【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
時空管理局本局で開かれた裁判。
公判は簡単なものであったが、元執務長官であり、現在は本局顧問官であるギル・グレアムが出席した。
『管理局歴戦の勇士』と呼ばれ、前線を退いた今でもその影響力は大きい。
シェオールの『機動城砦』についての評価と、シェオール滅亡の関連について知る数少ない人物であり、本局幕僚議長ミゼット・クローベルがピュアの口止めを任せた人物でもあった。
「……よって、被告人を無罪とする」
グレアムは裁判官の判決を聞いて、気付かれないように溜息をつく。
「(第一関門突破か……ここからが私の仕事であるわけだが……)」
と心の中で呟いた。
ミゼットから直接依頼されたのは、ピュアがどういう人格かを確認することである。
『機動城砦』について軽く口止めすればいいのか、脅迫という手段を使わなければならないのか、そもそも口止めの必要すらないのか、それを確かめるのだ。
あとの仕事は、保護監察官としての手続きである。
特別保護施設に入るのか、里親を斡旋するのか、本人の希望を聞いて手配すること。
その身に埋め込まれた『ロストロギア』にまつわる追加検査と、『ロストロギア』の封印方法の模索。
ミッドチルダの社会的な常識を教え、メンタル面のケアもする教育プログラムの実施。
他は不必要な露出を防ぐための、ジャーナリズムのシャットアウトか。
「もう知っているかもしれないが、私はギル・グレアム顧問官だ。
君の保護監察官を務めることとなった。これからよろしく頼むよ」
裁判を直接担当した執務官であるクロノを交えて、最初の面談が始まる。
初回は予定の打ち合わせだ。
教育プログラムや里親の話など、大雑把なこれからの予定を話す。
ピュアの場合は体内に埋め込まれた、2種類の『ロストロギア』についても話があった。
「こちらこそよろしくお願いしますさ」
座ったまま、ペコリと頭を下げる。
故郷の訛りか、少々妙な言葉遣いの、白い少女。
着ている服が黒く、白人よりも稀白な肌が、より強調されているように感じる。
しかし、それが些細なことに思えるのが、白く濁った瞳であった。
生物学的に考えて、まともな視力があるとは思えない。
事実、この少女の現在の視力は生来のものではない。
故郷の魔法で擬似的に視覚信号を再現しているに過ぎないのだ。
「まず、教育プログラムだが……」
「そういえばデバイスに六法全書が入っていたそうだね」
「大体読めたさ」
ピュアはこともなげに言った。
グレアムは思わず眉間を押さえる。
「六法全書をかね?全2400ページの……」
「『時の庭園』にあったデータで大体覚えていたそうですから、
削除されていた部分を補填したいという要望があったので、六法全書を渡したんです」
「ああ、なるほど。『ロストロギア』関連の部分は削除されていたという話だったな」
クロノの説明に、グレアムは納得する。
以前住んでいたらしい『時の庭園』では、プレシアの思惑から『ロストロギア』関係の法律データが一部消されていたらしいのだ。
「まあ、こんな感じですので、教育に関しては今現在の常識について重点的にお願いします」
「承知した」
グレアムは頷いた。
頭はかなり良いようだ。
「では、次は里親の件だが、里親の希望者が殺到している。
希望者の内、管理局内外で確実に信用できる人間をこちらでリストアップしておいた。
その中から決めてくれ」
クロノは言いながらリストを渡した。
電子データでデバイスに転送したのだ。
ちなみに全体の希望者数は300人ほど。
ピュアの里親になることで、派閥の場合は自陣に有利に働く、強いカードとなる。
シェオール人最後の生き残りという存在には、それだけの意味があるのだ。
また、開発予定であるシェオール式デバイスについても、開発に成功すれば大きな利権となる。
グレアムからそうアドバイスを受けていたクロノは、派閥関係の人間を里親候補から外していた。
ちゃっかり希望していたリンディも、クロノの独断で外されている。
「わたし、グレアムさんがいいさ」
「ははっ、嬉しいことだが、保護観察官が保護責任者になることはできないんだよ。不正防止のためでね」
「う~」
ピュアはピュアなりに考えてのことだったが、法律が妨げになるのでは仕方がない。
「まあ、今すぐという話じゃない。実際に会ってみて決めるのもいいし、ゆっくり決めればいい」
「はいさ」
クロノは次の資料を開き、他の2人にわからないように溜息をつく。
「次は……君の身体に埋め込まれている
一気に空気が重くなるのを感じた。
「『ウィジャボード』については、君の証言通り、精密検査で確認された。
それともう1つ。君が『擬似的なリンカーコアのようなもの』と言っていたものだが。
『ジュエルシード』と同タイプの、エネルギー貯蔵型『ロストロギア』だと認定された。
両方……摘出は不可能だ」
「えっと……あ、そっか……」
ピュア自身は、『言われてみれば』といった感じで、そこまで衝撃は受けていないようだった。
「気付いていたのか……?」
「わたしの無限転生は、その『リンカーコアみたいなもの』の仕業さ。
今までの話で『ウィジャボード』の方が影が濃かっただけで、
『どうにもならないもの』の1つに変わりはないさ」
「ピュア……」
彼女の中で、『ウィジャボード』と『リンカーコアのようなもの』は、同レベルの厄介者だったのだ。
『ウィジャボード』が『ロストロギア』認定されたのだとすれば、もう1つが『ロストロギア』認定されても不思議はない。
ただ今までは、『ロストロギア』認定を予想していなかったというだけで。
『どうにもならないもの』という存在に変わりはない。
解り易く説明すれば、『その程度のことは前から知っていた』である。
摘出不可能、封印不可能、危険物、苦痛の根源。
そして、『もうとっくに諦めたもの』。
だからこそ、今更どうにもならないと言われたところで、衝撃は受けない。
面談終了後。
グレアムは自分の執務室に戻る。
別件の資料集めを済ませたリーゼ姉妹がそこで待っていた。
「お父様、例のピュアちゃん、どんな子でしたか?」
「写真で見たら可愛い子だったけど」
薄茶色の髪に猫耳尻尾、顔がそっくりな双子の女性達。
髪が長くておしとやかなのがリーゼアリア。
髪が短くてやんちゃなのがリーゼロッテ。
2人ともグレアムの使い魔である。
言うまでもなく、猫が素体だ。
「見た目に惑わされていては痛い目を見るだろう、ということがよくわかった」
「相当なやり手、ということですか?」
「何と表現すればいいかな。身体に埋め込まれた2つの『ロストロギア』、しかも片方は無限転生に関わっている」
「無限転生……!?」
リーゼロッテが驚きの声を上げた。
「そう、無限転生だ。『闇の書』と違い、生身の人間で、しかもあの子の場合は直接戦闘力が皆無」
「違法研究者に抵抗する術がない……ですね」
「そうなるな。
本人は何も言わなかったが、ある意味で似た境遇のフェイト・テスタロッサを救うために、命懸けで敵地に乗り込むくらいは、もう平気でやれるのだろう」
自分はどうせ死なないことを、よく知っているから。
「でも、親玉の方、プレシア・テスタロッサを助けた理由が説明がつかない」
「そこだな。今は解らないが、まだ何かありそうだ」
「これ以上、ですか?」
沈痛な面持ちのリーゼアリア。
「そうだ。今日の面談で私はそれを感じた。
本人が何かを言ったわけではないが、何かが出てくることを覚悟しておいた方が良いだろう」
グレアムは頷いた。
ピュアという少女の、自分の不幸に対する達観や諦観は、自分達の想像を超えたところにある。
体から切り離すことが出来ない2つの『ロストロギア』を以って、それさえも『その程度』で片付けてしまえる『何か』が、おそらくは出てくるのだろう。
また、何百年も転生を繰り返してきたのだ。
その間、何が起こっていてもおかしくない。
今回、テスタロッサ家の事情に首を突っ込んだ時のように、法律に触れるようなこともやってきたのかもしれない。
「迂闊に問い詰めない方がいいだろうな。
彼女が見た目通りの年齢ではないとしても、辛いものは辛い」
「お父様……」
自分達も同様の事情を抱えるだけに、聞いてほしくないことは聞かない方がいいのはよく解っていた。
数日後。
「……では、次の問題です」
「はいさ」
リーゼアリアが教育プログラムを進めつつ、ピュアのメンタル面のケアも試みる。
明後日辺りから、フェイトやアルフもこの授業に加わる予定だ。
フェイトの保護監察官もグレアムが担当している。
「調子はどうかね」
「あ、お父様」
「おはようございますさ」
「おはよう」
座ったままペコリと頭を下げるピュアに、笑顔で挨拶を返すグレアム。
「この子、六法全書ほとんど全部覚えちゃってますよ」
「ほう」
「どの法律の何条目までは覚えてないさ」
「凄いことには違いありません」
「その様子では、教科書程度の内容は覚え切ってしまったかな?」
「それがですけど。デバイスの操作法だけはなぜか間違えるんです」
リーゼアリアは苦笑した。
「うー、初心者には難しいさ」
「基本操作は初心者でも何とかなるはずなんですけど……」
「うー(涙目)」
思わず微笑んでから、グレアムはここへ来た理由を切り出す。
「君の故郷について、何か覚えていることがあれば聞きたいのだが」
「シェオールさ?」
「ああ。シェオールについては現存する資料が少なくてね、君の話はどんな話でもとても貴重な証言になるんだ」
ピュアは少し考えた。
このタイミングで、となると、何か意図があるのだろう。
意図が無いのなら、ピュアの知識が貴重だという話を、別のタイミングですればいいだけのことだ。
『情動感応』の能力でも、隠した意図があることは読み取れた。
日常の話でお茶を濁すのもいいが、実はピュア自身シェオールでの生活について、覚えていることがほとんどない。
だから、誤魔化してその後の対応に苦慮するよりは、ピッチャー返しくらいにストレートな方がいい。
そして、1つ思い当たった。
なぜ聞かれるのかはよく解らないが、聞かれるとすればそれくらいしか思い当たらないものが。
「もしかして、『ビグザム』さ?」
「どんなものかな?」
「『召喚指揮所計画』っていう、計画があったさ」
ピュアは語った。
巨大建造物の至るところに
モノが巨大建造物だけに、臨時の前線基地としてはうってつけの防御力と機動性を誇るという謳い文句だった。
しかし、ピュアはそれ以上の事を知らないようだ。
それが実現したのかどうかを知る前に、故郷であるシェオールを離れてしまったのである。
ということは、それが現実に完成し、ミッドチルダ軍を苦しめたことは全く知らないということになる。
他の世界に召喚できるかどうかも、おそらくは知らないだろう。
「(それにしても、予想のど真ん中の話が出てきたものだな。
しかし完成しているかどうかを知らないとなると、下手に突付かない方が良いかも知れん。
自分からシェオール滅亡の原因に触れようとはしないだろう)」
グレアムは自分で納得し、あとは適当に誤魔化して、後は話を打ち切ろうとした。
「グレアムさん」
その機先を制される。
「何かな?」
思わず聞き返す。
少し動揺が表に出るところだった。
この反応でも、わかる者にはバレるものだが。
「何か悩んでるさ?」
「?……どうしてそう思うんだい?」
「
クロノさんにも話してない、わたしの
ピュアは話した。
フェイトの時もプレシアの時も、この能力で感情の動きを読み取り、言葉を選び、行動を起こしたのだと。
また、プレシアの反応から、法に触れる行動があったことも、知っていた。
それでも止めるつもりはなかったから、正直に違法性を認識していた、と話した。
「最初に会ったときが、一番悩みが大きかったさ。
それからも、心の奥でずっと暗いことで悩んでるさ。
それでも、目はわたしの方を向いていたさ。
だから。
わたしはグレアムさんを里親に選んださ」
心の中身、記憶を読めるほどではないものの、『何かを考えている』程度のことは解る。
それが『情動感応』というものらしい。
「ならば、君を巻き込むわけには行かないのは、わかってほしい」
「……」
ピュアは少し悲しそうな顔で黙る。
そして言った。
「助かる人は助けたいさ」
それは、おそらく彼女の本心なのだろう。
「わたしは終わった物語の残骸さ。だから、出来ることは何でもやりたいさ」
俯き加減にピュアは話す。
その言葉を聴いた一瞬、
その白く儚げな少女の姿が、
燃え尽きた灰のように、
そのまま崩れて消えてしまうように、
背景の色彩に溶けてしまうように、
消滅してしまうように、
錯覚した。
同時に。
あの少女は、フェイトに行なったのと同じようなことを、グレアムにもやろうとしている。
そこには反省も後悔も、
いや。
後悔すればこそ、か。
過去に何かあったのだろう。
法律など、必要ならばいつでも無視するつもりでいる。
あるいは法律を、大人を動かす
それは無法者という意味ではなく。
罪の重さを認識しながら。
自分が罪を被ることに、何の躊躇いも覚えない。
そう確信できた。
第13話でした。
『機動城塞』について伏線を1つ回収します。
ピュアの人格に対する様子見の一環ですね。
ミッドチルダに六法全書があるのかどうか、また2400ページで済むのかどうかは知りません。
これも捏造設定です。
ピュアの里親という価値について、現時点では説明が曖昧になっているかもしれません。
人数の多さについては、ネタバレすると最高評議会の関連です。
グレアム氏は職業柄、勘がよく働くと考えています。
ピュアが何か隠している程度のことは気付くと思いました。
ピュアも、そんなに隠し事が上手い方ではないですからね。
それでは。