【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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001 転生、希白少女

『時の庭園』

 

フェイトは数年間ここで育った。

 

次元航行能力のある、巨大な邸宅と思えばいい。

中は広い。

運動会を開くことができるほどだ。

フェイトは母の使い魔リニスに、ここで魔法戦闘についての技能を教わった。

 

転送装置があるのは、そんな中庭の先。

 

母の所有物らしいが、フェイトはどういった理由で母が『時の庭園』を持っているのか、知らなかった。

まあ、知る必要も無いだろうし、今は知ろうとも思わない。

 

 

 

中庭を横切る時、フェイトの視界の端に、白い異物が映った。

白い床よりも白い、何か。

 

「?」

 

フェイトはそれに視線を向ける。

それは人の形をしていた。

中庭を歩いて近付くと、すぐにその正体が判明する。

 

「裸の女の子……?」

「フェイト、どうかしたのかい?」

「あ、アルフ、この子……」

 

オレンジ色の長い髪に犬耳、尻尾の女性アルフに声をかけられ、フェイトは倒れている少女を示す。

 

真っ白、と形容するのが最も正しいだろう。

短い髪の毛も細い手足も、白一色だ。

 

フェイトはまだ、色素欠乏症(アルビノ)という病気を知らない。

それでも、何か病気を持っているように感じられた。

そのくらい弱々しく、儚げであったのだ。

 

「なんとかしてやりたいところだけど、今はちょっとまずいねえ」

 

アルフは難しい顔をする。

 

そう、今はまずい。

母から、近くにある次元世界『地球』に降りて、『ジュエルシード』という願い事の叶う石を探すように命じられているのだ。

本当ならすぐにでも向かいたいところなのだが。

 

おそらく、この少女は次元漂流者。

何かの拍子に次元の穴が開き、その穴に落ちて生きたままどこかの世界に漂着した人間。

10年に1人か2人ほど発見されるそうだが、元の次元世界に戻ることができた例は皆無だとか。

本来は次元世界をまたにかける警察組織、時空管理局に引き渡されることになっている。

 

しかし、これからフェイトが行なおうとしているのは犯罪スレスレの仕事であり、一歩間違えれば捕まってしまう。

そんなときに、管理局と関わりたくはなかった。

 

 

 

「んぅ」

 

真っ白な瞼を開き、裸のまま倒れていた真っ白な少女はゆっくりと起き上がった。

 

「あ……!」

 

フェイトは少女の瞳を見て息を呑む。

隣のアルフからも、動揺したような気配が伝わってきた。

 

本来あるべき色が、その瞳にすらなかったのである。

不自然な、自然界にはありえない配色。

 

白。

真っ白。

白く、濁った瞳。

 

少女はのそのそと動き、地面に四つ()いになって立ち上がろうとする。

しかし足が震えていて上手く力が入らないのか、ふらふらと数歩よろめいた後、顔からべちゃりと地面にキスをした。

 

「大丈夫?」

「あぅ……?」

 

フェイトは思わず駆け寄る。

見捨てては置けない。

やはり、母に相談するべきだろう。

しかし、フェイトの言葉を、母は聴いてくれるだろうか?

 

 

 

「みっどちるどらん、みっちりあ」

「えっ?」

 

フェイトが考え事をしていると、少女は何事かを呟き、思わず聞き返す。

 

突然、真っ白な少女を中心とした床に青い光の魔法陣が出現した。

三角形の頂点に円が配置されたものを2つ重ねたような、独特の魔法陣。

 

「――、――」

 

歌うような旋律が謎の少女の口から漏れた。

 

「フェイトッ!」

 

不思議な音律に聴き入っていたフェイトは、アルフの声で我に返る。

謎の魔法が至近距離で発動しようとしているのを見て、止めるべきか一瞬迷ったが、距離を置いて見守る方を選んだ。

なぜそれを選択したのか、自分でもよくわからない。

 

「バルディッシュ、起きて」

“yes, sir.”

 

フェイトは万一に備えて『魔法衣(バリアジャケット)』を装着する。

黒いレオタードに白いミニスカート、黒いマント。

これは魔力で編まれた衣服で、軽装に見えるが全身を防御するバリアのような性質があった。

 

ミッドチルダ式(以下ミッド式)の魔法使い、『魔導師』は通常、この『魔法衣(バリアジャケット)』で身体を保護しながら戦う。

攻撃魔法によるバックファイアを防ぐのと、防御魔法で受け損ねた場合の最終防衛ラインという、2つの意味がある。

 

フェイトはミッド式の魔導師であり、戦闘訓練も受けている。

彼女を教えた師は既にこの世にはいないが、自分の身を守る方法を一通りは教えてくれていた。

 

 

 

「“翻訳開始(ペプシマーン)”」

 

意味は解らないが残念な気持ちになる。

 

その魔法はフェイトとアルフが見ている前で、たっぷり1分かけて完成した。

攻撃用の何かを展開するでもなく、防御を行なっている様子も無く、青い魔法陣も消える。

 

通常、ミッド式の魔法陣は2重円の内側に正方形を2つ重ねた形である。

しかし、謎の少女のものは2重の3角形。

ということは、この真っ白な少女の使う魔法はミッド式ではないという事になるが。

 

「あ、あー、斜め七十七度の並びで泣く鳴くいななくナナハン七台難なく並べて長眺め、うん」

 

喉の調子を確かめるように、何事かを呟いて頷く。

早口言葉か何かだろうか。

そんな風にも聞こえた。

 

「ごめんなさいさ。ミッド語は慣れてなくて、翻訳魔法を使ったさ」

 

腕で身体を隠しながらも、少女は警戒する2人に微笑んでみせる。

 

フェイトとアルフは顔を見合わせた。

特に念話も交わさず、アルフは準備していた旅行鞄を開く。

 

とりあえず、服を着せなければ。

 

 

 

「ここはミッドチルダさ?」

 

ピュアと名乗った真っ白な少女は、フェイトに聞いた。

 

「えっと……確か第97管理外世界の近くだから、違うと思う」

「管理外……?」

「魔法が認知されていない世界ってことだよ」

 

フェイトが説明に窮すると、いいタイミングでアルフがフェイト用の衣服を上下ひと揃え持ってくる。

 

ピュアはアルフに手伝ってもらいながら、上の黒いシャツを着て、同じく黒いミニスカートを穿く。

体格的にフェイトと同じくらいらしく、ブカブカだったりきつかったりという事はなかった。

ただ、靴下はあっても靴の予備がなく、同じくフェイト用のスリッパを履く。

長期の滞在は予定していない。

 

ピュアは礼を言って、そのまましばらく話をすることになった。

何をするにも、お互いに現状を確認しなければならない。

 

 

 

「次元世界はわかる?」

「うん」

 

ピュアは頷く。

次元を隔てた場所にある、いわゆる異世界のことだ。

異世界や宇宙、異次元などという呼び方は状況によって意味が異なるため、次元の狭間に泡のように浮かぶ各世界のことを統一して『次元世界』と呼ぶ。

この呼び方はかなり古いもののようで、古代に魔法文明があった世界などでは、次元世界という言葉だけが残っていたりもする。

 

「じゃあ、もしかして時空管理局の方を知らないってことかい?」

「ジクウ管理局?」

 

『なるほどね』とアルフは頷き、大まかな概要を説明した。

 

『時空管理局』とは、簡単に言えば次元世界を跨ぐ警察機構だ。

様々な世界から集まった人々が作った法律に基き、管理世界の間を取り持つ役目もある。

裁判所と警察が一緒になっている部分もあり、中々複雑なところもあるが、今はそこまで説明することも無いだろう。

 

管理世界や管理外世界というのは、要は管理局の存在を受け入れていたり、魔法を一般的なものとして認知している世界かどうかである。

管理世界は、ミッドチルダや管理局と交流がある世界。

管理外世界は、魔法が存在しない等の理由で技術的な交流が禁じられている世界。

分類としては他にも無人世界や無生物世界など色々とあるが、今はそこまで話を広げる必要も無いか。

 

 

 

「ここは『時の庭園』っていう、なんて言うのかな、次元航行ができる別荘みたいなものなんだ」

 

次元空間を移動中のため、滅多なことでは他の人間は入り込めない。

それなのにピュアはここにいた。

 

「どうやってここに入り込んだのか、ある程度でいいから説明してほしいんだよ」

 

アルフは言う。

おそらくピュアは次元の穴に落ちて偶然『時の庭園』に流れ着いたのだろうが、魔法を使えるということは意図してここに侵入した可能性もある。

 

それにしてもセキュリティは反応していなかったのだ。

次元の穴に落ちた人間であろうが、外から突然入り込めば防衛機構(セキュリティ)が反応するはずなのに。

意図してやってきた場合、セキュリティを出し抜いた可能性が高く、対応も考えなければならなかった。

 

「辛いことまで話す必要は無いんだよ?」

 

フェイトは気遣わしげに声をかける。

今から法に触れるかもしれないことをやろうとしているのだが、彼女生来の優しさが厳しい追及を許さないようだ。

子供ゆえの甘さ、とも言えるが。

 

「わたしの胸には、何かが埋め込まれているさ。

それがある限り、わたしは死んでも別の次元世界に転生するさ」

 

ピュアは俯き加減に話した。

 

「何かって?」

「詳しいことは知らないさ。多分、人工的な魔力集積器官(リンカーコア)みたいなものだと思うさ」

 

魔力集積器官(リンカーコア)とは、魔導師が持つ、周囲のエネルギーを吸収して魔力に変換する臓器のようなものだ。

時空管理局の本拠地であるミッドチルダの最先端研究機関でも、それ以上の説明ができない、謎の器官である。

これは基本的に生来のものであり、魔導師としての資質に大きく関わってくる。

 

ピュアの話によると、その何かを胸に埋め込んだことによって、彼女の心臓はその機能を維持し続けているのだそうだ。

そしてそれはピュアの心臓が止まりそうになると、高次元空間に肉体を転移させ、自動で肉体の修復を行なう。

その修復が完了した時、また通常空間へと帰還する。

そうやって何度も転生を繰り返してきたのだとか。

 

「それって……!」

「違法研究じゃないのかい?!」

「気にしないでさ」

「気にしないでって、ピュアはそれでいいの!?」

 

なんでもないような口調のピュアに、アルフとフェイトが食ってかかる。

 

「わたしは今まで管理局を知らなかったさ。管理局が知ってるよりも、ずっと遠くから来てるさ」

「あ……」

 

フェイトは気付いた。

ピュアをこんな風に改造した犯罪者は、ピュア自身にももうどこにいるかわからないのだ。

管理局のことをピュアが知らなかったということは、それだけ長い距離を隔てて転生してきたのである。

もはや探し出すことなどできない。

 

彼女は下手に騒いだり悩んだりするよりも、今ある現実を受け入れて強く生きようとしていた。

それにあえて異論を唱える資格は、今のフェイトやアルフには無い。

そう思ったから、黙るしかなかった。

 

 

 

 




第1話でした。
ペプシコーラのCMって最近見かけませんね。

早速要素の1つである転生ですが、転生は転生でも無限転生だったりします。
リリなの世界→リリなの世界です。
当然、原作知識はありません。

それでは。
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