【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
当時も今の外見年齢のまま、10歳であったピュアは、戦争のことなどほとんど知らなかった。
しかし、今ならある程度はわかる。
何十回と転生を繰り返し、様々な体験をしてきた今ならば。
だが、シェオールが負け、跡形も無く滅んだことに対して、特別な感情は抱かなかった。
戦争とは時にそういうものだし、何よりシェオールにいた頃の記憶が、ピュアには既に無い。
肉体改造を受けて、
しかし、薄々ではあるが数百年が経過しているであろうことには気付いていた。
現在の第1無人世界『シェオール』。
かつては高い文明を誇り、古代ベルカと同じくミッドチルダ魔法とは別の、高度な魔法体系を持っていたとされる。
クロノが知っていたのは、シェオールを滅ぼしたのがミッドチルダだからだ。
現在の時空管理局が成立する以前、旧ミッドチルダ共和国が古代ベルカと対立していた頃。
シェオールは古代ベルカ側の味方で、地理的な条件から対ミッドチルダとの最前線にあった。
200年前の時点では既に大規模な次元災害で古代ベルカは消滅しており、ベルカとの同盟世界も大きく混乱していた。
そんな混乱を好機と見て、強大な勢力を誇ったミッドチルダ共和国は、周辺諸国へ大侵攻を開始する。
ミッドチルダ共和国は版図を一気に広げ、それが現在の時空管理局の基礎となるのだが。
その大侵攻でまず最初に滅ぼされたのがシェオールなのである。
記録によれば、ミッドチルダ軍が攻め込んだとき、すでにシェオールは壊滅していたらしい。
1つの世界の大半が不毛の大地と化し、わずかな生存者も抵抗したため殺害された。
壊滅していた理由について、当時から様々な噂が囁かれていたそうだ。
曰く、ミッドチルダ共和国が大量破壊兵器を使用した。
曰く、『ロストロギア』の暴走。
結局、噂の真偽が確かめられることはなく、壊滅理由は不明なままである。
同時にシェオール魔法も失われてしまっており、今現在ピュアを除いてシェオール魔法の使い手が存在していない。
だから、ピュアが使う魔法が、多くの人々にとって未知のものに映ったのである。
「そう……」
クロノからの報告を聞いたリンディは静かに目を伏せた。
「これはややこしくなりそうね……」
「教会系の評議員から口出しがありそうだ」
「担当の裁判官が堅物じゃない事を祈るしかないでしょうね」
「マスコミの風当たりはなぜかこっちに向く」
「私達は職務を全うしているだけなのにねえ?」
「まったく」
話を聞いていた『アースラ』の搭乗員の1人が思わず吹き出した。
親子で息がぴったりである。
普段、何かと文句を言い合う2人ではあるが、親子だと考え方が似通うものらしい。
「いっそのこと、今から根回ししておきましょう。
教会系の評議員に……この供述調書そのままでいっか」
エイミィまでもが言い出す。
「ピュアちゃんを無罪にしたいのは、私達も同じなんですから」
「そうね」
「そうだな」
上司であるリンディとクロノは止めない。
エイミィの発言は越権行為スレスレなのだが。
「どうせだからミゼット・クローベル本局幕僚議長にも上申しておくわ。私の所にも調書のデータを回しておいて」
「りょーか~い」
『無罪確定したな』とは、『アースラ』ブリッジオペレータの1人アレックスの言葉。
『もし、シェオール人の生き残りが現れたら、どうしようかしらねえ?』
古い友人であるミゼット・クローベルからの相談は、そんな文言で始まった。
普段はあまり使わない、秘匿回線を使っての会話である。
「どうした、藪から棒に」
レオーネは事情を聞く。
昔、時空管理局の黎明期は次元世界を走り回り、活躍したおかげで、今は『伝説の三提督』などとも呼ばれている。
当時からレオーネとミゼットは家族ぐるみの付き合いがあった。
もう1人のラルゴは仕事上の同僚で、今まで60年以上続く長い腐れ縁となっている。
『いえね、ハラウオンの嫁が直接調書のデータを送ってきたのよ』
「本来は越権行為で注意して終わりだが……なるほど、シェオール人か」
『今、有罪になる確率が3割程度ってところかしら。
特例法もあるけれど、有罪になるとまずいかもしれないわねえ』
「うむ。マスコミがシェオール滅亡について嗅ぎ回るような事態にはしたくないな」
『データを回すわ。本人はシェオールの滅亡理由について、何も知らないみたい』
「だが、『機動城塞』について何か知っている可能性はあるだろう」
『口止めをしておくべきかしら?』
「どのような人格か、様子を見よう。下手に藪を突いて蛇を出すのはまずい」
『わかったわ。ラルゴにもその方向で伝えておくわね』
「頼む。こちらは担当する裁判官を選んでおこう」
レオーネは通信を切ると、すっかり白くなった頭を掻いた。
そして送られてきた供述調書のデータに目を通す。
名前はピュア。
これはいわゆる幼名で、まだ苗字は受け継いでいないらしい。
シェオール魔法を使う『祈祷師』と名乗っている。
これはミッドチルダで言う『魔導師』と同じ意味合いがあるようだ。
肉体改造を受け、擬似的な
これは本人が転生の中で何度も摘出を試み、失敗しており、ミッドチルダの技術で『ロストロギア』を摘出することも、おそらく不可能。
摘出の可否については、現在本局での精密検査待ちである。
本人の話によると、死ぬと同時に転生するを繰り返しており、正確な年齢は本人にもわからない。
ただ、最初に会話した事件の当事者フェイトや、この供述調書を作成したクロノの反応から、誕生してから数百年が経過していると本人は推測している。
また、長い転生生活で故郷の事はほとんど覚えておらず、故郷がどうやって滅んだのかも全く知らないそうだ。
「今すぐどうということはないな。問題はマスコミからの質問攻めか」
レオーネが危惧しているのは、『機動城塞』の噂が立つことであった。
200年前にシェオールが滅んだ原因は、旧共和国軍による大量破壊兵器の使用にある。
それも隠してはいるのだが、それ自体はある事実のカモフラージュに過ぎない。
本当に隠しているのは、シェオールが所有していた『機動城塞』についてだ。
200年前の大侵攻開始の当時、シェオール攻略に旧ミッドチルダ共和国軍は大きな損害を出し、それでも攻略は進まなかった。
その理由として、襲撃から数分で突如出現する『機動城塞』の存在があったのだ。
どこを襲撃しても『機動城塞』は出現し、一緒に出てくるシェオールの精鋭部隊が、ミッドチルダ軍の物量攻撃を妨げた。
突如出現する理由を検証していくうちに、召喚魔法が浮かび上がってきたのだが。
召喚士が数人いれば、いつでもどこでも召喚可能という高度な防衛システムの前に、有効な対抗策は存在しなかった。
業を煮やした当時の司令官は、部隊を一旦退かせて、大量破壊兵器を使用。
シェオールの大地を焼き払ったのである。
その後、その司令官は免職され、大量破壊兵器の使用に至った理由の徹底調査と検証が行われた。
その中で新たな、恐るべき事実が浮かび上がったのだ。
『機動城塞』を防御兵器としてシェオールは利用していたが、攻撃、つまり他の次元世界への転送も可能だったという報告書が出てきたのである。
さらに、人は焼き払われたが『機動城塞』は残骸が見つかっておらず、今もシェオールのどこかで無傷なまま眠っているというのだ。
さらに。
この『機動城塞』の召喚は、転送魔法を使用できる者ならば、数人集めて儀式を行えば誰でも召喚できるらしい。
それを否定する材料は何もないのだ。
どういうことかと言うと、転送魔法を使える者ならば、誰でもミッドチルダを壊滅させることが可能だということである。
悪質な犯罪者はこの事実に飛びつくだろう。
また、転移魔法が使用可能というだけで差別や迫害が起こる可能性もある。
実際に『機動城塞』を召喚する術式は発見されていないし、召喚した後に動かす方法もない。
何より『機動城塞』そのものには大した武装が積まれていない可能性もある。
だが、そういった旧ミッドチルダ軍を苦しめた、誰でも簡単に召喚できる兵器が存在した可能性が高いという事実だけで、社会が混乱するには十分なのだ。
ゆえに、旧ミッドチルダ軍が大量破壊兵器で次元世界を1つ丸ごと焼き払ったという、十分なインパクトのある事実を半端に隠ぺいすることで、真に知られたくない事実から目を逸らさせているのである。
実際、ジャーナリストの何人かは大量破壊兵器について何か掴んだらしく、他の疑惑と一緒に本を出版していた。
しかし、狙い通りにそこで追求が止まっている。
リンディや他の『アースラ』搭乗員がその辺りの事情を知っているわけはないが、彼女らがピュアを無罪にしたいという理由で直接ミゼットまで報告を上げたのは、僥倖(運が良かった)と言っていい。
「後は口止めのタイミングと方法だな」
海鳴市臨海公園。
「なのはに紹介したい子がいるんだけど、いいかな」
「うん?」
フェイトはタイミングよく転送されてきた、状況が掴めていないピュアの手を引いて、なのはに言った。
間違いなくエイミィの仕業だ。
傍で見ていたクロノは頭を抱えるも何も言わない。
おそらく母リンディも1枚噛んでいるのだろう。
あの母なら、嬉々として許可しそうだ。
「この子がいなかったら、母さんは死んでたかもしれない。
それに、決闘の日の念話を届けてくれたのも、この子なんだ」
「あ、あの時の……」
「え、うん……?」
ピュアは戸惑う。
まさか紹介されるとは思わなかった。
特に接点も無いはずなのに。
「私、高町なのは。よろしくね」
「えっと、わたしはピュアさ。よろしくさ」
戸惑いながらも互いに自己紹介する。
顔合わせはこれは初めてだった。
「凄いんだよ。地球に来てから8日ほどで7つも『ジュエルシード』を探し当てたのは、この子のおかげなんだ」
「へえぇぇ!それスゴイの!」
フェイトが自慢げに話し、なのはは目を丸くして驚いた。
なのはは『ジュエルシード』を探すのに、かなり苦労していたのだ。
それをほぼ1日1個のペースで探し当てていたとなると、その凄さが身に染みてわかるというものだった。
その後、フェイトとなのはがリボン交換をして別れる。
「似合ってるよ、ピュア」
「う~……」
ピュアの頭には、半ば無理矢理付けられた、白と黒、2本のリボンが揺れていた。
ピュア自身はリボンのように交換できるものを持っていないこともあり、リボン交換を固辞しようとしたのだが。
フェイトが是非にと捕まえ、なのはが任せろと悪ノリしたのである。
当然ながらピュアの腕力で抵抗できるはずもなく、いいようにされてしまった。
フェイトとなのはの初の共同作業であった。
第10話でした。
概ね、シェオールという世界についての説明です。
この世界、作ったのはほぼ歴史だけですね。
既に滅亡した世界ですし、生活様式とかについてピュアが覚えていない以上、出る可能性がありませんから。
『機動城塞』については、Sts本編まで伏線は回収されませんのでご了承ください。
前回あとがきで紹介し忘れていたのですが、『ウィジャボード』の正確な性能について。
チートの1つなのに念話だけっていうのがありえません。
第4話後半に、ピュアの身の上話として出てきた、彼女の体に埋め込まれたロストロギアの1つ、能力封印用の魔法具です。
それでも『情動感応』が使えていますが、封印が完全ではないと考えてください。
元々能力が暴走している状態だったわけですからね。
距離が離れた程度で薄まるのなら、ピュアの母親なら対処はできたんです。
だからこそ、こんなものが必要になったんですね。
それでは、次からAs編です。