狭間の軌跡   作:Gillan

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《特別オリエンテーリング》②

サラ教官から特別オリエンテーリングの説明も終わり、これからダンジョンに入ろうという時にユーシスが一人で行こうと入口へ向かう。一人で行くよりも複数で行った方が安全だろうとソルティールが口を開くより早くに彼を引き止めたのは、意外にもマキアスだった。

 

「待ちたまえ! 一人で勝手に行くつもりか?」

 

 先程の口論の熱が引いたのか、その言葉は僅かに棘が残っているものの純粋にユーシスを気遣うものだった。しかし、ユーシスの返した言葉がその好意を一蹴する。

 

「馴れ合うつもりはない。それとも、”貴族風情”と連れ立って歩きたいのか?」

 

 マキアスの言葉は結果として互いの溝を更に深める事にしかならず、結局ユーシスとマキアスは一人でダンジョンへと入っていった。残った生徒達だけでもグループを作って進もうと青髪の女子が提案した矢先、銀髪の少女も声をかける前に一人で進んでいってしまう。

 

「男子ゆえ心配無用だろうが、そなたらも気をつけるがよい」

 

そう言って青髪の女子は他の二人の女子を連れたって入っていった。残されたのはソルティールを含めて男子四人。特科クラス《Ⅶ組》。身分の垣根を越えて集められた生徒達の第一歩はなんとも纏まりのないスタートとなった。

 

 

 

 

 

 

「さて、俺たち以外の全員が出発した訳ですが……」

 

「そうだな……せっかくだから俺たちも一緒に行動するか?」

 

そう提案した黒髪の少年の意見にガイウスと紅髪の少年が同意する。返答の後に小声で『一人だと心細い』と呟いていたことから、少なくとも戦闘は未経験か不得手といったところだろうと予測した。かくいうソルティールはというと戦闘自体はある程度慣れている。だがそれは、あくまでも対人戦だけであって、魔獣との戦闘は初めてだ。もっとも、だからといって足手纏いになるようなことはないだろうが。

一先ずは全員の力を知るために、簡単な自己紹介と互いの武器を見せ合うことにした。武器の組み合わせ次第ではソルティールの立ち回りかたが変わる、というのも理由の一つであるが。

最初にガイウスが見せたのは十字槍。高身長のガイウスと比べてみても遜色ないほどに長い。重量こそ重くはないだろうが、一朝一夕で扱えるような代物でもないだろう。

次に紅髪の少年――エリオット・クレイグが見せたのは魔導杖(オーバルスタッフ)だ。何でも、ラインフォルト社とエプスタイン財団が共同で作ったものらしい。そういえば前にエプスタイン財団の技術者が魔導杖の開発に着手していると話していた。確かその時は、まだテスト段階だったらしいが、どうやら形にはなったらしい。 そして黒髪の少年、リィン・シュバルツァーの武器は――

 

「成程。『太刀』、ですか」

 

「ああ。東方から伝わったもので切れ味はちょっとしたものだ。その分、扱いが難しいからなかなか使いこなせないんだが」

 

 太刀。ガイウスの十字槍ほど長くはないが、それでも扱いの難しい武器。しかし、太刀という武器の名前を聞く機会が多いのは、使い手の多さよりも『八葉一刀流』の知名度によるものだろう。極めた者は理へ至るというその流派。ソルティールとしては久しぶりに見た太刀に懐かしさを覚えていた。

 

「ふふ、せいぜい、当てにさせてもらおうか。さて――」

 

「それで、ソルティールの武器は……独特の形をしているね」

 

「その武器は……斧か? いや、それにしては形状が……」

 

残るソルティール、そして彼の武器を見ていたエリオットとリィンは、不思議そうな顔をしてそれを見ている。無理もない。似通った武器の中でもかなり異質な形状なのだから。

 

「斧、というのは半分正解ですね。この武器の正式な銘は『可変式導力剣斧』。剣にも変形する斧と考えて貰って構いません。まあ、既存の武器としては斧槍(ハルバート)が一番近いですね」

 

そう言って見せたのは、彼の身長より一回り大きい剣斧(ソードアックス)。L字の形状に半透明の刀身という、類似品のみならず武器としても珍しい形をしていた。

 

斧槍(ハルバート)……。確かそれって中世の騎士が用いたとされる?」

 

「ええ、そうです。リィンは知っていましたか」

 

「ああ。流石に本物を見たのは初めてだけどな」

 

「うわあ、なんだかすごい武器だね……。それで、『導力』っていうのは?」

 

ソルティールの武器を興味深く見ていたエリオットがソルティールに尋ねた。彼の扱う魔導杖(オーバルスタッフ)と同じく導力を利用しているから気になったのだろう。

 

「はい、この武器には刃というものがありません。物体を切断するときは刀身に導力を流して、導力刃(オーバルエッジ)というものを展開させる必要があります。この武器も同じエプスタイン財団製なんですよ」

 

そう言ってソルティールが三人から一歩下がって剣斧(ソードアックス)を一振りすると、半透明な刃部分が水色に輝いていた。

 

「ほう……」

 

「成程、導力器(オーブメント)でもあるのか」

 

「ええ。とは言え、魔導杖(オーバルスタッフ)とは違って導力刃(オーバルエッジ)の生成にしか導力は使用しませんが」

 

剣斧(ソードアックス)の柄を折り畳んで背中に背負い、簡単に説明を済ませて入口へと向かう。

 

「さて、それでは俺達も往くとしましょうか」

 

 

 

 

「はあぁ〜っ……」

 

暫く進んだ場所にいた昆虫型魔獣『コインビートル』を迎撃した後、エリオットは疲労感を感じさせる声を上げた。

 

「エリオット、大丈夫か?」

 

「怪我はなさそうだが……」

 

 崩れ落ちるように膝をついたエリオットの元に三人が駆け寄る。エリオットは苦笑いをして、それに答えた。

 

「う、うん……緊張しっぱなしで気が抜けちゃったみたいで……三人とも凄いなぁ。ぜんぜん平気みたいだし……」

 

「まあ、慣れの違いだろう」

 

「どうします、一旦休憩しますか?」

 

 そもそも、ついこの前まで戦闘を経験したことのないエリオットがここまで戦い続けたのすら大変なことだったろう。ガイウスの言うように慣れの側面も強い以上は、エリオットのペースに合わせるべきだったのだ。だからこそ、ソルティールは休憩を提案した。

 

「ううん、大丈夫。ちょっとヨロけただけだから。よいしょっと……」

 

しかし、エリオットそう言って再び立ち上がった。迷惑をかけたくないのか、それとも単に意地か。どちらにせよ、エリオットは前に進むことを選んだ。せめて、これからはエリオットの負担を軽くしようと考えた、その時。

 

「エリオット、下がって下さい!!」

 

「へ――」

 

エリオットが理解するよりも早くソルティールがエリオットの前に庇うように立つ。剣斧(ソードアックス)の柄に手を沿えて、対象を打ち上げる構えをとる。ソルティールの視線の先をエリオットが見ると、今しがた迎撃したコインビートルが調度飛び掛ってくるところだった。

しかし、コインビートルがソルティールに肉薄するよりも早く、ズドンという重い音と共に吹き飛ぶ。すかさずリィンが太刀を振るい、魔獣を切り伏せた。

 

「……良かった。間に合ったみたいだな」

 

そう言って声の主、マキアスがショットガンを構えて現れた。四人の元まで歩いてくると、申し訳なさそうな顔で謝罪をした。

 

「……その、さっきは身勝手な行動をしたと思ってね。いくら相手が傲慢な貴族とはいえ、冷静さを失うべきじゃなかった。すまない、謝らせて欲しい」

 

「いや……気にすることはないさ」

 

「うんうん、あんな状況だったしね。危ない所を助けてくれてありがとう」

 

「いや、引き返したところに偶然行き合わせてよかった」

 

自分の危機を脱してくれたマキアスにエリオットは感謝を述べた。どうやらマキアスは、熱くなりやすいが根は素直だ。ユーシスとの口論があったとはいえ、悪い人ではないようだ。

自分達が最後に出発したから、最初の場所に戻っても誰もいないということをガイウスが言うと、マキアスが同行を希望してきた。後衛がエリオットだけだったこと、それに今は一人でも戦力が多いほうが良いこともあり断る理由などなく、二つ返事で了承した。マキアスに改めて自己紹介をすると、どこか申し訳なさそうな顔で身分を聞いてきた。

 

「その、含む所があるわけじゃないんだが、相手が貴族かどうかは念のため知っておきたくてね」

 

やはり、というか。ユーシスとの口論で貴族を良い目で見ていないのは知っている。だからこそ、ユーシス以外にもこれ以上貴族がいるかどうかは知っておきたい、と言ったところだろう。含む所がないとは言っているが、実際にはあるのだろう。マキアス以外の四人が顔を見合せ、答えた。

 

「えっと……ウチは平民出身だけど」

 

「同じく――そもそも故郷に身分の違いは存在しないからな」

 

「俺の所にも身分制度はありませんね」

 

「なるほど、二人は留学生なのか」

 

エリオット、ガイウス、ソルティールが答える中、最後に残ったリィンは少し考えた後に言葉を選ぶようにして答えた。

 

「――少なくとも、高貴な血は流れていない。そういう意味では皆と同じと言えるかな」

 

「(……?)」

 

肯定か、否定か。そのどちらかで答えれば良いのに、リィンは言葉を濁した。それにソルティールと同じ違和感を覚えたのか、エリオットと目があった。

 

「そうか……安心したよ。見たところ女子もいないし、先を急いだ方が良さそうだ」

 

その返答にマキアスは納得したのか、どこか満足気に言葉を返した。そして、終点へ向けて再び歩き出すのだった。

 

「…………」

 

どこか申し訳なさそうなリィンの顔に誰も気付くことなく。

 

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