【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
011 本局にて
羊水で満たされたガラスケースの中。
周囲は真っ暗で、何も聞こえない。
ただ、微かな魔力の動きを感じていた。
おそらく、何かの装置で魔法を封印しているのだろう。
魔力が術式に結合せず、魔法が使えない。
擬似視力魔法も解除されていたため、何も見えない。
魔力を通して、感情が伝わってくる。
それは嘲笑だった。
それと、嫌悪と、希望。
なぜこんな、正と負の感情が混ざっているのだろう。
何人かいるのだろうか。
長い間、考えていたが、結論は出ず、やがて考えることに疲れて眠りにつく。
次に目覚めると、左足が無かった。
羊水は温かいはずなのに。
異常に冷たく、異常な違和感。
手で確かめると、そこにあるはずのものが無い。
脚の付け根で切断されている。
パニックに陥る。
また嘲笑の気配。
それと、謝罪の感情。
誰かが苦しむ自分を見て笑っている。
そして、それを行なった人間は自己嫌悪と、謝罪の気持ち?
悔しい。
許せない。
謝罪している人はともかく、人が苦しむ様を見て嘲笑うなんて。
魔法さえ封印されていなければ、一矢くらいは報いることができたのに。
いや。
確かあったはず。
魔力を直接コントロールし、術式を通さずに効果を発揮させる方法が。
それには修行が必要だが、幸い時間はたっぷりある。
そこに至るための、修練を積む時間が。
何日経ったのか、何週間経ったのか、何ヶ月経ったのか、何年経ったのか。
相変わらず周囲は暗く、虫の音も聞こえない。
少しずつ周囲の魔力を感知する感覚を鍛えていき、自分の魔力の放出、集束でそれらをコントロールする
既に四肢すべてが付け根から切断されていたが、構わない。
あんなものは飾りに過ぎない。
『――』して以来、上手く体を動かせなくなった自分にとっては、有っても無くても大して違わない。
ついに、コツを掴んだ。
復讐の時は来たのだ。
魔力とはエネルギーである。
あらかじめ放出しておいた魔力を異常に集束させることで、それは鉄をも溶かす高温となる。
それを動かし、周囲のすべてを焼き払った。
『戦果』は、ガラスケースに伝わってくる鈍い振動でわかった。
天井を崩し、瓦礫ですべてを押し潰す。
自分の入ったガラスケースも壊れた。
しかし、無茶なことをして体に負担をかけたからか、怪我を負っていないのに吐血する。
構わない。
どうせ、死ねば次へ行くだけだから。
崩落した天井に押し潰され、自分の命は消えようとしていた。
何度経験しても、この感覚にだけは慣れない。
今回は納得済みだから、幾らかはマシだが。
「『――』……『――』……」
羊水の外に出たからか、男性が何かを言っている声が聞こえる。
それは1つだった。
他の者は天井の崩落に巻き込まれて死んだのか、全く声が聞こえない。
「『――』……『――』……」
男はずっと同じ単語を繰り返している。
悔恨、諦め、嫌悪、深い悲しみ。
そして嘲笑。
復讐心が、一気に褪めた。
ずっと、彼は1人だったのだ。
嘲笑とは、ガラスケースの中の自分を嘲笑っていたのではなく、彼自身の罪深さを嘲笑っていたもの。
嫌悪とは、自己嫌悪。
希望とは。
おそらく、切断された四肢で、彼の大切な誰かを救いたかったのではないだろうか。
ずっと同じ単語を繰り返しているというのは、彼の助けたかった大切な人の名前。
自分は、勝手な勘違いで、彼と、彼の大切な人を殺してしまったのである。
「ごめんなさい」
それがこの世界での、最期の言葉となった。
それからだろう。
死に物狂いで、感情の向きを感じ取る練習をした。
もう、あんな酷い勘違いをしたくなかったから。
そして、自分が何を奪われてもどうともならない、どうしようもない残骸であることに、気付かされた。
欲しいものはもう二度と手に入らない。
失って困るものは何もない。
そう、四肢でさえ。
いや、命でさえ。
終わった悲劇の主人公。
終わった物語の主人公。
人生が終わった後の、これは余生。
もう二度と、あんな酷い後悔はしたくなかった。
だからこれは、自分の自己満足。
ただのお節介。
偽善ですらない。
自慰行為。
勝手に首を突っ込み、自分1人で満足して終わり。
だが、失って困るものは何もなく、失いたいものは幾つかある。
欲しいものはたった一つ。
もう、永遠に手に入らない。
代償が必要なら、どうぞ遠慮なく。
こんな、悲劇の残骸でよければ。
いくらでも。
「終わりましたよー?」
精密検査の途中で眠っていたらしい。
身体を検査されることなど久し振りだったので、夢を見ていた。
ピュアはペンキを塗ったように真っ白な自分の手を眺める。
ところどころ、うっすらと細くて赤い血管が走っているのが、擬似視力によって認識できた。
転生すれば、切断されていても元通りに再生される肉体。
起き上がって、頭の後ろで揺れる違和感。
思い出した。
フェイトとなのはという、2人の少女から半ば無理矢理渡された、白と黒のリボンだ。
次に転生するまでは、2人との友情の証。
しかし、転生には、この手のアクセサリは持って行くことができない。
だから、ピュアは断った。
それでもと、2人は無理矢理髪の毛に結びつけた。
「とりあえず、擬似視力や自動浮遊などのサポート魔法の入ったデバイスを渡しておきますねー」
緑髪の白衣の少女がピュアに言った。
名はマリエル・アテンザという。
「魔力があればとりあえず機能するはずですので、一度試してみてください」
「はいさ」
ピュアは受け取る。
どうやら、眼鏡型のそのデバイスは、肉体の機能をサポートするタイプのものらしい。
簡易型の医療補助タイプで、電池のようなカートリッジで動くタイプも存在するようだ。
今回渡されたものは特別製で、ピュアが使用するシェオール魔法のデータを記録する機能がある。
つまり、シェオール魔法対応デバイス開発の一環でもあるのだ。
『ジュエルシード』事件の報告書から、ピュアが使うシェオール魔法が注目され始めていた。
詠唱に時間がかかるのは難点だが、それを差し引いて余りある強力な効果は魅力的である。
ピュアの他にもシェオール魔法を使用可能な魔導師が増えれば、それだけ任務の遂行も容易になる。
また、ミッド式とベルカ式両方の適性が低い者の中にも、シェオール魔法を使うことで高い能力を発揮できる者が出てくるかもしれない。
それは管理局全体の戦力の底上げに繋がる、大きな可能性であった。
裁判が始まるまでの数日は、管理局技術部の宿舎で寝泊りすることになる。
精密検査の結果が出るまで、とりあえず一通りシェオール魔法のデータを取るのだ。
本局に帰還した次元航行艦『アースラ』の整備と並行するので、大体1日に1時間程度のデータ採取になるが、ピュアの体力から考えても妥当なところだろう。
「かわい~!」
「モフモフさせてぇ、クンクンさせてぇ、ペタペタさせてぇ!」
「どっせぇええええいっ!!」
「ぐふぉっ!?」
とりあえずマリエルは、鼻息の荒い変態を脇腹への、腰を入れた空手チョップで沈める。
自分の口からやけに野太い声が出た気がするが、多分気のせいだ。
技術員には数種類の人種がおり、その1つに外部からアイデアを集めようとして、その影響を最大に受けてしまい、変態の道に入ってしまった者がいる。
違法研究者になるよりはマシだが、同僚の部屋が薄い本で埋め尽くされていくのは、筆舌に尽しがたい絶望感があった。
それはまあ、マリエルも女子なので、少しはそちらにも興味があったが。
ルームメイトの女子は頬が緩んだ程度だったので、安心できた。
最近、今地面に平伏す変態に洗脳されつつあったのだ。
宿舎に連れてきた理由を説明する。
「へ~、じゃあその子が例のピュアちゃん?」
「そうなの。技術者の女の子ってこの宿舎に固まってるから、裁判始まるまで預かってくれだって」
「課長からよね?」
「そう、課長から。さすがに女の子を部屋に泊める勇気は無かったみたい」
「そりゃそうよねえ」
マリエルとルームメイトの部屋に入って、早速着替えながらガールズトークに入る2人。
ピュアの真っ白な、異様な容姿について、特に気にしている様子はない。
というのも、ここで整備、開発しているデバイスの戦闘データには、形容し難いグロい生物のデータが入っていることも珍しくないためである。
そのため、色が白い人間程度では驚かなくなっているのだ。
「そういえば教育プログラムの方はどうするの?担当は確かクロノ執務官よね?」
「えーと、法律の本を渡してあるとかって聞いた気がするけど」
「あ、電子でーたさ?」
話を聞いていて、ピュアは声を上げた。
現在、ミッドチルダでは紙媒体は廃れていて、本の形をした携帯端末に書籍データで入れたりするのが一般的である。
検索機能も発達しており、声で命令すれば、欲しいデータがすぐに呼び出せるようになっている。
魔力で動くデバイスは小型化が容易なため、ピュアの場合は眼鏡型のデバイスにデータが入力されていた。
「教育プログラムのスケジュールは入ってないわねえ。裁判の後から始めるのかしら?」
「『ロストロギア』関連の事件のすぐ後だもん。ちょっと時間を置いた方がいいって判断かもね」
「って……うわ~、入ってるの教科書じゃなくて六法全書じゃない!」
「え、マジで?……うわぁ、ホントだ。何考えてるのかしら?」
ピュアの眼鏡型デバイスを弄りながら、マリエルとルームメイトが話し合う。
一応『情動感応』で2人の感情は読めるのだが、心の声や記憶が無条件に読めるわけではないため、何の話をしているのか、ピュアにはさっぱりわからない。
実はピュアは、機械についてあまり強くない。
転生した先で触れることは何度かあったが、全く理解できないままに、焦りながら適当に操作していた記憶しかない。
元々、シェオールは機械文明よりもオカルト的な魔法が先行して発達していたため、逆に機械の発達は遅れていたのだ。
ちなみに、以前レポートを作った際は、アルフがデバイスの設定を全部やってくれたので、ピュアはただ話すだけでよかった。
だから、デバイスを機械として操作する2人の話に、まったくついていけないのである。
そしてその内、ピュアの細いお腹がきゅるる、と鳴る。
慌てて抑えるも意味などあろうはずもなく。
2人の注目を集めてしまった。
「とりあえずご飯にしよっか」
「そうね。
「あぅ」
ピュアは顔を真っ赤にして
魔法の実験室。
シェオール魔法の使用データ採取のために、本局内の魔法実験専用の部屋にピュアが1人で入る。
ここは本来管理局の武装隊員等が、自分の魔法の性能テストを行なうために使用する場所だ。
攻撃魔法を実験することもあり、10段階のレベルがある
最大の売りは、デバイスより高性能で高精度な使用データが得られることだ。
そのデータを参考に術式に手を加え、任務に合わせるなど最適化していくのである。
今回のピュアのような未知の魔法のデータ採取にも、多く利用される設備であった。
「いいですよー、テイク1、いってみましょう!」
『はいさ』
モニタの向こうのピュアに声をかけ、実験開始。
マリエルは、この時点でシェオール魔法を甘く見ていた。
もちろん、攻撃魔法を試すわけではない。
ピュアには攻撃魔法全般の適性が無いのだ。
体の負担の少ないものと注文をつけたし、そうそう怪我人が出るようなことにはならないだろう。
そう考えていた。
最初に使用するのは翻訳魔法。
ピュアの説明では、その言語の基礎形態を熟知していなければ上手く自動翻訳されないという、大きな欠陥のある魔法とのこと。
その説明からするに、どうやらミッド式では廃れた、単語変換形式でやっているようだ。
現在のミッド式では、念話を応用した意訳方式を取っている。
これは相手の脳波を読み取って単語に変換する方式で、距離によっては翻訳されないという欠点はあるものの、意思疎通の精度が段違いで、言語の違いによる翻訳魔法のかけ直しが不要という、画期的な手法であった。
この翻訳魔法に限ってはミッド式の方が優れているようだ。
『――、――』
歌うような、清らかな旋律の詠唱が、白い唇から紡がれる。
声を掛け
青い魔力光で、独特の魔法陣が展開される。
3つの円を2重の線で結んだ三角形が2つ、それぞれ逆方向に回転していた。
三角形はベルカ式のものにも似ている。
ミッド式やベルカ式と同じ、『アルハザード魔法系』と呼ばれる系列であることは、間違いなさそうだ。
特殊な魔法体系というのは、シェオール魔法に限ったものではない。
辺境へ行けば、こういった未知の魔法は幾らでも転がっているものだ。
特にシェオールはミッドチルダのほぼ隣に位置していたため、『アルハザード魔法』から進化した、あるいは退化したものであることは、容易に想像が付いた。
『“
こう、もやもやとした、残念な気持ちは一体何なのだろうか。
何かが。
とても大切な何かが、台無しになった気分がした。
膝から力が抜けかけるのを我慢しながら、マリエルはモニタを切り替えて確認する。
『うにゅ、
「かわいーい!」
「ぶっ、げほっ」
マリエルはピュアの語尾の変化と、変態の道に入った同僚の反応を華麗にスルーしようとして失敗し、むせる。
「ねえマリー」
「けほっ、へえ?」
「もう、ゴールして、いいよね……?」
見ると、変態の道に入ってしまった同僚が頬を紅潮させ、ダラダラと鼻血を垂れ流して床に倒れ伏していた。
「ちょっ!?」
尋常ではない出血量に驚いたマリエルは慌てて起こす。
『えっと、大丈夫にゃ?』
モニタ越しにピュアが声をかけると、幸せそうな顔の同僚の鼻から、さらに血が吹き出た。
「ええっ!?」
「あれ、お祖母ちゃんが川の向こうで手を振ってる……」
「だめぇっ、その川渡っちゃダメーッ!!」
攻撃魔法でなくとも人は死ぬのだと、マリエルは改めて知った。
それにしても、ここまで高い破壊力を発揮する非攻撃魔法があろうとは。
シェオール魔法を甘く見ていたと反省する。
『???』
モニターの向こうの真っ白な少女は事態を飲み込めず、きょとんと首を傾げていた。
ちなみに。
その同僚はマリエルの迅速な処置で一命を取り留めたが、シェオール式デバイス開発プロジェクトからは外されることになったそうだ。
第11話でした。
ついにAs編突入。
ですが、まだ動きはありません。
ペプシマン再び。
例の早口言葉は、化物語の『つばさキャット』からのものです。
って、既に1話目で出てるんですが。
伏線回収でした。
どうやらこの変態には刺激が強かったようです。
なぜかAMFが登場。
調べてみたんですが、どのレベルのものがいつ開発されたのか、わかりませんでした。
一応、この話に出てくる実験室のものは、ガジェットには搭載できない程度には大型のものとしています。
それでは。