【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
海鳴臨海公園。
「むう……」
「何を悩んでんだよ」
シグナム達と口裏を合わせるため、密談の場を設けたグレアムの表情は険しい。
大体、守護騎士の言い分もわかったし、それしか方法が無いことも理解できた。
長引いていたプレシア・テスタロッサの捜索にも一定の目処が付くらしいのは、管理局員の身としては嬉しいことだ。
問題は、ピュアが提案したという、内容だった。
医療デバイスで制限されているため、グレアムから『ウィジャボード』へのアクセス許可が欲しいのだそうだ。
現在は特殊な事例として所持認可が下りているとはいえ、無断で使用したなら、今度こそただでは済まない。
今度は『ロストロギア』封印の名目で彼女自身が隔離されるという可能性もあった。
大勢の人間のために取り返しのつかないことになる前に、1人の少女を強制隔離する。
グレアムがやろうとしたことと、大差はない。
今まで法的な罰が発生しなかったが、罰が発生したならば、そんな過激な考えを押し留める理由もなくなる。
そこについては話していないが、自分のためにピュアの立場がまずくなることを、はやては望まない。
だからこれは、ピュアの提案に対して待ったをかけた、守護騎士側の要望でもあった。
「私は報告書でしか読んでいないのだが、以前一度それを使ったとき、肉体への負担で一時意識を失ったらしい。
知っての通り、彼女には自分の身を捧げてでも誰かを救おうという、強迫観念のようなものがある」
「む……」
グレアムの言わんとすることが、シグナムには理解できた。
捕縛姿でこそないが、死装束なのは変わらない。
密談を打診した際、もうあの格好はいいと伝えたのだが、死装束だけはけじめだと言って聞かなかったのである。
それだけ、彼の覚悟は強いということは伝わったのだが。
問題は『ウィジャボード』の使用許可を出すか、グレアムが判断しかねていることだ。
はやてと同様に、ピュアにもあまり負担をかけたくない。
本人は『危険は無い』と言い張っているが、それをどこまで信用すればいいのか、判断しかねているのである。
一度、『体のどこでも切り取っていい』などと言われたシグナムは、その悩みが充分理解できた。
「一度、主はやてとシャマルを『時の庭園』へ呼びましょう。
外部からチェックさせていれば、本当に危ない時は止めさせればいい」
「ふむ、一般人同然のはやて君が一緒にいれば、彼女への牽制にもなるか……」
「ええ。主はやてが見ていると吹き込んでおけば、あの子も無茶はしないでしょう」
割と政治的な内容になってしまったが、それならとグレアムも納得した。
本来、『ロストロギア』の使用には評議会の認可が必要で、越権行為に当たるのだが、この程度の罪を被る覚悟はとうにできている。
何をするのかというと、『ウィジャボード』を使用して、未だに『闇の書』内部に存在している管制人格に『接続』を行なうのだ。
ピュアも生物ではないものを対象にするのは初めてだが、『アルハザード』の検索魔法には無機物も含まれるし、融合騎=ユニゾンデバイスも対象に取ることは可能である。
そこに感情がある限り、ピュアの『情動感応』はそれを識別できる。
つまりまあ、岩などの完全な無機物は無作為の選択になってしまうのだが、今は関係ない。
「主はやて、我々から、大事なお話があります」
「え?」
戸惑うはやてに、シグナムはこれまで、秘密で『蒐集』を行っていたことを話し、命令違反を謝罪した。
はやての脚の麻痺が進行し、いよいよ危なくなったと感じた時、彼女らは自分たちに何かできることはないかと必死で考え、調べ、そして解決には『蒐集』しかないと悟ったのである。
最初は人間を『蒐集』しないようにしていたが、その内に時間が過ぎ、焦ってきたこともあって数名の管理局員を『蒐集』した。
そしてつい4日ほど前に、何かできることはないかと言ってきたピュアに事情を説明し、承知してもらった上で『蒐集』を行った。
その際、『闇の書』に異常が発生して『蒐集』できなくなってしまった。
「そうなんや……それやったら、そうと言うてくれたらええのに」
「申し訳ありません。主に累を及ぼさないように、今まで秘密にしてきました。
この件に関して、いかなる断罪も甘んじて受ける覚悟です」
シグナムが俯く。
「ええよ。わたしのこと、心配してくれてたんやろ。
やったら許すも許さんもあらへん。わたしらは家族なんやから」
はやては言った。
ちなみに、グレアムの計画は、はやてには伏せられている。
麻痺の進行で精神的にも参ってきている現在、支えになってくれている人が自分を殺すに等しい計画を立てていたと知ったなら、どんな影響があるかわからないのだ。
支援していたことも含めて、すべてその計画の内であったなどと、年端も無い少女に話せるわけがない。
「ところで、今から何するん?」
「祈祷師ピュアの力を借りて、『闇の書』の内部と交信を図ります」
見た事も無い、球状の魔法陣を眺めながら、シグナムは説明した。
これ見よがしに。
ピュアに見せ付けるように。
あの希白の少女は、自分が狂っていることを、特にはやてのような、夢も希望も持てる子供に知られることを恐れる傾向がある。
グレアムはそう言っていた。
こうやって見せ付けていれば、少なくともその前でその片鱗を見せることはしないはずだ、と。
身を捧げて死を望むような狂った面を見せて、子供の心を壊すような真似はしないはずだ、と。
「『闇の書』の転生機能にどういった異常が出ているかを調べます。
現在の機能停止で転生が発動しなくなっているのなら、『闇の書』を破壊することで、主はやての命をお救いすることが出来ます」
「でも、そうなったらシグナム達はどうなるん?」
「わかりません」
「私、シグナム達と離れ離れになるのは嫌やで?折角できた家族が死んでしまうんは嫌や」
「私達も、同じです」
「あたし達は、はやてのことが大好きだ。『闇の書』なんていらねえ。あたしははやてと、みんなと一緒にいたい」
「無論だ」
ヴィータも、ザフィーラも肯定する。
シグナムもシャマルも笑顔だ。
ちなみにグレアムはここにはいない。
『時の庭園』の中庭を貸してくれるプレシアに配慮して、管理局員は行かない方がいいだろうという、グレアムの判断だ。
結果は、後で連絡されることになっていた。
「みんな、ありがとうな」
そのとき、ピュアの詠唱が完成した。
「“
「え?呪文?復活の呪文?」
はやては車椅子の上で、わたわたと何かを探し出す。
「ああ、そういえばこないだクリアしたんやった」
何のことかと思えば、ゲームの話だったらしい。
「どうしたヴィータ?」
ヴィータは何かを思い出したのか、うずくまってガタガタ震えていた。
そういえば、主はやてと共によくテレビゲームで遊んでいたな、とシグナムは思い出す。
「……い、いや、なんでもねえ」
「わかるで。私もやったことあるから。あれトラウマになるんよねえ」
「は、はやてぇ……」
優しく共感してくれる車椅子の少女に、ヴィータは涙を流しながら抱きついた。
主従を越えた熱き友情をよそに、淡々と儀式は進む。
「OKさ」
「それでは、失礼します」
『闇の書』の管制人格と『接続』するのは、湖の騎士シャマルだ。
治癒、広域探査、後方支援を得意とする彼女は、守護騎士のデバイスのメンテナンスも行なっている。
それだけデバイスに関する知識も深いため、『闇の書』内部の異常について対談するなら、シャマルが適任と判断されたのである。
『何者だ?』
『私は湖の騎士シャマル。現在、ピュアちゃんの力で『闇の書』内部に強制接続しています』
『『ウィジャボード』か!』
『ええ、ですから、時間がありません。あの子の体力を考えれば、10分ほどで限界でしょう』
シャマルは手短に状況を説明した。
『10分か……いや、そうだな。急いだ方がいい』
『では早速聞きます。『闇の書』の中では何が起こっているんですか?』
『私も把握しきれていない。『蒐集』の際に魔力吸収の流れに乗って、膨大な魔力が注ぎ込まれた。
咄嗟に守護騎士システムは切り離したが、主従変更はできなかった。今は主はやての魔力だけで動いているはずだ。
他の機能は、把握している限りはすべて機能停止している。破損部も多くある』
現在、守護騎士システムは、はやてが直接管理している状態だ。
そして、『
つまり、一般人同然の少女から、無いはずの魔力が搾り取られているのである。
だから、麻痺の進行は『闇の書』による侵蝕の影響ではなく、魔力の過剰搾取によるものだ。
『はやてちゃんの麻痺が進んでいます。助けるにはどうすればいいでしょうか?』
『現在、主吸収の機能が大きく破損している。確認していないが、無限転生の術式も機能しないだろう。
守護騎士システムを正規の魔導師に受け持ってもらえば、後はこの呪われた『闇の書』を破壊するだけだ』
その場合、はやての『リンカーコア』ごと破壊することになるが、それが最も後腐れなく、誰も犠牲にはならないだろう。
管制人格はそう話した。
『私達は何度か試しましたが、『闇の書』は傷1つ付きませんでした』
『それは
なるほど、とシャマルは納得した。
守護騎士が主の命を受けても、『闇の書』は破壊されないように、守護騎士の側に出力制限が設けられていたのである。
ならば、幾ら攻撃をぶつけても、破壊はおろか傷1つ付かないわけだ。
『あなたは、どうするのです?』
『……私は長く生き過ぎた。最期に主はやてを救うために逝けるのなら、悔いは無い』
『そう、ですか……』
『とはいえ、それはあの祈祷師が許すまい』
祈祷師とは、ミッドチルダにおける魔導師や、ベルカにおける騎士という称号と同じ意味の言葉である。
すべて、ひと言で言えば『魔法使い』という意味だ。
『そうかもしれませんね』
シャマルは素直にそう思う。
事情も知らない他人のために、命すら投げ出そうとした少女。
何か道があるのなら、人助けを諦めることはあるまい。
ほんの短い付き合いではあったが、そう思わせる何かを、ピュアは持っていた。
『私の記憶と人格を移し変える方法があれば、あるいは解決するかもしれない』
管制人格は言った。
反則技、『ロストロギア』のような、強力な力を持った、人格を転移させるような魔法具があれば、何とかなるかもしれないと。
『ただし、今の状態は長くて2ヶ月しか持たないと思ってくれ。
それ以上は、防衛プログラムが強制修復を開始してしまう。私にはそれに割り込みをかける権限がない』
『わかりました』
シャマルは一旦念話を切ろうとした。
『あの祈祷師の存在は、お前達が思っているより厄介だぞ』
『え?』
思わず聞き返す。
『『ウィジャボード』の使用は控えさせろ。肉体への負荷だけなら、気絶したりはしないはずだ』
『ど、どういうことです?』
『彼女は『ウィジャボード』を、人殺しに使われたことがあるらしい。
他者とダイレクトに精神を繋げた状態でそんなことをやれば……』
管制人格は言葉を切った。
シャマルは息を呑む。
言われずともわかった。
生きたまま死の苦痛を味わうことになるのだ。
シャマル達守護騎士は、そういった苦痛を何度も経験したことがある。
過去の主は、『闇の書』完成のために、最後は守護騎士を『蒐集』していたのだから。
しかし結局、彼女らはプログラムなのである。
彼女らにとって記憶とは記録であり、そこに苦痛は残らない。
『闇の書』の転生によって、そういう風に整理されてしまうのだ。
だが、ピュアは違う。
生涯消えない心の傷として、いつまでも残り続ける。
例えば、強姦された女性が男性不信に陥るように。
例えば、戦場で生死の狭間を体験した兵士が、夢を見て叫び声を上げるように。
例えば、目の前で親を殺された子供が言葉を失うように。
例えば、虐待された子供が夜の闇を怖れるように。
『ウィジャボード』使用に伴う何かを使うだけで、
生死が絡む、拷問のような恐怖や苦痛で受けた
胸を引っ掻いてのた打ち回ったり、声が涸れるほど叫び声を上げ、自傷行為を繰り返す。
そんなことがあっても、全くおかしくない。
それをピュアは、強靭な精神力で押さえ込んでいるのだ。
その精神力は持ち前のものではない。
何度も転生を繰り返すうちに、苦痛に慣れてきたという、ただそれだけのことである。
苦痛のために流す涙も枯れ果てて、それでも、ずっと
それでいて、『ウィジャボード』の使用を躊躇う様子を見せない。
誰かを助けるために必要なら、躊躇いはしない。
それに伴う苦痛は、決して表には出さない。
自分が助ける誰かが、気に病まないように。
念話が切れた後、シャマルはしばらく放心していた。
第20話でした。
ピュアの心の内面を描写するのは、とても難しいです。
ありとあらゆる要素が苦痛の源となる可能性を抱えていますから。
深く考えようとすると、ひろっさんの
これってアレですかね。『死体と遊べば死体になる』っていう。
なんか、しんみりした話になってしまいました。
『じゅもんがちがいます』再び。
安心と信頼のシリアスブレイクです。
厨二的にならない詠唱ってことで、色々とネタを考えています。
基準は『誰もが知っているネタ』ですが。
ペプシマンは知らない人もいるかもしれませんね。
それでは。