【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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029 エースチーム

首都航空防衛隊隊舎。

 

「では新人の紹介だ」

「騎士シグナムだ。よろしく頼む」

 

長い薄赤髪の女性が敬礼する。

その凛々しく整った顔つきに、所々で溜息が漏れた。

 

「ポジションはフロントアタッカー、総合ランクはAAAだ」

「すげえ!」

 

食堂の隊員から感嘆の声が上がる。

 

AAAランクといえば、このゼスト隊の隊長ゼスト・グランガイツのAAA+とほぼ同格だ。

地上の精鋭を集めたエースチームとはいえ、大抵はAかAAなのである。

 

 

 

厳つい大男、ゼストは上司の提案について、内心では首を傾げていた。

 

提案とは、戦力の集中、高速展開についての実験である。

この首都航空防衛隊エースチーム、ゼスト中隊の運用思想は、集めたエースを少数柔軟に貸し出しすることにある。

 

元々高ランクの魔導師は、魔法の発動媒体でもあるデバイスが特殊なことも多い。

その整備を一括して行なう部署を創設し、他にも強力なバックアップ体制を取るのだ。

それによって、他の地上部隊でのデバイスの整備性を向上する。

 

さらに、戦力の貸し出しは基本的にはほぼ無条件。

1人だけを即時回すことも可能。

各所への移動の迅速さが求められるが、それは新規導入する転送装置によって解決するという。

 

各地上警備大隊の詰所に転送室を設け、そこを通じて各所に戦力を貸し出す。

設備に金をかけることになるが、設備の整備はゼスト隊に集めた優秀なデバイスマイスター達が行なう。

そのため、予定としては一時的な設備投資以外は、予算も安く抑えられることになるだろう。

 

ただし。

詰所が襲撃された場合、対処は遅れる。

なぜならば、転送装置という、はっきりとした弱点があるからだ。

 

そこに気付かない有象無象ならともかく、的確にその弱点を狙われた場合、エースチームの創設によって戦力の落ちた各所は、簡単に陥落してしまいかねない。

 

ゼストは、そんな弱点を抱えるくらいなら、エースの配置を替える程度の人事に留めるべきだと考えていた。

一体何を考えて上司、地上本部のトップであるレジアスがこんなチームを作ったのか、彼は知らない。

 

しかもだ。

今紹介した薄赤髪の女性は、史上最悪の古代遺失物(ロストロギア)『闇の書』の守護騎士、魔道プログラム体と言うではないか。

一応、部下には伏せてあるが、発覚すれば大きなトラブルになりかねない。

 

そもそも、レジアスはこの手の、元犯罪者を毛嫌いしていたはずだ。

最近は友人でもあるゼストに隠れて色々とやっているようだし、一体何を考えているのだろうか。

 

 

 

「ウチにも色々と手のかかる子供がいまして……」

「ええっ!?シグナムって結婚してたの!?」

「いえ、私は結婚していませんが……」

「旦那さんって、やっぱり超イケメンでカッコ良かったりするの?」

 

クイントの人の言うことを聞かないという、悪い癖が始まった。

 

出自に問題があるシグナムほどではないが、2年ほど前に結婚したというこの長い青髪の女性クイント・ナカジマもある意味ではトラブルメーカーではある。

それを差し引いてもお釣りが来るほど優秀な部下に違いはないのだが。

 

「やめなさいってクイント。今、結婚してないって言ってたじゃない」

「えー?」

 

そんなクイントを止めに入ったのは、薄紫色の長い髪をした大人しそうな女性、メガーヌ・アルピーノ。

メガーヌも結婚しており、今では一児の母である。

 

クイントとメガーヌは同期で、特に仲が良い。

学生時代は魔法戦の試合でのライバルだったそうだ。

 

緊急出動要請(スクランブル)です』

 

人間の音声を組み合わせ、よく通るように作られた、人口音声が響いた。

その館内放送の一声で、誰も彼もが緊迫した表情で一斉にモニタを開く。

 

これはゼスト隊の運用思想に基いて設置された、簡易通信放送である。

転送装置が設置されている大隊詰所から、有事に登録音声による要請がある。

 

登録音声はそれ以上の事を告げないが、ゼスト隊各員が持っている小型通信端末に事情を報せるデータは転送され、それを元に隊長であるゼストが派遣する人員を決定する。

エースチームといえど、各部隊員には得意不得意があり、それを把握し運用するのも隊長の仕事なのだ。

これは後で、経験を積んだ司令官が今のゼストの代わりを果たし、戦力の一部でもあるゼスト本人を活用することになっている。

 

今回は銀行強盗だった。

高ランクの魔導師が人質を盾に銀行に立て篭もっており、他にも銃で武装した仲間が数名、確認されている。

高ランク魔導師は1人だが、現地の隊員では歯が立たないランクだそうだ。

その高ランク魔導師を捕縛できれば、後はどうとでもなるという。

 

となれば、ここは新人に回してもいいかもしれない。

 

「シグナム、早速頼む。メガーヌはバックアップを。以上2名の出動とする」

「了解」「了解!」

 

ゼストの宣言にシグナムとメガーヌは敬礼を返し、転送室の方へ走っていった。

 

数分後、また『緊急出動要請(スクランブル)です』と館内放送が響く。

再び一斉にモニタが立ち上がった。

ゼスト自身もまだ慣れていないが、これがこれからは日常化するのだろう。

 

ちなみに次は大規模火災発生の報せだった。

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。

 

「紫電一閃!」

 

気合の声と共にシグナムは片刃剣『レヴァンティン』でバリアを切り裂き、返す刀で魔力刃を叩き込んで、標的となっていた魔導師を気絶させる。

 

「じゃあ、ちゃっちゃと片付けるわよ!」

 

メガーヌがその隙に得意の転送魔法を発動させ、現地の警備隊員を銀行内に直接転送した。

 

強盗達にしてみれば、頼りにしていた魔導師をいとも簡単に倒されて呆然としていたところに、突然警備隊員が出現したのでたまらない。

人質を盾にしようとした者も1人いたが、それを主張する間もなく、シグナムに拳で殴り倒された。

 

 

 

「大したものだな」

 

何もできずにあっという間に制圧されていく、武装した強盗達を見ながら、シグナムは呟く。

 

「あなたが一番の大物を倒したおかげよ」

「いや、その後だ。私が手を出さずとも、この卑怯者を黙らせていただろう」

 

ついさっき自分が殴り倒して失神させた強盗が運ばれていくのを見て話す。

シグナムが見た限り、突入した警備隊のほぼ全員が人質を取ろうとした犯人の動きに気付いていた。

その内彼女が真っ先に動いたことに気付いたのは半数、さらにそれが感情的なものだと気付いて苦笑したのが2名。

メガーヌが送り込んだのは10名ほど。

 

魔力が少ないことを(ひが)んだりせずに、治安を守るために黙々と努力を重ねてきた結果がそこにはあった。

シグナムはそれに対して敬意を払おうとしたのである。

『やはり上手くいかないな』と、声には出さずに呟いた。

 

 

 

ゼスト隊の宿舎に帰ると、半分くらいの人員が待機場所である食堂から消えていた。

 

「ありあえずご苦労だった。特に問題も無かったようだな」

 

隊長であるゼストはそう告げ、シグナムとネガーヌに待機を命じる。

 

「私達が行ってる間に、こんなに出動要請があったんですか?」

「大規模な森林火災でな、人手が必要なんだそうだ」

「ああ、なるほど……」

「これでは便利屋だがな」

 

と、ゼストは珍しく愚痴を吐いた。

 

「上の命令で下が苦労するのはどこも同じということですか」

「フッ、そういうことだな」

 

ゼストは思わず笑みを零す。

 

確か、シグナムは『闇の書』とその主を守る守護騎士(魔道プログラム体)だ。

100人以上とされる代々の主が、皆善人で主に相応しい人格者だとは行かなかったのだろう。

 

そう考えれば、単に犯罪者と決め付けてしまうのは、気が早かったかもしれない。

上司を選べないという点において、彼女らは苦しんできたのかもしれないからだ。

 

上司であり友人でもあるレジアスがそこに気付いたからこそ、地上部隊における優遇を行なったのではないか。

 

『友の真意に気付くのにこうも時間がかかるとは、俺もまだまだということか』

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

レジアスは最高評議会の呼び出しを受けていた。

 

三つの水槽に浮かぶ三つの脳が彼を問い詰める。

 

『なぜエースを1極集中させた?』

『しかも、我らの断りもなく』

『反乱の可能性を増やすことになるぞ』

 

レジアスはそれらの問いにも動じない。

 

「私は少数精鋭による即応体制を整え、信用できる人間をその頭に据えたまでです。

それに部隊編成については私に一任されているはず。あなた方に断りを入れねばならないとは初耳ですな」

『貴様……』

「あくまで今回の部隊運用は実験です。そして、縄張り意識のある警備部隊の意識を改める目的もあります」

 

地球においても、担当地域を跨げば他署の管轄になるシステムのある日本などで、縄張り意識というものは顕著に見られる。

それは弱い対抗意識であり、小さいながらも内部亀裂、トラブルの元になる。

その意識改革を行なうためにも、レジアスは単一精鋭部隊の試験運用を行なっているのだ。

 

確かにゼストに指摘されたとおり、転送室は弱点になりうる。

だが、元々1年かそこらで解散するつもりであった。

犯罪組織が弱点を下調べし、準備を整えるまでに、通常の運用に戻るのである。

 

その間は転送装置にトラブルが発生しない限りは、素早い精鋭部隊の運用が可能になるのだ。

そして、他の部隊のエースとの交流も深まる。

実験のデータを採ることができ、トラブルの種も減ると考えれば、一石二鳥くらいの効果は望める。

 

反乱の可能性だが、レジアスからすれば、隊長に据えたゼストが反乱を起こすとは考えられない。

愚直で無骨な武人であるゼスト・グランガイツは、たとえレジアス自身が音頭を取ろうとも、それに賛同することはしないはずだ。

だからこそ、地上の急所であり戦力過多となる精鋭部隊の隊長を任せることができるのである。

 

「逆に、あなた方にとって不利益となるならば、転送装置を止めてしまえばいいだけの話ではありませんかな?」

『だからこそ、その弱点を設けたのか』

『だが、地方で反乱が起きれば、先に転送装置を押さえられ、即時対処はできなくなる』

「何を心配しているのです?最大の戦力は中央にあるのですぞ。それは反乱の抑止にもなりましょう」

 

レジアスは畳み掛ける。

 

『遺言書』は既に、娘に手渡してある。

本人はそれと気付いていないだろうが、それはいずれ彼女の身を守ることになるだろう。

 

『お前が裏切らぬ限りは問題のないシステムのようじゃな』

「私は小物です。自分が反乱を起こすなど考えもしませんでした」

 

もちろん、嘘である。

 

『フン、よかろう。貴様の裏切りは貴様とその家族の死を以って償わせる。その約定、忘れるな?』

「もちろんです」

『ドゥーエ、監視を強めよ』

 

三つの脳の内の1つが、レジアスの後ろに控えていた女性に向けて命令した。

長い金髪の艶やかな美貌の女性、ドゥーエである。

彼女は最高評議会がレジアスに付けた、監視役であった。

 

「かしこまりました」

 

女性は無機質な表情で頷いた。

 

 

 

 




第29話でした。
レジアスさんが動き出します。
転送装置って、アースラで地球との移動に使われていたアレです。
アレの設定について、よくわからなかったんですよね。
なので、例によって捏造しています。

このレジアスさんの動きで、色々と変化が起きます。
とはいえ、時期的にミスったかな、とも思っていますが。

それでは。
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