記憶の片隅で   作:to110

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手に入れるものと手放すもの。どちらを大事にしたいですか?人間は必ず得るものと失うものを作らなければいけません。今回はそんなお話。
勉強時間の確保がまったくできていない筆者がおくる長編シリーズ第5話、では、どうぞ。


第5章 彼女の思いを知るのは同じ思いの人だった。

結衣「ゆきのんさ。こないだうちに来たんだよ。それで、事故のこと、謝られた。私は特に気にしてなかったし、ヒッキーとゆきのんも仲直りしてたし、わざわざ謝らなくてもよかったんだけどって言ったら区切りをつけたかったんだって。それから、ヒッキーになんて謝ったらいいか、相談された。ヒッキーはもう何も怒ってないって言ったらゆきのん、泣きながら、

『私が悪いのに、比企谷君はそれをあやふやにして許してくれた』

っていってた。かなり辛かったと思うよ、ゆきのん」

 

 

八幡「いや、だが雪ノ下とは………」

 

 

結衣「ヒッキーの一方的な仲直りだったんじゃないの?」

 

 

八幡「いや、だが………」

 

 

結衣「ヒッキーなりに気をつかったんだと思うけど、ゆきのんは辛かったんだよ」

 

 

八幡「雪ノ下が………」

 

 

つまり自己満足だったというわけか。情けない。

 

 

結衣「ゆきのんは感謝してたんだよ。でも、その優しさに甘えて、それが辛かったんだよ」

 

 

八幡「………ありがとな、由比ヶ浜」

 

 

結衣「べ、別に…あ、当たり前のことをしただけだし…」///

 

 

八幡「だが、それを知っても雪ノ下の記憶が残るわけではないしな………」

 

 

結衣「ひとまずゆきのんのところに行こ‼︎」

 

 

八幡「まぁ、それもそうだな」

 

 

結衣「じゃ早く行こ」グイグイ

 

 

八幡「引っ張るな。行くから行くから」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

結衣「やっはろーゆきのん‼︎」

 

 

雪乃「由比ヶ浜と、ええと…比企谷君、だったかしら?」

 

 

八幡「ああ、比企谷だ」

 

 

雪乃「ごめんなさい、あなたのこと思い出せないわ」

 

 

八幡「いや、気にするな。それより体は大丈夫なのか?」

 

 

雪乃「あ、え、ええ。だ、大丈夫、です」

 

 

結衣「ゆきのん………」

 

 

八幡「入学式の日のこと、何か覚えてるか?」

 

 

雪乃「入学、式………い、いいえ。何も、その、覚えてないわ。ご、ごめんなさい」

 

 

八幡「そんなに謝られても困るんだが………」

 

 

雪乃「あ、ええと。ご、ごめんなさい」

 

 

まぁ、これで俺に関する記憶が全てなくなっていて、辛い記憶というのも正しいのだろう。

 

 

プルルル

 

 

結衣「あ、はい。………うん、わかった。

ごめんね。私家の用事で帰らないといけなくなって」

 

 

八幡「由比ヶ浜。病院の中では携帯の電源落としとけよ」

雪乃「由比ヶ浜さん。病院の中は電源を切りなさい」

 

 

結衣「ふ…2人から………」

 

 

八幡「由比ヶ浜が帰るなら俺も帰るかな。雪ノ下、1人で大丈夫か?」

 

 

雪乃「あの…その…一緒に…いてくれる…と…嬉しいの…です…が…」モジモジ

 

 

結衣「じゃあヒッキー、その…ゆきのんのことよろしくね?」バイバイ

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

勿論沈黙が降り注ぐわけなのだが、仕方のないことだろう。雪ノ下から見れば俺は他人なわけだし、そんな雪ノ下に気軽に話しかけれるわけもない。そう思っていた。

 

 

雪乃「あの…ひ、比企谷君…」

 

 

八幡「な、なんだ?」

 

 

声が固い。やばい。明らかに不審者だ。なんで話しかけられただけで緊張してんだよ。

 

 

雪乃「比企谷君から見た私ってどういう人なの?」

 

 

八幡「なぜそんなこと聞くんだ?」

 

 

雪乃「そ、それは…その…わ…私が気になる…から…」モジモジ

 

 

あーやばい。俺、静まれ。可愛過ぎる。なんなんだよ。俺が怪我させたのに不謹慎すぎるな。

 

 

雪乃「ど…どうかしました…か?」

 

 

八幡「あ、い、いいや。なんでもない。

俺から見た雪ノ下雪乃は、優しい不器用なやつ、かな。

だが、なんでわざわざ聞くんだ?自分の記憶は残ってんだろ?」

 

 

雪乃「姉さんが、私を一番知っているのが…その…比企谷君って言ってて、それで、そんな大事な人のことを…忘れて…しまった…って…思って…」ポロポロ

 

 

八幡「お前が泣くことじゃないだろ」ナデナデ

 

 

雪乃「私…今まで…誰にも理解されずに…生きてきて…だから…」ポロポロ

 

 

八幡「由比ヶ浜がいるだろ」ナデナデ

 

 

雪乃「彼女は…また違うの…あなたとは…違う…温かさで…でもあなたは…もっと…心まで…温めてくれる…ような…そんな気が…して…」ポロポロ

 

 

八幡「俺は由比ヶ浜ほど温かい人間じゃない」

 

 

雪乃「私のなかで…何かが…ないのよ…何かわからない…けれど…とても…大切なもの…だったの…よ…」

 

 

雪ノ下は俺のなかで泣く。そんな彼女の頭を撫でる。そうだ、彼女はこういう人間だ。なんでも言葉にして伝える。なんでも言葉にできる。何も言えず、言葉もわからない俺とは、違う。そんな彼女だから、俺は……………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

八幡「落ち着いたか?」

 

 

雪乃「はい。ありがとうございます」

 

 

八幡「一つ聞きたい」

 

 

雪乃「なんですか?」

 

 

八幡「今の、今のお前は、今の雪ノ下雪乃は、比企谷八幡の記憶を取り戻したいか?………正直に言ってくれ」

 

 

雪乃「わ…私…は…」

 

 

八幡「お前の失った記憶は、辛かった記憶だ。だから、俺のことを思い出せば苦しむことになる。よく考えてくれ」

 

 

雪乃「私は…比企谷君の記憶…取り戻したいです。例え苦しんでも、たぶんそれはあなたを思うあまりのこと…だと思いますから。それに…大切な人の記憶がないのも…辛いです…」

 

 

八幡「……………そうか。わかった。なら思い出させてやる、俺が」

 

 

雪乃「お願いします」ニコッ

 

 

それに、怪我をさせた責任も負わなければいけない。こいつの欲しいもの、叶えたいものを、俺のできる限りを持ってやってやる。それにしても

 

 

「本当に可愛いな」

 

 

雪乃「えっ?」ボンッ

 

 

八幡「どうした?」

 

 

雪乃「え…あ…えっと…あの…あなたが…い…今…か…かわ…」カオマッカ///

 

 

八幡「ま、まさか………」

 

 

なんで2回も同じことやってんだ。同じようなセリフを、今度は本人の前で。超恥ずかしい。どうしよう、収集はつくのか?やばいとにかくここにいたくない。

 

 

八幡「あ…じじ、じゃあお、俺はか帰るから」

 

 

雪乃「え、ええ…さ、さよう…なら」

 

 

雪ノ下顔赤くしすぎだろ。そんなキャラじゃなかっただろ。てか、今の俺とお前、初対面って言っていいくらいの関係だよ?

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

そのあと俺は全力疾走で家まで帰った。雪ノ下の口撃で精神的ダメージを受けることは今までたくさんあったのに、口撃以外でそれ以上のダメージを受けるとは。いやまぁほぼ自滅だったんだが。

しかし、思い出させるとは言ったものの、どうするべきか。まったく思いつかない。由比ヶ浜と相談しながら、というところか。


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