【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
プレシア・テスタロッサの裁判について。
司法取引が行なわれた。
元々彼女はミッドチルダの中央技術開発局(行政施設)の第三局長であった。
しかし次元航行エネルギー炉『ヒュードラ』の試験時、暴走事故で中規模次元震を引き起こしている。
そのせいで辺境に左遷され、そこで行方不明になっていた。
暴走事故の真相は、会社の上層部が安全管理基準を取り払ってでも開発を急がせたことにある。
しかもそのせいでプレシアは暴走事故の際、1人娘アリシアを失ったのだ。
当時裁判が行なわれたが、会社がすべてをプレシアになすり付ける工作を行なうために、裏取引を行なっていた。
すなわち、当時長距離航行可能な移動拠点として開発され、ほぼ完成していた『時の庭園』と引き換えに、プレシアは罪を被らざるを得なかったのである。
そして、プレシアは『時の庭園』を根城にアリシア復活のための研究を行った。
『ジュエルシード』の輸送艦を襲撃し、地球にばら撒かれた『ジュエルシード』の回収をフェイトに命じた。
管理局に対する明確な敵対行為こそなかったものの、違法研究を行なっていたのは動かぬ事実である。
さらに、『ロストロギア』の違法収集もある。
これに対する司法取引の内容は以下の通りである。
1、『時の庭園』を管理局に引き渡し、会社の醜聞情報を管理局側に提出する。
これは過去のプレシアの罪を帳消しにし、違法研究に関して情状酌量の余地を認めるためである。
2、人造魔導師計画及び
人造魔導師計画の違法研究施設は他にも存在しているが、大半の実験体は短命であり、保護してもすぐに死んでしまう。
しかしプレシアの研究データは管理局による延命技術の開発に繋がる可能性がある。
他にも医療技術が研究されており、中にはミッドチルダよりも先を行く革新的な技術があった。
これによって、輸送艦襲撃及び『ロストロギア』の違法収集について、大幅に減刑される。
なお、これはリンディ・ハラウオンによる評議会との折衝によって決定した。
レジアス・ゲイズは、これで本日11度目となる溜息を吐いた。
現在彼は、時空管理局本局にいる。
地上本部と本局は犬猿の仲だ。
評議会における予算の争奪戦も、年々激化の傾向にある。
最高評議会からは、そこを付け込まれた。
ミッドチルダ本土の防衛、治安維持を行なう、地上本部。
レジアスはそこの最高司令官である。
とはいえ魔法が使えるわけではなく、部隊式をはじめとする後方支援を、元々担当していた。
中将に昇格してからは、政治的な手腕を買われての最高司令官抜擢である。
同時に、時空管理局の闇を知ることになった。
水槽に浮かぶ3つの脳が、現在の管理局全体を支配する、最高権力者であると。
レジアスが疑問に思っていた質量兵器忌避体質や魔法至上主義も、仕掛け人はこの、歪な不老を体現した、3人の老人なのだ。
幸いなことといえば、今のところ予算編成や運用などの決定を行なう評議会へは口を出していないということか。
それも、こうやってレジアスを脅す種に活用されている現状では、素直に喜べない。
地上部隊の予算は実のところ、ギリギリであった。
レジアスの手腕で辛うじて回っているに過ぎない。
これ以上予算を減らされれば、地上部隊、すなわち部下達は満足に武装を整えられなくなってしまう。
装備の不足は、現場では死活問題であった。
だから、レジアスとしてはそれだけは譲るわけにはいかなかったのである。
とはいえ、今回はマシな方と言えるかもしれない。
出された命令が、
『ピュアからアルハザードについて情報を引き出すこと』
だからだ。
さらに、現在裁判中のプレシア・テスタロッサについても、『アルハザード』について何か聞いていないか聞き出すように言われた。
なぜ自分が直接でなければならないのか、疑問は尽きない。
だが、これまで何度かあったように、犯罪の片棒を担がされるよりはマシであった。
もう一度、資料に目を通す。
氏名:ピュア(いわゆる幼名、姓はアレイド)
年齢:不明(肉体年齢10歳)
出身:シェオール
人種:純血のシェオール人
魔法:シェオール魔法
資質:SSS
(本人のリンカーコアは失われており、エネルギー蓄積、放出型ロストロギア『シルマリル』にて代用されている。摘出不可)
稀少技能:魔力素精密操作。シェオールでは一般的。
現在確認されているシェオール魔法。
翻訳魔法:(単語変換式。ミッド式より劣る)
回復結界:(魔力素の充溢による肉体への良影響を最大限に引き出したもの)
変位相結界:(武装結界を上書き可能。5分ほどかかるが完全無詠唱可能)
広域探査魔法:(精度、範囲共に大型広域探査装置に匹敵)
恒星光照射:(外部からのサポートが必要だが、直径20mの範囲を数秒間6千℃以上にできる。非殺傷不可)
隕石召喚:(50m級の隕石を大気圏内に召喚する。未使用、非殺傷不可)
アルハザードの検索魔法:(『ウィジャボード』の起動に必要。次元世界全体から検索を行なう)
後半の4つは肉体への負荷が大きく、サポートがある状況でも、使用後は長くて丸1日眠り続ける。
体力的な問題により計測不能だが、推定総合魔導師ランクS。
ただし、戦力にする場合、大掛かりなサポートが必要。
使い魔:クリア
素体:『ラージャン』(※ SSS級危険指定魔法生物)
非戦闘時は虎柄の子猫。
戦闘時は黒い有角の猛獣。
特有の直射魔法、身体強化魔法の使用を確認。
推定総合魔導師ランクAA+。
備考:
両方とも現在の技術では摘出不可能。
来歴:
10ヶ月前、『時の庭園』にてフェイト・テスタロッサに拾われる。
その後『ジュエルシード』事件解決に関与。
その際、違法研究幇助の容疑(自白による)で裁判となるも無罪となる。
2ヶ月前、『闇の書』事件に関わる。
『闇の書』完全破壊に関与。
現在、本人の希望で懲戒免職処分となったギル・グレアム被告が保護者を務める、八神はやて宅に居候している。
「チッ……」
レジアスは舌打ちした。
これだけを見れば、まるで英雄である。
しかし彼は知っていた。
違法研究幇助というのは、つまり『プロジェクトF』の未完成だった部分の、最後の鍵を示したのである。
そのまま何もしなければ、プレシア・テスタロッサは研究を諦めて投降したかもしれないのに。
『闇の書』事件においても、破壊のために内部に囚われていた管制人格の救出などを行なっている。
しかもその際、グレアムに命じられるままに武装隊を結界に閉じ込めるという、明らかな敵対行為まで行なっているのだ。
間に合わなかった『アルカンシェル』の代わりに、病弱な体を押してシェオール魔法を使用したことを差し引いても、何の刑罰も行なわれなかったのはおかしいのではないだろうか。
今度の評議会で、このことを一度突付いてみるべきかもしれない。
本局が組織として『なあなあ』で無駄遣いをし、犯罪者を放置しているのなら、それは許されるべきことではないからだ。
ピュアの方は、現在居候先で学校に通っている。
だから、今回のスケジュールで接触できるのは、本局医療施設に入院しているプレシアの方だ。
ただし、面会室ではなく病室である。
しかも医者の立会いの下、面会が行なわれる。
相手は2週間前まで死の淵にいた重病人なのだ。
「地上本部のトップが、私のような犯罪者に何の用かしら?」
「『アルハザード』について、知っていることがあれば教えてほしい」
「管理局の高官がどうしてそんなことを?」
「『アルハザード』を目指す次元犯罪者が、1人とは限らん。
何か行動パターンの解析になることがあれば、参考のために聞いておきたい」
レジアスは一緒にいる医者の手前、お茶を濁すしかなかった。
それでも自分にとってそれなりに有益な情報を聞き出そうとするあたり、強かな男である。
「ただ、虚数空間に落ちるだけよ。
単身では生きていられる保証がなかったから、私は『時の庭園』ごと虚数空間へ落ちようと考えていたけれど」
「つまり、そのためには次元震を引き起こす必要があるということか」
「そういうことね。もっとも、私の場合は他に手掛かりが無かったから、という理由もあったわ」
プレシアは捜査の参考になるならと、自分が調べた文献やピュアから聞いた話も交えて語った。
「あの子の場合、方法は私と同じだそうよ。
運命に惹かれれば辿り着けるとか、そんな言い方をしていたわ」
「なるほど、思ったよりも参考になる話だった」
レジアスはそう言って頷く。
そして、ふと気になったことを聞いた。
いや、ずっと気になっていたのだ。
『ジュエルシード』事件改め『プレシア・テスタロッサ』事件。
ピュアの行動には、不可解な点が多いのである。
「なぜあの少女が違法研究を幇助したのかについて、何があったのか、知りたい」
「はっきりと言われたわけではないけれど、想像で構わないかしら?」
「構わない」
文句は言わずに頷く。
病身のプレシアに対して、そう多く時間は取れない。
相手が犯罪者とはいえ、レジアスも地上本部の司令官である。その程度の分別はあった。
「多分、あそこで私に諦めさせることは、あの子にとって自分の母親を見捨てることに等しかったと思うの」
プレシアは語った。
そして、ずっと謎であった、ピュアとプレシアの会談の内容が明らかになる。
「ピュアは、あの子は、母親の手によって蘇ったのよ。『アルハザード』の技術でね」
「そんな御伽噺を信じるのか?」
「御伽噺であろうとなかろうと、私と方法が同じである以上、同じ場所に辿り着いていた可能性は充分あるわ」
「むぅ……」
レジアスは唸る。
確かにその通りだ。
そこが本当に『アルハザード』かどうかなど、行ってみなければわからない。
「別の到達者に
「別の到達者?」
「さっきあなたが言った通り。
『アルハザード』を目指すのは、私1人ではないし、ピュアの母親だけでもなかった」
ピュアは攫われ、『ウィジャボード』を強制的に使用させられ、接続した人間をその男は殺した。
精神が直接繋がっている時に片方を殺したのである。
他人の死の絶望を、直接脳に送り込まれたのだ。
その時、長い間に渡って苦しんだらしい。
重度の精神病を患って。
そしてようやくまともに話せる程度の小康状態になったとき、ピュアは母親にこう願った。
『おねがい、わたしを殺して』
と。
「蘇生のために埋め込むものによっては、それ以上の悲劇が起こるかもしれないそうよ。
できるわけないわよね。そんなこと。アリシアを……永遠に、苦しませるなんて……」
プレシアは目を覆い、肩を震わせた。
「……あの子には、私とあの子の母親が重なって見えたのかもしれないわ。やろうとしていることが同じだもの」
その後の幸せな時間を少しは知っているから、その時の母の幸せそうな顔を知っているから。
ピュアはプレシアを見捨てることなどできなかったのだ。
さらに長い転生生活による経験からか、フェイトとプレシアの関係に気付いていた節がある。
フェイトがアリシアのクローンであるということに。
フェイトを見捨てれば、本当にアリシアが蘇った時、アリシアはプレシアを見なくなってしまう。
子供はそういった、大人の暗い部分を敏感に感じ取るのだ。
そうなれば、後に待つのは悲劇だけ。
捨てられたフェイトには当時、高町なのはという友人候補がいた。
しかし、アリシアはまだしも、プレシアを友人や家族として迎え入れてくれる場所などない。
正しく、プレシアにとってはアリシアがすべてだったのである。
ピュアが本当に救いたかったのは、フェイトの影に見えた母親の姿、つまりプレシアだったのではないか。
そんな気がするのだ。
「この話、申し訳ないんだけど、子供達には伝えないでほしいの。構わないかしら?」
「……君が大人しくしている限りは約束しよう」
伝えるべきでない理由は、容易に想像できた。
自分の勝手な都合で他人の温かい家庭を壊していい理由はない。
それがたとえ、偽りの命によるものだたっとしても。
他人の迷惑にならないのなら。
病室を出て、カフェイン飲料を飲んで一休みする。
なぜ今まで、その可能性を考えなかったのか。
ピュアという少女は、被害者なのである。
違法研究の、そして、心無い到達者の手によって、変わり果ててしまった。
おそらく、真っ白な髪や肌、瞳は生来のものではない。
蘇生による副作用か重度の精神病によって、色素が抜け落ちてしまったのだ。
だが、その一端を担ったのは実の母親。
10歳かそこらの子供には、重過ぎる内容であった。
「……『アルハザード』、永遠の命か……」
レジアスは呟く。
最高評議会とはまるで違う。
あの歪な3人の老人を相手にしてきた彼にとって、ピュアの在り方は衝撃的だった。
彼女は
それによって生じた罪科を自ら告白もしている。
しかも、黙っていれば見過ごされていたかもしれないことをだ。
管理局員でそれが出来る人間は一体、何人いるだろうか?
入局する時は、大抵正義感に溢れているものだが。
結局、自分が楽をするために、余計なことは報告しないものである。
考えて、レジアスは苦笑した。
やっていることは自分の方がよっぽど酷い。
通信モニタを開き、秘書を呼び出した。
メガネをかけた背広の男が出て、画面端に真面目そうな少女が映っている。
画面端のこの少女は秘書見習いでオーリス・ゲイズ。
レジアスの娘である。
「ピュアとの面会の時間、2時間ほど延ばせんか?」
「可能です。書類処理の時間を翌日に回すことになりますが……」
レジアスは一瞬、顔をしかめた。
忘れていた。
重要な書類の処理を行なわなければならないのだった。
「担当部署に早く報告を上げろと伝えろ。上がり次第、処理を進める」
「承知しました」
「頼んだぞ」
通信を切る。
ギル・グレアムからも話を聞いておく必要があると思った。
こちらは『闇の書』事件の折、違法な手段を使用したことにより、実刑となりそうだが。
場合によっては便宜を図った方がいいかもしれない。
レジアスは歩き出す。
第27話でした。
冒頭、プレシアさんの話ですが、ヒュードラとかの名称と彼女が狂う原因となった事件については、NANOHAwiki準拠です。
取引というのは、せっかく助けたのに、下手すると10年単位で刑務所行きになっちゃうからです。
アリシアを守る意味でも、この小説の流れとしてプレシアさんの減刑は必要でした。
アルハザードへの行き方について、かなり身も蓋もありませんが、こんなものだと私は思っています。
それと、第6話あたりでピュアがやらかしたことの答え合わせですね。
あれはピュアにとっては、法を犯そうとも必要な行為でした。
倫理的にどうなのかは、皆さんの判断に任せます。
それでは。