【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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シャマルのSAN値が大変です。


021 事態の進展

「一体、何があったんだ?」

 

シグナムは尋ねる。

ピュアとはやては、それぞれザフィーラとヴィータが運んで行き、そのまま一緒に様子を見ている。

 

シャマルの様子がおかしいことには、皆が気付いていた。

 

「あの子は、ピュアちゃんは……」

 

ぽつり、ぽつりとシャマルは嗚咽交じりに話す。

 

「知ってしまったのね」

「テスタロッサさん……」

「『闇の書』が、ピュアの記憶を吸収していたのでしょう?」

 

黒髪の女性プレシア・テスタロッサは言った。

シャマルは頷く。

 

「はい。私達は、あの子に、とても酷いことを……」

 

シャマルはピュアのことを、吐き出すように話した。

『ウィジャボード』を使うたびに、過去に死んだ者の断末魔がピュアの心を八つ裂きにすることを。

気絶するのは直接的な肉体負荷によるものなどではなく。

心の傷(トラウマ)による擬似再体験(フラッシュバック)に、弱い肉体が耐え切れないからなのだ。

 

「クソッ、あの子は知っていたのか!?」

 

シグナムは毒づいた。

 

「私はさっきの儀式の経緯を知らないのだけど、『ウィジャボード』を使うのはピュアが提案したことなのね?」

 

プレシアは、やや抑えた声で2人に確認する。

 

シグナムは頷いた。

 

「なら、今しなければならないのは気に病むことではないわ」

「し、しかし……!」

「無理を隠してでも果たそうとしているあの子の想いを無駄にするつもり?」

「――!」

 

揺れていた心を鎮める。

確かに、プレシアの言う通りだ。

ピュアが望んだのは、自分達が悲しむことではない。

誰かに助かってほしいから、無理でも無茶でも押し通す。

ならば、シグナム達がそれに応えることは義務である。

 

「シャマル。3時間で落ち着け」

「……はい」

 

冷酷なようだが、時間は無限にあるわけではない。

無理を押したピュアのためにも、シグナムはそう言わなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

海鳴臨海公園。

会談としては都合5度目になる。

 

「なるほど、確かにそういうものなら存在する」

 

グレアムはシャマルの説明を聞いて頷いた。

 

たった2ヶ月。

それなりの数が存在するとはいえ、特定の効果を持った『古代遺失物(ロストロギア)』をこの広い次元世界全体から探し出すには、絶対的に時間が足りない。

 

だから、管理局内に封印保管されているものを持ち出せないか、交渉しているのだ。

次元犯罪を取り締まる時空管理局なら、押収したり回収した『古代遺失物(ロストロギア)』は多く保管されている。

無闇に他の世界を探し回るより、よほど可能性は高かった。

 

「性質的に移し変える器は必要になるが……まあ、それもこちらでなんとかしよう」

「すまない、助かる」

「礼には及ばない。この件は私の罪滅ぼしでもあるんだ」

「そうか」

「代わりといっては何だが、場所の選定を任せたい。『時の庭園』で行なうには、危険な作業だ」

「わかった。確かに、今はテスタロッサさんの厚意で借りているだけだからな」

 

シグナムはその提案を了承した。

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局本局。

次元航行艦『アースラ』に『アルカンシェル』を増設する作業が進んでいる。

『闇の書』事件の発生が確認されたのだ。

 

整備(メンテナンス)技術専門員(テクニカルスタッフ)であるマリエルは、クロノと打ち合わせをしていた。

 

「じゃあ、これだけ注文しておきますね」

「ああ、頼む」

 

クロノは自分のデバイスである『S2U』のメンテナンスを頼んでいた。

武装隊を率い、これから本格的に『闇の書』事件の解決に乗り出すのだ。

 

彼は父が『闇の書』の暴走に巻き込まれ、次元破砕砲『アルカンシェル』によって、もろとも消滅したという、悲劇の当事者である。

そんな彼が『闇の書』事件に携わるのは、なにやら運命めいたものを感じざるを得ない。

 

「あ、そうそう、グレアム提督のことなんですけど……」

「提督がどうかしたのか?」

 

ギル・グレアムは、クロノの父の上官で10年前、『闇の書』事件を担当していた司令官でもあった。

仕方がなかったとはいえ、クロノの父を暴走した『闇の書』もろとも葬り去った本人であり、責任を感じてかクロノや母リンディを、何かと気にかけてくれている。

クロノを執務官として鍛え上げた人物でもあり、彼にとって父親のような人物であった。

 

「私のところに提督のデバイスのメンテナンスが回ってきたんです」

「提督も魔導師だから、別に不思議なことはないと思うが……」

「それが、変形機能をオミットして、可能な限り記憶容量(メモリー)を増やしてほしいって言うんです」

「変形機能を外す?」

 

クロノは頭を捻る。

デバイスはパソコンではないのだ。

無理な増設をしても、結局重量を増してしまったりして、動きを遅くする要因になる。

それでは武器としての性能が落ちてしまう。

重量が増えていいのは、それに見合う性能を発揮させるか、ベルカ式の武器型(アームド)デバイスくらいだ。

 

「処理性能のことは何か言っていたか?」

「無視していいと言っていました。

何か実験をするような話も聞きませんし、どうしようかなと思っていたんですが……」

 

マリエルの戸惑いが、クロノにはよくわかった。

 

管理局において、優秀な魔導師は貴重である。

グレアムは間違いなく優秀な部類に入るのだ。

そして、それだけにデバイスのメンテナンスミスは許されない。

メンテナンスミスは戦闘力の低下に繋がり、優秀な魔導師を失う結果に繋がるからだ。

 

「あと、ピュアちゃんのデバイスのデータ取りも私が担当してるんですけど……」

「また何かあるのか?」

「何があるのかはよくわからないんですけど、1週間くらい前の、夜中のデータを消した跡があるんですよ」

「……何かやっている?」

「多分」

 

クロノは真剣に考えざるを得なくなったことに気付いた。

 

ピュアは何をやらかすかわからない部分がある。

基本的に度が過ぎるほどのお人好しで、優し過ぎるがゆえに、前回の裁判にかけられたような、犯罪行為も自分の行動から排除しないという、管理局としてはかなり困った性格をしていた。

 

それに、彼女の行動には謎も多くある。

フェイトを救うためにプレシアのところに乗り込んだ後、プレシアの研究『完全複製体計画(プロジェクトF)』の、重要な鍵をプレシアに伝えたのだ。

ピュア自身、それで上手く行く確証はなかったようだが、明らかに余計な手を加えている。

フェイトの境遇を改善するだけなら、罪を被ってまでそんなことをする必要はなかったはずだ。

 

「わかった。後はこちらで調べてみる」

「すみません。忙しい時なのに……」

「いや、どうせ他に手掛かりはなかったんだ」

 

『これは、徹夜かな』と、クロノは思った。

 

 

 

自室に戻って、本局のデータベースにアクセスする。

 

1週間前といえば、フェイトとピュア、アルフ、ユーノが地球に遊びに行った時だ。

確か、ピュアが地球上で『ピリピリ』する、と訴えていた時の話である。

『アースラ』では何も観測されてはいなかった。

 

『蒐集』関連だろうか、と一瞬思ったが、シェオール魔法に必要な基本技能『魔力素操作(エーテルコントロール)』では、別世界に起こる事象まで捉えることはできない。

ならば、クロノ推測通り『闇の書』は地球にあって、主が動けない状態にある可能性が高かった。

 

しかし。

それだけなら別段、奇妙でもないのだが。

その日を境に、『蒐集』のために別世界の魔法生物を襲撃する動きが、ぱたりと止んだのである。

 

それ以降、手掛かりも何も出て来ない。

辛うじて、撃墜された調査員が意識を失う直前、デバイスに保存していた画像から、『闇の書』事件が発生しているとわかっただけである。

不気味なほど動きがないのだ。

 

それでも、ピュアの魔力探知範囲を一斉に捜査すれば、何かが出てくるはずであった。

こんな大雑把な捜査方法はそうそうできないが、今はそれだけが頼みである。

 

それまでに、不安分子は少しでも減らしておく必要があった。

 

ピュアは管理局とは根本的に思考回路が違う。

それに、手掛かりが記録の一部抹消では、何を隠したかったのかがわからない。

それに。

彼女はデバイスの扱いが苦手だったはずだ。

フェイトやマリエルに教わってマスターしたと言っていたが、何か気付かない内にミスをしていた可能性も否定できない。

 

だから、調べるとすればグレアムの方だ。

 

行動記録、アクセス記録、その他。

1週間前からこちらの記録をすべて洗い出す。

同じ本局内なら、自己申告制の行動予定表やアクセス記録は閲覧できる。

もちろん、管理局内での犯罪を防止するためだ。

 

……特に奇妙な点はない。

 

「当たり前か……」

 

クロノは溜息をついた。

影で何かをやっているのだとすれば、こんなわかりやすい形で証拠を残したりはしないだろう。

 

一応、予定にも目を通す。

特に奇妙な点はない。

ずっと事務仕事や会議への出席など、内勤の予定が詰まっている。

 

「おかしいな」

 

クロノは呟いた。

 

予定ではその後、3ヶ月に渡ってずっとイベントや内勤の仕事である。

模擬戦や教導など、デバイスの調整に関する予定がない。

1つも。

 

ならば、なぜグレアムはデバイスの改造を依頼したのだろうか。

あんな無茶な改造をした後で性能試験を行なわないとなると、デバイスを戦闘以外の目的に使用しようとしているとしか思えない。

一体、何のために?

 

アクセス記録にも、似たような違和感がないか見直す。

こちらは至って普通だ。

10日ほど前にリーゼロッテがグレアムの部屋の端末でクリアの素体を探したらしい記録。

そしてつい20分ほど前、『ロストロギア』の保管状況について一通り目を通している。

これは、『闇の書』に関連した何かを探していたのだろう。

今回のことで、気になることでもあったのかもしれない。

 

グレアムは10年前の『闇の書』事件で、退避不能になった艦ごと部下を撃ち殺さなければならなかった辛い過去を持っている。

だから、直接の担当ではなくとも、何か力になれることをやろうとしているように思えた。

おそらく、デバイスの件もそのことだろう。

 

そのとき。

 

突然、モニターがエラー画面を表示し、ネットワークへのアクセスが切られた。

 

「なっ、なんだ!?」

 

クロノは思わず叫ぶ。

 

情報統括部に連絡して確認すると、繋がらなかった。

本格的なシステムダウンらしい。

 

大々的なクラッキングを受けたのだろうか。

しかし、それにしては警告音も鳴らなかった。

本局のセキュリティに気付かれずに侵入し、システムダウンを起こしたことになる。

そんなことが可能だろうか。

 

1時間ほどして、システムが復旧する。

 

クロノは自分が抱えている案件のデータが破損していないかチェックし、今後の予定を確認するだけでこの日は終わった。

 

 

 

 




第21話でした。
グレアム氏が事を急いだばかりに、クロノに嗅ぎ付けられるフラグが立ちます。
ただまあ、彼の計算では逮捕状が出る前に全部終了する予定なのですが。

この話での『デュランダル』が大変なことになっています。
整備担当者は大変ですね。
時期としては『デュランダル』の完成間近で、急な仕様変更ってことですから。
ひろっさんは製造業で働いていたことがあるので、客先の急な仕様変更に泣かされる技術者の辛さはよくわかります。

それでは。
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