記憶の片隅で   作:to110

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第九話 彼は彼女らとの約束を果たす。

クリスマス。

こんな響きの悪い言葉がこの世の中にあるだろうか、そんな言葉である。オンラインゲームでその日に見た人は全てクリスマスに縁のない人物であり、それをお互いがお互いに励まし合う。俺は励まし合うのがおかしいと思う。まぁどれもこれも、

 

 

去年までの話しだが。

 

 

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八幡「なぁ雪乃」

 

 

雪乃「なにかしら?」

 

 

八幡「クリスマスの前日、用事があるから、その………」

 

 

雪乃「ふふっ、ええ、いいわよ。大事な彼女よりも優先させるほどの用事なのよね?」

 

 

八幡「雪乃の意地悪振りは相変わらずだな」

 

 

雪乃「そうかしら?」

 

 

その通りだ。ほんと、意地悪だ。どうして、ではなくそうか、と聞いてくるんだから。俺の用事だってちゃんとわかっているし、それを認めているのに。

 

 

八幡「クリスマス当日は空けとけよ?」

 

 

雪乃「ええ、もちろん。朝からよろしくね。

それから」

 

 

八幡「なんだ?」

 

 

ポンッと背中を叩く。そして雪乃は発言する。

 

 

雪乃「ちゃんとやってきなさいよ」

 

 

八幡「あぁ、もちろんだ。案ずるな」ナデナデ

 

 

雪乃「そ…それでいいのよ………///」

 

 

八幡「じゃあな」

 

 

雪乃「ええ、また、ね」

 

 

ちなみにどこにいたかの説明をしておく。雪乃の家、以上。明日がクリスマス前日、いわゆるクリスマスイブである。

ちゃんとやってくるよ。

 

 

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用事というのは俺が清算すべき過去、そして、それはこれからにも影響するという大きな清算対象。

 

 

「ごめんね!待った?」

 

 

八幡「先に来てる時点で確実に少しは待ってるだろ」

 

 

いつもの明るい雰囲気、と共に暗い雰囲気も醸し出している、その女の子。

 

 

「ヒッキー、そこは今来たところって言うんだよ?」

 

 

由比ヶ浜結衣、それが清算する対象だ。

 

 

八幡「俺は俺だ。とっとと行くぞ」

 

 

結衣「あ………う、うん………」

 

 

そして、これを清算するということは、雪乃や由比ヶ浜と会うまでの俺の全否定に繋がる。大きな、と言ったが、これで清算そのもの、清算すべきものの全てが自動的に終わる。

 

 

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数日前、終業式の部室で約束をした。

 

 

八幡「由比ヶ浜、24日暇か?」

 

 

結衣「ひ、暇だけど。その日って………」

 

 

八幡「なら、ハニトー?食べに行くぞ」

 

 

結衣「え⁉︎な、なんでその日、なの………」

 

 

八幡「その日しか予定が空いてない。雪乃はその日家の用事らしくてな。それに、今年のことは今年で返しておきたい」

 

 

結衣「そう………わ、わかった」

 

 

八幡「んじゃ、詳しいことはメールで」

 

 

結衣「わかった」

 

 

雪乃は少し平塚先生と話しをしている。今後の活動についてだ。なぜ知ってるかというと、俺が先生に頼んだからだ。

 

 

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八幡「先生」

 

 

平塚「なんだ?比企谷」

 

 

八幡「部活のことで相談があります」

 

 

平塚「なんだ?」

 

 

さっきと同じ言葉を発したあたり、性格の悪さが出ている。

 

 

八幡「冬休みの活動についてです」

 

 

平塚「それならこないだ決めたじゃないか」

 

 

八幡「いえ、もう一度、しっかりと雪乃と話し合った方がいいと思います。今日にでも」

 

 

平塚「ふむ………なるほど。あぁわかった。雪ノ下はちゃんと呼び出しておく」

 

 

八幡「………ども」

 

 

平塚先生には一連の出来事はちゃんと話した。由比ヶ浜のこと含めて。すごくかは知らないが、結構しっかりと喜んでた。

まぁ平塚先生のことだから雪乃との会話は長くしてくれそうだ。

 

 

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ガララ

 

 

雪乃「お待たせ、平塚先生と少し話しをしてて遅れてしまったわ」

 

 

こちらを見て、どうだったと問いてくる。まぁそんなもん勝手な勘違いの可能性があるから無視だ無視。

 

 

結衣「いいよー全然。ゆきのんやっはろー!」

 

 

雪乃「ええ、こんにちは」

 

 

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という流れだ。

実際のところ、気まずい以外何もない。俺からすれば清算のためとはいえこの日に彼女以外の女の子とお出かけ。由比ヶ浜からすれば友達の恋人でしかも好きな人とこの日にお出かけ。両者気まずい。由比ヶ浜がいろいろとしゃべっているが、どの声を浮いていてまともじゃない。

 

 

八幡「ここでいいよな?」

 

 

結衣「うん………いいよ」

 

 

八幡「なら入るぞ」

 

 

結衣「わかった」

 

 

店員「何名様ですか?」

 

 

八幡「2名です」

 

 

店員「ではあちらの席にお願いします」

 

 

八幡「わかりました」

 

 

結衣「ヒッキーって人とちゃんと話せるんだね」

 

 

八幡「なんだその言い方は。会話くらいできる。

ほら、座れ」

 

 

結衣「うんっ」

 

 

なかなか由比ヶ浜らしい声色になった。

それにしても、なんで由比ヶ浜手でソファ叩いてんの?座り心地でも確かめてんの?

 

 

結衣「ぅん」

 

 

いや、こっち見ながらそんな奇怪な行動とらんでください。俺もとっとと座るか。いくらなんでも斜め前はおかしいから正面か。

 

 

八幡「よっこいしょ」

 

 

結衣「むー………」プクー

 

 

俺が座った瞬間由比ヶ浜のご機嫌が斜めった。なぜ?どうして?

 

 

八幡「………なした?」

 

 

結衣「もういいよ!」タッ

 

 

由比ヶ浜が瞬間移動でもしたのか、そんな速さでいつの間にか俺の横に座ってた。まぁ俺としては窓側の方が嬉しいわけだが。だって注文するとき店員と話す必要がないからな。

 

 

結衣「早く食べよっ」

 

 

八幡「あーはいはい。んじゃ、とっとと頼みますかね」

 

 

なんで横に来たのかという疑問は一切浮かばなかった。

 

 

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………多い。

明らかに量がおかしい。あれが一人前とかおかしい。なんて思っているわけだが、お隣の女の子は軽くそれを食べ切った。なんでそんな食えるんだよ。まぁ俺も食べましたけどね?

 

 

結衣「はぁ〜、おいしかった〜」

 

 

八幡「ま、そうだな」

 

 

結衣「ねぇヒッキー」

 

 

八幡「なんーーーーー」

 

 

由比ヶ浜は俺に覆いかぶさる。というか、押し倒された。そんな彼女の体は震えていて、そのメロンもプルプーーーーー現実から逃げるのはやめよう。

 

 

結衣「私、ね。ずっと、ずっとヒッキーのことが好きで、サブレを助けてくれたときも、クッキーのときも、他にもいっぱい、私はヒッキーのかっこいいところ見てきて、だから、だから………」

 

 

俺は何も言わない。彼女が言い切るまでは。

 

 

結衣「私と、付き合ってください!」

 

 

これが、俺が俺に対する、罰だ。彼女に対して無責任なことをした。

そして、清算だ。

 

 

八幡「ごめん、それはできない」

 

 

結衣「………やっぱりゆきのんかー。は、ははっ………ははは………は………は………シクッ………」

 

 

由比ヶ浜は俺の胸に顔を当てて、そっと口を開ける。

 

 

結衣「………このくらい………は………させてね」

 

 

八幡「あぁ」

 

 

結衣「ぅ………シクッ………ッ………」ポロポロ

 

 

俺は彼女に何もしない、できない。頭を撫でることも、背中をさすることも、声をかけるのも。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

結衣「今日はありがと。私のために」

 

 

八幡「いや、約束を果たしただけだから俺のためだぞ」

 

 

由比ヶ浜との約束と、雪乃との約束を果たしたというだけだ。結果的に由比ヶ浜のためになったって、それはあくまで結果だ。

 

 

結衣「ははは………」ギュッ

 

 

八幡「………⁉︎」

 

 

突然由比ヶ浜が抱きついてきた。

 

 

結衣「これで、私の初恋はおしまい。これからは、友達として、よろしくね」

 

 

八幡「あぁ」

 

 

しばらくの沈黙の後、由比ヶ浜は離れた。そして挨拶を済まし、俺たちは別々の道へ、行こうとしたときに声がかかる。

 

 

結衣「ヒッキー!」

 

 

八幡「なんだ?」

 

 

結衣「ゆきのんを!待たせすぎたら!ダメだよー!」

 

 

八幡「わかってる、よ」

 

 

結衣「ばいばい!」フリフリ

 

 

八幡「じゃあな」

 

 

仮定も、結論も、解き方も、これで得られた。あとは慎重に、計算ミスをしないように、全てを繋げるだけだ。


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