狭間の軌跡   作:Gillan

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お待たせした割には進みません、所謂繋ぎの話です。こんなにオリエンテーリングが長いSS筆者は私だけですすいません


《特別オリエンテーリング》③

 ダンジョンも問題なく進み、そろそろ中間地点だろうか、とT字路に差し掛かったところで、左側から見覚えのある人達が階段を上がってきた。

 

「そなた達は……」

 

 声のした方に目をやると、青髪の少女を筆頭にして眼鏡をかけた茶髪の少女と、リィンと一悶着あった金髪の少女が現れた。互いの無事を確認すると、改めて自己紹介をすることにした。

 青髪の少女は、ラウラ・S・アルゼイドと名乗った。出身は帝国南東のレグラムという辺境の古めかしい町とのこと。アルゼイドという姓を聞き、レグラムを治める子爵家だということを思い出したマキアスだったが、彼女と彼女の父が裏表のあるような人ではないということを知ると、そのまま引き下がった。

 次に口を開いたのは茶髪の少女。名を、エマ・ミルスティン。彼女も同じく辺境の出身で、奨学金を頼りに入学したとのこと。そういえばサラ教官からも主席入学と言われていたし、随分と優秀な人物のようだ。そんな彼女の武器は魔導杖(オーバルスタッフ)だったが、形状がエリオットのものとは違っていた。どうやらそれについては当人達は何も知らされていないらしいようだった。

 そして――――

 

「…………」

 

 最後の一人、金髪の少女はリィンに鋭い視線を向けていた。ラウラに促されて自己紹介をしたが、やはり許せないものがあるのだろう、リィンに対しては刺々しい態度だった。

 アリサ・(アール)と名乗った彼女はルーレ市から来たようだ。ルーレはソルティールも知っている、何せ大陸最大の重工業メーカーであるラインフォルトの本社がある町なのだから。しかし、そのことをエリオットに言われると少々歯切れの悪い返事を返した。

 ここに来るまでに一度合っていたのだろう、リィンがトランクの中身が弓だったんだな、と聞くと、貴方に何の関係があるのか、と一蹴されてしまっていた。実に前途多難である。

 エリオットが話を反らすためか女子チームと同行することを提案するが、ラウラが二手のまま行動することを主張した。どうやら女子チームもユーシスと銀髪の少女は見つけてないらしい。剣には自信がある、とラウラが抜刀したのは彼女の身長程もあろう大剣。これならば心配はいらないだろう。

 結局、そのまま二手に別れて出口で落ち合う算段になり、そのまま進む運びになった。

 

 

 

 

 

 

 ラウラ達と別れて少し進んだ場所にある開けた場所。そこでふと、リィンは足を止めた。エリオットが魔獣の心配をしていたが、気配からは敵意が感じられなかった。リィンが目の前の柱に向かって呼び掛けると、そこから銀髪の少女が姿を現した。どうやら彼女にとってはこのダンジョンも手こずるようなものではなかったらしく、心配はいらない、と言った。

 

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

 

 そう名乗った彼女――フィーは、このダンジョンがあと半分を切っている事を告げた。だがそれは、このダンジョンの長さを、終点までの距離を知っていないと言えない言葉である。それにソルティールは驚いていた。彼女はそれだけ言うと、高く跳躍し、先へと進んで行った。並々ならぬ身体能力である。この様子なら心配も無用だろう、と再びソルティール達も進んで行った。

 

 

 

 フィーと別れて少し進んだ先、階段を昇るソルティール達の耳に、突然剣戟の音が聞こえてきた。そちらへ向かうと、そこには魔獣に囲まれたユーシスの姿があった。

 飛び猫、コインビートル、グラスドローメ。全くタイプの違う魔獣達を相手に、冷静に対処していた。飛び猫とコインビートルには剣で、物理的な攻撃の効かないグラスドローメにはアーツで。淀み無く振るわれる剣閃や魔法(アーツ)の一つ一つが美しくすらあった。リィン曰く、ユーシスが振るう剣術は帝国に伝わる宮廷剣術らしい。

 全ての魔獣を倒すと一つ息を吐き、ユーシスがこちらを向いた。

 

「それで、何の用だ?」

 

 マキアスはその言葉にさえ噛みつこうとしたが、ソルティールがそれを手で制止させる。リィンはユーシスの剣術を素直に賞賛し、自己紹介をした。それに続いて、マキアス以外の全員が名乗ると、ユーシスも口を開いた。

 

「ユーシス・アルバレア。一応、改めて名乗っておこう」

 

 そう名乗ると、皮肉を混じえた声で、マキアスへ向かって言った。

 

「それにしてもなかなか殊勝な心構えだな? あれだけの啖呵を切ったくせに連れたって来るとは……大方、すぐに頭を冷やして殊勝にも詫びを入れたのだろう。いやはや、“貴族風情”にはとても真似できない素直さだ」

 

 案の定、と言うべきかその言葉を聞いて黙っていられるマキアスではなかった。負けじと言い返すが、間髪入れずに放った言葉ユーシスの言葉に思わず言葉を失う。

 

「帝都ヘイムダルを管理する初の平民出身の行政長官……それがお前の父親、カール・レーグニッツ知事だ。ただの平民と言うには少しばかり大物すぎるようだな?」

 

 帝都知事の息子。それは平民でありながらも、並の貴族の子息以上に影響力を持つということだ。発覚した事実にソルティール達の顔は驚愕に染まる。

 しかし、それでもマキアスは食い下がらずに、立場こそあれど、あくまでも平民であり貴族なんか一緒にしないでほしい、と言った。それに対してユーシスは動じた様子も無く、淡々と答える。

 

「別に一緒にはしていない。だがレーグニッツ知事といえば、かの《鉄血宰相》の盟友でもある“革新派”の有力人物だ。そして宰相率いる“革新派”と四大名門を筆頭とする“貴族派”は事あるごとに対立している。ならば、お前のその露骨なまでの貴族嫌悪の言動……ずいぶん安っぽく“判りやすい”と思ってな」

 

 最早我慢の限界だった。マキアスはユーシスの胸ぐらを掴もうと近付き――

 

「気持ちは判るがちょっと落ち着いてくれ。そちらも……少し言葉が過ぎるぞ?」

 

「売られた喧嘩だ」

 

 リィンに羽交い締めにされた。一方のユーシスは、さも当然だと言わんばかりの顔をしていた。確かに、元を辿れば発端はマキアスなのは間違いない。ユーシスの反応も当然といえば当然なのだろうが。

 

「……すまない。少し頭を冷やしてくる。君たちは代わりにそいつと行くといい」

 

「マキアス……」

 

 マキアスはそう言うと、重い足取りで進んで行った。皆がユーシスに向き直るなか、ソルティール一人だけはその後ろ姿を見ていた。

 

「あの男の事が気になるか?」

 

「あ、いえ。その……」

 

 図星を突かれて思わず言い淀む。それに、いまの今まで口論していた相手を庇うようなことは良く思われないだろうと思っていたが、続いた言葉は意外なものだった。

 

「行ってやれ。今のあいつでは魔獣一体倒せん。せいぜい怪我をさせないよう御守りでもしてやるといい」

 

「……すいません、ユーシス様。失礼します」

 

「待て」

 

 それは意外にもマキアスを気遣う言葉だった。口論のせいで勘違いしていたようだが、結構思慮深い人物のようだ。一礼し、マキアスの後を追おうとした矢先、ユーシスに呼び止められた。

 

「お前が彼方に行くのは構わんが、その呼び方は改めてもらおう。身分の区別があるとはいえ、士官学院生はあくまで対等。必要以上に畏まる必要は無い」

 

「良いのですか?」

 

「二度は言わんぞ」

 

「では……ありがとうございます、ユーシス。では皆さん、終点でまた会いましょう」

 

 ソルティールは再度一礼すると、マキアスに追い付くべくダンジョンを進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 リィン達のチームから離脱したソルティールは、マキアスの歩いていった方へと歩みを進めていた。彼が何故、マキアスの方へ行こうと思ったのか。それが果たして単にマキアスを心配しての行動なのか、はたまたこれ以上トラブルを起こさないように監視するお目付け役としてか。それは、ソルティール自身良く分かってはいなかった。

 迷路のような道を少し進んだ先にはマキアスとフィーがいた。

 

「ソルティール……? リィン達と一緒じゃなかったのか?」

 

「ユーシスを入れて五人になったので一人くらいこっちに来た方が良いと判断したのですが……無用でしたか?」

 

「いや、正直助かる。また迷惑を掛けてしまったな」

 

 突然現れたソルティールにマキアスは驚くが、その理由を聞いた途端に申し訳なさそうな表情に変わる。

――成程、やはり彼は頭に血が昇りやすいものの、根は律儀で真面目な少年のようだ。そうでなければ、自らの非を認め、謝罪の言葉を口にすることなど出来ないだろう。とはいえ、欠点があまりにも致命的であるのは確かだ。このダンジョン内においては、それも尚更だろう。そんな状態で魔獣から不意討ちでもされようものならまともに対処するのは難しいのだから。

 

「いえ、どうかお気になさらず。それにしても、フィーが一緒だったとは」

 

 マキアスの言葉を聞いたソルティールは一つ笑みを浮かべて答えると、フィーに向き直り自己紹介をした。

 

「ソルティール・ネログリフです。先程は自己紹介をする暇もなかったので、改めて名乗らせてもらいます」

 

「マキアス・レーグニッツだ。宜しく頼む」

 

「マキアスと……じゃあ、ソル。うん、宜しく」

 

 お互いの自己紹介を済ませ、これから再出発――といったところで、ソルティールが疑問を口にした。

 

「フィー、ソルというのは俺のことですか?」

 

愛称(ニックネーム)。名前が長い」

 

「それ、俺は悪くはありませんよね……? まあ、呼称には拘りませんので好きに呼んで下さい。しかし、何故フィーは此処に? 俺はてっきり既に終点にいるものかと」

 

「別に。戻る途中でたまたま見つけただけ」

 

 それ以上言及が無いことを確認すると、フィーが先導する形で進むことになった。

 

「それじゃ、れっつごー」

 

 魔獣が徘徊する、という物々しい場所には到底似つかわしくない間延びした声を上げるフィーの後を、ソルティールとマキアスが着いていった。

 

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