【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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事態が動く前兆みたいなものです。


036 それぞれの動き

「やっぱり、前と同じようにっていうのは難しいわね」

 

ストレッチしながらクイントが呟く。

 

「病み上がりなんだし、あんまり無茶しないでよ」

 

メガーヌが心配そうに言った。

 

「わかってるって」

 

クイントは約半年前の戦闘機人事件において、生死の淵を彷徨う大怪我を負った。

 

そのときに集積器官(リンカーコア)が損傷し、魔力資質における瞬間最大出力や魔力容量が大幅に落ちてしまっていたのだ。

肉体的な怪我が治ってリハビリも済んだのだが、前線に復帰できるほどの戦闘力を取り戻すには、まだまだ訓練が必要だった。

ただ、もし復帰できたとしても、精々CかBランクに留まるだろう、と主治医には言われている。

 

「ま、シグナムだって上手くやってるみたいだし、焦って無理してもしょうがないわ」

「取っ付き難いところがあるのが玉に瑕だけどねえ」

 

2人で談笑する。

 

「そういえば、転送装置が残ってるって言ってたけど、そうなの?」

 

現在、クイントはゼスト隊から出向し、復帰後は戦技教導隊に編入される予定になっている。

現場における経験を後裔の指導に生かすことを期待されているようだ。

怪我でランクが下がると、以前と同じ感覚で動いてしまうことがあり、実戦では致命的なミスをしてしまうことがあるため、現在の感覚に慣れるための繋ぎでもある。

 

クイントは現場での乱暴な魔法の応用法、救出した人質の取り扱いなど、戦闘力以外の指導について教えることにしていた。

今まで割と勘に頼っていたため、魔力運用についての理論面は苦手なのだ。

頭はいい方なのだが。

 

「ゲイズ中将の後任の人が、便利だから残しておくって言ってるみたいね」

「まあ、確かに移動面では便利かもね」

「整備は大変みたいだけど、応援に行くときとか便利なのよね」

「そうそう」

「ふむ、やはり撤去を見送ったのは正解だったか」

 

休憩所のベンチで一休みしていた男性管理局員が呟く。

強面の渋い中年男性だ。

 

「ただ逆らったというだけで彼の方針を全否定する上の考えも困ったものだ。

それでは人材不足に対処などできんというのに」

 

ブツブツと文句を言う男性。

話の内容を聞いて、まさかと階級章を確認する。

 

「……あれ?まさか、グンナル中将、ですか?」

「気にするな。一般局員に緊張されても困る。本部では休憩中に独り言も言えんからな」

「は、はい……」

 

緊張するなといわれても無理な話だった。

 

ここは地上本部の教導隊隊舎である。

クイントもメガーヌもあまり知らなかったのだが、グンナルは本部から近いこの隊舎の休憩室に来て、独り言で上層部の文句を言ったり、煙草を吸ったりして帰っていくことが多い。

本部には評議員が滞在することも多く、迂闊に文句などは言えないのだ。

 

ただし。

独り言で文句を言う癖があるのは本当だが、本当は自分に監視の目を向けさせ、地上部隊の生の声を自分が聞いたり、監視者に聞かせるのが目的だ。

上層部の問題点を並べることで、地上部隊の信頼を獲得するのも、目的の1つである。

 

「しかしそうか、私も後裔を育てておかねばな。他人の文句を言うばかりでもいかんか」

 

様々な思惑があるとはいえ、上の悪口を部下達の前で言うのもどうかとは思うが。

 

 

 

 

 

 

 

最高評議会。

 

そこへ1人の男と通信が繋がっていた。

宙にモニタが浮かんでいる。

 

「それでは、不老不死の研究は行わないと?」

『あのシェオール人が『アルハザード』と呼ぶのは、封印都市の方じゃ』

『行き方もとうの昔に知れておるが、正直あれに手を出したくはない』

『あそこの技術で不死を目指すくらいなら、1000年かかろうがこのままでよい』

「へえ、あなた方がそこまで言うとはね」

 

青髪の男は心底意外そうに言った。

 

『『アルハザード』には2種類あるのじゃ』

『すなわち、首都と封印都市じゃな』

『封印都市とは、『アルハザード』の時代に虚数空間へ丸ごと封印された、『アルハザード』の一部じゃ』

「危険な技術であろうと、研究の一助となるのでは?」

 

男は少しでも情報を引き出そうと、質問を重ねる。

 

『役に立つのならばな』

『蟻を潰すのに大陸を沈めるほどの代償を求める技術が眠る場所じゃ』

『迂闊に暴発などさせれば、ミッドチルダが滅びかねん』

「ふうん、確かにそれは困るねえ。厄介な技術だ。僕のような存在でない限り、扱うのは難しそうだね」

 

一応、納得したと言っておく。

少し興味があったが。

そこへ到達するのは今でなくとも構わない。

 

『我々が求めるのは、あくまで『アルハザード首都』の技術じゃ』

『左様。先に言っておかねば、万一封印都市の技術を持ち帰られても困る』

『あのシェオール人に手を出すのも止せ。クローン利用程度ならば構わんがな』

「了解しましたよ。なんといってもスポンサーからのお願いだからね」

 

それから少し連絡事項を話した後、モニタは消える。

 

 

 

「トレディチちゃん」

「クアットロ姉上と認識」

 

黒髪の少女は声をかけられて振り向いた。

 

表情のない、硬質な目をした、17、8歳くらいの少女である。

それがトレディチ、13番目を与えられた戦闘機人であった。

 

今は培養液の中で生まれた姿のまま、浮かんでいる。

 

「気分はどう?」

 

スーツ姿、茶髪の女性が声をかける。

 

彼女はクアットロ。

4番目という名を与えられた、戦闘機人の、トレディチの姉である。

 

「システム各部に異常(アラート)なし、『電子干渉(エレクズィオン)』正常稼動」

「そう、よかったですわ。調整中なのに動かせと言い出すんですもの」

 

クアットロは慈愛の目をトレディチへ向けた。

現在、洗脳によって強制覚醒させているが、脳が正常稼動しているとは言い難い。

それを調整するために円筒形の水槽に入っており、これからしばらくは覚醒させない方針である。

 

「広域端末への接続を希望」

「まだ寝ていなさいな。頑張りたいのはわかるけれど、無理をして壊れてしまったら、悲しいわ」

「……了解。休眠モードへ移行」

 

黒髪の少女は目を閉じる。

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

時空管理局、本局。

整備中の次元航行艦『アースラ』ブリッジ。

 

「そろそろ慣れてきた?」

 

艦長リンディが声をかける。

 

「はい、なんとか」

 

応えたのは、茶髪の少女。

オーリス・ゲイズ。

 

父の遺言から、今はこの『アースラ』の乗務員(クルー)の1人として働いている。

乗務員といっても、やることは書類データの整理やスケジュール管理だ。

秘書として教育を受けていた彼女の能力を生かすには、現在のところこれしかなかったのである。

 

もっとも、リンディ自身、事務系の能力には長けているし、ブリッジクルーのエイミィがそれまで担当していた部分も多く、他のクルーが気さくな雰囲気なこともあって、チームに溶け込めてきていた。

 

「さすがレジアス中将の秘蔵っ子って言われていただけありますね。覚えてる法律の量が凄いですよ!」

 

エイミィが手放しで賞賛する。

 

「その分、融通が利かないことも結構あるようですけれど……」

「そんなのこれから覚えていけばいいって。基礎がしっかりしてると、教える方も教えやすいんだから」

 

オーリスはかなり頭がいい。

しかも物事について深く読むことができる、洞察力の持ち主でもあった。

辣腕で名の通ったレジアスの娘、というのは伊達ではないらしい。

 

それだけに、なんとか対立が続く本局と地上の橋渡しになれば、ともリンディは思う。

だが父親であるレジアス中将の数々の不正が発覚した今、それは難しいと言わざるを得ない。

せめて、オーリスに託されたディスクの内容が残っていれば、なんとかなったのだが。

 

これだけ有能な人材を、父親の件だけで台無しにしてしまうのは惜しい。

だからせめて、どうにかしてレジアスが暴き出そうとしていた、管理局の闇にメスを入れたいと思っているのであった。

嘱託魔導師として抱えることになった4人の少女達のためにも、自分達大人が為さなければならないことは多い。

 

リンディはそう思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

本局、技術部にて。

 

「それ、本気?」

 

マリエルが、真剣な表情のなのはとフェイトに聞く。

 

「もう1年とか、せめて半年、待てないの?」

「あのガジェットっていうのが、いつ出てくるかわからないから」

「そのせいで助けられる人を助けられなかったり、そんなのは嫌なの」

 

『ああ、やっぱり』。

それがマリエルの感想だった。

 

彼女が整備を担当する『アースラ』の艦長、リンディ・ハラウオン提督は、管理局の中でもかなりの曲者である。

階級こそ低めに甘んじているものの、法律を逆手にとって事を運ぶ政治的な手腕や話術は評価が高い。

 

その提督に有無を言わせなかったという逸話が、なのはという年端もない少女にはあるのだ。

こうと決めたら梃子でも動かない、大人顔負けの強靭な意志の持ち主なのである。

 

さて、問題は彼女達のデバイス『レイジングハート』と『バルディッシュ』への、カートリッジシステムの搭載だ。

 

現在、ミッド式デバイスへのカートリッジシステム搭載の動きが広がっている。

しかし、発動体を使って肉弾戦を行うことを前提とした、ベルカ式デバイスに搭載されていたのがカートリッジシステムである。

それをミッド式デバイスに載せようというのは、どう考えても強度の面で不安があった。

 

喩えて言うならば、取り回しの良いピストルでライフルの弾を撃つようなものである。

銃というものは、反動を軽減するためにわざと重く作られているのだ。

無理に軽い銃に高い火力の弾丸を詰め込んでも、反動が酷くてまともに狙いがつけられない。

その上、充分な強度のない銃身では、すぐに過熱(オーバーヒート)し、変形したり暴発したりしてしまう。

 

デバイスの場合は暴発こそ起こさないものの、想定以上の魔力によって回路や術式が短絡(ショート)してしまい、機構を破壊してしまう恐れがあった。

 

それが、比較的強度の高い単純記憶型(ストレージ)デバイスならばまだしも、さらに強度が低くなった知能型(インテリジェント)デバイスにいきなり搭載しようというのは、無茶な話である。

ミッド式デバイスにカートリッジシステム搭載の動きが広がっているとはいえ、それはあくまで単純記憶型(ストレージタイプ)の話なのだ。

 

肉体への負荷増などは、既にシャマル辺りが説明しているだろう。

だから、説得するならハード面、デバイスの話だ。

 

「『レイジングハート』と『バルディッシュ』はそれでいいの?」

Please(お願いします)

No problem(無 問 題)

 

2つの人工知能は即答する。

 

マリエルは思った。

誰に似たのだろうか、と。

 

 

 

 

 

 

 

様々な人間の思惑が複雑に絡み合い、歴史は編まれてゆく。

そして。

また1つ、事件が起こる。

 

 

 

 




第36話でした。
それぞれの人の戦闘機人事件のその後って感じです。

ええっと、トレディチの話ですが。
クローン培養でホルモンバランスが不安定なのを無理矢理動かしたため、色々と無理がかかり破綻しかけている状態です。
往々にして不完全な状態で戦場に駆り出される、まさしく兵器って感じの運用ですね。

電子干渉(エレクズィオン)という(インヒューレント)(スキル)の内容はまだ秘密です。
まあ、電子機器を操作して、CDみたいな記憶媒体の内容も書き換えてしまう、という能力なのは本文中で語った通りですが。
元々ピュアと対決させようとしていた能力だ、ってことは覚えておいてください。

それでは。
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