【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
「チェックメイトよ」
体にぴったりとした青と水色のスーツを着た金髪女性ドゥーエが、落ち着いた様子で言った。
右手の親指、人差し指、中指に装着した爪を、レジアスに突きつけて。
「犯罪者の追跡はどうだったかね?」
彼は怯えることなく、そう聞き返した。
大したものだと、ドゥーエは思う。
前に最高評議会の怪老達が言っていたが、ピュアというシェオール人の少女と一度だけ面会し、色々と話をしたそうだ。
その影響の調査のため、ドクターからもレジアスの行動について逐一報告するように命令を受けていた。
最高評議会がたった1人の魔導師の何を恐れるのか、知りたかったようだ。
ドゥーエ個人としても、少し興味を持った。
レジアスはもう何十年も管理局に政治方の人間として勤めている。
行政局との折衝、予算編成、地上部隊の体質改善に、大きく寄与してきたそうだ。
そう易々と口車に乗せられるような人間ではない。
「長いようで、短かったな」
答えずにいると、返事が来ないものと思ったのだろう、レジアスは呟いた。
その脳裏には、いわゆる走馬灯というやつが流れているのだろうか。
「娘や部下に、何か言い残すことは?」
「既に言い残してきた」
「自分が死ぬことまで、折込済みだったというわけ?」
「そういうことだな」
ドゥーエはなるほど、と思った。
ということは、彼の娘オーリスの確保に向かった最高評議会直属の部隊も、空振りに終わるだろう。
彼が信用できて、なおかつ最高評議会に対抗できる場所。
といえば、『伝説の三提督』のところくらいか。
「1つ聞きたいのだけど」
「追い詰めたとはいえ犯罪者相手に感心せんが、いいだろう。潮時ではあるし、逃げられそうもない」
「あの子、ピュアに、何かを言われたの?」
ドゥーエは聞く。
おそらく、ドクターもこれが知りたいのだろう。
「別に。報告書として上げた内容ですべてだ」
「あの面会の前後から、あなたは変わったわ」
「なるほど、その秘密が知りたいと?」
「ええ」
頷く。
最早、欺瞞は必要なかった。
ただ1つ、真実があればそれでいい。
「プレシア・テスタロッサからアルハザードについて聞いたとき、どうしても気になってね。
ピュアの違法研究幇助の理由を聞いた」
ピュアがプレシアの違法研究を完成に導いたのは、気紛れや黒い理由からではない。
自分の母親を見捨てるに等しいことができなかったという、ごくごくありふれた理由だったのである。
それも、ピュア本人は何も言わない。
自分が違法研究を手伝ったと簡潔に述べ、他の情状酌量の余地となりうる部分を黙秘した。
それがプレシアの推測である。
「そんな推測で……」
「その推測を否定する材料は何もない。その後の『闇の書』事件についても、その推測を考慮すれば辻褄が合う」
不気味なほどに。
と、レジアスは言った。
「私がどれほど他人を偏見の目で見てきたのか、思い知らされたよ」
もちろん、すべての事件について、ちゃんと真実を調べてきたつもりだ。
しかし、冤罪事件がなくなったりはしない。
結果は、管理局内部にしか出なかった。
最高評議会を裏切る決断をしたのも、このままでは自分で多くの人間を死に追いやり、不幸にしてしまうと思ったからである。
また、今までの罰を受けようとも思った。
そのための準備はしてきた。
1週間前。
ゼストはある犯罪組織の捜査に参加していた。
大胆にもこのミッドチルダ首都クラナガンに拠点を構える、違法研究者である。
そのアジトを突き止めたと、他の地上部隊から報告があった。
普段は部隊からローテーションで2人か3人の戦力を貸し出す程度だったが、犯罪組織の拠点への突入となれば話は別だ。
他の事件への対処に5人ほど残し、残り全員で現場へ向かうことをゼストは決断する。
その決断に口を挟む者はいなかった。
直接の上司であるレジアスも含めて。
いや。
レジアスから通信があったのはその時だ。
モニタは出ない。
部下に聞かれてはまずい、極秘の内容らしかった。
『倉庫に転送装置を設置させてある。そちらを使え』
『転送室ではダメなのか?』
『あれは今使えない。強制停止コマンドが打ち込まれた』
『強制停止だと?』
『これ以上は言えん。急げ!』
『わかった』
『すまん。ゼスト、オーリスを頼む』
「なっ、なんだと!?」
聞き捨てならない言葉を聞き、思わず大声が出るが、その時には既に通信は切られていた。
ゼストが上げた声に驚いた部下達からの視線が集中する。
何かがあったのは間違いないはずだ。
だが、レジアスはゼストに対し、強制捜査の方を急がせていた。
ならば、ここで余計な混乱をさせるよりも、今はレジアスの言う通りにして強制捜査を急いだ方が良い。
「こっちだ、急げ!」
いつもより幾らか焦った声が出たのは、この際仕方がないだろう。
いつもの転送装置ではなく、倉庫の方へ向かい出したゼストに部下達は戸惑っていたが、それを気にしている余裕はない。
『ピュア、祈祷師ピュア、まだこちらに残っているか?』
シグナムはいつまで待っても返事が無いことに、内心舌打ちした。
強制捜査や突入についてはいつものことだ。
だが、今日はゼストの様子がおかしい。
だから、高い力を持つ祈祷師であるピュアに、サポートしてもらおうと思ったのだ。
つい1時間ほど前、隊舎の方に主である八神はやてと共に、検査のついでに遊びに来ていたのだが。
もう地球の方に帰ってしまったらしい。
ピュアのサポートが得られれば、これ以上に心強いことはなかったのだが。
なんとか今ある手札で遣り繰りするしかないようだった。
そして、その内1つの手札を切る。
『ヴィータ、シャマル、聞こえるか?』
突入作戦は進む。
シグナムは最初の斬り込みに志願した。
最も攻撃を受けやすい、最も死が近い、危険な場所である。
「いいのか?」
「私なら多少の怪我は回復できます」
人ではない、魔道プログラム体であるがゆえの強気。
他の人間にも家族がいる。
シグナムにもいるが、死にさえしなければ、回復は人間ほど難しくはない。
一方で、一瞬で殺されかねない事実にも気付いていた。
ゆえに彼女は移動中にも考える。
「(考えろ。もしも管理局内の戦力に精通していた場合、相手はどう対処する?)」
考えて、そんなものは1つしかないことに気付く。
というよりも、今は1つしか思い浮かばなかった。
身近過ぎるところに1人、魔導師の天敵が存在するのだ。
「(あの子の魔法の中で、擬似再現可能なタイプは幾つかある。
変位相結界は奇襲への対応には不向き。
『神の光』は同じ理由で不可。
後は……
一か八か、シグナムは山を張る。
「(術式阻害は、甘ければ魔力放出で対処できる。
完全に同じ系統とは限らないが、用意しておいて間違いはないだろう)」
ちなみに、管理局の闇に関連した敵だと思ったのは、彼女の勘だ。
主を除く、ありとあらゆる相手を疑ってきた経験が、その土台にはあった。
「(よし)」
心を決め、予定通り目標のビルの窓を破って一番上の階から突入する。
まさか、いきなり鉢合わせするわけもない。
相手が魔導師なら、転送魔法か飛翔魔法、身体強化で逃げようとするはず。
外へ逃げ出せば、外に待機しているチームが対処する。
転送魔法以外なら。
背の低いビルの内側は、殺風景だった。
明り取りの窓すらカーテンで締め切られていて、薄暗い。
シグナムは楕円形の大きなカプセルを綺麗に輪切りにして、内部が空洞で危険がないことを確かめた。
『T3クリアだ』
念話で合図を送った。
ぐずぐずはしていられない。
早く敵を探し出さなければ、逃げられてしまう。
シグナムは生体反応の有無だけを確認しつつ、素早く次の部屋に向かった。
壁を切り裂き、次の部屋を確認すると、すぐに下の階に降りる。
ビルはそう大きくない。
最上階の調べていない部屋は、手筈通りに隊長ゼストと同じく前衛のクイントが、危険の有無を調べる。
シグナムが下の階へ続くドアを開こうとしたときだった。
『ザッ……しゅ……を……』
妨害を受けた念話特有のノイズが届く。
同時になんともいえない嫌な予感がした。
「レヴァンテイン」
“
構えた片刃剣の付け根から赤い排煙が吹き出る。
ベルカ式デバイス特有のカートリッジシステムによる、魔力ドーピングだ。
吹き出た排煙は、使用された魔力の残滓である。
使用した魔法はシグナムが纏っていた騎士甲冑の強度を跳ね上げるもので、防御力を高める代償に高速飛行は難しくなるが、肉体を使った移動については問題ない。
少々乱暴だが、急がなければならないようだ。
この扉を強行突破し、外に出る。
何度か極秘回線で念話を使い、連絡を取ろうとしたが、全く返事がない。
相当強力な念話妨害が行われているようだった。
彼女は剣でドアを切り飛ばし、強引に突入した。
『S1へ突入』
誰にともなく念話を送る。
素早く気配を探る。
次の瞬間、突如大爆発が起こり、強化した騎士甲冑の上からシグナムを少しよろめかせた。
騎士甲冑の強化が半分くらいしか効いていない。
やはり、少々暴論でも術式阻害に対する準備をしていてよかった。
「待ち伏せ……いや、罠か!?」
彼女は呟き、何か不測の事態が起こっているということを確信した。
とにかく、一度外に出なければ。
突入時、不測の事態が起こった際、対処できないようなものなら、外に出て状況を確かめるように決められていた。
事前に入手した建物の構造図とは、かなり違う造りになっているのがわかった。
こんな広い部屋は無かったはずだ。
1階までの吹き抜けになっており、天井には大型の電灯が幾つか灯っている。
床には何かがあったような痕跡はあるものの、上の階で見たような楕円形の金属ケースが転がっている他は、何もない。
そして。
「無傷だと……?」
そう呟くのは、短い髪の、女性の姿。
生体反応は、ない。
体に機械が埋め込まれた、サイボーグか。
しかし、サイボーグは拒絶反応の問題があり、実用化されていなかったはず。
少なくとも、戦闘に耐えるものではなかったはずだ。
「このフィールドは、貴様の仕業か?」
「答えるとでも思っているのか!」
女性は言うや否や襲い掛かってきた。
第30話でした。
戦闘機人事件です。
ミスが幾つかあります。
まず最初に、原作で事件が発生した時期が、これの約2年後ということです。
見事な勘違いですね。
そして後でよく考えてみると、転送装置の設置が2ヶ月とかで終わるのかという問題もありました。
もう1つ、出てくるガジェットドローン、お気付きの方もいるかもしれませんが、Ⅰ型です。
原作だと、Ⅳ型なんですよね。
番号こそⅣであるものの、Ⅳ型は『ゆりかご』から回収されたものであり、こっちがオリジナルです。
なので、設定を原作準拠にする場合、ここではⅣ型を使用するべきでした。
この2つはこの後15話くらい書いた後で気付いたため、もう書き直す気力はありませんが。
それでは。