【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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戦闘機人事件の後編です。


031 戦闘機人事件(下)

『ヴィータちゃん、そっちはどう?』

『見つけた。けど……』

 

発見したのは、レジアスの執務室。

 

その内部に踏み込んだヴィータが目にしたのは、レジアスが重用していた秘書の死体だった。

 

『オーリスっていう子?』

『多分、違う。年配の男だ』

 

ヴィータは惨状を映像データとしてデバイスに収める。

後で発見直後の様子を提出するためだ。

 

『心臓をひと突き、恐怖に歪んでるっていうか、驚いてる感じだな』

『クロノ君に連絡するわ』

『ああ、頼む。あたしはオーリスって子を探す』

 

ヴィータは部屋の主であるレジアスの机の引き出しから、何か手がかりはないか、探し始めた。

 

そのとき、ドアが開く。

入ってきたのは黒髪黒衣の少年クロノ・ハラウオン。

 

「なっ!?」

「お、クロノ?お前、こっちに来てたのか」

 

いきなりあった死体に驚くクロノに、ヴィータは事情を説明する。

 

 

 

まず、最初にシグナムから連絡があった。

 

『様子がおかしい。この部隊の直属の上司、レジアス中将に何かあったのかもしれない。確かめてきてくれ。

もし何かあったら、中将の娘オーリスの確保を優先で頼む』

と。

 

で、来て見ればこの有様だ。

 

「丁度、あたしも今日は待機だったから、抜け出してきたんだ」

「なるほどな」

 

クロノは頷く。

 

「オーリスは今、本局だ。

データを僕達アースラのメンバーに渡し、そのまま一泊するように中将から指示を受けていたらしい。

リンディ提督が整備中のアースラで保護しているよ」

「ははぁ、それでか」

 

ヴィータは納得した。

 

クロノも今回の異常に気付いたのである。

いや、レジアスが報せたと言うべきか。

 

「とにかく、地上本部の捜査官に連絡する」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!」

「あぐっ!?」

 

ゼストは抉られた左目を抑えた。

 

大きく開けられた壁の穴から外を見ると、エースチームのメンバーが楕円カプセルのような機械兵器を相手に、苦戦を強いられている。

だが、全滅という最悪の結果にはならなさそうだった。

それぞれ長年の経験を生かして連携し、AMFの展開下、魔力放出を行ったり、多重弾殻射撃(バレットシェル)を駆使したりして、戦っている。

 

だが、目の前の、この白髪の小柄な少女がそこに加われば、それは容易く引っくり返されるだろう。

それほどにこの、おそらくサイボーグの少女は強かった。

 

「これほどとは……!」

 

少女も潰された右目を抑える。

 

長い青髪の女性クイントは、部屋の隅で倒れたまま、ぴくりとも動かない。

シグナムが通った後に、散乱していた工具類が突然爆発したのである。

まさか工具が爆発するとは思わず、ゼストの盾になるような形で、まともに爆発の衝撃を受けたのだ。

おかげでゼストは一瞬意識が飛んだものの、行動不能になることだけはなかった。

 

まだ命を保っているようだが、急いで医者に診せなければならない。

 

そして、下の階に行ったシグナムとも連絡が取れない。

通信の不通など、単独では対処できない事態が発生した場合、すぐに外に出るように指示してあったのだが、外に出ている様子もない。

 

あちらにも、この白髪の少女と同じようなサイボーグの兵士が出現したと考えるべきだ。

 

「……チッ、時間切れか」

 

少女はどこかから通信を受け取ったようで、そう呟くとナイフを床に突き刺し、爆破した。

 

煙幕によって視界は遮られるが、気配は逆に遠ざかっていく。

 

「退いてくれたか……クイント!」

 

ゼストはぴくりとも動かない部下の生体反応を確かめ、舌打ちした。

あまり長くは持たない。

 

 

 

一方、シグナム。

 

「『シュラゲンフォルム』!」

 

刃のついた鞭と化した剣を振るい、短い青髪の女性と戦う。

敵のスピードは侮りがたい。

一度模擬戦をしたことがある、金髪の少女に匹敵するか、それ以上だ。

 

しかし、百戦錬磨のシグナムほど経験があるわけではないらしい。

多少実戦に慣れてはいるようだが、それだけだ。

おそらく、圧倒的に不利な状況を経験したことはない。

 

型を変則的に崩し、変幻自在で攻めにくい戦い方をするのがその証拠だ。

戦いとは、結局のところ、相手に近付き斬る。

それで終わる。

そのためにフェイントを混ぜたりもするのだが、必殺の一撃となる『斬る』を疎かにしては、勝てるものも勝てなくなる。

 

「もらった!」

 

相手が隙を見出し、両手の剣を叩き込んでくるが、シグナムはそれを拳で払った。

当然、そんなことをして拳が無事に済むわけがない。

 

彼女の手から、血が飛び散る。

手の甲にざっくりと深い傷が入った。

これで防御フィールド、騎士甲冑による保護がなければ、切り落とされていてもおかしくない。

 

「なっ!?」

「紫電一閃!」

 

素早く剣状に戻した武器型(アームド)デバイスを振り下ろす。

 

相手はそれを防ぐが、バランスが崩れていたため、剣圧に負けて床に叩きつけられた。

 

「ここは道場ではない。強敵を倒すのに、五体満足で済むと思うな!」

「くっ!?」

 

と、追撃を仕掛けようとしたそのとき、苦悶の表情を浮かべる女性の姿が虚空に掻き消えた。

 

「何?」

 

シグナムは不測の事態にも冷静に周囲の気配を探る。

しかし、殺気も消えた。

 

女性が消えた辺りを探すと、地下へと続く階段が見つかった。

幻術か何かで偽装されていたのだ。

その先には、壊れた転送装置。

おそらく今しがた、破壊されたのだろう。

 

「逃げられたか……」

 

シグナムは踵を返し、外へ出るために階段を上った。

 

 

 

シグナムが建物を脱出し、楕円カプセル型の機械兵器掃討に参加してから、状況は少しずつ好転し始める。

隊長ゼストも復帰していたが、こちらは白髪の少女との戦闘で大ダメージを受けたらしく、動きに精彩を欠いていた。

 

瀕死の重傷を負ったクイントは、チームの人間がゼストと入れ替わりで回収し戦域を離脱、病院に運ばれ、なんとか一命を取り留めたそうだ。

 

そして数時間後、ようやく機械兵器群は掃討される。

 

 

 

戦闘後。

 

「ということは、そちらも逃げられたか」

「はい。申し訳ありません」

「いや、その手を見れば強敵だったのはわかる。無事でいてくれてよかった」

 

シグナムの手には包帯が巻かれていた。

 

傷は骨の半ばにまで達しており、戦闘中は使い物にならなかったはずだ。

それでも、彼女は最後まで脱落せずに戦い抜いた。

 

「ところで、なぜ爆発を防げた?」

「勘です。階段からでは外には遠かったものですから、防御を高めて、多少の罠は強行突破しようと……」

「なるほど、防御魔法の選択が生死を分けたか」

 

ゼストは納得した。

 

これで防御魔法にバリアやシールドを選択していたなら、咄嗟に魔法が使えないことに気付く前に、爆発でやられていただろう。

騎士甲冑の防御力を上げるフィールド系の防御魔法だったからこそ、爆発にも、強敵にも対処できたのである。

 

「ところで、レジアス閣下の方は……」

 

ゼストは一瞬目を見開くが、肩を竦めて溜息をついた。

オーリスの確保に向かい、真っ先にレジアスの第一秘書の死体を発見したのが守護騎士の1人であるヴィータであると、既に報告を受けていたのだ。

 

「君の方に連絡は行っていないのか?」

「オーリス・ゲイズの無事を確認したという報せは受けましたが」

「……レジアスは行方不明だ。作戦開始前の連絡を最後にな」

 

念話で部下や同僚を通じて状況を確認していたのは、ゼストも同じである。

ただし、彼は任務を急いだのに対し、シグナムは任務の前に動いていた。

 

それが『闇の書』の一部として長年戦い続けてきた守護騎士と自分の経験の差だと、ゼストは感じていた。

 

「俺もまだまだだな」

 

 

 

 

 

 

 

最高評議会。

 

『やりおった』

『あの小僧が』

『してやられたか』

 

歪に生を繋ぐ3人の老人が話し合う。

 

『最早オーリスを謀殺することはできん』

『しかも何も知らぬ娘に持たせたデータがあれじゃ』

『最悪じゃな』

 

しばし黙る。

しかし、またすぐに話し始める。

 

『どう対処する?』

『あの証拠を消す以外にあるまい』

『本局のデータベースならば、どうとでもなるが、ディスクまではな』

『ドゥーエに回収させるか?』

(くだん)のシェオール人に出遭ってしまう危険はないか?』

『あの娘ならば、いとも簡単に見破る』

『ならば、もう1人借りるしかあるまい』

『それしかないな』

『トレディチと言ったか、電子機器支配能力を持つ……』

 

こうして、ミッドチルダの夜は更けていく。

 

闇を増しながら。

 

 

 

 

 

 

 

『口車ではなく、彼女1人の生き方を垣間見たというわけだ』

 

モニタ越しの紫色の髪をした男は、少し渋い顔だ。

 

「私にはわかりません」

『僕にもわからないよ』

 

死体は隠れ家の一室に放置している。

下手に処理しようとすれば、足がつく可能性があった。

 

それより、隠れ家に残った情報を精査し、最高評議会に不利になるような情報を消去しなければならない。

 

『そちらにクアットロを送るよ』

「トレディチではないのですか?」

『あの子は今、オーリスが持っていたディスクの内容を消去する任務に取られていてね。

例の老人達の要望だよ』

「またですか」

『あの子をやるのは別の意味で危険なんだが、彼等は気付いていないようだね』

 

モニタの向こうで、ドクターは溜息をついた。

 

最高評議会はドクターの生みの親であり、自分達にとって致命的な情報を持っているのだ。

だから、その要望には逆らえないのである。

今はそこまで高圧的でないからいいものの、ミッドチルダに拠点を構えさせるなど、色々と危険なことをやらせていた。

 

『そろそろ、彼等を排除する計画も考えないといけないね』

「ええ、妹達のためにも」

『それまでは済まないね、汚れ役を押し付けることになるけれど』

「いいえ、ドクターのためですもの」

 

一途に、ドゥーエはドクターのことを想っていた。

これは姉達も同じだろう。

 

自分達は、彼1人のために生まれてきたのだと、信じて疑わない。

実際、その通りなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

レジアス・ゲイズの後釜、首都防衛隊代表、防衛長官には、オズ・グンナルという男が就いた。

元犯罪者の部下を重用しているという噂をはじめ、色々と黒い噂の絶えない男だ。

だが、他に地上をまとめられるほどの優秀な人材はなく、評議会も渋々認可した。

 

オーリスは父の不祥事のために地上本部には勤務できなくなり、最初にその身柄を保護したリンディの指揮下に、暫定的に収まっている。

『アースラ』のクルー達が事情を知っているためでもある。

 

彼女がもたらした最高評議会の致命的な不祥事のデータは、なぜかすべて消去されていた。

最高評議会が動いたのは間違いないのだが、セキュリティや防犯カメラにもその姿が映っておらず、不気味なほど証拠が残っていなかった。

 

何かの希少技能(レアスキル)なのだろうという推測は成り立つが、どんな能力をどのように使い、ディスクのデータまで消し去ったのか、単独犯か複数犯か、それすらもわからない。

捜査するにも一切の手がかりがないという、はっきり言ってお手上げの状態だ。

だから、内部調査も一旦、打ち切るしかなかった。

 

 

 

 




第31話でした。
戦闘機人事件後編です。
レジアスがエースチームを組んで、シグナムをそこへ入れた理由は、本気で戦闘機人を潰すためです。
おかしいな、この話ではレジアスさんの頭が冴えているぞ?

レジアスさんに続き、名もなき秘書の人という、2人目の死者です。
なんてったってSts本編から9年くらい前の話ですから。
オーリスは20代前半くらいに見えました。
なので、このときは10代前半、とても秘書を任せられるほど経験値を積んでいるとは思えません。
なので、このとき裏の仕事まで管理していた、別の秘書という、ありもしない人物をデッチ上げています。

レジアスさんの死についてですが、私視点では、原作のあの人はどうも中途半端だと思っていました。
管理局や部下のために奔走するも、最高評議会に脅されて従わざるを得なくなっていく葛藤。
つまり、悪の側に立つには人が良すぎるんです。
そんな彼がピュアという少女の生き様を見たとき、最高評議会を裏切るという、この結末しか見えなかったんですよ。

その代わり、はっきりとド汚い暗部の人間である、オズ・グンナルをその位置に据え置きました。
ついでに、ありがちなナンバーズの新メンバー、トレディチですね。
他の人も、ナンバーズの新メンバーの名前はトレディチにしているようです。
敵側へのテコ入れは、グンナルとその部下ヴィザード、それにトレディチのオリキャラ3人となります。

それでは。
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