はんぱもののラブライブ!   作:夕藤

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第十九話 カリスマメイド、ミナリンスキー

 何でも吸収し、日々進化していく街『秋葉原』

 日本のアニメ文化の中心と言っても過言ではないそこには、一歩踏み込むだけで見たこともないような世界が広がっている事がある。

 雪はここで、一つの言葉を思い出していた。

 

「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中って言うけど、そこまで的はずれな人初めて見た。何やってんの? 熱中症で死んでも私責任取れないけど」

「雪ちゃん酷いよ! 先に逃げちゃうなんて! それにこれはにこ先輩が人目を気にしろって……」

「人目を気にするのに人目についちゃう格好をしちゃう辺り、にこ先輩も本末転倒なんだよね。律儀に付き合っちゃうみんなのお人好し加減、私凄く好きよ。あ、でも今の格好であんまり近づいてほしくないかな。知り合いだと思われたくないのっ」

「海未ちゃん! 雪ちゃんがいじめるー!!」

 

 うわぁーんと海未に泣きつく穂乃果を、雪はフラペチーノを片手に穏やかな笑みを浮かべながら観察した。

 『秋葉原に行くよ!』というメッセージが穂乃果から送られてきたから仕方なく秋葉原に来てみれば、もうすぐ夏が迫っているというのにコートとマフラーをしている八人組がいるのだ。思わず雪は辛辣な言葉を投げかけた。気を許せばすぐにでも腹筋が崩壊するレベルで笑える案件だった。実際、雪もその肩を少しばかり震わせている。

 

「凄いにゃ~!」

「? 凛……?」

 

 と、此処で凛の声が聞こえ、雪は思わず振り向いた。

 

「スクールアイドルの専門ショップ……ああ、丁度良いかな」

「丁度良い? 何が?」

 

 穂乃果の疑問の声を無視し、凛の声が聞こえてきた店――スクールアイドルショップへ迷うこと無く雪は足を踏み入れる。ざっと店内を見回し、目的の商品があるのを見つけ、雪はふむふむと頷いた。

 

「こんな風に販売されてるのか……スペースは若干狭いけど、『人気爆発中』とか『大量入荷しました』のポップは有り難いかな」

「うわぁ、この缶バッジの子可愛いにゃ~」

「……うん?」

 

 雪が写真を撮っていると、凛が缶バッジを手にとり感想を漏らした。

 

「いや、可愛いって……まあ確かに可愛いけど」

「穂乃果ちゃんもにこ先輩も見てみて~! まるでかよちんそっくりだにゃ~!」

「っていうかそれ、花陽なんだけど」

「……えー!?」

 

 ここまで鈍いとは思わなかった、と雪は溜息を付く。

 ちょいちょいと手招きをして希と絵里、海未達をコーナーの近くへ集めると、ごほんと咳払いをした。

 

「えー、ちょうどいいので発表致します。つい先日、某アイドルグッズ制作会社に掛け合い、めでたく我らμ'sのアイドルグッズが完成したことを此処にお伝えします!!」

「い、いつの間に!? っていうかこれ雪ちゃんが掛けあってくれたの!?」

「そうそう。本当は制作も全部私個人でやりたかったんだけど、そうもいかなくてね。収入については全て新しく作った口座に入ってるから、そこから衣装代やステージ代とか出せると思うよ。因みに、余ったお金は全て学校側に寄付金として回すし、それでも大きくなったら募金に全額投入するけどね」

「予算の事に加えて、ちゃんと学校についても考えてくれていたのね……ハラショー」

「雪ちゃん、ちゃっかりしてるんやねぇ」

 

 これでも一応、雪はμ'sのマネージャーである。

 文房具店で購入してきた帳簿に毎回かかる費用を書き込み、電卓を叩いた結果予算が圧倒的に少ないことに気づいたその時から、雪はどうにか資金を調達出来ないものかと考えていたのだった。

 結果として、些か問題はありそうだったがグッズ販売に乗り出したのである。勿論コレに伴い色々と苦労した面もあるのだが、その辺りについて詳しく話せば穂乃果や凛辺りが頭から煙を出しそうなので話さないことにしておこう、と雪が話題を変えようとしたその時だった。

 

「――あの、すいません!」

 

 聞き覚えのある声が、店内に響く。

 脳をとろけさせるような甘ったるい声に雪は思わず小走りで店の前へと行き――言葉を失った。

 

「あのっ! ここに私の生写真があるって聞いて! あれは駄目なんです!」

 

 クラシカルタイプのメイド服は、何故だろう異様なくらい、彼女に似合っていって。

 見慣れた蜂蜜色の瞳が揺れて、私と目が合う。

 

「……ことり?」

「ピィっ!?」

 

 奇妙な声を上げ、ことりはピタリと固まった。

 顔を見られないようにしているが、その特徴的な髪型と声でことりだと既にバレている。

 

「何を……しているんですか?」

 

 海未が恐る恐るそんな疑問を口にすると、ことりは近場にあったガチャポンのカプセルのゴミを手に取り、それを目に当てた。

 

「コトリ!? ホワット!? ドゥナタデスカ!?」

「外国人にゃ!?」

「んなわけないでしょ」

 

 凛に的確なツッコミをいれながら、ヨキニハカラエミナノシューと言って歩くことりを見た。

 どうする? 取り押さえるか?

 

「サラバッ」

 

 そんな雪の一瞬の迷いが、ことりに逃げる隙を与えた。

 

「Shit! 穂乃果、海未はことりを追って! 希先輩、一緒に裏周りますよ! 他のメンバーは追って指示を出します! 散開!」

「了解! 待て~、ことりちゃ~ん!」

「ことり、何故逃げるのです!」

「了解やん!」

「早く捕まえて来なさいよ~」

 

 にこが呑気にそんな言葉を漏らす中で、雪は希と共に走りながら顔を見合わせる。

 

「多分ことりちゃんのことやし、見つかった時の逃走ルートくらいは考えてるんやろうね」

「ええ、ことりの性格ですし、それは間違いないと思います。そして恐らく、その逃走ルートは幼馴染二人に見つかった時のためのもの」

「となると幾つかに絞れるんやけど、一番分かりづらい道言うたらあそこしかない……ほな、いっくよー!」

 

 案外乗り気な希に苦笑しながら着いて行く雪。

 二人揃ってとあるアパートの隣にある生け垣の影に隠れ、得物が自ら飛び込んでくるのをひたすらに待った。

 

 ――そして、

 

「「みぃ~つけた」」

「ヒィ!?」

 

 予想通りに逃げ込んできたことりを、問答無用で確保するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お洒落で可愛らしい店内に響いたのは、八人分の驚きの声だった。

 相も変わらずロングスカートのメイド服に身を包んだことりは、深く項垂れながらもぽそぽそと真相を語っていたのである。

 

「こっ、ことり先輩が、このアキバで伝説のメイドミナリンスキーさんだったんですかぁ……!?」

「そうです……」

「あ、すいませんこのカフェオレとショコラケーキと苺ショートとモンブランと、それからベイクドチーズケーキ一つずつお願いします」

 

 普段からは考えられないような低めの声がことりから発せられた。

 それを尻目に雪は普段摂取できていないカロリーを摂取すべく、ケーキを山ほど頼んでいたが。

 

「酷いよことりちゃん! そういうことなら教えてよ! 言ってくれれば遊びに来てジュースとかケーキとかご馳走になったのに!」

「そこ!?」

「じゃ、じゃあこの写真は……?」

「それは店内のイベントで歌わされて……撮影禁止だったのに……」

「そういうことなら、後であのアイドルショップに言って下げてもらうよう交渉しとくから安心して」

「雪ちゃん……ありがとう」

 

 ひらりと手を振り返答するも、まあマナーの悪い客もいたものだと雪は憤りを感じていた。

 今後のイベントではそういうのを徹底的に取り締まるべきだろう。ヒデコ達には迷惑をかけるかもしれないが、全面的に協力してくれると言っているのだしここは頼ってもいいだろう。

 

 なんて雪が考えをまとめている間に、注文していたケーキの数々がメイドの手によって届けられた。

 美味しくなぁれなどといった魔法は興味の有りそうだった花陽にさせて、雪は黙々とケーキを平らげていく。無論、これで希の作った晩御飯が入らないようならばこの後に走りこみを行う予定である。

 

「――自分を変えたいなって思って。私、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、雪ちゃんと違って何もないから……」

「何もない?」

 

 突然出てきた自分の名前に顔を上げれば、ことりは少しだけ寂しそうな顔をして穂乃果の顔を見た。

 

「私、穂乃果ちゃんみたいに皆を引っ張っていけないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてない。雪ちゃんみたいに、自分の信念を持って突き進めてもないし……」

 

 自分の信念なんて、持ったつもりは毛頭ない。けれど、ことりが言うのならそういうふうに見えていたのかもしれないな、と雪は心の中で思った。

 言葉にはしない。言葉になんて、雪には出来なかった。

 

 そんなことないよ、とフォローを入れる穂乃果と海未の言葉を否定する程には、ことりの抱えている問題はきっと大きいのだ。

 

 

 

 雪がケーキを食べ終わった頃に、じゃあ時間も時間だしと解散することになった。

 絵里と穂乃果と海未という三人の組み合わせに、雪は正直反対したが、希が大丈夫やからと雪の首を引っ張っていく。

 

「大丈夫、でしょうか。本当に」

「だから、大丈夫って言ってるやん? えりちが一度打ち解けた相手に冷たくし続けるわけないし。もしそんな人やったら、うち愛想つかして友達やめてるもん」

「はあ……まあ、希先輩が言うのなら」

「ん。それでよろしい」

 

 雪と希の間にゆったりとした空気が流れ始める。

 無言なのに、それは一切気不味くなんてない。むしろ心地の良い無言で、雪は思わずほっと息をついた。

 

「せや」

「?」

 

 そんな中で、唐突に希が思いついたように笑った。

 

「ねぇねぇ雪ちゃん。うちらもう一緒に食卓を囲む仲やん?」

「はあ……その節はどうもお世話になっております?」

「いや、違くて。敬語とか、なんか堅苦しいなぁって思ってたんよ」

「……は?」

 

 希の言っていることが全くわからないといったように、雪が首を傾げた。対する希は不敵に笑いながら、タロットカードを二枚取り出した。

 

「雪ちゃんなら、このタロットカードがわかるやんな?」

「愚者の正位置と、魔術師の正位置……です」

 

 希の突然の行動に面を食らいながらも、雪はそのタロットカードの名称を言い当てた。

 二枚のカードが共通して持っている意味。それは――

 

「変化、ですか?」

「正解! そろそろ雪ちゃんには、うちの事名前で呼んで欲しいんやけど?」

「……生憎と、上下関係はしっかりさせるタイプなので」

 

 にこにこと笑う希に対し、雪はそんな素直ではない言葉を返した。

 えー、ケチー! と抗議の声をあげる希を宥め、まるで自分に家族がもう一人増えたみたいだと苦笑しながら、雪と希は神田明神へとやってきた。

 希は神田明神のバイト。雪は神田明神の近くにある穂乃果の家へと行くためだ。

 

「ん?」

「? どうかしたんですか?」

「ああ、いや、えりちからメールが来たんよ」

「へ?」

 

 希の差し出したスマートフォンを手にとって見れば、絵里からのメッセージが表示されていた。

【ちょっと付き合ってくれないかしら? 秋葉原に戻ってるから】

 

「うーん……一応雪ちゃんも一緒に行ってみぃひん?」

「それはカードのお告げですか? それとも、希先輩のお願いですか?」

「む……せやね、うちのお願い」

「じゃあ、ハニーミルクラテで手を打ちましょう」

「こぉら、調子の乗らないの」

 

 くすくすと笑いながら、雪はとりあえず着替えてくるわとマイペースな希を神田明神の境内で待つことにしたのだった。

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