記憶の片隅で   作:to110

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第四話 誰もが過去を歩んできている。

雪乃「あなた、私の前からいなくならないわよね?」キュッ

 

 

雪ノ下雪乃は俺の右袖をつまみながら、そう言った。

 

 

八幡「どういうことだ?」

 

 

雪乃「そのままの意味よ。早く、答えて………」

 

 

声は弱く、今にも泣きそうだ。というより、泣いたせいで赤目になってそう見えるだけかもしれないが。

 

 

八幡「雪乃がどこかに行ってしまうのを防ぎにきたのに、なんで俺がどこかに行くんだよ」

 

 

雪乃「だって………だって………」

 

 

雪乃らしくないというか、弱さとはまた違った、そんな雰囲気が出ている。

 

 

雪乃「あなたらしく、ないもの………」

 

 

………

雪乃らしい着眼点、か。

雪乃に俺の策は通じない。前、そんなことは知ったじゃないか。だが、俺も下がれない。

 

 

八幡「はっきり言ったらどうだ?」

 

 

少し強く言ってしまった。

自白してるようなものだ。

………虚しいな。

 

 

雪乃「なんで…いなくなろうとしてるのよ………」

 

 

具体的じゃない発言。確信しているのに、認めたくないというような、そんな言い方だ。だからだろう。次の言葉が強くなってしまう。

 

 

八幡「はっきり言えよ!」

 

 

………だめだ。

………これ以上は。

………これ以上は、だめだ。

………言わせたくなかったんだ。言わせたらいけなかったんだ。彼女の口から、聞きたく、なかったんだ………

 

 

雪乃「なんで…死のうと…してるのよ………」ギュッ

 

 

いつの間にか腕が握られていた。とても強く、そして、弱々しく、握られている………

 

 

八幡「何言ってんだ?」

 

 

………苦しい。

………苦しい言い方だ、言い訳だ。

 

 

雪乃「だって八幡君のことに、触っても、触られても、全然、楽しくないんだもの」

 

 

八幡「それってあれだろ。俺に対する好意がなくなったって、ただ、それだけだろ」

 

 

なんでこんなことを言ってるんだろうか………

言いたくないのに、言いたくないのに………

でも言わないといけない。言わなければいけない。俺が、俺らしい行動をするために。

 

 

パシン

 

 

その音とともに、雪乃が視界の右に。

昨日は反対側だったっけか。さすがは姉妹、考えることが似ている。

陽乃さんは怒りで、雪乃は悲しみ。よく伝わってくる。

 

 

雪乃「そんな…わけ…ないじゃない………」

 

 

八幡「主観だろ、所詮」

 

 

雪乃「それの何がいけないのよ!私はあなたが好きで!あなたと一緒にずっといたくて!それの何がいけないのよ!主観よ、こんなのは主観よ!それでも、それでも!」

 

 

雪乃はこうやってまっすぐに自分の気持ちが言える。こんなにも好きになってもらえて、俺は嬉しい。だが、俺は違う。自分の気持ちをこんなにもまっすぐには言えない。つくづくすごいやつだと思うよ、雪乃。だが………

 

 

八幡「………それじゃ、いけねぇよ」

 

 

彼女に、冷酷な態度をとる。休ませてはいけない。雪乃を早くこの場から動かすか、俺が動くかしないと。

 

 

雪乃「どうしてなのよ!」

 

 

声が震え始めたか。あと一押しというところだな。

 

 

八幡「主観に説得力なんてないからだ」

 

 

雪乃「っ………」

 

 

それでいい。雪乃はこのまま走り去れ。

これでいい。俺はこのまま俺のやり方で、彼女を守る。

 

 

雪乃「………じゃないの」ボソッ

 

 

言うな。そんなこと言うな。

 

 

雪乃「あなたに…客観で、勝てる…わけがないじゃないの………」

 

 

八幡「………」

 

 

………そりゃそうだ。雪ノ下雪乃はいつでも客観で動いてきた、そう思っていた。だが、少なくとも俺や由比ヶ浜と過ごしてきた時間の中で、そうではないんだと、そう思うようになったんだ。感情的で、嘘を悪としてきて、そんな俺と似ていて、そしてまったく似ていない。そんな感情を。そして、それは主観であると。決して客観ではないことを、彼女は、雪ノ下雪乃は、知ったのだ。

 

 

雪乃「あなたに何の目的があって、私の前からいなくなっても、私はそこまで追いかけるわよ」

 

 

八幡「それは、怖いな………」

 

 

髪をかきむしる。そんな音でもいいから、何か違う音が欲しかった。

愛が重いというか、大きいというか。雪乃からの好意がなくなったなんて感じているわけもない。

………だが、いや、だからこそ。冷たく、雪乃を遠くに。

 

 

八幡「さっきか………ん⁉︎………」

 

 

雪乃「んっ………」

 

 

ったく、やっぱりだめだな。俺も人間だな。主観を捨てきれなかった。

 

 

雪乃「どこにも………いかないでよ………」

 

 

八幡「………あぁ」

 

 

雪乃「八幡君………」ポロポロ

 

 

八幡「雪乃………」ポロポロ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふふっ、もう諦めたら〜?」

 

 

「雪乃にあんなことさせて………」

 

 

「じゃっ、帰ろっ」

 

 

「………えぇ、そうね」

 

 

「お疲れ様っ、八幡…君………」ボソッ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

陽乃さんのおかげで、特にお咎めもなく雪乃の留学は中止になった。そんな嵐も三日前に過ぎ、その後はあっさりしている。そして、俺は今、雪乃と陽乃さんの三人でお茶をしている。

 

 

陽乃「いや〜八幡君も雪乃ちゃんも大胆だったよ〜」ニヤニヤ

 

 

八幡「なぜいきなりその話題を出したのか意味がわかりませんが」

 

 

雪乃「」カァァァ

 

 

陽乃「八幡君かっこよかったよ〜」

 

 

八幡「さいで」

 

 

陽乃「それにしても、あんなところで雪乃ちゃんがキスするなんてね〜」

 

 

雪乃「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜///」

 

 

八幡「まぁ雪乃、落ち着け」ナデナデ

 

 

雪乃「」ボンッ

 

 

陽乃「あーあー惚気てちゃってー」

 

 

雪乃「」 プシュー

 

 

八幡「久々に見ましたね」

 

 

雪乃「」ポワポワ

 

 

陽乃「それで?何の用事?」

 

 

八幡「何のことですか?」

 

 

陽乃「わざわざ雪乃ちゃんをこうしたんだから、私に何かあるんでしょ?」

 

 

読心術とか関係なく、この人はこういう考えにいきつけるのだろう。まったく、恐ろしい。

 

 

八幡「この間はありがとうございます」

 

 

陽乃「何のこと?」

 

 

八幡「お義母さんを説得してくれたんでしょ?」

 

 

陽乃「お?お?お?もうお義母さん呼び?気が早いな〜」

 

 

八幡「なっ⁉︎///」

 

 

陽乃「かっわい〜。まぁ気にしなくてもいいよ?」

 

 

八幡「いや、陽乃さんに恩を残しとくといいことにならない気がするんで」

 

 

陽乃「そう?ん〜そうだな〜………あ、じゃあ私と結婚して?」

 

 

八幡「勘弁してください。てか、いい加減諦めてください」

 

 

陽乃「もう〜」プクー

 

 

八幡「そ、それから」

 

 

陽乃「うん?」

 

 

八幡「雪乃に何も言わないでくれてありがとうございます。あの日のこと」

 

 

陽乃「ふふっ、私は何も知らないよ?」

 

 

ほんと、ありがとうございます。雪乃は俺が何をするかはわかっていたようだが、なぜそうするかはわからなかったようだし。それはわかられたくないし、わかられたらそもそも意味がないし。これからも雪乃にその話をすることはないのだろう。

 

 

っと、こんな感じにほのぼのと過ごしている。なんか、雪乃が想定外のことしたのがよほど嬉しかったのか、陽乃さんに対してもかなり放任したお義母さん。お義父さんはどう思っているのか。まぁなんだかんだいっても問題ないんだろうけど。てか、お義父さんにまだ会ってなかった。

 

こんなほのぼのした生活に至るまでにいろいろあったが、落着しただろう。ここまでの感想を述べよう。

 

 

 

 

 

 

………長かった。




ふぅー、事件はこれで終わろうかな?これからは学校行事をやっていこうと思います。シリアスな展開はなくなると思います。まぁそれだけだと私は潰れるので、シリアス要素もちょくちょく入れていきますが。
これからもこのシリーズやら私の作品(自己中)やら、よろしくお願いします。

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