狭間の軌跡   作:Gillan

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これにてようやく序章も終了です。今回はソルティールのスペックが多々垣間見えるかと。


特科クラス《Ⅶ組》発足

 ソルティールがマキアス達と合流し、再出発してから少し経った頃合いに、フィーがふと口を開いた。

 

「そういえばソルって眼、綺麗だよね」

 

「ああ、これですか」

 

 そういって指し示したソルティールの右目は、煌びやかな金色だった。その輝きは並の七曜細工よりも美しく、左目のこともあって、暗闇に映える月のような印象を受けた。

 そして左目は、逆に暗闇を体現するかのように漆黒にも程近い、濃い紫色をしていた。その目は照らすような右目とは違い、直視すれば吸い込まれてしまうような錯覚に陥るほどの妖しさを秘めていた。

 

 そう、彼はいわゆる虹彩異色症(オッドアイ)なのである。

「確かに。しかし、目の色が左右で違うのなんて初めて見たな。それは元々なのか?」

 

「いえ、後天性です。元々は金でも紫でもなかったんですよ? ある日突然変化しまして」

 

「と、突然って……」

 

「話が飛躍し過ぎ」

 

 確かに、普通はそんなことは有り得ない。目の色が突然変化する、ましてや両目が元々の色とは異なる色に変色するというのは普通ではないのだ。

 だが、それはあくまでも人間にとっての普通であり常識だ。それを超越した存在が引き起こしたのならば、何らおかしいことはない。

 

 ――そう、例えば女神や悪魔といった存在であれば。

 

「……まあそれについては追々話しますので。それより、俺はフィーに聞きたいことがあるのですが」

 

「? 何?」

 

 そのことは誰かに軽々しく話すようなことではない。もし話すとしても、それは先の出来事だろう。何より、今話したところで空気が重くなるだけだ。

 だからこそソルティールは、話題を変えるために自身がずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

 

「貴女はどうしてワイヤーなんて持っていたんですか?」

 

「……へえ、見えてたんだ」

 

「ワイヤー……? 何の話だ?」

 

 それを聞いたフィーが僅かに目を細める。心なしか、その雰囲気も先程までとは違いって鋭利なものへと変わっていた。マキアスが何のことだか分からない、と言った表情をしているのでマキアスへの説明とフィーへの確認を込めて解説をする。

 

「俺達が落とし穴に落とされた時、彼女だけは上の柱にワイヤーを引っ掻けて逃れていたんです。結局その後は降りてきましたが」

 

「あれはサラが悪い。ワイヤー切って落とすなんて」

 

 そう答えるフィーは少し不貞腐れたような顔をしていた。まるでよくも余計な事をしてくれたな、と言わんばかりに。

 フィーの答え合わせも済むと、今度はフィーがソルティールに質問をぶつけた。

 

「貴方は何者? あの状況の中で私を確認する余裕なんて普通はない」

 

それに、とフィーは言葉を続ける。

 

「落ちてる最中も、貴方は冷静だった。他の人達が平静さを欠いていた中で貴方だけは全然動じていなかった。まるで場馴れしてるみたいに」

 

「別に、場馴れはしていません。反響する悲鳴から穴の深さは予測出来ていましたから」

 

「それ、本気で言ってる……?」

 

 どうやら、フィーもソルティールと同じく落とされる直前まで各々を観察していたようだ。その事をソルティールへ尋ねると、彼もまた、フィーと同じように、事も無げに言ってのけた。その返答には流石のフィーも予想外だったのか、驚愕の色を露にした。

 

「それに、ワイヤーを持ち込んだ人に『普通じゃない』なんて言われたくないです」

 

「む……」

 

「全く、君達の『普通』はどうなっているんだ……」

 

 マキアスも少しは調子を取り戻したのか、呆れながらもツッコミを入れてきた。心なしか空気が穏やかになった瞬間(とき)、それを乱すかのように魔獣が現れた。

 

「全く、無粋ですね」

 

「魔獣が……八体。めんどいな」

 

そこにいたのは、グラスドローメが五体にコインビートルが三体。これはかなり厄介な組合せである。

 機動力のあるコインビートルの相手を先にするとグラスドローメに魔法(アーツ)を詠唱する隙を与え、かといってグラスドローメは物理的な攻撃を吸収し、まともなダメージが入らない。リィン達といたときは、リィンとガイウスが時間を稼いでくれたことと、エリオットの魔導杖(オーバルスタッフ)のお陰でそこまで苦労せずには済んだ。

しかし今は三人と一人少なく、魔導杖もない。先程よりも、何倍もやりにくいことだろう。

 

「先陣は任せて」

 

――だが、やれないことはない。幸いにもグラスドローメの動き自体は緩慢だ。つまり、コインビートルを魔法(アーツ)の詠唱が完了する前に倒す。または、常に一ヶ所に留まらずにコインビートルの相手をし、魔法(アーツ)に当たらないように立ち回る。このどちらかが必須条件となる。

つまりは、魔法(アーツ)を撃たせる前に倒すか、魔法(アーツ)を撃たれる事を前提に動くか、という違いだ。

 

(デコイ)、頼んでも良いですか?」

 

了解(ヤー)

 

あの時見せたフィーの身のこなしの軽さ。彼女なら危険の伴う囮役もやってのけるだろう。やりとりもそこそこに、フィーは弾かれたような速さでコインビートルに肉薄し、注意を引き付けている。どうやらこちらの意図は言わずとも伝わっているようだ。ならば、やることは一つ。

 

「マキアス、フィーは魔獣の気を引いてくれています。なのでマキアスは、魔法(アーツ)で魔獣を分断した後にフィーの補助にまわってください」

 

「だ、だが、それでは君が……」

 

「どのみちあいつら(ドローメ達)には魔法(アーツ)でないとまともにダメージを与えられません。それに数も多い。一々詠唱していたら、それこそ相手に時間を与えるだけ。ならば、これは俺がやるべきです」

 

「……分かった。だが、くれぐれも無理だけはしないでくれ」

 

「心得ました」

 

それを聞くとマキアスが魔法(アーツ)の詠唱を始める。魔法(アーツ)というのは、駆動してから実際に魔法が行使されるまで時間がかかる。どんなに適正が高くとも、即座に発動することは出来ないのだ。それこそ、魔導杖でもない限り。

 そして、ソルティールの剣斧も導力刃(オーバルエッジ)を展開すればそれと同等の効力が発揮できる。武器が大きい為、囮としては小回りの効くフィーの方が遥かに適任だが、動きの遅いドローメが相手なら話は別だ。

 

「はあっ!」

 

「……ドライブ開始」

 

詠唱を終えたマキアスが魔法(アーツ)を放つ。行使された《ニードルショット》は寸分違わずに二種類の魔獣を分断した。コインビートルの後ろを追うように進んでいたドローメ達は行く手を遮られたと判断したのか、進路をフィーの方から此方に変更した――時には剣斧に一体が切り伏せられていた。当然だ。マキアスの魔法(アーツ)が発生した時には既にソルティールは剣斧の届く範囲まで移動していたのだから。そうでなければ、マキアスが魔法(アーツ)を詠唱し終わるまでにどれほど掛かるかを計った意味が無いというものだろう。

大上段からの一撃で切り伏せたことを確認すると、二体目を続けざまに横凪ぎで切り払う。これで手近な二体は倒した。残るは少し離れた所に密集している三体だ。

と、突如グラスドローメの体が緑色に発光し、風の塊(エアストライク)が連続して三つ、ソルティールに襲いかかった。だが、それら全てを前進することでやり過ごし一凪ぎで三体を同時に切り払う。辛うじて一撃を耐えた一体も、ソルティールが予め駆動させていたニードルショットによって完全に絶命する。

 

「……他愛ないですね」

 

ふぅ、と一つ息を吐きフィーとマキアスの方を見ると、そちらも丁度片がついたようで各々の武器を仕舞っているところだった。

 

「戦闘終了。二人共、怪我はありませんか?」

 

「こちらは問題無い」

 

「同じく。でも、まだ終わりじゃないみたい」

 

そう言ってフィーが指を指したのはダンジョンの奥、扉を潜り抜けた先にある拓けた場所。そこから聞こえるのは、幾多の剣戟や、魔獣の咆哮。そして、リィン達の声だ。

 

「どうやら、もう一踏ん張りのようですね」

 

「やれやれだね」

 

「僕たちも急ごう!」

 

「はい!」

 

「了解」

 

戦闘の余韻も冷めやらぬなか、ソルティール達はリィン達の加勢をするべく奥へと向かっていった。

 

 

 

 

扉を抜けた先にあったのは広い空間だった。視線を奥にやれば、階段があり、その先の扉からは光が漏れていた。恐らくはここがダンジョンの終点。そして、その扉の先が先程の場所、旧校舎1階へと繋がっているのだろう。

だが、そうはさせまいと先程からリィン達が戦っている魔獣が咆哮をあげる。どうやら自分達以外の全員がその魔獣、石の守護者(ガーゴイル)を攻撃しているが、それでも攻めあぐねている様子だった。

 

「どうやら、ダメージを与えた傍から再生しているようですね」

 

 

 

「それにこの音、かなり硬そう」

 

「だが、数の利を活かせば行けるはずだ。二人共、僕に続いてくれ!」

 

「分かりました――皆さん! 退いて下さい!!」

 

ソルティールが叫ぶと、石の守護者(ガーゴイル)と対峙していたリィン達は一瞬驚くものの、直ぐに左右に散開した。

 

「導力銃のリミットを解除。喰らえ――《ブレイクショット》!」

 

そして既に準備が出来ていたマキアスが銃弾を石の守護者(ガーゴイル)目掛けて撃ち込む。一瞬怯んだその隙にフィーが跳躍し、石の守護者(ガーゴイル)の背後に回り込み、後ろ足を切りつける。刃が通ったところを見るに、そこは柔らかいようだ。

 

「ドライブ開始……せやっ!」

 

それを確認すると、ソルティールは魔法(アーツ)の詠唱を開始する。本来ならば、今駆動させたところで行使されるころには状況が変わっている。だがその魔法(アーツ)は、一拍後に構築を完了し、的確に前足を貫き、石の守護者(ガーゴイル)の体勢が崩れた。

 

 

 

 

「皆、一気に畳み掛けるぞ!」

 

そうリィンが叫ぶと同時に傍らのARCUS(アークス)が淡く輝き、頭の中に様々な情報が流れてくる。

それは、各々の武器。それらが何処を攻撃するのか、そして何処を攻撃するのが有効なのか。それを理解すると、ソルティールは石の守護者(ガーゴイル)との距離を詰める。その間にも、予め示しあわせたように絶え間なく攻撃が続く。それに耐えかねた石の守護者(ガーゴイル)は悲痛な叫びを震わせるが、既に遅く。ラウラとソルティールの渾身の一撃がその首を撥ね飛ばし、石の守護者(ガーゴイル)は消滅した。

「よかった、これで……」

 

「ああ、一安心のようだ」

 

各々は武器を仕舞い、胸を撫で下ろしていた。安堵の溜め息をついている中、エリオットが口にしたのは恐らく全員が疑問に思っているであろうこと。

 

「それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」

 

最後のあれ、とは全員で放った連撃のことだろう。あれは確かに理解出来ない。まるで全員の意識や思考が共有したかのような不思議な感覚だった。

 

「ああ、もしかしたらさっきのような力が――」

 

「――そう。《ARCUS》の真価ってワケね」

 

リィンの言葉を引き継ぐようにサラ教官が答えあわせをした。声のした方を向くと、階段の踊り場でサラ教官が労うように拍手をしながら降りてきた。そして、無事に特別オリエンテーリングが終了したことを告げられる。

しかし、ソルティールから――いや、全員から怪訝そうな視線を向けられたサラ教官は不服そうな声で言った。

 

「なによ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

 

「よ、喜べるわけないでしょう!」

 

「正直、疑問と不信感しか湧いてこないんですが……」

 

「……あら?」

 

マキアスとアリサの反応は至極当然だ。ここで手放しに喜べるほど浅慮な人はいないだろう。

 

「単刀直入に問おう。特科クラス《Ⅶ組》……一体何を目的としているんだ?」

自分達が生い立ちに関係なく集められたのは分かった。だが、何故自分達だったのかというのは未だ聞いていない。

「君たちが《Ⅶ組》に選ばれたのは色々な理由があるんだけど、一番判りやすい理由はその《ARCUS》にあるわ」

 

そう言ってサラ教官がARCUSについての説明をしてくれた。要するに、ARCUSの真価は先程の現象、《戦術リンク》というものらしい。しかし、どうやら適正に個人差が色濃くでるものらしく、ここにいる十人が特に高い適正を示したらしい。それが身分や出身に括られなかった理由とのことだ。

 

「トールズ士官学院は、この《ARCUS》の適合者として君たち10名を見出だした。でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか――改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

「リィン・シュバルツァー。参加させてもらいます」

 

最初に意思表示をしたのはリィンだった。それに続くように一人、また一人と参加することを表明していく。

 

「さて、最後にソルティール。貴方はどうする?」

 

サラ教官が問い掛けてくるが、既に答えは決まっていた。セルナートからこの話を聞いた時点で、ソルティールの意思は明確なものになっていた。

 

「自分は学舎とは無縁でしたが、折角得た機会を無駄にするようなことはしたくありません。ソルティール・ネログリフ、参加させていただきます」

 

それを聞くとサラ教官は嬉しそうな顔で頷いた。

 

「これで10名。全員参加って事ね! それでは、この場をもって特科クラス《Ⅶ組》。の発足を宣言する。この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい!」

 

 

 

 

 

 

無事に特科クラス《Ⅶ組》が発足した夜。サラ教官は一つの疑問を抱いていた。それは最後の戦術リンクについてだ。別に動作自体に不備や不調があったわけではない。それは最後の連撃が証明している。問題はそこではなく、繋がりかただ。

 

「(何故あの場面でソルティールが起点になっていたのかしら……?)」

 

そう、サラは各々がリンクで繋がり円のような形を描くと思っていたのだが、リンク先が全てソルティールに集中していた。にも関わらず、正常に作用していたのだ。

この疑問について、サラが答えを知ることになるのは、まだ先の話だ。

 




口数の多いフィーに自分で違和感を覚える始末。違和感を感じた方がいらっしゃったら申し訳ありません。

どうでもいいですが、フィーが逃れたところを下から見ていたソルは、一瞬とはいえ色々と見えてますよね(笑)
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