はんぱもののラブライブ!   作:夕藤

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 何度着信拒否にしたところで、めげずに友人と思わしき番号から私の携帯へ電話をかけてくる人がいた。
 幼い頃、親戚一同の集まりで出会ったその少女は、どこか大人びていて氷のような、ロボットの様なひとだという印象を抱いていた。

 率直に言えば苦手だったのだ。

 感情の起伏が乏しく、物事を冷静に分析して判断をする彼女のことが。
 何事もいとも簡単にこなしてしまう優秀な彼女のことが。


 ――苦手で、大嫌いで、憧れだった。




第七話 雨とタオルともう一つ

「――ふぁ、ふ……」

「あー! 雪ちゃんまた点呼忘れてるよー!!」

「ご、ごめん……」

 

 スクールアイドルグループ『μ's』に一年生三人が加入して既に二週間が経過していた。

 花陽がスクールアイドルになった事を機に眼鏡をやめてコンタクトにしたり、一年生三人の絆が深まりいつの間にか名前で呼び合っていたりと、色々な事があった二週間だった。

 

 そして、穂乃果の言い出した『点呼』もそのうちの一つであった。

 

 ファーストライブの際にもやったし、続けようよ! との穂乃果の案によりやることになった点呼は、穂乃果、ことり、海未、真姫、凛、花陽、そして雪の順でやることとなっていた。

 二週間も続けている点呼ではあったが、雪は今も時折忘れる事が多く、今日は偶々欠伸と重なってしまった為に『七』と言えなかったのである。

 

「――いつかこの六人が、『神シックス』だとか『仏シックス』だとか言われるのかなぁ~!」

「仏だと死んじゃってるみたいだけど……」

「毎日同じことで感動できるなんて、羨ましいにゃ~」

 

 穂乃果の暴走っぷりに、花陽と凛はある意味尊敬しているらしかった。その光景に雪は苦笑を浮かべながらも、今日のやることをリストアップしていく。

 

「賑やかなの好きだし、六人だと歌が下手でも目立たないし、ダンスだって――」

「穂乃果……?」

「あ、あはは、冗談だよ……」

 

 ここまでがいつものやりとりのはずだった。しかし、今日はことりにも思うところがあるらしく、子供を叱る母親のような顔で穂乃果を窘めた。

 

「そうだよ。ちゃんとやらないと、今朝言われたみたいに怒られちゃうよ?」

「ああ、今朝のね……」

 

 雪もその場にいたのでよく覚えている事だった。

 黒髪を真っ赤なリボンでツインテールにし、マスクにサングラス、コートと怪しい格好で穂乃果にデコピンをした小さな少女は、面と向かって『アンタ達、すぐに解散しなさい!』と叫んで逃げていったのである。

 

 人気のあるグループにはそういったことも多いとは聞いていたが、コレは全くの予想外。雪が今すぐ捕まえて土下座させようか、と提案したところ穂乃果とことりにやんわりと断られたので捕まえはしなかったが、これ以上嫌がらせ行為をするようなら黙って入られないな、と雪は考えていた。生憎と、雪は褒めて伸ばすタイプなのだ。

 

「でも、それだけ有名になったってことだよね」

 

 幸いな事にμ'sには後ろ向きに捉えるメンバーはいなかった。前向きに捉え、自分たちが有名になった証拠だと胸を張っているのだ。

 批判をするにはそれだけ相手のことを見ていなければならない。その事をよく知っているからこその言葉だった。

 

「それより練習。どんどん時間無くなるわよ」

「真姫ちゃんやる気だにゃ~!」

「べっ、別に! 私はとっととやって早く帰りたいの!」

「まったまたぁ! お昼休み見たよ~? 一人で練習してるのっ」

「あ、あれは……! この前やったステップが格好悪かったから変えようとしてただけよ! あまりにも酷すぎるから――」

「あ、真姫。それ禁句」

「――え? ヒッ……」

 

 真姫の目の前にぬっと現れたのは、髪をいじりながらハハハと不気味に笑う海未だった。

 落ち武者のような、何とも言い難い顔をしている海未に思わず真姫も一歩後ろに下がる。

 

「そうですか…………あのステップは、私が考えたのですが……」

「……海未、歌詞とか自分の考えたステップとか、その……ちょっと五月蝿いみたいで」

「気にすることないにゃー!」

 

 階段を駆け上がりだす凛に、みんなが続く。

 お喋りも程々に練習しようと屋上へ向かうのだが――

 

「あ……」

 

 ――ぽつりぽつりと雨の音。

 それは次第に強くなり、ザーザーと大きな音を奏で始める。

 

「まあ、梅雨入り時期だし、仕方ないって言えば仕方ないんだけどねぇ」

 

 ぽつりと雪は呟いた。対照的に六人はがっくりとしながら屋上の窓にへばり付き、雨が少しでも収まらないかと不安そうな顔で外を見ていた。

 

「降水確率六十パーセントだったのにー!!」

「二分の一以上の確立で降るって事でしょ。雨の中の練習なんて絶対駄目。風邪引いたら元も子もな――何」

 

 雪のメンバーへの体調の気遣いに、穂乃果はにまりと笑う。その馬鹿にしたような、というよりは、某猫型ロボットの生暖かい目のような顔に、雪は少し苛つきながら問いかけた。

 

「いや、だって。名前だけ貸してくれるって言ってた割には練習に付き合ってくれるし、体調も気遣ってくれるし? やっぱり雪ちゃんは可愛いなぁって!」

「……それ以上言ったら、雨の中腕立てさせるからね」

「何で!? 褒めたのに!?」

「なんでも! じゃ、私生徒会室行ってくるから!」

「え、あっ、雪ちゃーん!!」

 

 カムバーック、という穂乃果の声を無視して、雪は熱くなった頬に自身の冷たい手を当てた。

 その顔はこれまで見たこともないくらいに赤く、そしてその目には戸惑いと驚きの感情が見えてとれた。

 

「あれ、雪ちゃんやん」

「っ、ぁ……の、ぞみ先輩……」

 

 しかし、こういう時に限ってついていない。

 雪は今一番会いたくない人に会ってしまったのだから。からかわれるだろうか、と内心ビクビクしながら雪は極めて普段通りに接することにした。

 

「ん? 顔赤くない? どうかしたん?」

「別に何も」

「へぇー、ふぅーん」

 

 しかし雪の努力も虚しく、希は確実に何かあったなと踏んでニヤニヤと笑ってきた。ぐ、と言葉に詰まりながらも、話題転換と元より生徒会室に行って確認しようとしたことを希に尋ねる。

 

「そういえば、この学校。ありましたよね? もう一つ部が」

「……知ってたん?」

「毎回鬼のような資料整理をさせられてますから、目につきます。過去の部活動申請書もその時に拝見して……今じゃ一人だと」

「それなら話は早いね。きっと穂乃果ちゃん達もそのうち生徒会室に来るやろうし、雪ちゃんはどっちに立つん?」

「勿論、穂乃果達に付きたいんですけどね……今回はどうにも」

 

 二人にしか分からない程度での会話は、他の部活動生徒も気には止めなかった。

 階段の踊場での会話は珍しいことでもないが、雪はちらりと後ろを見てからそろそろみんな戻ってくるだろうと判断し、荷物の中から愛用の黒い折り畳み傘とタオルを二枚取り出した。

 

「まあ、深い話はこの際無しにしましょう。希先輩、私の勘が外れれば良いんですけど……もし誰かが『雨脚が弱まった! 練習できる!』と馬鹿みたいに雨に濡れていたら、このタオル渡してください。じゃあ私はこれで」

「え、あ、分かった……」

 

 

 いきなり差し出されたタオルに疑問符を浮かべながらも了承してくれた希にありがとうございますと告げ、雪は急ぎ足で玄関へと向かう。

 顔を赤くして逃げた後に捕まるなんて本末転倒だ、と。ただそれだけの思いで雪は雨の中を駆けて行く。

 

 

 その後、雪の予想通りに穂乃果と凛がずぶ濡れで現れ、希が苦笑する事になったのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや……雪ちゃんの家の匂いっていうか、柔軟剤っていうか? すっごくいい匂いだった」と穂乃果が雪に告げながらタオルを返した朝。雪は穂乃果の家と凛の家の匂いのするタオルに顔を埋めながら生徒会室で顔を真っ赤にしていた。

 昨日と同じく恥ずかしさから逃げ、赤い顔を見られないようにとタオルに埋めているのだが、耳や首まで赤くなっているので意味はなく。希と絵里は大量に疑問符を浮かべながらも時折大丈夫、と声をかけていた時だった。

 

「失礼します! ……って、あれ雪ちゃん!」

 

 穂乃果の後ろについていたことりがぽそりと此処に逃げてたんだ、と呟いた。雪はますますタオルに顔を埋めるばかりである。

 

「……今日は何の用で来たの?」

「あ、えっと、部員が六人集まったので、改めて部活動申請をしに来ました!」

「それは必要ないわ」

 

 意気揚々と部活動申請書を差し出そうとする穂乃果に絵里は待ったをかけた。

 

「――アイドル研究部」

「アイドル研究部?」

 

 タオルに顔をうずめながら、雪は一つの部活動の名前を口にした。それに対し、絵里はこくりと頷く。

 

「そう。既にこの学校には、アイドル研究部というアイドルに関する部活が存在します」

「まあ、部員は一人なんやけどね」

「えっ? でもこの前部活には五人以上って……」

「部活設立時に五人揃っていれば、その後は部員数がゼロにならない限り活動する事が認められているの」

「生徒の数が限られている中、いたずらに部を増やすことはしたくないんです。アイドル研究部がある以上、貴方達の申請を受ける訳にはいきません」

 

 雪の説明は正しかったらしく、絵里は淡々と言葉を続けた。

 がっくりと肩を落とし、そんなと呟く穂乃果。やっぱり部活は設立できないのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。

 

「これで話は終わり――」

「――になりたくなければ、アイドル研究部とちゃんと話をつけてくることやな」

「希っ」

「二つの部が一つになるんやったら、問題はないはずやろ?」

 

 絵里が戸惑う中、雪はそっと顔を上げて希の顔を見た。

 

(……ほんと、助け舟ばっか。何が目的なんだか)

 

 はぁ、と溜息をつき、雪は漸くタオルから顔を完全に上げる。

 

「雪ちゃん、アイドル研究部までの案内してあげてな? そこでしっかり話をつけておいで」

 

 

 希がひらひらと手を振りμ'sを見送る。雪はなるべく穂乃果達の顔を見ないようにしながら、アイドル研究部の部室を目指した。

 

 

「雪ちゃん、アイドル研究部の事知ってた?」

「……まあ、これでも雑務やってるし、知ってはいるよ。その部長とも面識はあるし」

「怖い人かな? 何年生?」

「三年生。ま、怖いかどうかは会えば分かるでしょ……と、いた。矢澤先輩!」

 

 雪が大きな声で名を呼ぶと、それに反応し振り返った生徒が一人いた。

 赤いリボンで髪をくくりツインテールにし、ピンク色のカーディガンを着た少女は、驚いた顔で穂乃果達を見やった。

 

「ぁ……」

「矢澤先輩。あの、私達実は――あれ? 何で固まってるの?」

 

 

 

 雪一人だけが状況に着いて行けず、固まった両者を見て首を傾けた。

 

 

 矢澤にこ。

 彼女こそμ'sに解散を求めた人物であり、音ノ木坂学院アイドル研究部の部長である。

 

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