やはり俺の日常生活は何処か導かれている。   作:Mr,嶺上開花

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三話 いつまでも三人の関係性は揺るがない

その後俺が雪ノ下と一緒に帰る…なんて青春イベントが校内で起こるわけがなく、寧ろ俺自らが率先してトイレへ行くことで帰るタイミングをずらし、雪ノ下は先に帰せてから俺も帰路に就くこととなった。

 

放課後も更けて既に校内は薄暗く、人の声も聞こえず閑散としていて昼間とは全く別の世界のように思えてしまう。辺りには誰もおらず、最終下校時刻となるとやはりこんな感じなのかという感動すら覚えた。

 

座り込んで下駄箱で靴へと履き替える。かかとを入れて立ち上がり、バックを持って薄暗い校舎からより暗い外へと足を進める。

にしても本当に静かで、ここに居るのが自分一人ということが実感できる。それが俺にはどうしようもないほどに心地よい。音を立てて歩いている俺だけの音が響き、自然以外の人工的な音はたまに通りかかる車くらいだ。

一人だけの時間、それは正しく俺にとってはきっと正しいのだろう、何を考えても何を行動しても反応する人は全くおらず、全ては自分だけだ。

 

こういう孤独な時間は、ある種の現代に失われた産物なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「…ねえ、一つ聞いていいかしら?」

 

「ってうわぉ⁉︎」

 

孤独感に浸っていると校門の前で雪ノ下が立っていた。帰ったんじゃないのかよ…。

 

「…人を妖怪のように見ないでくれるかしら」

 

目を何回か瞬きしながら雪ノ下を見ていると、そう注意される。

 

「あ、ああ。悪い」

 

…と言っても無理がある。誰もいないと思って歩きながら歌を歌っていたらばったり知り合いと遭遇したくらいは驚いたし何なら逃げたいまである。

 

 

「それで、聞きたいことって何だ?」

 

「………何で、初対面の私にあそこまで肩入れすることができたの?」

 

雪ノ下は少し喋りにくそうにしながら、小さな声でそう言った。

 

確かに初対面にしてはかなり踏み込んだ内容をズバズバと言っていたような気もする。だが、俺自身が雪ノ下にそう助言したのはそこまで深い理由じゃない。

 

 

「…まあ、あれだ。友達に少し言われててな、何もしなかったのがバレたら俺は何されるか分からんし」

 

友達というのは当然桜花のことである。

桜花からは一度、こういうその人のその後の人生に関わりそうな問題を見つけたら手助けをしてほしいと言われている…まああまり俺自身が嫌だと思った問題には触れていないし、何よりそれに従って手助けをしたのはこれが二回目であるが。

だがまあ、実際そんなのは言い訳で建前でしかなく、本当は俺が気に入らなかっただけである。無理している雰囲気がありありと感じられて、でもそれを意固地になって否定する。外見の成績と生活習慣が完璧でも、中身の精神はとても歪に形成されている。

そんな雪ノ下雪乃の在り方が、何か気に食わなかった。

 

 

 

「…そう、じゃあ私は帰るわ。比企谷君、じゃあまた明日会いましょう」

 

「…おう、じゃあな雪ノ下」

 

 

そう言って暗闇の中俺とは逆方向に歩いていく雪ノ下。俺も雪ノ下に背後を向けて歩き出す。自転車を漕がずに一人歩いて家へと帰るのはいつぶりだろうか。

 

そんなことを考えながら俺は普段より長い帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小町ただいまー」

 

自宅の鍵を回してドアを開くと既に電気は付けられていた。

 

 

「あっお兄ちゃんお帰り、遅かったね」

 

「ああ、少し野暮用でな」

 

そう言いながら靴を脱いで玄関から上がる。

 

「っておい小町、やっぱり桜花居るのか?」

 

靴を並べてみればあら不思議、見覚えがとてもある靴が一足無駄に多いのだ。

 

そんな意図を込めて聞いてみると、階段の上から声が聞こえてくる。

 

「ああ、バレちゃしょうがないねー…、まあ良いんだけど!」

 

階段をトントンと音を立てながら下りてくる人物はやはり桜花だった。服装は未だ制服なことから、きっと放課後自分の家に一度も帰らずここに直接来たことが窺える。

 

「つかお前隠す気なかっただろう、本気でやるんだったら靴くらい隠すか手元に置くだろうし」

 

「いや違うよー、ただ面倒だっただけ。そもそも隠す気もさらさら無し!」

 

そう胸を張りながら言う桜花、ある程度膨らんで自己主張しているそれはなんというか、とても目に毒である。ただ相手が桜花なので今更な気しかしないが。中学生の時無理矢理風呂に何回一緒に入らされたことか…最初はアレだったが段々慣れていって、少しそういう幼馴染がいるラノベ主人公の気持ちが分かってしまったまであるぞ。当然タオル着用(?)ではあるが、それでも緊張はするので本当に止めていただきたい。高校上がってからは流石にないけど。

 

 

「おっ?まさか見惚れちゃったりしたったり?」

 

「いや、今更見惚れる要素ないだろ…、つかその妙な日本語擬き止めれ文意が不明だから」

 

「文意っていうと何か英語のテストの間違いを探す問題みたいだったりしたったりするね」

 

何それ新しい語尾なの?語感的には軽やかな感じはするが聞いてるこちらとしては徐々に痛々しく思えてくるので非常に止めて欲しい。

 

そう桜花の新たな言葉について考えていると、小町が一言。

 

「そういやお兄ちゃんに桜花さん、晩御飯出来てるから早く食べようよ。冷めたら勿体ないたったりだよ?」

 

おいやめろ小町感染するんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小町の手料理を桜花と3人で食べ、シャワーを浴びて少しゆっくりしていると既に午後9時。桜花も帰ると思いきや今日は泊まるとのこと、お前今日はっていうか大体来るたび泊まってるだろ。1人の家だと暇なのは分かるけど。ただいつも何気なく着ている桜花用のパジャマがどこに仕舞われているのかだけは俺には未だ長い間謎である。

 

 

「じゃあ、そろそろやりましょうか…!」

 

突然リビングでテレビを見ていた桜花がそう宣言する。

 

「ですね…それでは始めましょう!」

 

これは小町。どうやら小町は事情を知っているらしい。…つまり俺だけハブかよ、頼むから学校の状況を家にまで持ってこないでくれよ…。

 

 

「じゃあ小町ちゃんは筆記用具と勉強道具持ってきて!」

 

「了解であります!」

 

ビシッと敬礼を決めてリビングから出て行く小町。…つまり勉強会ってことか?凄く八幡嫌な予感しかしない。

恐る恐る桜花の方を見て見れば、何か参考書というか問題集というかかなり許容し難いものを右手に持ちながら笑顔でこちらを見ていた。

 

「八幡の筆記用具はもうここにあるから取りに行く必要はないよ。だからね、まずはこれを解いてもらおうと思うの」

 

桜花の持つ本の名前を右から左へと読む。…合総学数ルベレプット…?何コレ八幡読めない。

 

…うん、現実を見るか。『トップレベル数学総合〜超難関大の数学攻略〜』…ちょっと待て。

 

「桜花、俺の数学の偏差値大体知ってるよな?」

 

その言葉に当然のように頷く桜花。

 

「うん、前々回が34.2で前回が42.6だよね」

 

「いやそこまで聞いてねえし逆になんで知ってんだよ…」

 

何?まさかストーカー?遂に俺にも初ストーカーが付いちゃったのか?…いや、ストーカーに初も何もないか。

 

そう問いただすような視線を送ってはみるが桜花は全く意にせずスルーを決め込む。

 

 

「じゃあ小町ちゃん帰ってきたら始めるからね、半分取れなかった罰ゲームで」

 

「えっと、…文房具取ってきて良いですか?」

 

「だからここにあるって。逃げられても困るしね」

 

こいつ、もしかして俺の動き完全に予測してやがるのか…!何ならこのまま文房具取りに行ったふりしてそのまま部屋に閉じ籠ろうと思ってたのに…。

 

「あ、あの桜花さん?…ちょっと緊張してきてお腹痛くなってきたからトイレ行くわ」

 

「そういや八幡数分前にトイレ行ってなかった?」

 

畜生何をやってやがる過去の俺。もし過去に戻れたなら全力で右ストレートしてるまであるぞ。

 

 

「…ところで罰ゲームって何だ?まさかこれからの人生を社畜として過ごせとか言わないよな?」

 

そんな俺の最大の懸案を聞くと桜花はいかにも楽しそうという目をしながら指をチッチッチッと左右に振る。

 

「…でもまあうん、それは八幡が赤点取るまでのお楽しみかな?今日はそんな比企谷八幡君のために取って置きのお仕置きを用意しました〜!ってね?」

 

「いやおいやめろ、それ死ぬ方だろ」

 

どう考えてもそれ、弾丸で論破されてその後ボールでリンチにされたりぐるぐる回ってバターになるやつだろ。完全に死亡フラグがバキバキに立ちまくってるじゃねえかよ。

 

 

そんなことを思っているとリビングのドアが開く音がして、見てみれば小町が勉強道具を持ってこちらへと来るのが見えた。

 

「じゃあ小町ちゃんも来たし、そろそろ始めようか!」

 

「桜花さん指南のほどをよろしくお願いします!」

 

「了解だよ小町二等兵、我々は今から数学という人類史上最も抽象的な分野を履修するから覚悟するように!」

 

「桜花大尉ラジャー!」

 

 

…何だこのノリ。

毎回何か会うたび思うんだが、この二人を引き合わせると完全に俺の場所なくなるんだが……、ここ本当に俺の家だよな?

 

 

「じゃあ八幡には問題用紙と回答用紙を渡すね」

 

あの問題集を解くんじゃないのかよ…。

疑心の目で見ていると、桜花は自身のバックからガサゴソと探り、取り出したのは…女子生徒用の制服。またもや非常に嫌な予感がつむじセンサーに引っかかりまくりんぐすぎてそろそろ逃げ出したい。

 

そして一言ポツリと桜花は言う。

 

「…間違えた、これ今日の罰ゲーム用のやつじゃん」

 

「……⁉︎⁉︎」

 

それ絶対俺の罰ゲーム用だよねそれもなんでうちの高校の制服なんだよかなり着にくいじゃねえかと言うかそれ以前に何故俺にそれを着させようとしてるんだよおい。

 

…少し戸惑ってしまったが、取り敢えずどうみてもこれは俺用に持ってきているに間違えないだろう。つか『八幡用』って書かれた紙が服にセロテープで貼られてるの見ちゃったし。

本当になんで俺の知らないところでこんな男として完全に負けられない類の戦いが始まろうとしてるんだよまじで。100円あげるから不戦勝とかにしてくんないかな。

 

 

桜花は再びバックの中身を漁り、今度は少し太めの赤い本を手に取って俺へと渡す。

 

 

「はい八幡、これの2010年度の文系数学を解いてね」

 

「ああ…ってどうみても無理だろこれは!」

 

何か赤いなーこの本、それになんか本屋の参考書売り場で沢山並んでたなーこんな感じの本、みたいに多少現実逃避気味に見ていたが、桜花から渡されると否が応でもその名前は確認せざるおえなかった。

 

赤い本、違う。これは赤本だ。

ちなみに赤本とは大学受験で一度は手にするだろう本で、過去問とその解答が数年分に渡って掲載されている。

それだけでも相当不味いのに、更にこの赤本なぜか東大のやつなのである…うわ、俺死んだ。国語ならまだ自信はあるが、数学に関しては0完でも可笑しくない。下手したら一桁台をとる可能性すら大いに存在している。

 

それを満点の半分取れとか完璧無理ゲーの領域と化している。俺の幼馴染がこんなに鬼畜過ぎるわけがない。

 

 

 

「じゃあ八幡は始めっ!」

 

畜生、やるだけやってやる!

 

そんな悲壮感漂う決意のバックでは桜花が小町に宿題を教えている光景が広がっていた。その優しさの半分で良いから俺にも欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、予想通りというべきか何も出来ずにあえなく試験時間だけが過ぎ去り、結果的に言えば0完のみならず一点すら取ることは叶わなかった。果てして俺は何を間違ったのか…いや間違えすぎたからこんな結末になったんだった。

 

「お兄ちゃん、採点どうだった?」

 

桜花のおかげである程度理解できたのか、手に余った小町がそう俺に聞いてくる。

 

「あ、ああ、何とか、半分は、取ったぞ?」

 

因みに実際は当然のごとく取っていない。ただ自己採点という形だったため、単に俺でも取れるかもしれなかった問題(実際は取れてないが)の回答をシャーペンで追記し、あたかも正解したかのように見せかけているのである。つまりは不正行為である、だが俺は悪くない何もやってない(という体)だから。だからどもったのも偶然である。きっと。

 

 

「えー?お兄ちゃんが本当にそんなに難しいの取れるの?」

 

「いやほれ、取ってるだろ実際」

 

そう疑いの視線で覗き込む小町。

すまん、その予想は完全にジャストミートしてるが俺も罰ゲームは受けたくないからな。

 

 

小町に心の中でそう謝っているとどこへ行っていたのか桜花がリビングへと帰ってくる。

 

「八幡どだった?無理だった?諦めた?女装する?」

 

何で俺が無理だった前提で話を強引に進めようとするんだよ。いや一応真相的には合ってるけどさ、少しは俺にも猶予をくれよ。

 

「い、いやギリセーフだ。罰ゲームは無しだ」

 

 

何でも察しそうな桜花の目の前で答えたためか少しどもってしまう。

桜花はそんな俺にふーんと言いつつ、なぜか面白そうな表情でこちらを見ていた。おかしい、桜花の気分屋の性格的に普通なら詰まらなそうな表情をするはずなのに、なぜか目の中でキラキラと星が光ってるような…いやこれは違う。むしろ闇の中に立つ獣のように目が輝いていて、まるでそれは獲物を屠り捕食する一歩手前の狼のようでもある。

要するに、何か企んでいる気がするということだ。……詰んだか?

 

内心ビクビクしながら平静を装い桜花の目を見返していると、桜花は不意に脇に置かれたリモコンを手に取り、テレビの電源を付けながらポツリと言った。

 

「……今度からは私が採点しなきゃかなぁ……」

 

 

…うん、ばれてらっしゃる。これは確実無比に露見している。

しかもなんか軽く笑いながら言ってるところが少しホラー要素満点なんだけど…。八幡次のテストは国語が良いなぁ…なんて。…無理か。

 

 

「…まあ今回は許してあげるよ?でも次回からは過去に行った事は出来ないと考えた方が八幡にもお得だよ?」

 

 

…まあ、女装が回避できただけいいか。次のことは次考えるとしよう。

…死亡フラグじゃんこれ。

 

 

 

 

そんな感じで勉強会(俺だけ何故かテスト)は二時間半かかり、気付けば何時もの就寝時間にさしかかっていた。いつもなら部屋でもっと基礎的な勉強かゲームをしているはずだったのにな…。

 

「じゃあお兄ちゃんお休みー」

 

「…おう、お休み」

 

「八幡一緒に寝よー!」

 

「いや桜花さんはこっちですよ」

 

「小町ちゃん離して…!私はあの丘の向こう側へと行かなければならないから…!」

 

「じゃあ小町の部屋に布団引きますからそこで寝ましょうねー」

 

駄々をこねる高校三年生の襟元を持って引きずり自分の部屋へと入れる中学三年生。普段は桜花の方が立ち位置的に上ではあるが、偶にこのような感じで桜花の精神年齢が遡るせいで逆転することもあったりする。そして見る度毎回思うのだが、二人の身長にはかなり差があるので小町が桜花を引きずる図は中々シュールなものがあるのである。これでも小町も昔より身長は高くなってはいるんだがな…。

 

 

バタンと閉じられた扉を見送り、俺も寝ようと自室へと入る。

ふと机の上を見ると、そこには俺と小町と桜花の三人で撮った写真が一枚、額縁に飾られて立て掛けられている。確かこれは俺が中3の時だったはずだ。俺が高校受験で総武高校に合格し、その後俺が無理やり引きずられる形で桜花と小町がパーティーを催し、その終わりあたりに記念にとか言って桜花がどこからかカメラを持ってきて撮影したのである。

 

写真にはコーラを持ってピースをする桜花に、ポテチを持ってピースをする小町、俺はといえば少し嫌々しくしつつもピースだけはしていた。きっと来年小町が受験に合格した時再び見られる光景なのかもしれない。

 

 

だがこの頃そんな楽しげな写真を見ると、毎回脳裏によぎる仮説がある。

 

それは、もし俺が桜花と全くの無縁で、長い時間を小町と二人で過ごしていたらどうなっていたのだろうという突拍子のない疑問だ。別に小町と二人で生活するのが嫌なわけではないし、むしろそれはそれで別の日常が送れると思う。それが誰にとって良くて誰にとって悪いのかは分からないが、もしそうだったらそういうだけの話なだけである。

俺の性格だって今とは全く違うものになっていたことは確信できる。何しろ何をやるにも毎回その全ての原点に立つのは桜花で、それに小町が便乗して事を広げて俺まで巻き込んでいく形だからだ。それらのステップが俺という自意識を形成していくのに大きく関与しているのは言うまでもないだろう。

 

当然、それは全部『もしも』の話であって、それ以上の俺もそれ以下の俺もこの世界には存在しない。今存在している俺が俺であり、もしもの世界にいる俺も俺ではあるが考え方が異なる俺であるのは当然だ。存在としては等号で結ばれても中身は決して同等ではなく、どこかが決定的に間違っている。

 

 

だから俺は他の俺について考える必要はないのだが、それでも考えてしまうほどに桜花の存在は俺にとっても、小町にとっても強大なものとなっている。

 

今後俺たちの進む方向が、未来が、どうなるのかは全く見当もつかない。

だが一つ分かるのは、この兄妹と隣人の奇妙な友人関係は未来永劫死ぬまで続いていくのだろうなという確信的な推測であった。

 

 

 

 




俺たちの戦いはこれからだ!(棒)
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