【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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012 平穏と不穏

次元航行艦『アースラ』を地球に停泊させたまま、クロノとエイミィは今回逮捕した3人、フェイト、アルフ、ピュアを、時空管理局本局に小型の護送艦で移送してきていた。

もちろん、裁判を行なうためである。

とはいえ、地球で言えば検察官に当たる、本局執務官のクロノが有罪にする気がないため、3人とも無罪になる公算が高かった。

 

フェイト・テスタロッサは『ロストロギア』の不法蒐集と不法所持のみ。

いずれも母親と信じていたプレシアによる命令で、それをどう使うかなど、まったく聞かされていなかった。

使い魔であるアルフも同様。

最後にけじめの決闘を望んだだけで、管理局への敵対の意思が無かったことが、本人達の証言で解っている。

実際に管理局員との交戦は確認されておらず、最後の決闘後は呼びかけるまでもなく自首し、『ジュエルシード』もすべて返還したため、裁判もかなり早く終わる予定である。

 

ピュアに関しては少々ややこしい事態が判明している。

元々次元漂流者で、違法研究者から肉体改造を受けており、無限転生を余儀なくされていた。

『時の庭園』に転移した際、フェイトの事情に協力、これを解決した。

その時、本人の証言しか判断材料が無いのだが、プレシアが行っていた違法研究の、最後の問題について、解決案を提示したと言うのである。

それが事実なら犯罪だが、プレシアの目的が人道を完全に踏み外したものだとは言い難く、また法律を詳しくは知らなかった事情もあり、それを信じたピュアには情状酌量の余地が認められた。

 

さらに、ピュアの故郷はシェオールという、管理局の前身であるミッドチルダ共和国軍が滅ぼした世界であり、今はもう無人世界なのだ。

裁判の内容も少し難しく、手続きも次元漂流者、保護指定人種、『ロストロギア』所持特別認可と、かなり多い。

 

フェイトの釈放は早そうだったが、ピュアの無罪放免はまだ少し先になりそうだった。

 

 

 

「クロノ君、ちょっといい?」

「なんだ、ここで話せないことか?」

「うん、多分」

 

『しょうがないな』とクロノは腰を上げた。

フェイトとピュアに、裁判での心得などを教えていたところである。

 

「すまない、少し席を外すから、その間資料に目を通しておいてくれないか?」

「うん、いいよ」

「うん、いいさ」

 

揃った返事が返ってくる。

 

「そういえば、ピュアってミッド語読めるの?」

 

ユーノが聞いた。

2人の裁判で色々と証言を行なうために、本局に来ていたのだ。

 

ユーノの質問にアルフとフェイトが苦笑を浮かべた。

 

「昔とちょっと発音の癖が違うだけだから、大丈夫さ」

「親が言語学者だったんだって」

「下手すると、アタシ達よりよく知ってるよ」

「なるほど……」

 

フェイトとアルフの説明にユーノは肩を竦める。

要らない心配をしたようだ。

 

 

 

別室。

 

「なんだ、ピュアの身体検査の結果なら、あの場で話しても良かったのに」

 

渡された資料に目を通しながら、クロノは幼馴染であり自分の補佐官でもあるエイミィに言った。

 

「ピュアちゃんがさ、『擬似リンカーコア』みたいなのって言ってたでしょ?

それが『ロストロギア』認定されるかもしれないんだって」

「それは、どういうことだ?」

 

クロノは思わず顔を上げて聞く。

 

「マリーの話なんだけどね。

宝石みたいなのが胸に埋め込まれてて、それが今は魔力集積器官(リンカーコア)の代わりになってるみたい」

「…………」

 

クロノは絶句した。

 

「しかも、『ウィジャボード』と同じく摘出不能。

こっちは無理矢理摘出するとあの子の命に関わってくるんだって」

「なんてことだ……」

 

思わず頭を抱える。

確かに、フェイトやユーノも一緒にいたあの場所で、いきなりしていい話ではない。

特にフェイトは表に出ていないものの、自分が人造魔導師だと知ってから、そう時間も経っていない。

どんなショックを受けているのか、素人で勝手に判断していい状態ではないはずだ。

 

肉体改造を受けて『ロストロギア』を埋め込まれるだけでも、そうそう無い悲劇である。

それが2つ。

しかも、片方は摘出しようとすると死ぬ。

 

原因不明の無限転生も考えると、技術が進歩して摘出可能になったところで、迂闊に手を出すわけにはいかない。

次に転生すれば、また保護できるかどうかはわからず、今度は違法研究者に捕まるかもしれないのだ。

本人に戦闘力は皆無で、犯罪者に目を付けられれば抵抗する術は何もない。

完全に手詰まりである。

 

「こうなってくると、『アルハザード』に到達した経験があるっていう話も、あながち間違いじゃないのかもしれないな」

「あの話、信じるの?」

「ミッドの最新技術で手も足も出ないんだったら、信憑性も出てくるだろ?」

「それはそうかもしれないけど……」

 

クロノは改めて精密検査の結果に目を通す。

 

「まずいデータはないな……よし、とりあえずコアの『ロストロギア』認定のことは隠して、結果だけを伝える。

全部伝えるかどうかは、裁判の後で考えよう」

「あ、うん。そうだね」

 

とにかく今は裁判中だ。

精神状態を不安定にすれば、特にピュアが、また何か余計なことを言い出すかもしれない。

それは、今は避けたかった。

 

『伝説の三提督』が動いているのだ。

下手を打てば、事態はクロノやエイミィの手に負えなくなる。

そうなるのは出来れば避けたい。

裁判を長引かせればそれだけ、ピュアの負担が大きくなるのだから。

 

 

 

「じゃあ、これは?」

「古代ハナモゲラ言語で『夜の宝石』が語源さ。

古代ハナモゲラは大気が濃くて、星は全部瞬いてたさ。

だからベルカでは『瞬く星』と訳されて、それが他の次元世界にも広がったさ」

「すごい……教会の人でも語源なんて知らないのに……」

 

クロノが席を外している間、ユーノが持ってきた古文書で盛り上がっていた。

 

「どこから持ってきたんだ?」

「スクライア一族で使ってる教科書だよ。この間、予備のデバイスを借りていてね。

地球を離れる前に『レイジングハート』からコピーさせてもらったんだ」

「すごいよピュア、古代ベルカ語が普通に読めるんだよ」

「ほーぅ、そういえばシェオールは古代ベルカと交流があったって聞いたな」

 

現在、古代ベルカ語は近代ベルカ式デバイスを組む際の、プログラム言語としてしか普及していない。

デバイスの音声も、ミッド語とかなり混ざった近代ベルカ語であり、ミッド語の方言のような扱いである。

また、ベルカという世界そのものが次元災害によって失われており、今はミッドチルダの一部にベルカの末裔が住む『ベルカ自治区』が存在しているだけである。

 

現在は一部の考古学者が古文書解読のために大系化し(辞書にまとめ)、発音は無視して利用している程度だ。

最近、古代ベルカ式のデバイスが発見されることもあり、そこから発音が判明することもあるのだが、単語と発音を合わせる作業は需要が少ないこともあり、あまり進んでいない。

 

そういった意味でも、リアルタイムで古代ベルカ語を聞いてきたピュアの存在は、かなり貴重だった。

 

 

 

 

 

 

 

同時期。

 

『なんかゲートボール場にミッド式の魔導師がうろついてるけど、どうする?』

 

ヴィータから念話が届いた。

 

『管理局か?』

『多分な。今どっか行ったけど、あんまり近付かれたら、アタシらのことバレちまうんじゃねえか?』

『それはあるかも知れんな……だが、おそらく別件での調査だろう。しばらくは様子見だ。

私達の早とちりで主に迷惑をかけるわけにはいかん』

『わかった。確かにアタシ達を警戒してるにしちゃ、隙が多かったぜ』

 

納得した言葉と共に、念話が切れる。

長い赤髪のポニーテール女性、シグナムは溜息をついた。

 

『闇の書』が起動してから、もう1ヶ月が経過している。

はっきり言って、今度の主である少女、八神はやては、今までにないタイプの主であった。

 

『闇の書』は他の魔法使いから魔力と魔法を吸収する『蒐集』を行ない、666ページに及ぶすべてのページを埋めて完成させることで、真の力を発揮する。

しかし八神はやては、多少なりとも他人に迷惑をかけるという理由から、『蒐集』を禁じた。

 

彼女は下半身が麻痺しており車椅子生活を余儀なくされているのだが、麻痺の原因が地球の医学では説明できない。

そこから、おそらく原因が『闇の書』による浸蝕であろうと、シグナム達は推測していた。

 

『闇の書』は、魔力を『蒐集』する気のない主を浸蝕して最後には食い殺し、また転生するのである。

確かめたわけではないが、『蒐集』を行なえば浸蝕は止まり、完成させれば麻痺もいずれは治ると、考えられていた。

 

それもはやてに伝えてある。

しかしそれでも、彼女は『蒐集』を許可しなかった。

今までの主なら、麻痺を治すためか強大な力を得るために『蒐集』を行なわせ、最後には魔道プログラム体であるシグナム達を『蒐集』して消滅させてまで、『闇の書』を完成させてきたのに。

 

だから、管理局の魔導師が調査に来ているとはいえ、自分達の勝手な判断で手を出すわけにはいかないのだ。

勝手な行動は、主の意に反するばかりでなく、その想いを踏みにじることになってしまうのだから。

 

 

 

数日後の夜、守護騎士一同がリビングに集まり、情報を整理する。

 

「臨海公園の方でも見かけた。弱い認識阻害をかけていた程度だったが」

 

青い毛並みの狼はザフィーラ。

 

「商店街の方にもいました。こちらも認識阻害をかけていたくらいでしたけど……」

 

短めの金髪女性はシャマル。

 

「あれからゲートボール場の横の道で何度か見かけたけど、何か捜してるって言うか、パトロールしてるって感じだったな」

 

赤い三つ編みの少女はヴィータ。

 

「となると、やはり別件か……」

 

シグナムは呟く。

 

この4人で『闇の書』の守護騎士『ヴォルケンリッター』である。

 

「でも、『地球』って管理外世界ですよね?」

「何か事件が起きたのだろう。そうでなければ管理局の魔導師がパトロールなど、するはずがないからな」

「ともかく、このままやり過ごせるんならいいんだけどな」

「パトロールの理由だけでも知りたいというのが本音だな」

「ああ、もし次元犯罪者を警戒してのことなら、我らも警戒しておかねばならん」

「はやてに手は出させねえ」

「うむ」

 

 

 

地球では、次元航行艦『アースラ』による、『時の庭園』の捜索と、地球に別の次元犯罪者がやってこないかを見回る、パトロールが行なわれていた。

『ジュエルシード』事件に関連した影響の調査もあったのだが、それはもう済んでおり、今はほぼパトロールだけになっている。

 

守護騎士と希白の魔女。

両者の邂逅は、もう少し先の話である。

 

 

 

 




第12話でした。
原作アニメだと、フェイトがクロノから裁判の説明を受けているくらいの時期ですね。
この話では、フェイトの裁判はもう終わっていますが。

古代ハナモゲラ言語、もちろん捏造です。
語源の話についてもデッチ上げです。
それよりもベルカ語の発音ですが、vividまで考えると、設定的にまずいかもしれません。
アインハルトとか、普通に話せるはずですから。
また何か、辻褄合わせが要るんでしょうかね。

ヴィータの趣味がゲートボールなのは原作設定です。
なんでも、大きな試合に出場するほどの腕前だとか。

それでは。
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