【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
『闇の書』破壊事件終結から半年。
プレシアとグレアムの裁判が結審した。
まずギル・グレアム元提督について。
1つ、氏の目的が史上最悪の
1つ、本人は数々の犯罪行為について深く反省し、捜査にも協力的なこと。
1つ、既に懲戒免職など、社会的な処罰を受けていること。
1つ、管理局の英雄とまで呼ばれた人物がこのような犯罪を犯すことは、社会的な影響を考えれば許されない。
以上の4点から、懲役1年の実刑判決が下された。
これは優秀な魔導師であり指揮官である彼ならば、約半年の懲罰任務という形で軽減することが出来た。
この懲罰任務という制度は、人材が不足しがちな管理局ならではと言える。
特に老いたとはいえ英雄とまで呼ばれたグレアムの指揮能力は引く手数多で、どこへ行っても重宝されるだろう。
次にプレシア・テスタロッサについて。
彼女が起こしたのは違法研究であり、その原因はかつて所属していた会社の、安全性を無視しろという無茶な指示によるものである。
これは彼女が次元航行施設『時の庭園』を返却したことにより、表沙汰となった。
つまり、担当したクロノは事件の直接の原因となった、新型動力炉暴走事故誘発させた罪を、会社に負わせたのである。
これによりプレシアが負っていた大半を占める、違法研究という罪が消えた。
会社が安全管理に口を出さなければ事故が起こることはなく、彼女が違法研究に手を染めることもなかったのだ。
次に司法取引が行われ、プレシアが持っていた医療関連の研究データをすべて提供することで、『ジュエルシード』を狙った輸送艦襲撃については軽減されることになった。
残るはフェイトに『ジュエルシード』を収集するように強制したことだけである。
これについては、彼女の精神状態がまだ少し不安定であることから、当時はもっと酷く、正常な判断が出来なくなっていたと認定され、無罪を言い渡された。
現在は完全複製に成功したことになっているアリシア、それに嘱託魔導師フェイトと共に地球に住まいを構え、療養生活を送っている。
違法研究によって培われた医療経験は、そのまま彼女の技として高く評価されていた。
そのため、幾つかの医療機関から、求人の要望が管理局へ届いている。
将来的には、そのいずれかの医療機関において働くことになるだろう。
オズ・グンナルは裁判の経過に目を通す。
が、特にコメントもなく次の案件へ進んだ。
既に決定したことを確認しただけで、特に文句をつけるべきこともなかったのである。
司法取引など、彼が関わってきた事件では日常茶飯事であり、これについて文句を言う資格があるとは思っていない。
「秘書くらいは生かしておいてほしかったものだ。これでは引継ぎも容易ではない」
「半分くらいは私が担当していましたから、問題はもう半分ですわね」
ドゥーエが言った。
グンナルが暗い意味においてもレジアスの後釜ということで、監視役として付けられている。
「転送装置の撤去は行わん。理由がないからな」
「しかし、これは最高評議会の命令です」
「あの阿呆どもめ」
グンナルは躊躇いなく、直属の上司を罵った。
「迂闊に撤去すれば、地上本部の相互利便性という最大の利点が失われる。
我々暗部にとっては厄介だが、表の人間にとっては有効な設備を、理由なく撤去など出来るものか」
「命令には従わないと?」
「数と場所を把握しておけ。おそらく、1基ずつ予備を隠してあるはずだ。
撤去できんのなら、有効利用させてもらうまでだ」
そのとき、ドアがノックされる音が響く。
一定の間を置いて4回。
「認証を……」
「入れ」
ドゥーエが言いかけた言葉を遮り、グンナルは言った。
彼は腕時計を確認している。
「ドゥーエ、覚えておけ、
何か、別の方法で認証を行ったらしい。
それがあの腕時計か。
高性能なコンピュータでも積んでいるのだろう。
「またお説教を食らっているんで?」
「お黙り」
軽薄そうな男に不快感を露わにするドゥーエ。
どうもこの男には調子を狂わされる。
「ヴィザード・リックス三尉、報告を」
「まずはグレアム元提督について。まだまだ若い者には負けないって感じですね。私見ではAAAは堅いかと」
「努力を怠らんということだな。あれはあれで厄介だ」
「次はアースラについて。潜入は難しいと思います。
俺なら、ってところですが、さすがに例の嬢ちゃんと鉢合わせして逃げ
「オーリスについては優先順位は高くない。諦めるしかあるまい」
「口封じもせずに放置しておくのですか?」
「わざわざ手掛かりを与えてやる必要はない。次だ」
淡々と報告は続いていく。
ドゥーエは最高評議会の指示すら無視するこの男を、レジアスの数倍は警戒していた。
慎重にことを進め、決して油断しない。
付け入る隙というものがないのだ。
なぜこんな男が管理局にいるのか、不自然な気がしてならない。
こういう、暗部を熟知したような男は、犯罪組織にいてしかるべきだろうに。
いざとなれば殺害を指示される位置にありながら、ドゥーエにはこの2人を殺す隙を見出せないでいた。
「ドゥーエ」
声をかけられる。
「はい」
「聖王教会に潜入してもらいたい」
「それはどうしてでしょうか?」
「例の少女について、不可解なことが多すぎる」
「それはわかります。それがどうして聖王教会なのですか?」
「早急に解明せねばならん謎のために、古代ベルカ式デバイスを1つ手に入れてきて欲しい」
「データならあるはずです」
「もちろん、それも照合するが、私の考えが正しければ、これは実機があってこそ意味がある」
「ということは、俺はサポートですかい?」
「その通りだ。彼女が潜入した痕跡はすべて消せ」
「了解」
わけがわからないままに、ドゥーエは了承することになった。
あまり細かく理由を問い詰めても時間の無駄だ。
この男が丁寧にすべてを答えてくれるわけがない。
海鳴市。
時空管理局地球支部兼、ハラウオン宅。
地球在住の魔導師達が夕方、集められていた。
「魔力の結合阻害への対策?」
「ああ、首都防衛隊のエースチームが襲撃を受けた件について、本局でも対策を進めようということになっている」
ああ、と八神はやては頷いた。
つい先日、ガジェット・ドローンと名付けられた機械兵器に襲撃されたのは、シグナムの勤務先である。
それに関連してヴィータやシャマルも動いており、その辺の話は当然、主である少女はやてにも伝わっていた。
「今、地上本部は混乱している。
死んだレジアス・ゲイズ中将の後釜になったオズ・グンナル中将が内部をまとめようとしたが、レジアスが自分の死後にやるべきことを、既に通達していたそうだ」
シグナムの話に、クロノは苦虫を噛み潰したような顔をする。
レジアスの遺言とオズの命令が二重になり、上層部は対応に追われているらしい。
「あのディスクのデータが残っていれば、本局からそれを渡して引継ぎが出来たんだが……」
何者かに侵入され、オーリスが本局に持ち込んだディスクのコピーの中身さえもが真っ白になってしまっていた。
消去できないように、前時代的なROMディスクに焼き込まれていたのだが、見た目は傷一つないのに、データだけが解析すら出来なくなっていたのである。
「そちらについては極秘に調査中だ。本局の上層部も本腰を入れるらしい」
クロノは話すが、はっきり言って侵入者の手掛かりが何もない中、どうやって調べればいいのか、皆目見当がつかない。
完全にお手上げの状態なのだ。
敵、おそらくシグナムが所属するゼスト隊を襲撃した、戦闘機人と呼ばれるサイボーグ達に通じる組織の仕業だということはわかっているのだが。
「それとは別に、シグナムが体験した
「私の場合は、作戦に何か異常があることは察知できたからな。後は勘だ」
「勘なの……?」
高町なのはは脱力した。
「戦闘において、勘ほど頼りになるものはない。大抵は考える時間などないからな」
「アタシ達も経験が長いからな。割とよく当たるんだぞ」
「そういうものなのかい?」
ヴィータが無い胸を張ると、アルフは首を傾げる。
勘というのは、理論の前に結論を導き出す能力と言っても過言ではない。
例えば、人々は何気なく指を自在に動かしているが、それを機械で再現させようとすると、途方もない労力が必要になる。
関節が3つもあるものを、人間は座標配置などの理論もなく動かしているのだ。
なぜか。
指を関節1つずつ動かすという経験を積み重ねて、勘で動かせるようにしているからだ。
それと同じで、『闇の書』の一部として様々な戦闘を経験してきたシグナム達守護騎士は、他の魔導師やベルカ騎士よりも、勘がよく当たるのである。
今回、シグナムが作戦前に異常を察知できたのも、積み重ねられた経験から来る勘の賜物であった。
「理屈としては、おそらく術式阻害だろう」
「術式阻害?魔力素操作をしてるさ?」
ピュアが声を上げる。
シェオール魔法は場を支配する手段が多い。
シグナムが言った術式阻害もその1つだ。
「シェオールのものほど高度なものではないと思う。魔力放射で簡単に対処できた」
異常を意識していたからこそ、シグナムは魔力放射による騎士甲冑の強化という手段を選び、それが偶然にも正解だったのだ。
「まだ本局に情報が行っていないかもしれないが、例のガジェットというやつにはAMFを展開する装置が搭載されていたそうだ」
「魔力放射か……」
クロノは唸った。
魔力放射はAAAランクの魔法技能である。
AAAランクは管理局全体では5%にも満たず、対応策が魔力放射しかないということになれば、管理局に所属するほとんどの魔導師がAMFに対しては無力ということになってしまう。
「一応、
「なんとなく想像できるね」
フェイトが苦笑する。
シグナムは戦闘において『届くまで近付いて斬る』ことを是としており、実戦でそれができる実力者でもあった。
「それでもAAランクのスキルだな……」
クロノは呻く。
ゼスト隊が受けた襲撃というのは、レジアスが試験運用していたような、エースチームだからこそ対応できたと言っても過言ではないレベルのものだったようだ。
まさか、レジアスはこのレベルの襲撃の可能性を考えて、あのエースチームを組んだのだろうか。
いや、一応今はデータが消えている彼のディスクに目を通したが、そういうものは含まれていなかった。
結局、本人に聞いてみるしかない。
「多分、魔力の濃度を上げるくらいなら、非殺傷設定の艦砲射撃で対応できると思うさ」
「非殺傷設定が出来れば、な」
「でもよ、魔力炉からの魔力放射とかで対応できるんじゃねえか?」
ヴィータが言った。
だがクロノは首を横に振る。
「エネルギーの水準が高すぎるんだ。放射なんてしたら、周囲が300℃以上の灼熱地獄になってしまう」
「それはちょっと辛いですね」
高ランクの魔導師ならともかく、一般人には致命的な温度だ。
「まあとにかく、もしかしたらなのは達の任務先でもガジェットが現れるかもしれないから、各自対応策を考えておいてくれ」
大分日が傾いてきたのに気付いたクロノは、そう言って最後に締め括った。
第32話でした。
グレアムさんとプレシアさんの裁判終了です。
グレアムさんの量刑についてはテキトーに決めました。
プレシアさんの無罪は、いわゆる心神耗弱による責任能力の喪失云々です。
が、描写はありませんが、精神科医による診断やカウンセリングは受けています。
精神科の主治医が退院を許さなければ、ずっと入院のままです。
下手すると本来の刑期より長く拘束されるかもしれません。
捏造設定なんですけどね。
グンナルが早速不穏な動きを始めます。
敵方テコ入れキャラとして、存分に働いてもらう予定です。
とりあえず、物語の中核に関わる重要な伏線でも。
それでは。
2012/8/8、読者様の指摘より、一部修正。