【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
「すまない、私の判断ミスだ」
シグナムは素直に頭を下げた。
『
現在、破れたページでささくれ立った『闇の書』は、守護騎士達の操作にも反応せず、開こうとしても開かない。
「そんなの予想できるかよ」
ヴィータは頭を掻く。
「にゃあ」
白い少女の上で、虎模様の子猫が鳴いた。
少女の顔をぺろりと舐める。
「呑気なもんだぜ。主が『蒐集』されたってのに」
「主が望んだことだ。守護獣が口を出すことでもあるまい」
「そりゃまあ、そうだけどよ」
「それより、この子をどうする?」
野太い声で、青い狼の姿をしたザフィーラが言った。
ソファに横たわる、真っ白な髪と肌、瞳の少女。
今は『蒐集』の影響か、意識が無い。
ただ、シャマルの診断では特に身体や魔力に異常は無く、じきに目を覚ますだろうとしていた。
滅んだ世界シェオールの唯一の生き残りで、『無限転生』の性質を持つ。
今回の『闇の書』の異常は、この少女の胸に埋め込まれたエネルギー貯蔵型『ロストロギア』を『蒐集』したことによるものだ。
「この寒空、外に放り出したら死んじまいそうだな」
「仮面の男もうろついている。敵かどうかはわからんが、この世界で戦闘はしたくない」
「別件のやつかも知れねえしな」
「私達で家まで送るしかなさそうですね」
「しかし、住所が無い場合はどうする?」
「その時は、主に頼んで、しばらくここに住まわせるしかあるまい」
幸い、夜が明ける前にピュアは目覚めた。
シグナムは『蒐集』の直後に襲撃があったため、拠点に一時的に退避させたと説明する。
そして家まで送ると申し出た。
ピュアは仲間を心配させるわけには行かないからと、その申し出を受けた。
このままピュアを住まわせた場合、どんなトラブルが舞い込むかわかったものではなく、その点ではひとまず安心、といったところか。
ともかくピュアは夜の内に帰宅することができ、友人達にはバレずに、朝、結局寝坊してしまうのだった。
「そうか……ご苦労だったな」
本局の執務室でグレアムはリーゼアリアから報告を受けていた。
代わりに派遣されたリーゼロッテから、ピュアはその日の内に返されたと聞いて一安心していたが。
問題はシグナムとピュアの会話だ。
精神病院に隔離されてもおかしくない内容である。
家族や親類でもない人助けのために無条件で四肢を差し出すなど、正気の沙汰ではない。
その上に、『蒐集』で魔力を吸い尽くすこと(=自分を殺すこと)を笑顔で提案するなど、常軌を逸している。
シグナムも、映像で表情を見るとこの提案にはかなり戸惑っていた。
本気で吸い尽くす気は無かったのかもしれない。
そして。
事件は起きてしまった。
サーチャーからの映像では、『闇の書』のページの半分以上が黒く塗り潰され、ところどころ破れてしまっている。
今後は『蒐集』可能かどうか、既に完成してしまったのかどうかを中心に調査していくことになる。
今のところ、暴走はしていないようだが。
「武装隊の許可申請を急ぐのと、『アルカンシェル』の手配だな」
「お父様……」
「今朝、『闇の書』事件と断定され、対応が決定した。
『アースラ』は局員の拠点を一度地球に移し、船を呼び戻すそうだ」
「それでは……」
「ああ、本格的に管理局が事件に対応することになる。今となっては少々、タイミングが悪かったが」
計画では、魔導師を派遣させ、『蒐集』の餌にして完成を急がせる予定だった。
しかし、『闇の書』の状態が解らない以上、凍結封印を行なっていいのかどうか、判断はできない。
「ごめんなさい、私がピュアちゃんを止められていれば……」
「気にするな。逆にチャンスかもしれん。
『闇の書』が機能不全に陥ったのなら、あるいははやてを死なせずに破壊できる可能性がある」
グレアムは楽観的に考えた。
というよりも、こんな先の見えない状況では、ジタバタしても仕様がないことを経験的に知っていたのだ。
2日後。
ピュアの定期検査の日。
検査が終わった後、付き添いで来たフェイトと一緒に、グレアムに定期報告を行なう。
「『アースラ』の方にはまだ指令が下っていないかもしれないが、対『闇の書』特別態勢が敷かれることになった」
グレアムは2人に話す。
「『闇の書』?」
「今までに、最も多くの犠牲を出してきた、史上最悪の『ロストロギア』だ」
一瞬、ピュアが目を大きく見開いた。
だが、すぐに動揺の色は消えてなくなる。
グレアムはそれを見なかったことにして説明する。
隣のフェイトはグレアムの方を見ていたため、気付かなかったようだ。
「魔法と魔力を他者、他の生物から『蒐集』して強大な力を得る。
割と単純な機能だが、問題は暴走と無限転生という性質にある」
その所有者が倒れたり、『闇の書』そのものが破壊されそうになると、無限転生の術式が起動、自動的に主を吸収して、次の資質のある者のところに転生してしまう。
そして、また次の犠牲者に、自動的に所有される。
その性質から、完全な破壊は不可能とされていた。
それだけならまだしも、世界を1つ丸ごと破壊してしまった事例もあり、危険度ではダントツでトップの『ロストロギア』なのである。
歴代の『闇の書』の主はそれを完成させることで手に入る強大な力に魅せられていた。
あるいは、身体への浸蝕を断ち切るために、『蒐集』を行なっていた。
いずれも、魔導師の『リンカーコア』を奪い尽くし、殺害するというやり方で。
しかし。
今回に限って発見が遅れたのは、『蒐集』を受けた魔導師や野生の魔法生物に犠牲者が出なかったためである。
その点において、今までの『闇の書』の主とは決定的な差があった。
『闇の書』の起動が確認されたのは、襲われた管理局員の魔導師が持っていたデバイスで撮影したデータに、『闇の書』の守護騎士が映っていたからである。
それに気付いたのがクロノであった。
ピュアが地球の様子がおかしいと連絡を入れた後、引継ぎのために報告書に目を通していた際、発見したのだ。
砂嵐の中で撮影された非常に見辛い映像で、正規の艦長リンディが一時本局に戻る前、画像解析はできていなかったそうだ。
「少しいいかね?」
グレアムはフェイトを先に帰らせ、ピュアを呼び止めた。
「気付いていたかもしれないが、君が『蒐集』されるとき、アリアが君を監視していた」
「さっき、気付いたさ」
「なるほど。内面まで偽装するには、私は若すぎたか」
「顔に出ちゃったわたしよりは上手さ」
グレアムは微笑む。
もう本気で隠す気は無かったし、こうやって後で話す気でいたのもあるかもしれない。
「もう一度、接触できるかね?」
「何をするさ?」
「『闇の書』の状態を知りたい。不測の事態が起きていることは知っている。
状況によっては対策を急がねばならない。私とて、彼女を死なせたいわけではないんだ。
遺族が何と言うかわからんが、私が罪を被ってでも、手出しはさせん」
ピュアには、グレアムの決意の強さがわかった。
同時に、本気で『闇の書』の主を救おうとしていることも。
「わたしは、グレアムさんから計画のことを聞いて、それをシグナムさん達に伝えるさ。
その上でグレアムさんが協力しようとしてることを話すさ。それでいいさ?」
「ふむ……そうだね。それなら、私が直接行って、すべて説明しよう」
「それは……でも、シグナムさんが警戒するさ」
「手はある。古く地球に伝わる、最も強く覚悟を示す方法だ」
『まさか自分がやることになるとは思わなかったが』とグレアムはうそぶいた。
その頃、地球。
「なんでだよ!」
ヴィータが家の中で大声を上げる。
入院していた病院から、彼女らの主が再び発作を起こしたという報せがあったのである。
『闇の書』が機能停止してからも、浸蝕はじわじわと主である年端も無い少女を蝕んでいた。
浸蝕が止まらない。
しかし、『蒐集』はできない。
そして。
『闇の書』の機能回復すら、彼女らの手では行うことができない。
『呪われた魔導書』は、守護騎士達の焦りと必死の努力を嘲笑うかのように、アクセスを拒否し続けていた。
「あんだけ勝手に魔力吸っといて、まだ足りねえってのかよ!」
「気持ちはわかるが、落ち着け、ヴィータ」
シグナムはヴィータを宥める。
「だが、何か手を打たねば」
ザフィーラが呟く。
彼も悩んでいた。
いや、悩んでいるのは皆同じだ。
今の主を死なせたくない。
その1点においては皆同じである。
現状を打破するための方策を考えるには、情報が少な過ぎた。
『闇の書』は依然、沈黙を保ったまま。
力ずくで開こうとしても、びくともしない。
それならいっそ破壊してしまおうと攻撃魔法を叩き付けても、何も反応は無い。
傷1つ付かない。
誰かに助けを求める?
誰に?
次元犯罪者、違法研究者は却下だ。
年端も行かない主の肉体が玩具にされ、挙句の果てに転生を発動させられてしまうのがオチだ。
他に誰かいるだろうか。
管理局?
却下だ。
どんな事情であれ、対処してくれるのは裁判が終わった後である。
今の主が罪人扱いされて、体が持つとは思えない。
かと言って。
シェオール人の少女の行方はわかっていない。
一度、以前連れて行った家に様子を見に行ったが、あの日の翌々日には気配が消えていた。
「あのよ……」
ヴィータがおずおずと言葉を紡ぐ。
「1人心当たりあるんだけどよ……」
第18話でした。
『闇の書』の機能停止です。
しかしはやてへの侵蝕は止まりません。
『蒐集』も不可能になったため、守護騎士たちにできることは何もありません。
詰みです。
しかしここからが、原作で活躍できなかったグレアム氏の本領発揮です。
普通にやってちゃ解決できないって、わかってたら、普通じゃない方法で解決するしかないんですよね。
As編の主人公がグレアム氏っぽく見える不具合が…。
おじいちゃん、がんばって!
それでは。