。その光景を見た凛が、

 

「それって凛達がまともじゃないみたいなんだけど……」

 

 とポツリと漏らした。それを聞いた雪も思わずうんうんと頷く。

 

「ほな、練習はじめよか」

「あ、ごめんなさい……私はちょっと、このへんで……」

 

 絵里に少し送れる形で会話に参加してきた希の言葉に対し、ことりが申し訳無さそうに申し出る。その姿に、その場にいたメンバー全員が首を傾げながらも出て行くことりを見送る。

 

「……どうしたんだろう? ことりちゃん、最近早く帰るよね」

 

 穂乃果の疑問の声を聞きながら、雪は小さくなっていくことりの背中を見つめ続けた。

 

「……なんかまたあるな、こりゃ」

 

 溜息がまたこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~~~! 凄いなぁ~~!」

「ランキング五十位……二十位を目指せる圏内に入ってきたって所か」

「すごいわね」

 

 屋上練習中、ノートパソコンの画面を覗き見て凛と穂乃果が思わず声を上げた。

 

 ラブライブに出場できるのは上位二十位までのグループのみ。ラブライブ出場への道が確実に開けてきている事に今まで以上のやる気が出てくるのは無理もないだろう。

 

「絵里先輩が入ったことで女性ファンも着いたみたいです」

「?」

「確かに……背も高いし、足も長いし、美人だし……何より大人っぽい! 流石三年生!」

「……ふむ」

 

 穂乃果が絵里を下から上へと見上げるのに習い、雪も下から上へと絵里を見上げた。

 スラっとした長い足、白い肌。出るところは出て、引っ込むところはきゅっと締まっている。クォーター故なのか、人並み以上に整った顔立ちは異性のみならず同性にも受けがいいのだろう。

 

「やっぱりクォーターっていうのに惹かれる部分もあるんですかね」

「や、やめてよ……それに、天海さんはハーフでしょう? 貴女もルックス良いんだからそろそろ踊って――」

「私は今のままで十分です。この間なけなしのお金でμ's特製スタッフジャンパーをことり監修のもと業者にお願いして作ってもらっているところなので」

「そこまでやってたの!?」

「二割は嘘だと思ってもらって良いよ」

「八割本気じゃないの……」

 

 雪が素知らぬ顔で私はμ'sに参加はしませんと口笛を吹き始める。絶妙に上手いメロディーに思わず苦笑を零すメンバーもちらほら。呆れた顔のメンバーも中にはいるが。

 

「でも、おっちょこちょいなところもあるんよ? この前なんか玩具のチョコを本物と思って食べそうになってたし」

「の、希!」

「そのネタは美味しいですね。いつかネタに困った時にはHPのトピックスに書いておきます」

「天海さん、それだけはやめなさい」

 

 絵里が顔を赤らめながら雪に注意したところで、おーいと声が聞こえる。穂乃果達の注意がそれた所で、雪はパソコンのメモにしっかりと絵里の事を打ち込みバレないようバックアップを取った。

 そして、

 

「それよりも前に、まずやらなきゃいけない事があるでしょ?」

 

 にこのそんな言葉を聞いた瞬間、雪は『お先に失礼します』とだけ書いたメモ帳をそっとレジャーシートの上に残し屋上を後にした。

 

 ――現時点で、にこの変装癖を思い出せていたのは雪だけだった。

 

 

 

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