【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
炎と共にある記憶が、2つある。
これはその1つだ。
発達した世界だったと思う。
石炭が燃える臭い、油の臭い。
魔法と共に科学が発達していた。
魔法はミッド式。
科学は鉄の戦車。
その世界では争いが絶えなかった。
鉄騎と魔法の争いは、果てしなく続いていた。
少女は奴隷として売られていた。
まだほんの少女だったが、その異常な容姿が人の目を引く。
高値で取引されたらしい。
魔法も科学もそれなりに発達した世界だったが、倫理は発達していなかった。
少女は道具だった。
特に濃い魔力を内包した血液であったため、少女は何度も血を抜かれた。
優秀な血液を持ったタンクとして、少女は扱われていた。
彼女は、自分から血を抜かれることで、生贄になるはずだった数十人の命が助かるのだと、そう考え、耐えていた。
そう、自分に言い聞かせ、耐えていた。
抵抗するだけの力はある。
自分を買った魔導師は、少女が魔法を使えないように、万全に封印していると思っているようだが。
それは無意味だった。
しかし。
他人の命を奪うという意味を思い知っている彼女は、抵抗する意味を見出せないでいた。
派手に抵抗すれば、戦えば、少なからぬ人間を死へと追いやってしまうから。
感情を読めるといっても、それは万能ではない。
完全ではない。
魔導師が何を考えているのか。
何を目的としているのか。
慎重に見極める必要があった。
その慎重さを、後悔することになるとも知らずに。
大きな戦争があったそうだ。
少女は多く血を抜かれた。
それで死んでも構わないと、遠慮なく。
しかし、少女は死ななかった。
朦朧とする意識の中、大きな音を聞いた気がした。
音?
声だ。
悲鳴。
「うああぁぁぁぁぁ……!!」
思わずうめく。
気付いてしまった。
全部気付いてしまった。
さっさと自殺でもしておけばよかった。
後悔が心を切り刻む。
自分はこれをよく知っている。
忘れようとも、忘れられない。
今でも夢に見る。
いや、永遠に忘れることなどないのだろう。
ある意味懐かしい、今際の断末魔。
容赦なく送り込まれる
魔導師は少女の血を使い、大規模な破壊を行う儀式魔法を使用したのだ。
敵味方もろとも、強大な炎の儀式魔法で戦場を丸ごと消滅させた。
他人に悪意を持ちたくない、敵意を持ちたくないという、戦闘の忌避が、彼等を殺したのである。
「生きていたのか、存外丈夫だな。まあいい。これからも猿どもを滅ぼす道具としてやる。喜べ」
少女のうめきに気付いた魔導師が言った。
「高貴なる魔道王の役に立って死ねる幸せを噛締めるがいい」
少女の理性が飛んだ。
一遍の光も見えない。
今すぐに御破算にしてしまわなければ、この魔導師は敵を滅ぼし尽くしてしまう。
立ち上がることはできなかった。
問題ない。
身を起こすことはできなかった。
問題ない。
辛うじて睨みつけるのが、肉体的には精一杯だった。
問題な衣。
体が青い光を発し始めた。
転生魔法が発動する合図だ。
文題奈い。
転生が発動するまで、あと30分。
「なんだ、その目は!?」
蹴られる。
既に痛みは麻痺している。
肉体的には、危険な兆候だ。
「喜ばんか!嬉しいと言え!」
頭を踏まれる。
もう、怒鳴られなければ、周囲の音が聞こえない。
索敵範囲数キロの範囲内の、魔法によって動く道具、魔法陣、魔導書を焼き払うには。
ありえないほど魔力素を集中させ、1人の人間から魔法を奪い去るには。
この状態で
自己嫌悪に陥る。
生まれて初めて、自分の意思で他人を破滅の追いやった。
リンカーコアに魔力素を過剰に集中させ、負荷によって破綻させた。
これからは、魔法を使うたびに魔法が暴走するだろう。
最悪自爆である。
あの魔導師は魔法に頼っていた分、魔法がなくなれば何もできなくなる。
あの男には惨めな末路しか残されていない。
無理に魔法を使って自爆するか、魔法が使えなくなったことに気付いた奴隷達に殴り殺されるか。
あるいは、死ぬより辛い目、奴隷として扱われ、心や体を壊して狂死するか。
思った以上に。
自分は、正気を失うと、思考が恐ろしく負に偏る。
あんなことをして生かしておくくらいなら、いっそ殺した方がマシだ。
自分のような悲劇の残骸が、他人を裁いたのである。
そのような資格も、権利も、ありはしないというのに。
どうするべきだろうか。
舌を噛み切るには、自分の顎は弱い。
運良く死ねるところでなければ、またメイワクをかけてしまうかもしれない。
自分は、どのように生きようとも、善良な人間にとっては悪害にしかならないようだ。
せめて、他人に迷惑を掛けたくない。
それには、祈ることしかできない。
今度こそ、いち早く死ねる世界に転生できますように。
と。
『なのは、出動依頼だ。いけるか?』
クロノから念話が届く。
『闇の書』事件から半年以上が過ぎ、
シグナムは所属を首都航空防衛隊から本局航空武装隊へ。
ヴィータは次元航行部隊から本局航空隊へ。
ザフィーラは次元航行部隊から管理局を離れ、嘱託魔導師として八神家の留守を預かる身分へ。
シャマルは医務室から変わっていない。
地球が準管理世界に認定されたことで、『闇の書』事件の際に設置された臨時指令所は、そのままハラウオン家と現地魔導師組織との折衝を行う部署を兼ねる場所へと、その役割を変更していた。
地球在住の魔導師である高町なのはとフェイト・テスタロッサは、管理局に嘱託魔導師として登録し、依頼を受けて任務を行い、報酬を受け取る仕事をしている。
八神はやてとピュア・フィエリアーナ・グレアムについては、身体的体力的な問題があり、嘱託魔導師としての登録は見送られていた。
『うん、すぐ支度してそっちに行くの!』
高町なのはは、友人でもあるクロノ・ハラウオンに念話でそう返す。
ハラウオン家には本局と地球を繋ぐ転送装置が設置されており、出動依頼が来た際は念話を使うか、なのはが持っている携帯電話に連絡を入れるようになっている。
ミッドチルダの技術ならば、地球で契約した携帯電話を通じて連絡を入れることなどは造作もない。
なのはが持っているデバイス『レイジングハート』を通じて連絡を入れることも可能だが、人の目を気にすることになるため、こういう形にしている。
「なに、またお仕事?」
月村邸の庭先で勉強会をしていたなのはに、アリサ・バニングスが声をかけた。
金髪碧眼の、大富豪のお嬢様だ。
「うん、ごめんね、みんな」
「ううん、緊急のお仕事だもの。しょうがないよ」
すずかは了承の意を示した。
なのはは
紫がかった髪をした月村すずかも、アリサと同じく大富豪のお嬢様だ。
ただし、彼女は夜の一族という裏社会の中枢を担う一族の当主の家に生まれ、今はミッドチルダとの交渉窓口としての役割を負っている。
資産的にはバニングス家の方が上だが、重要度においては月村家の方が上である。
もっとも、重要度という意味では、その場にいる全員が負けていないのだが。
なのはの実家高町家は、今でも月村家当主、月村忍のボディガードを依頼されるほどの剣豪の一族。
短髪黒髪少女八神はやては、『闇の書』事件から高ランクの守護騎士を4名も抱えており、戦力的には夜の一族に引けを取らない。
金髪赤眼の美少女フェイト・テスタロッサの母プレシアは、完全人体複製という、魔法科学ですら成し得なかった前人未到の技術を確立した、魔法医学の第一人者。
そして髪から肌から瞳まで真っ白な少女ピュアは。
亡国の魔法技術を唯一継承する存在で、その身には『アルハザード』製の古代遺失物を2つも宿している。
「気をつけてね」
フェイトは心配そうに送り出す。
「大丈夫なの。カートリッジシステムにも慣れてきたの」
「慣れてきたときが恐いんやで」
「うん、気をつけるの」
「何かあったら、遠慮なく呼ぶさ」
「うん」
はやてとピュアに応え、なのはは宙に舞い上がった。
すぐに認識阻害の魔法が働き、非魔導師であるすずかとアリサには見えなくなる。
そして、数分もしないうちに、建物の陰に入って、少女の姿は完全に見えなくなった。
第37話でした。
冒頭にたまに入れる回想についてですが、あのままでいいものか悩んでいます。
色々と問題のある話をしてるわけですから、悩みは尽きないのですが。
この話の回想については、今までと少し扱いが異なります。
言ってしまえば、本人は忘れてしまった記憶の中にある話なので。
それでは。