【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
ピュアの広域探査魔法の精度は、ミッド式のそれを遥かに凌いでいた。
探査距離、誤差、精度、そして、肉体にかかる負担までも。
最初に『ジュエルシード』を入手してから6日が過ぎた。
1つは近くの湖の
1つは海の中。
1つは少し離れた森の中。
1つは温泉宿の近くの川の中。
このとき、フェイトは白い
もっとも、ピュアに伝えられていたため、驚きはしなかったのだが。
それから『ジュエルシード』を賭けての魔法戦を行い、これに勝利。もう1つ。
1日に一度、ピュアの体調を見ながらで休ませた日もあったとはいえ、それに見合う、いや、それ以上と言える成果が出ていた。
ともかく、これで6つ『ジュエルシード』を確保できた。
ただ、なのは、という白い魔法衣の少女の言葉に、フェイトは心が揺れるのを自覚していた。
自分達がやっていることは、犯罪スレスレの行為だと自覚しているがゆえに。
ただまっすぐに、純粋に、歳相応の子供らしく、そのひと言ひと言がフェイトの心に入り込むのだ。
事情を話して、協力してくれるというのなら、こうやって奪い合うのではなく、共闘できたなら。
しかしそれは、母は受け入れない。
聞いてしまった。
はっきりと、『侵入者を殺せ』と。
ならば、共闘したことが知られれば、必ず裏切り奪い取れと命じられるに違いない。
それはできない。
このまま、ピュアは厚意の協力者、なのはは敵対する魔導師。
それでいい。
それでいいはずなのに。
『あなたとお話がしたいの!』
まっすぐな瞳で、純粋な気持ちを、歳相応の子供らしい言葉に載せて、送ってくる。
心の防壁を越えて、浸透してくる。
応えたい。
心がざわめく。
「フェイトちゃん、大丈夫?」
目覚める。
そこにあったのは、心配そうに覗き込むピュアの色彩のない真っ白な顔。
詳しくは聞いていないが、瞳は濁っているものの、魔法か何かで視覚を代用しているようだ。
思わず、寝間着に包まれたその華奢な体躯を抱き寄せる。
「ひゃっ!?」
ピュアは少し抵抗の意思を見せるが、力を込めるとすぐに大人しくなった。
「いっ、たぃ……!」
さらに力を込める。
温かくて柔らかい。
荒んだ心が癒されていくようだ。
「その、ごめんなさい……」
フェイトは平伏する。
あんまりに心地良いので、寝惚けていたこともあり、そのまま思い切り抱き締めてしまったのだ。
しばらくもぞもぞと蠢いていたピュアが、ぐったりと動かなくなったのである。
数分後、朝食に起こしに来たアルフが気付いたので事なきを得たが、ピュアはしばらく怯えていた。
まさか子供の細腕で死に掛けるとは思わなかった。
一度、アルフとは念話でピュアの戦闘力について話したことがあったが、どうやら無駄だったようだ。
寝惚けたフェイトに抵抗できない程度の体力となると、どんな戦闘技術があったとしてもほぼ台無しである。
下手をすると幼稚園児より弱いのではなかろうか。
朝のこともあり、ピュアの体調が思わしくないので、フェイトとアルフが『ジュエルシード』探しに出かける。
最近はピュアのサポートもあり、フェイトの体調も決して悪くはなかった。
ということで、多少の無茶も利く。
広域探索魔法で大雑把な位置を掴み、広域への魔力放射で『ジュエルシード』を強制発動させるのだ。
この方法は、広域探索だけでは位置を特定できそうにない場合に使おうと思っていた。
ピュアが次々と『ジュエルシード』を発見したため機会がなかったのだが、フェイトの体力に余裕もある今なら使うべきだろう。
魔力放射とは、様々な使われ方をする。
原理で言えば、『リンカーコア』で周囲の
今回は、『ジュエルシード』に射撃魔法を直撃させた状態を擬似的に再現し、半ば暴走に近い形で発動させる。
『ジュエルシード』は、発動さえしていれば発見も封印も容易だ。
当然、魔力の放出は肉体に負荷をかけるため、広域への放射はまだ未熟なフェイトの身体には大きな負担となる。
アルフが封時結界を展開し、フェイトが魔力放射を行なう。
封時結界とは、術者が設定した条件に合う者を現実世界と重なった、現実世界には影響の出ない位相の違う亜空間を展開する魔法だ。
術者の定めた条件と言っても、『リンカーコア』の有無など、大雑把な括りでしか選べないのは難点かもしれない。
とにかく、この魔法を使用すると、現実世界から亜空間へ、条件に合ったものつまり今回の場合は『魔力を持ったもの』が送り込まれる。
『リンカーコア』を持つ者にならそれは視覚として見えるので、近くにいればすぐに気付くことができるのだが。
フェイトは半ば、なのはと名乗った白い魔法衣の少女が来ることを望んでいた。
「気付かれたみたいだよ」
「うん。『ジュエルシード』は見つけた。行くよ、アルフ」
「ああ!」
ビルが面する大通りの隅に、『ジュエルシード』は落ちていた。
「“ジュエルシード、№10、封印”」
“
金色と桃色の光が二重に『ジュエルシード』を封印する。
黒い
これで3度目の戦い。
なのはの構えや挙動から、相当な訓練を積んできたことが
物凄い勢いで成長している。
今度は、油断できない。
ソファで休んでいたピュアは、はっきりとその声を聞いた。
『自分の暮らしている街や、自分の周りの人たちに危険が降りかかるのは嫌だから。これが、私の理由!!』
子供らしいといえば子供らしい、清々しいまでに理屈をかなぐり捨てた感情の発露。
これは口に出して叫んでいるな、とピュアは思う。
文脈的にもそうだし、状況的にも話に聞いていた白い
そこに浅い怒りはあるが、憎しみや恨み、不安といった負の感情はない。
勝敗すらも、今の彼女は置き去りにしていた。
ピュアが持つ『情動感応』は、外に向いた強い感情なら、離れていても心の声まで聞こえることがある。
不意に。
フェイトの心が大きく揺れた。
それを感じ取ったアルフが何事かを叫び、ある程度安定させる。
強い感情だから離れていても感じ取れたが、何を言ったのかまではピュアには聞こえなかった。
しかし、フェイトの精神は以前よりもさらに不安定だ。
今にも泣き出しそうで、それでも自分の目的のために、立ち止まることを許さない。
立ち止まる自分を赦さない。
「フェイトちゃん……」
最早、一刻の猶予もない。
このまま放置すればフェイトの心は壊れてしまう。
念話で、どうやって呼び戻す?
『『ジュエルシード』を諦めろ』などと言って、彼女が受け入れるだろうか。
ピュアがソファから身を起こして思案していると、大きな魔力の爆発のようなものを感じ取った。
この
『ジュエルシード』の暴走だ。
しかも、今までの暴走よりも放射されているエネルギーが遥かに大きい。
空間が裂け始めるレベルだ。
このまま暴走し続ければ、いずれこの世界を飲み込んでしまう。
ピュアは慌てるが、どうしようもない。
彼女は飛行魔法が使えないのだ。
今から徒歩で向かって、間に合うとは到底思えなかった。
アルフかフェイトに念話で迎えに来てもらうしかない。
ピュアは『情動感応』というレアスキルを持っている関係上、自分の感情操作には慣れている。
だから、ピュアなら『ジュエルシード』に願って、事象をある程度コントロールすることはできそうだった。
しかし念話を送る時になって、フェイトの強い感情がそれを遮った。
『鎮まれ……鎮まれ……!』
先程まで壊れそうに不安定だったとは思えない、強く願う感情。
余計な雑念が除外、最適化されていき、ただ一筋に向かう。
その中心にあったのは、白い
何事もなく終わったかもしれない、白い
自分の周囲の平和を守ろうとする行為を邪魔しているのは、間違いなく自分達なのだから。
自分達の勝手な都合で、『ジュエルシード』を横取りしようとしている。
ならばせめてもの義務として、この世界を、あの少女が守ろうとしているものを傷つけてはならない。
果たして。
『ジュエルシード』の暴走は止まった。
同時に、フェイトの意識が途切れる。
10分後。
「“――、――”」
アルフはピュアに疑念を持った。
この真っ白な容姿の少女は、意識を失ったフェイトを抱えたアルフが帰ってきた時には、既に詠唱を始めていたのだ。
念話で連絡したわけでもないのに。
それからもたっぷり5分かけて、
「“
この残念な気持ちになる詠唱は一体、何なのだろうか。
青い魔法陣と共に直径2mほどの小さな結界が展開される。
威力は凄まじいのひと言だった。
広域魔力放射、戦闘、『ジュエルシード』の捨て身の抑え込みという、蓄積した疲労からすれば半日眠っていてもおかしくなかったフェイトが、3分ほどで目を覚ましたのだ。
慌てて確認すると、『ジュエルシード』を素手で抑え込んだときの傷が塞がりかけていた。
「『リンカーコア』に魔力を満たして、肉体の自然治癒力を活性化させたさ」
ピュアの故郷の魔法には、こんな、間接的な治癒魔法しかないのだという。
その関係上、どうしても外科手術的なミッド式には劣る部分がある。
それにしたところで、ここまでの効果を発揮できる治癒魔法を使える者がどれだけいるだろうか。
不思議なのは、これだけの魔法を使ったにもかかわらず、ピュアの体調がそれほど悪化したようには見えないことだ。
広域探査魔法と一体何が違うというのだろうか。
翌日、フェイトはベッドで目を覚ます。
少し寝過ぎている気がした。
それもそのはず、1日でかなり無茶をした彼女は、大事を取ってその日は無理矢理ベッドに寝かしつけられたのだ。
ピュアの魔法のおかげで怪我もほとんど治り、体調もかなり回復していたのだが。
しかし、それを確認したピュアが、ベッドから出ることを許さなかった。
『この魔法は体の疲労を取るさ。でも、心の傷を癒すことはできないさ』
そのひと言に、何も言い返せなくなった。
体調は良くても、なのはの言葉に色々と考えてしまって、自分がするべきことを見失いかけていたのは事実だ。
気持ちを整理する時間は必要だったかもしれない。
「ん、ふぁ……」
伸びをして横を向くと、色彩のない真っ白な少女のあどけない寝顔があった。
朝、と言うには少し早い時間に目覚めてしまったようだ。
「んぅ……おか……さ……」
ピュアは夢を見ているらしい。
母親が恋しいのだろう。
この辺りはまだまだ子供だ。
フェイトは寝間着姿のピュアを優しく抱き締めた。
当然、白い唇が無意識に紡ぎ出す言葉を、間近で聴いてしまう。
ピュアが無意識に維持している翻訳魔法が、
無情にも、
その言葉を、
正確に、
フェイトに、
伝えた。
「おかあさん……おねがい……わたしを……ころして」
第3話でした。
最近、ヒゲソリのCM『キレテナーイ』も見ませんね。
CMの定番ネタだったのですが。
小学生に寝ぼけて絞め殺されかける最強系女主人公は嫌いですか?
この辺まで、大体原作の通り進みます。
回収できたジュエルシードの数は倍以上ですが。
今回は原作では最初に次元震が起きた話ですね。
それでは。