【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
グロ注意。
000 プロローグ
幻想郷『アルハザード』。
現代に繋がる魔法文明の祖にして、虚数空間の奥深くに封印された、魔法技術の理想郷。
そこには幾つもの世界を滅ぼせる、恐るべきエネルギーを秘めた魔法具や、永遠の命を実現する夢のような技術が眠っているといわれる。
そこは、運命に惹かれた者だけが到達できた。
そして到達者の多くは、ある1つの技術を求める。
それは死者蘇生。
『アルハザード』以外にも様々に研究が行なわれ、しかし、実現した例は皆無。
『アルハザード』には確かにそれが存在する。
外の世界のような紛い物ではなく、本物の蘇生法が。
しかしならば、なぜこの摩天楼には絶望にうずくまり、座してただ死を待つ人間が数多いのだろうか。
そのことに少しでも気付くことができたなら、後の悲劇は回避できたかもしれない。
悲劇で終わることができたかもしれない。
腐敗しないように、保存液に浸された、黒髪の幼い少女の遺体。
ケースを抱えるのは、同じく黒髪の、半面に青い痣のある女性。
母親だった。
彼女は摩天楼の一室に篭り、脇目も振らずに研究し続けた。
不老不死、蘇生、魂の帰還。
そして目的の、自分に理解できる蘇生技術を発見する。
娘が動き出したとき、母親は我が子を抱き締めて泣いた。
幼い娘の瞳が白く濁り、視力を失ったことなど、些事に過ぎなかった。
すぐに、知っている魔法で擬似視力を与える。
慣れるまでに多少は時間がかかるが、自分達にはたっぷり時間がある。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。
数日後、娘が体調を崩す。
原因は、蘇生によってある
『
それは他人の、感情の動きを読み取る能力。
当時彼女らが住んでいた摩天楼には、永遠の命や蘇生に失敗して生きる気力を失った多くの渡航者が存在していた。
そんな絶望に染まった心の声が、直接娘の脳に送り込まれていたのである。
数日は母の狂喜が守っていたが、いずれは感情も落ち着いてくるため、守護にも限界がある。
日に日に容態が悪化していく娘に焦りを覚えながら、母親は『
知っている魔法ではほとんど効果が無かったため、かなり強力な封印でなければならない。
運良く、1週間ほどで強力な封印力を持つ魔法具を発見した。
最早一刻の猶予もない。
母親は安全確認もそこそこに、その魔法具を娘の身体に埋め込み、起動した。
娘の容態は落ち着き、次第に回復していく。
それから半年ほどは幸せだった。
母親は愛情を注いで色々なことを教え、娘は教わったことを真綿が水を吸うように次々と吸収する。
娘は天才的だった。
母親はその才能を歓び、自分のすべてを伝えようとし、また娘はそれによく応えた。
原則として、『アルハザード』には脱出する手段というものがない。
いや、あるにはあるのだが、生身の人間が使えるようにはできていないのだ。
そして、外から持ち込まれたような手段では、脱出は不可能だった。
ただ、衣食住について高いレベルで管理されたものが供給されており、早急に脱出する必要性もない。
少なくともこの母娘にとっては、この半年間は安寧な空間だったのだ。
この母娘は『アルハザード』を訪れた中では、数少ない成功例と言えたかも知れない。
半年後のある日までは。
「私は―――に帰らねばならんのだ。なんとしても『――――』を倒さねば、ここへ来た意味が無い」
1人の男が母娘の元を訪れ、言った。
多く『アルハザード』を訪れた者の中で、死者蘇生を目的とせず、また永遠の命も求めず、ただ刹那の力を求めた男。
彼は自分の娘を蘇らせることに成功した、ほぼ唯一話ができそうな人間に、自分の目的を手伝ってもらおうとした。
てっきり、『アルハザード』の住人ならば、その技術に詳しいものだと思い込んでいたらしい。
しかし、期待は裏切られる。
元々、母娘は『アルハザード』へ来て、そう年数が経っていない。
膨大な量の技術のすべてに目を通す時間も理由も、2人にはなかったのである。
男の祖国は戦争を行なっており、自分も力になれるような、そんな技術を求めて『アルハザード』渡航を決行した。
王の理想を実現し、多くの次元世界を傘下に収めた大帝国を築くために。
ところが、『アルハザード』から元の世界へ帰還する方法がない。
これでは本末転倒だ。
男は母親を脅し、帰還する方法を探させる。
自分は目ぼしい魔法具を集めるために時間を費やした。
だが、結論は変わらず。
虚数空間と呼ばれる領域を逆行するような、そんな方法は存在しなかった。
逆に、『アルハザード』の封印がどのように行なわれたのかが判明した。
次元断層、つまり虚数空間に放り込む。
それ自体が封印だったのである。
途中に虚数空間つまり魔力が力を失う領域があり、『底』から上がる方法がない。
『アルハザード』に眠る膨大な数の超技術ですら、虚数空間を越えることができない。
だからこそ、この方法で『封印』が行なわれたのだ。
ここへ辿り着くまでは封印の存在を明かされず、そして探そうにも、性質上内部にその技術は遺されていない。
話を聞いた男は、力なくうなだれる。
男は娘を連れ去った。
帰る方法が見つからない以上、『アルハザード』から目標を殺す方法を採るしかない。
そしてその方法を、彼は見つけ出していたのだ。
その方法とは、娘に埋め込まれた魔法具の封印を解き、他者に『接続』を行うことである。
その魔法具はそもそも、特定の魔法効果を遠隔発生させるもので、次元を超えて対象に『接続』することが出来る。
応用すれば、選択した対象に攻撃魔法を打ち込むこともできた。
ただし、対象が正しく選択されているかどうかはわからない。
母親は娘の肉体に埋め込むことで、娘1人だけは正しく選択できるようにした。
それをすべて自分に向けることで、娘は他者との接続を希薄にし、『
だから、悲劇はここから始まった。
強力な『
同時にそれは、魔法具と『
母親は血眼になって娘を探した。
発見したとき、娘は大量の髪の毛が抜け落ち、肌から色素が抜け落ち、うずくまって痙攣していた。
床には
隣には、目的を達成して高笑いを上げる男。
母親は男が行ったことを理解し、油断している男を護身用に持っていたナイフで背中から刺し殺した。
それから、辛く長い日々が続く。
眠ると叫び声を上げ、母に縋り付いてガタガタと震える娘。
食事もまともに摂れず、栄養は点滴で補給するしかなかった。
身体はどんどん痩せ細っていく。
なにより辛いのは、精神的な病であるため、治すには時間による自然治癒に任せるしかない点である。
向精神薬も精神安定剤も、根本的な解決にはならないのだ。
そして。
「お母さん、お願い、わたしを殺して」
娘は懇願した。
娘の死体が消え去るのを見て、最後の過ちを悟った母親は自分の首筋にナイフを当てた。
男を殺し、娘に死を贈ったそのナイフを。
こうして、母娘の物語は幕を閉じた。
悲劇は幕を閉じた。
幸せな生活を送っていた頃、ある1人の『アルハザード』渡航者の最期を2人は看取った。
幸せな生活を送る2人に気付き、ある警告を告げたのだ。
「ここは『絶望の都』だ。気をつけろ、今は平気でも、何か落とし穴があるぞ。
ここには、何か予期せぬものを代償として捧げなければならない技術しかないのだからな」
と。
その渡航者は言い終えると、そのまま意識を失い、数時間後には息を引き取った。
悲劇を起こした男が現れる、たった数日前のことだった。
第0話でした。
このアルハザードはひろっさんのオリジナル設定です。
希望郷っていうのは、そんな都合のいい話があるわけないっていう皮肉ですね。
チート能力『情動感応』が登場。
ただし名前はまだです。
それでは。