【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

3 / 54
いきなり酷い話です。


002 少女達の事情

『殺しなさい』

『え、母さん?』

『二度は言わないわ』

 

一方的に念話が切られる。

 

ピュアについてフェイトが母プレシアに相談したところ、次元漂流者らしいと話したところでこの会話である。

 

「あの鬼ババア、なんてことを……!」

 

念話を聞いていたアルフが憤慨する。

 

「あんなのの言うこと聞く必要なんて無いよ!」

「落ち着いてアルフ」

 

フェイトも、内心違和感を持っていた。

母親の娘に対するような態度ではない。

それが違和感のままで終わってしまうのが、社会を経験していない子供なのかもしれない。

同時に、はっきりと犯罪になることを指示したという事実に、少なからずショックを受けている。

 

「オニババさんってフェイトちゃんのお母さん?」

「いや、オニババって名前じゃないって……」

 

フェイトに宥められたアルフがツッコミを入れる。

どうもこのピュアという少女、天然ボケの気があるようで、妙なところでズレていた。

 

3人は話し合う。

 

ピュアはこのまま殺されても、また別の世界に転生するだけだから構わないと言った。

当然だが、アルフとフェイトはそれを却下する。

 

とはいえ、アルフとフェイトにも何か良案があるのかというと、そうでもなかったのだが。

結局のところ、フェイトもアルフも実社会というものを知らないのである。

知識として管理局の法律などを一般常識程度に知ってはいたが、経験はほとんど無かった。

 

結局、これから向かう第97管理外世界『地球』へ一緒に行き、どこか現地住人に一時匿ってもらうことになった。

『ジュエルシード』の件が片付いた後、改めて時空管理局にSOSを発信しピュアを保護してもらう流れになる。

時空管理局が来るまで数日かかるだろうから、その間にフェイト達は『時の庭園』に引き篭もってしまえばいい。

 

それでピュアも納得し、一緒に地球へと降り立つことになった。

 

 

 

 

 

 

 

地球の文明レベルはそこそこ高い。

魔法の領域には達していないものの、一部では魔法技術でも作成が難しいものの製造技術が確立していた。

その点からも、準管理世界に名を連ねる日も遠くないとされている。

とはいえ、それは結局一部での話だ。

まだまだ技術は普及していないし、半分程度の領域では未だに原始時代さながらの生活が行なわれていた。

 

「へー、電子レンジって言うさ?」

「中で出るのはマイクロ波みたいだね。

遮蔽(シールド)が甘くて外に漏れてるから、動いてる間はあんまり近付いちゃダメだよ」

「うん」

 

アルフがフェイトとピュアに説明する。

覚えるのは面倒だったが、この辺の知識を教わっておいてよかったとアルフは思った。

ついでに、この手の調理器具や対応した保存食品が開発されていて良かった。

3人とも、まともな料理などできないからだ。

もっともそれは単なる知識不足によるものだったが。

 

上記の通り、しばらくは冷凍食品を解凍して並べるだけの食事になりそうだった。

フェイトとアルフが地球に来た理由である『ジュエルシード』探しについて、急がなければならなかったという理由もある。

 

それについてピュアは何を思ったか、協力を申し出た。

 

最初に、マンションの屋上でアルフが広域探索魔法を使った後のことだった。

1回目では探索魔法に引っ掛からなかったのだが。

なぜかピュアが屋上に上ってきて、言ったのだ。

 

「広域探査だけでも協力したいさ」

 

と。

 

「でも、これからアタシ達がやろうとしてるのは、犯罪スレスレのことなんだよ?」

「黙ってればバレないさ」

 

悪びれることなく、とんでもないことを言い出す。

 

確かにピュアはデバイスを持っていないため、履歴に記録されることはない。

フェイトとアルフが黙っていれば、時空管理局も調べようがないだろう。

 

フェイトにもアルフにもその考えを覆すことはできず、結局ピュアの主張は通ってしまった。

ただし、時空管理局が出てきたら手を引くこと、と条件はつけたが。

 

 

 

巨大な三角形を重ねた魔法陣が展開される。

 

「――、――」

 

朗々たる詠唱はまるで歌っているようにも聞こえた。

一歩二歩と、魔法陣の中をゆっくり、円を描くように歩く姿は、神に祈りを捧げる巫女のようでもあった。

ピュアが扱う魔法はミッド式にはない、神聖な雰囲気があるように思う。

 

何より、長い。

もう10分はこうして詠唱を続けている。

ミッド式の儀式魔法でも、ここまで長いものはそうそう無かった。

少なくともフェイトは知らない。

 

もちろん、今フェイトが使えるような高速戦闘用の魔法でも、デバイスの補助があるからこそものの数秒で発動できるというだけで、デバイス無しではそれなりの時間がかかってしまうものもある。

それにしたって、長いものでも精々5、6分といったところだが。

 

詠唱が完成する。

 

「“広域探査開始(エエイママヨ)”」

 

なぜか、不安な気持ちになる。

 

ミッド式のように、『サーチャー』と呼ばれる小型の視覚情報端末を飛ばすものではない。

特にピュアの周囲に何かが起きるというわけでもない。

 

フェイトとアルフが揃って首を傾げると、目を閉じていたピュアが何か呟く。

 

「ええと……あ、発動したさ……!?」

「え――!?」

 

フェイトとアルフは驚き、一瞬遅れて『ジュエルシード』特有の魔力波を感知した。

 

「近くに別の……魔法使いの人が2人いるさ」

「うん、急がないと……!」

 

フェイトとアルフはすぐに反応があった場所に急行する。

 

 

 

 

 

 

 

ピュアは、フェイトとアルフを見送った後、フラフラとおぼつかない足取りで部屋に戻った。

嘔吐感に耐えながら、部屋につく頃には這っていたようにも思うが、よく覚えていない。

 

トイレで嘔吐し、昼に食べたものをほぼすべて吐き出した後、洗面所で口を洗う。

そうすると、幾らかすっきりする。

 

もう何度も死んだり転生したりを繰り返してきたが、この感覚にだけは慣れることができない。

探査、検索系魔法を使ったときに蘇る、他人の今際(いまわ)の絶望。

 

フェイトと、アルフの感情の動きを思い出す。

 

フェイトは素直でまっすぐで、優しい。

母親について何か大きな悩みがあるようで、それが『ジュエルシード』というものを探す理由にもなっている。

しかし、今は何か揺れていた。

それはピュアのことを母親に報告した念話の前後からだ。

アルフが強い警戒から突然激しい怒りに転じたことにも、酷い命令以外に何か理由があるのかもしれない。

 

だからまあ、ピュアもその場では強く聞けなかったのだが。

 

なぜピュアにこんなことがわかるのかというと、ピュアには『情動感応』という特殊能力(レアスキル)があるからである。

それは思考をすべて覗き見るようなものではないが、接近した人間や動物がどのような感情を抱いているかがわかってしまうものであった。

 

昔、この能力のせいで酷い目に遭い、今もその後遺症が残っている。

それが先に述べた、探査系魔法を使用したときに蘇る他人の絶望だ。

 

それはともかく。

 

フェイトがピュアのことを母親に相談する時、アルフはフェイトの母親に強い警戒心を抱いていたのである。

アルフとフェイトの関係は性質から考えれば『使い魔契約』のそれだろう。

ということは、アルフがフェイトを心配するのは、純粋に使い魔が契約主を護る行動ということになる。

 

その相手()は、本来心の安らぎとなるべき母親。

ということは、何か母親の方に異常がある。

それをフェイトは認識し、なんでも願いを叶えるという『ジュエルシード』に頼ることで、正常に戻そうとしている。

今、得られる情報から考えれば、こんなところか。

 

予想されるのは母親による虐待。

それもおそらく、暴力を伴ったもの。

実際に見たわけではないが、フェイトのシャツの下には見るも無残なアザがいくつもあることだろう。

 

それに加えて、念話の所要時間が問題だ。

娘にかけるべきではない言葉を母親が吐いたのだとしても、短すぎる。

 

断言してしまうには情報がやや足りないが、フェイトが考えているよりももっと、事態は悪い方に向かっているのではないだろうか。

一度、フェイトの母親に直に会ってみる必要があると思った。

 

 

 

ピュアは目覚めた。

 

少し眠ってしまっていたらしい。

トイレで吐いて、口の中を洗面所で洗った後、リビングのところで床に突っ伏していた。

 

まずい。

フェイトとアルフが戻ってくる。

少なくとも、ベッドに入っていなければ。

 

だるい身体を動かし、床を這って寝室に向かう。

ようやくベッドに潜り込んだところで、マンションのドアが開いた。

これならまだ、誤魔化しも利く。

体力的な問題と、誤魔化せる。

 

そう思って安心すると、気が抜けたのか、意識が一気に闇の中へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

「『ジュエルシード』も早々に2つ確保できたし、幸先がいいねえ」

「うん。ピュアにお礼を言わないと……」

 

フェイトはアルフの言葉に頷いて呟く。

 

『ジュエルシード』が落ちていたのは、豪邸の敷地にある森の中だった。

どうやら発動したといっても暴走したわけではなかったようで、猫が1匹巨大化した程度であった。

 

先に来ていた魔導師の少女と戦うことになったが、どうやら魔法を覚えてから間もない素人だったらしく、結局フェイトが勝利を収め、『ジュエルシード』を1つ、入手していた。

 

ピュアの広域探査魔法は、『ジュエルシード』の反応はおろか、付近にいる魔導師のことまで捉えていた。

しかし、使い魔と魔導師の区別がつかないのか、現場にいたのは白い魔法衣の少女と1匹のフェレット。

それでも、急いでいなければ先に『ジュエルシード』を確保されていた可能性はある。

そう考えると、ピュアが使った広域探査魔法はかなり精度が高いのかもしれない。

 

マンションに戻るとピュアはベッドで眠っていた。

あれだけ高性能な広域探査を行なったのだ、かなり疲労が溜まっていたのだろう。

ミッド式のものでさえ、身体にかかる負担は大きいのだ。

 

フェイトはそう考えると自然と微笑みが零れた。

あどけない寝顔。

 

構わず一緒のベッドに潜り込み、自分より幾らか華奢な身体を抱き寄せて呟く。

 

「おつかれさま」

 

 

 

 




第2話でした。
占いのときに『ええいままよ』って言われると不安になりませんか?

この広域探査魔法はオリジナルの理屈で動いています。
ピュアにトラウマが無ければ、とんでもないチート性能を誇ります。
ただし、現時点では使用者がピュアだった場合限定で。

それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。