【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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注意:キチガイじみた言動があります。


017 異変の夜

夜半。

 

ピュアは術式を組まずに、睡眠を深める魔法を使った。

そしてフェイトとなのはと一緒に寝ていたベッドを抜け出す。

 

同じく術式を組まない魔法で、音を消す。

服を着た後、子猫クリアが起き出して、ピュアの肩まで駆け上がってきた。

 

術式を組まずに魔法を使うなどという真似は、シェオール祈祷師の中でも、多くの修行を積んだ者が使える秘儀である。

単に魔法に似た効果を発揮させるというだけだが、会得には十数年の時間が必要になる。

幸い、ピュアには時間だけは多く与えられていた。

 

身体能力強化の魔法だけは、短くとも詠唱しなければならない。

これは秘密の行動である。

だから、家の人に気付かれないように、外に出てから詠唱した。

 

身体強化開始(イチ・ニイ・サン・ダー)

 

転ばないように、慎重に、海鳴臨界公園まで歩く。

 

そこそこ時間がかかってしまった。

来たときはフェイトに手を引かれながらだったのでそこまで思わなかったが、倍以上時間がかかったように思う。

急がなければ。

 

少し身体に負担がかかるが、広範囲の魔力素を操作する。

渦状に大きく魔力素の密疎状態を作り上げ、3度ほど回転させた。

 

これは『符丁』だ。

特定の者にしかわからない、暗号である。

 

 

 

約20分後。

騎士甲冑姿の、長い薄赤髪をポニーテールにしたの女性が上空から降りてきた。

シグナムである。

 

「ベルカとシェオールの約定により推参した。あなたは祈祷師か?」

「いかにも。祈祷師ピュアさ」

 

ここまでが定型句である。

 

呼び出した側は名乗るが、呼ばれた側は名乗らない。

呼び出される者には事情があるからである。

ベルカはシェオールと敵対しない。

シェオールは困難の時はベルカの騎士を頼ることができる。

 

ただし、そのためにベルカ騎士に大きな不利益があってはならない。

ゆえに、ベルカ騎士は名乗らず、頼みを断る権利を持つ。

シェオールとベルカの、相互不可侵を定めた条約の1つである。

 

「まさか、滅んだシェオールの祈祷師が生き残っていたとは」

「わたしも、これが通じる人がいたとは思わなかったさ」

「そうか。すまないが、今は応じることができないのは許してくれ」

「構わないさ。わたしはもう助からないさ」

「助からない?」

「『アルハザード』で望みもしなかった永遠に放り込まれただけの、ただの残骸さ」

「……無限転生か?」

 

ピュアは頷く。

確かにそれなら、『助からない』という言葉には納得できる。

その厄介さは、身に染みて知っていた。

 

「事情を聞きたいさ」

「何故に?」

「助けたいさ」

「それには及ばない」

「女の子が泣く声が聞こえたさ」

「……!」

 

目を見開く。

 

確かに、今日は発作があって、病院に送っていった。

そのときの、守護騎士達でさえほとんど感じ取れなかった、微弱な無意識の念話を偶然傍受したのかもしれない。

シェオールの祈祷師ならば、ありえる話だ。

ということは、協定を知るベルカ騎士がいるかどうかというのは、本当に一か八かだった可能性もある。

魔力の反応だけで、使用する魔法の種類まで判定することなど不可能だ。

 

「わがままでもいいさ、お節介でもいいさ。

わたしの身体なら、手でも足でも、どこでも切り取っていいさ。だから、助けたいさ」

「それはダメだ!主の意向もある。それだけはできない!」

 

シグナムは思わず声を荒げた。

 

常人の思考回路ではない。

シグナムには、目の前のか弱そうな少女が、一瞬人間ではない、意思を持たない怪物のように見えた。

狂った経験はないが、自殺志願者でもこんな思考を持つかどうかは怪しい。

誰とも知らない他人のために、事情も聞かずに四肢を提供しようとするなど。

 

いや。

 

どこが悪いとも、シグナムは言っていない。

ということは、あるいは内臓を要求されても、応じたかもしれない。

そう感じさせるだけの目を、この少女は持っている。

恐ろしい考えに触れ、シグナムは(かぶり)を振った。

 

知らず、息が荒い。

 

大抵のことを転生の際に忘れてしまえる上に仲間もいるシグナム達と違って、ピュアは身一つで転生を繰り返している。

どのくらい転生し続けているのか知らないが、そう考えれば精神を正常なまま保てというのは酷なのかもしれない。

つまりピュアの精神状態は、正常ではない。

ある1つの目的に向けて、異常に特化しようとしている。

 

つまり、誰かを助けることに。

そのためには、自分の何をも省みない。

 

「主の病は、そういうものではないんだ」

「回復魔法は効くかもしれないさ」

「む……」

 

シグナムは言葉に詰まった。

 

シェオール式の回復結界のことはよく知っている。

あの特殊な形態なら、あるいは麻痺の進行を遅らせることができるかもしれない。

一瞬、シグナムは心が揺れた。

これなら、あるいは主を納得させられ、そして麻痺を押し返せるかもしれない。

何より、この少女の恐ろしい提案を、実行に移さずに済む。

 

しかし簡単には頷けない。

管理局の保護を受けているかもしれないからだ。

 

ピュアが管理局の庇護を受けているとすれば、話は違ってくる。

治癒には何度も通う必要があるかも知れず、そんなことをすれば遠からず『闇の書』のことが発覚するだろう。

主はやてを1人にしておくわけにはいかないし、こうやって夜半に出てきたところを見ると、見た目通り病弱なのだろう。

誰かが付き添うかもしれない。

シグナム達の顔を知る者、つまり管理局員が付き添ってくれば、即アウトだ。

パトロールが監視になり、『蒐集』活動ができなくなる。

 

『蒐集』。

他の生物から『リンカーコア』を取り出し、蓄えていた魔力を『闇の書』に吸収させる。

このときに、その生物が使う魔法の術式をコピーすることができる。

 

シェオール魔法は、シェオールとベルカの協定の関係から、『蒐集』していない。

シェオールとベルカを敵に回せば、完成した『闇の書』の主といえど、敗北を喫する可能性があったのだ。

特に『祈祷師』の最上位に位置するランクを示す『山師』は30年に1人認められるかどうかという稀少さだが、協定が結ばれる以前は、ベルカの聖王と互角以上に戦ったという伝説がある。

 

だが、そのシェオールもベルカも、既に()い。

ならば、本人の了解も取れるかもしれないし、ある程度は事情を説明してもいいかもしれない。

 

「私達の主は、今『闇の書』に浸蝕されつつある」

 

シグナムは悩んだ末に、ピュアにある程度の事情を話すことにした。

 

魔道プログラムであるシグナム達の役目は、他者の『リンカーコア』から魔力を奪う『蒐集』である。

これによって下半身の麻痺の進行を抑えることができる。

だが、今の主は麻痺の進行による命の危険を顧みず、それを禁じている。

しかし麻痺は進行し続けており、かなり危ない状態なのだ。

だから、シグナム達は主を救うために、時空管理局を警戒しながら、別の世界で『蒐集』を始めたのだ。

 

「もし我々を助けたいと言うのなら、『蒐集』させてもらえないだろうか?」

「いいさ。でも、わたしの『リンカーコア』は変なものだから、上手く『蒐集』できるさ?」

「試してみなければわからないが、上手くやって見せる」

「うん。吸い尽せるなら、吸い尽くしておいてほしいさ。そうすれば、転生は発動しないかもしれないさ」

 

ピュアは嬉しそうに、無邪気に笑って頷いた。

ここで顔を背けなかった自分を褒めてやりたい。

 

転生が発動しないかもしれない、とは。

殺してほしい、と願うのと、同義である。

 

 

 

遠く離れたビルの上。

話を逐一聞いていたリーゼアリアは、両膝を抱えて震えていた。

 

かつて彼女の主が言っていた。

現状出てきた以上の悲劇が。

まだあると。

 

『わたしはもう助からないさ』

『わたしの身体なら、手でも足でも、どこでも切り取っていいさ』

『そうすれば、転生が発動しないかもしれないさ』

 

どうして、あんなことを笑顔で話せるのだろうか。

 

表面は知っての通り、普通の(・・・)孤独で優しい少女。

だが、内面はグチャグチャだ。

『あれ』が本当に精神まで改造されていないのか、リーゼアリアにはわからなくなってしまった。

もしかして、自分達時空管理局はとんでもないバケモノを引き込んでしまったのではないか。

そんな気がしてきた。

 

彼女のカウンセリングを担当していたが、これまでやってきたことに自信がなくなってきた。

普通のレアスキル保持者が(こうむ)ったような悲劇や惨劇とは桁違いである。

あの少女に対応できるようなマニュアルなど存在しない。

作ろうとして作れる気もしない。

 

まさに予想以上、想像以上、である。

こんな話、聞かなければよかった。

どんな顔をして会えばいいのか、わからなくなってしまう。

だから、ピュアは転生の最中の話は忘れたと言い張り、身体を調べればわかること以外は当たり障りのない話しかしないのだろう。

皆が、恐がって近寄らなくなるから。

 

なんとか心を落ち着かせると同時に、サーチャーの映像越しに青い強烈な光が届いた。

 

『なんだと!?シャマル!『蒐集』が止まらない!』

 

シグナムの焦った声が届いてきた。

異常事態だ。

 

リーゼアリアは、慌てて解けていた変装魔法をかけ直し、現場に急行した。

 

 

 

認識が甘かった。

 

ピュアの言葉が衝撃的だったからかもしれないが、『変なもの』と言っていた時点で、あるいは『アルハザード』で肉体改造を受けたという時点で、これは警戒しておくべきだった。

『闇の書』が吸収できるよりも、遥かに多くの魔力を、ピュアの『リンカーコア』は蓄積していたのである。

 

それは青い宝石だった。

ピュアの『リンカーコア』は、青い宝石だった。

話からすると、この宝石が『無限転生』を引き起こしている元凶なのだろう。

そして、おそらく話の流れから考えると、『アルハザード製』の『ロストロギア』。

所詮は古代ベルカ製の『闇の書』とは、格が違う。

 

『闇の書』が『蒐集』を止めず、物凄い勢いでページが捲られていく。

 

「シグナム!?」

「話は後だ!その子を引き離してくれ!」

 

シグナムは付近で警戒していた金髪女性、シャマルに叫び、自分は『闇の書』を強引に掴んで、シャマルが抱えた白い少女から引き離そうとする。

しかし、動かない。

『闇の書』自身が何か干渉しているのか、魔力を込めてもびくともしない。

シャマルの方も同じようだ。

 

そうしている内に、摘出された宝石から発せられる光がさらに強くなった。

至近距離で見ていたシグナムは、『闇の書』に黒く塗り潰されたページが出るのを目撃した。

最後の方は黒一色で、耳障りな音を立てて破れるページも出始め。

 

そこで突然、全てのページを潰され尽した『闇の書』は、閉じて力を失う。

いきなりのことにシグナムはバランスを崩すが、たたらを踏みながら辛うじて転倒は免れた。

シャマルはそうはいかず、ピュアを抱えたまま派手に転ぶ。

 

強い光を放っていた青い宝石は徐々に光を減じていき、白い少女の胸へと自ら納まっていった。

 

「なんということだ……」

 

そこに、仮面の男が現れる。

 

「チッ、シャマル!退くぞ!」

「この子は!?」

「置いてはおけない!」

 

シグナムはシャマルに声をかけ、自分は堅く閉じた『闇の書』を手に退却した。

今は足手纏いになりかねないピュアを護衛しながら戦うには、混乱の分もあって有利とは言えない。

それに、地球上での戦闘は管理局に嗅ぎ付けられる恐れがあった。

 

 

 

「マズイな……」

 

仮面の男は逃げる2人を追わずに、転送魔法を発動させた。

今から追うには、シグナムもシャマルも手強い相手だ。

拠点近くまで追い詰めた場合、別の仲間も出てくる可能性がある。

ピュアを取り戻すのは難しいだろう。

 

それに、あちらにはピュアに対する害意はない。

ここは無理に負わない方がいいだろう。

 

それより、今は情報を持ち帰らなければならない。

『闇の書』に異常が発生したとすれば、その異常によっては、『計画』に支障が出るかもしれない。

 

 

 

 




第17話でした。
この先、原作ルートから大きく外れます。

前半、ベルカとシェオールの協定については捏造設定です。
ま、シェオール自体がオリジナルの世界なわけですが。

ピュアの言動が型月の正義の味方みたいな壊れ方に見せたいのですが。
このピュアとシグナムのやり取りは、今もこれで表現できているかどうか悩んでいます。
しかし、あまり深入りし過ぎるとリアルに影響が出る可能性があるため、これ以上を求めるのはご勘弁ください。

イチ・ニイ・サン・ダー!
アントニオ猪木って、今どうしてるんでしょうか?
闘魂注入とか、昔流行ったものです。
プロレスラーで、彼ほどの存在感のある人が、今はいるのでしょうか?

それでは。
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