狭間の軌跡   作:Gillan

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えー、お待たせした割に今回は戦闘無しです。ごめんなさい。某至宝殿下からディフェクター食らって遅延されました(妄言)
次回こそはここまで遅くならないように善処しますのでご容赦ください……


《特別オリエンテーリング》①

ズザザザ、と砂の上を滑るような音が開けた地下空間に木霊する。其々が落とし穴に落とされていた中で唯一、その状態から体勢を立て直し坂を滑るようにして衝撃を逃がしている人物がいた。

 

――ソルティールである。

 

 サラ教官が作動させた落とし穴に吸い込まれた時は彼も焦ったが、思っていたよりも傾斜が緩かったお蔭で特に焦る事なく対処は出来ていた。その造りからして恐らく一般人に対してもある程度配慮された造りになっているんだろうが、だったら最初からこんなことはしないでもらいたいものだ。

――それよりも、だ。

 

「ほっ、と」

 

ダンッ!!

 

「――――いッつぅ!?」

 

着地の際の威力を和らげたつもりでいたが、完全ではなかったのか。地に足を付けた刹那、足から胴体を伝い頭の先まで衝撃が走る。その痛みに思わず一瞬身体が硬直し、その瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。

 

「ったたた……。まったく、これでは対処出来ても意味がありませんね……」

 

やはり実践するのは難しいです、と小言を漏らしながらも立ち上がり、周囲を警戒するべく視線を走らせる。ソルティールの目の前に広がるのは、先程のフロアと似通った場所だが、どこか違う。雰囲気、だろうか。理由は分からないが、学院の敷地の中でも異質な感じがした。

 言い知れぬ不安に駆られ、他の生徒が無事かどうかを確かめるべく見回していると――ある一点を見たとき、その動きは止まった。その視線の先にあったのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金髪の少女の下敷きになっている、黒髪の少年の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「(うわあ……)」

 

その様子を見たソルティールは思わず顔を反らす。直視するのは、やはり憚られるというものだ。

 恐らく、これは事故なのだろう。事実、黒髪の少年は床が傾いている最中に金髪の少女を助けるべく動いていたのをソルティールは見ていたのだから。だが如何せん、その体勢が良くなかった。

 

――少女の胸に少年が顔を埋めている、その体勢は。

 

「ううん……何なのよ、まったく……あら?」

 

やがて金髪の少女が目を開き、自分の状態と違和感を理解する。それに伴って、その顔も平静なものから羞恥に染まった真っ赤なものへと変わっていく。

 

「……っ!」

 

「その、何と言ったらいいのか」

 

金髪の少女よりも早く目を覚ましていたのか、黒髪の少年が動揺した様子で声をあげる。それを聞いた金髪の少女は少年から飛び退くようにして距離をとった。その身体は、わなわなと小さく震えている。ソルティールは何故かその背後に、大きく燃え盛る炎が見えた気がした。

いよいよ起き上がることが出来た少年は申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を言いながら少女に近づいていく。

 

「えっと……とりあえず申し訳ない。でも良かった。無事で何よりだった――」

 

しかし悲しいかな、謝罪の言葉を言い終わるよりも早く、少女の平手打ちが少年の頬を捉えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ……厄日だ」

 

 今しがた起きた出来事のせいで妙な雰囲気になっている中、ソルティールは当事者の黒髪の少年に話しかけていた。事の顛末を最初から見ていたソルティールには、一連の流れは不可抗力であり、別にこの少年が悪いという訳ではないことを知っている。今は意地を張っているが、金髪の少女も同じ事だろう。その証拠に、先程から時折申し訳なさそうな視線を少年に向けている。きちんと謝る機会さえあれば、このいざこざもそこで終わるだろう。だからこそ、ソルティールは別の心配をしていた。

 

「ああ、えっと。それもあるのですが。先程の体勢で頭を打ったり、とかは?」

 

「え? ああ、それは大丈夫だ。一応、受け身も取ることが出来たからな」

 

それを聞いて、ソルティールは安堵の息を吐く。少女を助けようとしてどうしてあんな体勢になったかは分からないが、下敷きにされていた以上は衝撃を殺しきれずにもろに体を打ち付ける可能性はあった。それも、少年一人だけではなく、少女の分も負担する形で。そんな少年の答えを聞いて安心したのか、視界の端で金髪の少女が胸を撫で下ろしていた。

 

「なら良かったです。……っと、あれは何でしょうか?」

 

 と、何かに気付いたのか、ソルティールが奥を見据えて指を差し、その先を黒髪の少年が見た。そこには台座が円を描くように設置されていた。その台座には入学式前に預けた荷物の入った鞄があり、その数は10。ここにいる全員の荷物が置いてあるのだろう。そしてその奥には、重々しい石造りの扉があった。

  自分の荷物を取りに行こうとしたその時。突如として聞き慣れない電子音が鳴り響く。ソルティールのだけではない。この場にいる全員の導力器(オーブメント)から、それは聞こえていた。

有角の獅子が描かれたカバーを開くと、内蔵されたスピーカーからサラ教官の声が聞こえてきた。

 

『これは、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した次世代の戦術オーブメントの一つ。第五世代戦術オーブメント、《ARCUS》(アークス)よ』

 

サラ教官の声がARCUS(アークス)から聞こえてきたことに皆が驚く中、それとは異なる反応をした者達がいた。

 

「ま、まさかこれって……!」

 

 一人は金髪の少女。声を潜めて小声を出しながらも驚愕、そしてどこか合点のいった表情をしている。そしてもう一人は、

 

「へえ。財団が、ですか……」

 

ソルティールだ。こちらもどこか納得したようにサラ教官の発した言葉を反芻していた。

この二人の共通点は、サラ教官の言葉ではなく、《ラインフォルト社》と《エプスタイン財団》という単語に反応したことだ。皆が熱心に説明を聞く中、当事者二人だけは僅かに視線を交わしていた。

 

「戦術オーブメント……魔法(アーツ)が使えるという特別な導力器のことですね」

 

『そう、結晶回路(クオーツ)をセットすることで魔法(アーツ)が使えるようになるわ。というわけで、各自受け取りなさい』

 

とサラ教官が言うと、暗がりだった空間を導力灯が照らす。先程までは視認出来なかったが、どうやら台座には荷物だけではなく小さな箱も置かれているようだった。

 

『君達から預かった武具と特別なクォーツを用意したわ、それぞれ確認した上でクオーツをARCUS(アークス)にセットしなさい』

 

その指示を聞くと、ソルティールは顔を見合わせる皆を他所に迷い無く自分の台座に向かって歩いていき、それに続くように皆も自分の台座へと歩いていく。直ぐに動いた理由の一つは、環境上そういった不思議な物は見慣れていたこと。もう一つは、不思議なクオーツというものに心当たりがあったからだ。早速小箱を開けてみると、そこには小さい宝珠のようなクオーツがあった。その色は水色で、導力灯に透かしてみると龍の紋様が刻まれていた。

 『ヲロチ』。これがそのマスタークオーツの名前だ。

 

「(成程、これがマスタークオーツですか……)」

 

ソルティール自身、マスタークオーツというものは知っていた。本来、クロスベルで現在使われている戦術オーブメント『ENIGMA』(エニグマ)に搭載されるようになる筈だったが、技術不足の為に、見送られたというのを担当の技術者から聞いたことがある。

マスタークオーツは、本来複数の結晶回路(クオーツ)をセットしなければ魔法(アーツ)が使えない、という点を解消した代物。つまり、マスタークオーツ一つで複数の魔法(アーツ)を使用することが可能らしい。他にも、装備しているだけで使用者の肉体を強化する働きを持つというのだから驚きだ。

早速マスタークオーツを、中心に空いている専用の窪みに嵌め込むとARCUS(アークス)と、ソルティールの胸の部分から淡い青色の光が放たれた。

 

「これは……」

 

『君たち自身とARCUS(アークス)が共鳴・同期した証拠よ。これでめでたく魔法(アーツ)が使用可能になったわ。他にも面白い機能が隠されているんだけど……。ま、それは追々って所ね。それじゃあ、早速始めちゃいましょうか』

 

サラ教官がそう言うと、その言葉に反応したかのように扉が左右へスライドし、その先の道を示した。

 

『そこから先のエリアはダンジョン区画になってるわ。割と広めで、入り組んでるから少し迷うかもしれないけど……無事、終点までたどり着ければ旧校舎1階に戻ることが出来るわ。ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊してるんだけどね』 そう言うと、サラ教官は今までの軽い口調から一変、真剣な雰囲気で続けた。

 

『――それではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があったら、その後に受け付けてあげるわ』

 

その言葉に思わず身が引き締まる。ここから先は軍人の卵を育成する学院のカリキュラムだ。入学したてだからとは言え、油断など出来るものではない。

 

『あ、何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ?』

 

――余計な事を言わなければ格好よかったのですが。

 

そう思いながら自分の鞄から得物を取りだし、背負う。柄の部分が折り畳まれたそれは、付き合いこそ長くないものの濃密な時間を共に過ごした相棒だ。今度報告書を書かなければいけない都合上、その性能を余す所無く発揮するとしましょう。

 

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