やはり俺の日常生活は何処か導かれている。   作:Mr,嶺上開花

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一話 やはり比企谷八幡は引き摺られる

4月。

暖かな陽気と共にカーテンの隙間から差し込んだ朝日が俺の顔へと差し込み、眩しさから目を覚ます。時間を確認すると朝6時、いつもの起床時間である。

 

 

一度欠伸をして、さらに体をほぐす様に軽く柔軟をする。こうした日々の日課をすることで俺の頭は徐々に覚醒していき、また柔軟性も上がって怪我もしにくくなる。まさに一石二鳥、柔軟性の向上と怪我の回避率アップを別にしたら一石三鳥だ。それは要するに一つの石で三匹の鳥を狩ることと同義ということになるので、俺はもしかしたら物凄い偉業を成し得ているのかもしれない。いや違うな。うん違う。

 

 

軽い柔軟を終えるといつもの制服を手に取る。既に俺が一年間通い続けている高校である、総武高校の見慣れた制服だ。総武高校自体は普通の進学校なのだが制服は少し意識しているのか、黒一辺倒ではなく白いラインが袈裟に染み付いたブレザーとなっている。ただズボンは普通に真っ黒なのでそこまで他校との制服比較でもブレザー以外では目に付くところはない。

 

 

制服を着用してネクタイを締めると、俺は自室から出てリビングへと行く。リビングからは既にガチャガチャという生活音が鳴っていることから俺の妹の小町が朝飯の準備をしているんだと思われる。そこで妹が家事をしているのに兄は何をしているんだと叱りたい人も居るだろうが安心してほしい、代わりに俺はバイトしてるから。…あ、これ違うわ、私腹を肥やすためにやってるんだった。てへぺろ。

 

 

「小町おはよ」

 

「あ、お兄ちゃんおはおはようよう!」

 

「…何だそれ?」

 

リビングの扉を開けて挨拶をすると、小町はテレビの芸人が自己紹介するときの掴みのような言葉で俺に返してくる。…幾ら小町が少しはっちゃけてたとしても、それでもこれは少しアレだと思う。と言うかいつもの小町ならこんな挨拶しねえよ。誰だよそう仕向けたやつ。

 

と言っても実は俺の頭の中ではそれが実行可能に思える人物は一人しか思いつかず、少し頭を抱える。

 

 

「なあ小町」

 

「ほいほいどうしたのお兄ちゃん?」

 

「昨日か今日の朝かに桜花と話しただろ?」

 

「え。なんでそれお兄ちゃんが知ってるの気持ち悪い」

 

「お前の妙な挨拶はいつも桜花と話した後に使われるから必然的に分かるんだよ…!」

 

 

まるで養豚場の豚を見るかのような目でこちらを牽制する小町に俺はそう論破する。実際桜花と話した後は毎回変な口癖が出てくるしな。毎回。

 

「…まあいいや!それより今日も桜花お姉ちゃん来るって!」

 

「…まじで?これ夢だよな?」

 

「小町的にはお兄ちゃんの存在自体夢みたいなものなんだけどな〜、あ、小町良いこと言った!」

 

「いや言ってねえし、そもそもその発言は俺の心を傷つけるナイフになり得るまであるからまじで取り扱い注意しとけよな?」

 

 

…ってまじで桜花来るの?今日?

そう思っていると廊下の方からスリッパでパタパタ走るような音が響いてくる。…ちょっと待て。これアレだよな、多分珍しく早帰りしてきた両親だよな、決してあの似非姉ではないよな?

 

ーーーなんて考えていても現実はそれに反する事例が大好きらしく、つまり言うならばリビングのドアの小さなガラスからは白い長髪を素早く靡かせたどこか、いやかなり見覚えのある姿がそこにはあった。

 

そして直ぐにドアがバンッ!という少し耐久性を消費しそうな音ともに強引に開かれる。

 

「おはおはようよう小町ちゃんに八幡!」

 

「朝から来るのかよ⁉︎」

 

「おはおはようようです桜花さん!」

 

 

先ほどから見えてはいたが、滑らかな白い長髪に物静かそうな端整な顔つき、更に女性らしいプロポーションも過不足なく備わったいわゆる美少女が我が家のリビングで仁王立ちしていた。補足するならばこんな事例は比企谷家では珍しくないとも言っておこう。朝からいるのは珍しいが。

 

 

そんな彼女の名前は清川桜花、俺の一つ上の高校三年生でかつ総武高校では一応先輩的立ち位置に存在している。

だが当然こんな隣の晩御飯ならぬ朝ごはん的な状況になっている理由はそれだけではなく、主な要因はこの家が凡そ4年前に引っ越してきた桜花の家と隣同士なのに加えて桜花自身も両親が共働きでその時から隣の家にいる俺と小町も自身と似た状況なのを発見し、乗り込んできたのに由来する。そうして今では両親公認のご近所付き合いとなり、桜花の家事の適正がかなり高い上この中で一番年上だからか俺と小町の両親からの信頼ついで合鍵もなぜか渡されていたりする。

 

 

そんな桜花はとてもスペックは高い。何なら総武高校の普通科で学年トップをいつも維持できるくらいには高い。更に家事も万能にできて容姿も美少女、これで人気が出ないほうがおかしい。

つまりと言えば、この清川桜花という人物は総武高校で一位二位を争うくらいの人気は有しているのだ。そんな人物とぼっちの俺に関係性があるともしクラスメイトに知られたならばきっと俺は直ぐに悪意の視線に晒されまくるだろう。…何か自分で言っていて悲しくなってきた。

 

 

そんな完璧な人物が桜花ではあるが少し見逃すことのできない問題点が一つ。

 

 

「ねえねえ小町ちゃんに八幡、今日一緒に登校しようよ!」

 

「それ良いですね〜!そうなるといつもの自転車は乗れないので早めに出ましょう!」

 

「おー!あと八幡は放課後補習ね、今決めた!」

 

 

彼女、清川桜花は非常に類稀なる気分屋である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝飯を食べ終わると部屋から前夜に中身を整理済みのスクールバッグを持ってきて外に出る。

外には桜花しかおらず、小町はまだ準備をしているようだった。

 

「ねえ八幡、今日でちょうど4年だよね」

 

「は?…ああ、そういうことか」

 

唐突に言われたため一瞬分からなかったが、考えてみればすぐに理解できた。

4年、それは俺が桜花とあの日出会ってからの時間だ。まだ俺は中1になったばかりで、小町に関しては小学5年生だったあの日のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

【お前、気持ち悪いな】

 

そう言われたのはいつだっただろうか?確かまだ一人称は「僕」だったような気はする。少なくとも小学校の時は良く言われたし、そのせいなのか虐められもした。

お陰で小学校を卒業する時にはそんな罵詈雑言は言われ慣れ、中学にも大きな希望は持たずに入学式に臨めた。少なくともその時の自分はそう思っていた。

 

 

だが違った。

初めてのクラスでは自己紹介で緊張して噛んだ。話しかけてきたクラスメイトにはなるべくフレンドリーになるように接した。

俺は、中学生になればまた環境が一からリセットされると勝手に勘違いして、新しい関係が生まれると期待を胸にしていたのだ。友達がたくさんできる、昼休みにワイワイと遊ぶことができる、そんな俺の今までなかった空想を現実にコンバートできると信じていた。

 

しかし現実は突然襲ってきた。

まだ入学から一週間と経ったくらいのある日、小学校の頃俺を虐めていた一人と俺は偶然にも出会った。

そしてそいつは俺が同じ中学にいることに驚き、同じ小学校だったことを理由に有る事無い事言いふらして俺のクラスでの居場所を奪っていった。まだ入学から一週間、そんな短期間で信用のできる友人などできるはずもなくクラスメイト全員が俺から遠ざかった。

そうして俺は絶望した。それもただの絶望じゃなく、期待と失意の狭間に存在する絶望だった。

 

 

 

 

そんな日の放課後、近くの公園のベンチで気晴らしに座っていると話しかけてきたのが桜花だった。

 

「ねえ、暇ならちょっと手伝ってよ」

 

…確かそんな感じだっただろう。

しかしその時落ち込んでいた俺はその我儘を無視して、ひたすらぼーっとしていた。

 

そしたら桜花はいきなりベンチで黄昏ていた俺の右手をを握りしめて走り出した。

 

「…ってちょっと待ってよ!僕はまだ了承してないよ!」

 

「でも暇ならいいじゃん!今から私たち友達ね!」

 

その言葉に俺はどうしようもない苛立ちが瞬間的に湧いてきて、ついかっとなってこう言った。

 

「友達なんて嘘だ!そんなものは全部仮染めでみんな表面だけ良い顔してるし、裏では互いに悪口を言い合ってる!そんなのは本物じゃない!」

 

言った瞬間にしまったと思った。見知らぬ女の子に勝手な感情をぶつけて発散しようとしたのだ。罪悪感もかなりあった。

だけどこの時の俺は色々なものを溜め込んでいたからか、そこで謝る気にはあまりなれなかった。

 

だが、次の瞬間当時の俺にとって予想外の出来事が起きた。

 

 

ただの見知らぬ男子中学生である俺を桜花は抱きしめてきたのだ。

 

「…ごめんね、少し軽かったかな…。でも初対面でこんなのを言うのは変かもしれないけど、分かってほしいんだ。確かに表面だけ友達を振る舞う人たちはいるし、貴方はそればかりを見てきたんだと思う。

…でも人は全員そうなわけじゃないし、特に強い意志を持った人ほど友達を大事にするんだ。だから、そんな人を見つけて真っ向から接してみてよ、人の性格は人の数だけあるんだよ?」

 

 

そう、諭してくれた。これが無かったら周りを信じたくても信じれず、人身不信のようなものに陥ってかなり捻くれてたかもしれない。小町曰く今でも捻くれているらしいが。

 

そうして出来た初めての友達というのが桜花だった。年齢が一つ上と分かった時は敬語を使おうとしたが、それが原因で軽い喧嘩になった挙句すぐに俺は論破され、高校の先輩となった今でも名前の呼び捨てを強制されている。

 

 

その後も家が隣同士と判明したり(桜花は引越しの際のご近所挨拶の時から知っていたらしい)小町と桜花とのファーストコンタクトの際に恋人と勘違いされる一悶着があったり、色々あったが最終的には良く我が家に来る気の置けない友達として付き合いをしている。

 

 

 

 

 

 

「それにしてもその濁った目の色は4年前から変わらないよねー、酷くなってないだけマシだけど」

 

「その通り、俺自身ちゃんとメンタルケアしてるからな。何ならもうカウンセラーになれるレベル」

 

俺自身を変えようとしても当然周りの環境が変化しないと何もしようがないわけで、つまりは俺は4年前から現代社会のストレスや裏側を認識した上で日々を過ごしているのだ。そのせいか同級生と全く喋らない生活のコンティニューの連続である。

 

 

「でも八幡ももう高2で、私なんかまた受験生かあ。…八幡、私がもし東大受かったら1年後にまた追いかけてきてくれる?」

 

「いやいや無理だっつーの!」

 

高校受験の時は確かに桜花の入学した総武高校を追いかけるように1年後に俺も受験、合格した。だが日本最高峰の大学となってはどう考えても俺の成績的に無理難題の鏡すぎる。しかも常時学年主席の桜花なら本当に受かりそうで怖い、あと無理矢理東大レベルの個人授業をやらされそうで更に恐い。もうこいつの座右の銘は強い怖い恐いでいいんじゃないの?

 

「じゃあマサチューセッツにする?」

 

「すみません俺の可能なところでお願いします」

 

何で難易度を限界まで上げたんだよ。しかも俺の成績はあくまで私文型で上位ってだけで国立型にしたら瞬間的に真ん中より少し下レベルまで成績落ちるぞ。主に数学のせいで。

 

 

「まあまあ冗談だって、そんな学力私でもあるかどうか分からないし」

 

敢えてNOとは言わないところに桜花の凄さを感じる。俺なら絶対にNOだけどな。

 

そう考えているとドアが物凄い勢いと音を立ててで開閉し、制服姿に荷物を持った小町が姿を現した。やばい可愛い、俺の妹がこんなに可愛いはずがあるまである。

 

「あれ、小町最後?」

 

「いいや、俺たちも今来たところだ」

 

俺は当然に小町にそう説明する。

 

「何で学年が何度上がっても相変わらず八幡はそんななんだろうね…?」

 

そうジト目で桜花はこちらを見てくる。いやいや、だが小町は可愛いしきっと校内でも付き合いたい女子ランキング第1位に当然の如く輝いているはずだからこのくらい当然だろ?

だが小町は俺の発言に気分が良くなる、ということはないらしく黙って真顔で後ろに二歩下がった。解せぬ。

 

「あ、あの小町?」

 

「…お兄ちゃん今ちょっと気持ち悪いから近寄らないで」

 

今ちょっと気持ち悪いってなんだよ、じゃあ未来になったらもっと気持ち悪くなっちゃうのかよ。八幡こわいー。

 

「桜花さんこんなごみ兄ちゃんは置いて行きましょう」

 

「そうだね、まあゾンビだしごみだし大丈夫だね!」

 

おい小町、兄貴をゴミ扱いとかやめろ。それに桜花、さり気なくゾンビ属性まで付け加えるな。ゾンビとゴミってワード的にどこかのバイオゲームの雑魚を散らかしてる時の台詞みたいだし、その上俺がそれに出演してるみたいになってるから。俺銃弾受けて死んじゃうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渋々小町と桜花の後ろを付いて行き、少し歩いたところで小町の通う中学に着く。まあ公立中だし学区内だからさほど遠くないのは当たり前だが。

 

 

「じゃあ行ってきます桜花さんお兄ちゃん!」

 

「うん、気を付けてねー」

 

と、そんな感じで小町と桜花の姉妹のやり取りを見守り、その後桜花と共に総武高校まで30分かかる道のりを歩きはじめる。

 

「そうだ八幡」

 

「…何だよ」

 

「さっきの東大、割と本気だから」

 

「まじかよ」

 

まじかよ。

 

 

 

 

 

 

 

「…んじゃ、俺ここで適度に暇つぶしてから登校するわ」

 

始業まで残り30分となり、俺たちは既に総武高校の近くにいた。

だがこのまま(一応)美少女の桜花と共に校内へと入ると変な噂を立てられ、かなり面倒な事態に発展することは目に見えているので俺自身は学校付近のコンビニで立ち止まる。

 

 

「毎回そうだよね…別に私は登校くらい構わないんだけど」

 

「お前が構わなくても俺が構うんだよ」

 

仮に桜花と校内に入り、その姿がクラスメイトに見つかった時の光景が目に浮かぶ。きっと「何でお前清川さんと居たんだよ」とか「お前じゃ釣り合わないだろ」とか「まじありえないっしょ。うわぁパネェ」だとか言われるのだろう。というか最後、何でこいつだけ口調が軽いんだよ存在感無駄にありすぎてリリカルマジカル封印しちゃうだろうが。現実で見つけたら話しかけないまであるぞ。

 

「まあいいや、じゃあ後で!」

 

「ん…後で?…おいちょっと後でってどう言う…!」

 

そこまで口にはできたが、それ以降は桜花が完全に背を向け俺の言葉をスルーしていたので止めた。まさか本当に放課後に補修でもする気なのか…?いや或いはクラスに乗り込んでるなんて暴走を……。

…もしもの時のために今日はとにかくクラスに居ないようにするか。

 

 

 

 

コンビニで軽く暇を潰し、ついでにマックスコーヒーのペットボトルを買って外へと出る。まさかあんなどんな人間の人生よりも甘すぎるマックスコーヒーにペットボトルバージョンがあったとは、これじゃあもうマッカンと略すことできないんじゃないか?取り敢えず俺は次の略称にマッペという単語を自推するまである。何かこの優しい語感がマッカンらしさを連想させ、あの唸るような甘さの暴力が思い浮かぶし。

 

 

ペットボトルはバックへ入れて、校内へ入る。

下駄箱で外履きから上履きに履き替えて廊下を歩き、自分のクラスへと入ればあら不思議、俺以外が全員席に座っている。そしてその全員がこちらへと視線を注いでいる。

 

「…比企谷、遅刻だ」

 

「…そうみたいっすね」

 

謝罪よりもそちらの言葉が先に出る。

まあとにかく、どうやら俺は学校へ行くのが嫌すぎてコンビニで時間を潰しすぎたらしい。

 

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