【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
「この機能は、このためにあったのですね……」
金髪の少女が感慨深げに呟いた。
今、彼女は歴史の立会人となったのだ。
「協定に基き、あなたをシェオール祈祷師と認めます。今後とも友好な関係を築いていきましょう」
「こちらこそよろしくお願いしますさ」
真っ白な髪の少女はぺこりと頭を下げた。
金髪の中年男性に。
ジョージ・グラシア。
時空管理局評議員の1人で、聖王教会の重役でもある。
八神はやてとの面通しと共に、現在唯一の生き残りであるシェオール人を確認するため、面会を申し込んでいたのである。
これはシェオール人としては無視できないため、シャマルの付き添いを条件に今、こうやって実現していた。
聖王教会とは。
古代ベルカの諸王の1人、聖王が神の託宣を受け、その教えを広めたことを発端とする『聖王教』を信仰する宗教団体である。
その信者は古代ベルカの勢力圏のみならず、多くの世界に分布しており、総本山こそミッドチルダのベルカ自治区にあるものの、幾つかの次元世界に巡礼施設があった。
ミッドチルダは、こうした宗教や文化の中心地でもあるのだ。
聖王教会は管理局と同じく
管理局との関係は良好で、互いに戦力の貸し出しや情報の交換、ジョージのように教会と管理局の重役を兼任するといった状況も出ていた。
「お父様、はやてさんにも説明しましょう」
「ああ、もちろんだとも」
ジョージははやてにシェオールとベルカの間で結ばれていた、相互不可侵条約について話す。
この物語で幾度となく出てきている『協定』の根拠である。
過去に一度だけ、ベルカとシェオールは戦争をしたことがあった。
当時からシェオールは鎖国状態であり、内部で魔法技術が恐るべき進化を遂げていることなど知られていなかった。
一歩間違えれば広大な次元世界を制していたのは、ミッドチルダではなくシェオールだと言われるほどである。
少なくとも、ベルカの生き残りの間ではかなり強い信憑性を持って、その噂は語り継がれていた。
当時最盛期にあった聖王の軍勢はシェオールを攻め滅ぼすことができず、聖王自身も負傷し撤退を余儀なくされるという事態に陥った。
鎖国状態であったことを知った聖王はシェオールの力を恐れ、その魔法技術の流出を完全に止める代わりに、ベルカがどのような大勢力となろうとも、対等に接し、交流することを約束したのである。
そして、任務などでシェオール人が窮地に陥った時は、冒頭の『符丁』によってベルカ騎士に助けを求めることができる『協定』も作った。
それ以降、シェオールは一度として、外に対して戦争を仕掛けたことはない。
ベルカ諸王戦乱時代にも、一貫して交流の使者には各国の共同使節が送られていたほどである。
シェオールを味方につけようという意思が見えたなら、その国は即座に集中攻撃を受けて滅ぼされた。
シェオールが戦乱に介入すれば、相互不可侵の条約を破ることになるし、誰も太刀打ちできなくなってしまう。
諸王はそれほどにシェオールを恐れたのである。
「その代わりに、ベルカも交流や交易を通じて、シェオールの影響を多く受けてきました。
ベルカ製の
“しかしそれでも、『山師』を倒せるほどのものはついに現れなかった”
リインフォースがジョージの後に続けた。
司法取引のための魔法データ抽出と、専用のベルカ式デバイスへの再転写のために行なわれていた調査は終わり、一度はやての元に返還されていたのだ。
今は『デュランダル』が原形を留めないほど歪に変形してしまった杖の姿のままである。
このままでは
そもそも、リインフォースが内蔵している魔法の大半はベルカ式なのだ。
ミッド式デバイスのままではそれらを使用できない。
だから、ちゃんとした古代ベルカ式デバイスを作り直す予定である。
「その通りです」
ジョージは頷く。
「野心を持つベルカは、野心を持たないシェオールを信じ続けることはしなかったようですな。
あるいは、単に『山師』を超える必要を感じなかっただけかもしれませんが」
その辺の、諸王の内心は、今となっては闇の中だ。
「その、『山師』って何なん?」
“シェオール祈祷師の最高位です。
意味は『山を知る者』、この『山』とは、シェオールではシェオール全土を意味します”
「え、どういうこと?」
「つまり、シェオールの広域探査魔法で、一瞬の内に惑星全域を精密探査できてしまう者ということです」
「惑星全域て……ホンマなん?」
リインフォースとジョージの話の途方もなさに、はやてはピュアの方に振り向く。
その辺の話は、現在唯一のシェオール人に直接聞いた方が早い。
「確かに認定基準はそれさ。だから、『山師』がいなかった時代も、2人いた時代もあるみたいさ」
「ほう、それは知りませんでした」
“私もです”
「えっ、ちょっと待ってえな、じゃあ何?ホンマに星1つ丸ごと解るもんなん?」
「わたしはそこまで広げたことはないさ」
真っ白な少女は苦笑した。
『山師』になるには厳正ながらたった1つの試験が必要であり、その試験に合格した者だけが『山師』の称号を得ることができる。
が、その試験が厳しすぎるため、約50年に1人しか合格しない、凄まじく狭い門だったのだ。
それゆえに、ピュアが言ったような、2人以上『山師』を輩出した時代、前任者が死ぬまでに『山師』が輩出されなかった時代も存在するのである。
その辺の事情については聖王教会の資料にも載っていないようだ。
それも当然かもしれない。
『山師』が1人以上外交の場に出ることはないし、シェオールの内情を知っていたベルカ人も、シェオールと共に滅亡の憂き目に遭っているのだから。
「また機会があれば、是非ともシェオールについて聞かせていただきたい。よろしいですかな?」
「月に一度は本局で精密検査を受けるさ」
「ではそれに予定をあわせるとしましょう」
こうして最初の会談は良い雰囲気の下に終わった。
「私、めっちゃ緊張したわ」
車椅子に乗って面会室から出ると、はやては両手を上に、伸びをした。
「わたしも最初は緊張してたさ」
ピュアも笑顔で同意する。
後ろでシャマルが微笑んでいた。
この後、ピュアはもう1人、管理局の高官との面会がある。
その間にはやては本局の施設で足の回復状況を調べる精密検査を行ない、後で合流、帰宅という流れになる。
「じゃあ、また後でな~」
「迎えに来ますからね」
「うん」
別の面会室にて、ピュアははやて達と別れた。
「待ったさ?」
「心の準備ができる程度には」
面会室に入るなり言ったピュアに、恰幅のある中年男性レジアスはそう返した。
「プレシアとグレアム元提督から話を聞いた」
「プレシアさんは大丈夫だったさ?」
「ああ、君の言わんとすることはわかる。
彼女は、少し精神的に不安定な部分があるようだが、今のところは問題なさそうだったよ」
直接会ってみた、レジアスの感想である。
その精神的な弱さが、プレシアに違法な手段を採らせたのだろう。
グレアムからピュアの話を聞いた今のレジアスには、それが解った。
「それに比べ、グレアム元提督は思った以上に揺るぎない」
レジアスには、グレアムがそこまで悪いことをしたようには思えなくなっていた。
これから死ぬかもしれない幾千万の人間を生かすために、今は拘留されているあの男は、自ら罪を被ろうとしたのだ。
しかも。
最後に『ロストロギア』を盗み出した際、実はグレアムの名前と共に事情を説明すれば、『ロストロギア』が貸し出されたかもしれないのである。
しかしそれをすれば、最終的に管理者が責任を問われる可能性がある。
政治とは、時としてそういう馬鹿げた責任追及を行なう場所でもあることを、レジアスもグレアムも知っていた。
だからこそ、あえて盗み出すという手段を使ったのである。
自分独りに罪を集中させるために、そこまでやったのだ。
この分だと『闇の書』との決戦前に、グレアムがピュアに管理局の武装隊を足止めするように命じたというのは、彼女を庇うための嘘だという可能性も高い。
無詠唱魔法によって上書きする結界。
報告書にもあったが、シェオール魔法の中でも、単純な攻撃魔法よりも余程恐ろしい魔法である。
術者の好きなように敵勢力を分断できる。
その気になれば、各個撃破も難しくはなかったはずだ。
しかし、ピュアがそれ以上管理局側に攻撃を行なう意思は見せなかった。
その後、彼女は何の言い訳もせず、グレアムが庇った結果、厳重注意となった処分を大人しく受けている。
「実は、私はこの管理局の最高評議会から、『アルハザード』について君から聞き出すように命令を受けている」
レジアスは何も隠さずに切り出した。
この真摯な少女に対して、口先の虚飾は礼儀に反すると考えたのだ。
「わたしが知ってるのは、そこがどんな場所かさ。それと、人に脅されて1週間ほど調べた内容だけさ」
「順番にどのような場所か、から聞こう」
「5つの高層ビルと、2階建てくらいの屋敷が10くらいあったさ。他は一面砂漠だったさ」
「その話は研究者には?」
「ユーノ君には話してあるさ」
「ああっと、確か、スクライアの少年だったか」
ピュアは頷いた。
レジアスも、少女のことについて下調べを行う際、
「では次に、人に脅されたと言ったが、その人物は一体何が目的で君達を脅したのかね?」
「『アルハザード』の技術を持ち帰るために、そこから脱出する方法を探したさ」
「それで、それは見つかったのかね?」
ピュアは首を横に振る。
「そこは虚数空間に落とすことで技術の持ち出しができないように封印された場所さ」
「なるほど。それでは脱出する手段があっては意味が無いな」
「わたしが調べた内容は、それで全部さ」
「君は脱出しようとしなかったということかね?」
「わたしは……お母さんと一緒なら、それでよかったさ」
ピュアは、少し表情を曇らせる。
その後の顛末を、少し思い出してしまったのだ。
だが、自分の感情をコントロールし、それ以上は顔に出ないように、押さえ込む。
顔を曇らせた理由は悟らせないように。
「しかし、それなら一体、どうやって君はここに?」
レジアスは疑問を口にする。
もっともな疑問である。
ピュアは脱出不可能なアルハザードから、何らかの方法で脱出に成功しているから、ここにいるのだ。
「多分、転生さ。
理由は想像だけど、どこに飛ぶかわからない転生だけは、虚数空間の檻を越えられるんだと思うさ」
「ふむ……」
レジアスは唸る。
これだけでは足りない。
「では、最後だ。最高評議会に諦めさせるのに、最も良い情報があれば教えてほしい」
「1人だけ、先に来てた人の中で、話ができたお爺さんがいたさ」
「ほう」
「その人は、わたしを知って『その程度の代償で済んだのは奇跡だ』って言ったさ」
「代償?」
「人体蘇生も不老不死も、方法はわたしと同じ、魔法具を身体に埋め込むことさ。
そうすることで、不老不死を得られると同時に、不老不死が無意味になるくらいの代償を支払わされるさ」
例えば、ピュアの例で言えば、『ウィジャボード』での封印が間に合わなければ、彼女は廃人になっていただろう。
「代償を選ぶことはできるのかね?」
「自分のレアスキルの暴走だから、封印が間に合う能力が発現することを願うしかないさ」
「間に合わなければ?」
「最悪、木っ端微塵さ。しかも死ねないから、再生するたびに死に続けるさ」
精神崩壊を起こしてなお、肉体は苦痛を訴え続けるのだ。
肉体は元通りに再生されるため、神経も正常に働くのである。
いわゆる、等活地獄、というやつだ。
「不死が無意味になる代償か……いや、それでは不死はかえってデメリットになるな」
「それでいいなら、『アルハザード』へ行けばいいと思うさ」
突き放すような言い方だが、正常な判断ができる人間が今の話を聞けば、『アルハザード』への渡航に二の足を踏むようになるだろう。
不死を求めるなら自己責任だ。
そして。
蘇生を求めるなら……。
ピュアのようにならないように、ちゃんとした殺し方を考えておかなければならない。
ピュアはそれをプレシアに忠告し、それを受けてプレシアは『アルハザード』渡航を断念した。
ピュアには、『アルハザード』の先輩として、それを忠告する義務があったのだ。
それは図らずとも、プレシアに娘の蘇生を断念させることに繋がった。
ピュアにとって、それはどんな意味を持っていたのだろうか。
レジアスは俯いて涙を堪える少女を見て、そんなことに想いを馳せる。
「いい話を聞くことができた。ありがとう、これであの老人達を説得できそうだよ」
こうして、歴史の転換点でもあった面会は終わりを告げた。
第28話でした。
主に、前半はシェオール、後半はアルハザードについての説明です。
シェオールはベルカから見た説明で、ピュアが知らなかったことも結構出てきています。
裏設定でピュアが知らなかったことは、
1.シェオールが鎖国状態だったこと。
2.ベルカ諸王がシェオールをとても恐れていたこと。
この2点です。
なんせ蘇生直後は記憶がほとんど残っていませんでしたし、そもそも10歳ではそんなに大したことを教えられていなかったんです。
なので、その辺の知識に関しては、蘇生後半年間の、母親による教育による部分が大きいんですよ。
もちろん、たった半年ではさほどのことは教えられません。
さて次のアルハザードについてですが。
これはほとんどプロローグの内容と同じです。
どう解釈するかは人それぞれですね。
それでは。