【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
「な……!?」
ヴィータは『なんだよあの数』と言いかけた言葉を飲み込んだ。
現場の指揮官が動揺を見せれば、部隊は瞬く間に壊滅する。
相応の実力とともに、求められるのは部下の力を最大限に発揮できる能力。
中近距離が得意なオールラウンダーとして、彼女は多くの経験を積んでいた。
絶望的な戦いも多く経験している。
残念なのは、大半が『闇の書』の不具合のせいで忘れてしまっているということだろう。
しかし、一個部隊を指揮する程度ならば充分。
そのはずだった。
予想外のことは起きるもの。
目標の研究所から飛んできた劣化ガジェットの数が、数百にも上るなどと、誰が予想するだろうか。
精々が百かそこら、それに混じって魔導師や通常の質量兵器があるかもしれないくらいには考えていた。
考えてみれば
そこへ防備を集中させるのは何も不思議なことではない。
「ボケッとするな!作戦通り撤退しろ!」
他の戦闘員に叱咤の声をかけ、退却する。
劣化ガジェットだけならば、魔導師の速度には追いつけない。
迎撃しながら逃げるのは何も問題がなかった。
30分後。
「“『エクセリオンバスター』”!」
桃色の魔力光が劣化ガジェットを薙ぎ払う。
以前使っていた貫通仕様の砲撃ではなく、思考誘導が可能で誘爆する仕様の砲撃魔法。
殲滅戦の様相を呈し始めたこの作戦で、なのはの砲撃は大活躍だった。
だが、カートリッジシステムによる体への負担は、静かに、確実に、蓄積していく。
「次のポイントだ!」
「うん!」
ヴィータは周囲を包囲しつつある劣化ガジェットをハンマーで叩き潰しながら、指示を飛ばす。
ヴィータとなのは以外の管理局員は、はっきり言ってランクBやCがほとんどであり、また階級が二曹以下ということもあり、ここまで極端な窮地には慣れていなかった。
そのため、前線でなのはとヴィータが敵と戦い、他の部隊員は別の場所に封時結界を張って、一時的に避難する場所を作る、撤退戦を展開している。
最初の数を見たときに逃げながら考えた、即席の作戦だ。
封時結界は仮想空間を貼り付け、現実と切り離す魔法である。
魔導師ならともかく、劣化ガジェットが内部に侵入するには、結界を破壊する必要があった。
そのための僅かな時間、休息し、砲撃準備を行い、敵が密集する場所に砲撃魔法を撃ち込む。
準備期間があるのなら、カートリッジシステムを使わずとも高威力の砲撃を撃てるため、負担は少ない。
そしてまた、AMF環境下ではまともに戦えない局員を退避させ、他の場所に結界を貼ってもらい、貴重な休息時間を作ってもらうのだ。
その際の
敵の魔導師が出てきた場合、ヴィータが対応する。
なのはに負担のかかる戦法だが、結界が負担軽減策となっている。
まともな戦法ではあっという間に、劣化ガジェットに分厚く囲まれて包囲殲滅されてしまうため、消極的な作戦もやむをえないだろう。
問題は、なのはの体力が持つ内に劣化ガジェットを殲滅できるかどうか。
あるいは、それまでにヴィザードが戻ってくるかどうかである。
少なくともあと数時間、こうやって砲撃と移動を繰り返さなければならない。
生き残るには仕方がないとはいえ、気の滅入る話ではあった。
1時間後。
“
「ッ!?」
『レイジングハート』が反応したのは、乾いた銃声。
主人の危機を感知し、主人が反応できないレベルの狙撃にも対応して見せた。
それが
しかしこの機能ゆえに、未熟な者は『デバイスに振り回される』と揶揄されることが起きるのも事実である。
展開された防御魔法に当たった銃弾の重さから、なのははそれがただの質量兵器ではないということに気付いた。
「もしかして、バリアブレイク?」
“
厄介な手合いだった。
自分は姿を現さずに、こちらが無防備になった瞬間を狙って行う狙撃。
反応速度に関しては『レイジングハート』しか頼れないため、任せきりでいいが、突然撃たれるというのはあまり気持ちのいいものではない。
「そこだ!」
“
ヴィータが鉄球を魔力で編み、なのはを狙った狙撃手を追い立てる。
自分も降下し、射線から判明した潜伏場所へ突撃していった。
誘導弾を避けて建物から飛び出してきた敵の魔導師は、ライフルでヴィータに応戦するが、ベルカ騎士にライフルは、武装としてはあまりに貧弱だった。
ハンマーで叩き落され、誘導弾による魔力ダメージでノックアウト、止めを刺される。
かなり荒っぽくなったため、骨の1本くらいは折れているかもしれないが、相手が対魔法仕様の質量兵器を使用したため、手加減したり時間をかけたりするわけにはいかなかった。
しかし、狙撃手に対応していたために、劣化ガジェットがすぐ近くまで迫ってきている。
どの程度の傷かを確認している暇はない。
そしてこの先、狙撃にも神経を使わなければならなくなった。
それによって、なのはの疲労はさらに多く積み重なっていくだろう。
「(ったく、いやらしいことしやがる)」
これで、劣化ガジェットを殲滅できる線は消えてしまったと言っていい。
殲滅までなのはの体力が持つとは思えない。
彼女は、こんな長期戦は経験していないのだ。
ヴィザードの帰還を頼みにするしか、状況を打開する方法がなくなってしまったのである。
「(頼むぜ、ヴィザード)」
「『
「……いいだろう。こちらを向け」
ヴィザードが言ったのは、ロンダルグ連邦の特殊部隊『エンジェル』で使用されている符丁だった。
なぜ彼が知っているのか。
彼も『エンジェル』の元一員だからである。
正確には、ロンダルグ出身という立場を生かして、潜入していたことがあるのだ。
もちろん顔は変えていたし、実在する隊員になりすましていたため、潜入されていたことには気付かれていないだろうが。
ヴィザードは振り向き、流れるような動きで懐から拳銃を抜き、撃った。
その動きは、相手に反応することさえ許さない。
使っているのは管理局の暗部に支給されている、ゴム弾頭の拳銃だ。
敵の無力化の他、拷問に使用されることもある。
「なっ!?」
“
さすがにゴム弾は防がれたが、動揺した隙に接近し、銃底で殴り倒す。
床に崩れ落ちた男に、ヴィザードは非殺傷設定の魔力弾を撃ち込んだ。
魔力ダメージによって昏倒させたため、これでしばらくは起き上がれないはずだ。
「……」
何の感慨もなく、彼は先へと進む。
下手な諜報部隊よりも、鍛えているつもりであった。
魔力資質にもそこそこ恵まれており、そうそう不覚は取らない。
今の敵にも、時間をかければ兵器研究所を案内させることも出来ただろう。
しかし、今は一刻を争う状況だ。
問題は、間に合うかどうかである。
劣化ガジェットは今見えているだけで数百。
だが、最重要施設であるここを守るために、この世界中から戦力がかき集められるだろう。
つまり、実際は数千もの劣化ガジェットを破壊しなければ、状況は改善しない。
そこまで、彼女らの体力が持つのか?
持つわけがない。
だからこそ。
自分に背中を預け、潜入の手伝いをしてくれている彼女らのためにも、しくじるわけにはいかないのだ。
ヴィザードは気絶させた男の顔をデバイスで3D撮影し、幻術で自分の顔に転写した。
際立って高い戦闘力を発揮できるわけではないが、この幻術によって彼は数々の不可能を可能にしてきたのである。
もちろん、用心深く、注意深く物事を観察し、洞察する能力に長けていたからこそ、幻術1つにしても生きてくるのだが。
その辺の努力をヴィザードは怠らなかった。
いや、10年来の上司であるオズ・グンナルが怠らせなかった。
時には自分の影武者を務めさせたり、犯罪組織の長になりすまして混乱させたりと、色々な無茶振りをしてきたのである。
中には、最高評議会の3人の内、1人の影武者をやらされたこともある。
既に脳だけとなっている老人であり、細かい仕草などは写しようがなかったため、かなり苦労したのを覚えている。
地下36階。
ロンダルグにおいて36という数字には、特別な意味があるのだそうだ。
特に神を信じてもいないヴィザードは、ほとんど忘れていたことなのだが。
幻術によって静脈認証装置を誤認させ、奪ったカードキーを提示してロックを開いた。
「(据付の認証装置は信用できねえって、そりゃ確かに、破り方はいくらでもあるわな)」
なんなら、気絶した兵士の体の一部を切り取って持ってきても構わないのだ。
そこに思い至らないのは、間抜けとしか言いようがない。
「(相変わらず、技術が100年前で止まってやがる)」
そう思ってほくそ笑んだのも束の間。
「ぐあっ!?」
扉が開いた瞬間、高い光度のストロボがヴィザードの網膜を焼いた。
まともに視覚に入れてしまい、目を押さえて
「油断したな。侵入者」
「……」
視界が利かないところを
撃鉄が起こされる音が無数。
10人以上はいる。
不意打ちして何とかするには、数が多すぎる。
「まさか見回りや不審者への接触を1人で行わせるとでも思ったかね?」
「知ってたさ」
ヴィザードは拘束された
その不意打ちにより、11人いた敵の内5人が避けきれずに被弾、倒れ臥す。
やはり、上の階で魔導師を倒したときにも感じたが、管理局の魔導師に比べて防御が薄い。
「貴様ッ!?」
「罠の中にホイホイ突っ込むほど間抜けじゃねえよ!」
彼はさらに
魔導師の戦術において、ミッドチルダはベルカにやや劣るものの、ロンダルグよりも上の水準にある。
さらに魔力においても、その上に訓練された諜報員であるヴィザードが勝っているのだ。
広大な領域を支配する時空管理局の、暗部局員の名は伊達ではない。
元々、罠が成功でもしなければ勝負にはならなかったのである。
「さて、と……」
ヴィザードは1人を残して気絶した兵士達をエレベータに乗せ、上の階へ送った。
1人残したのは尋問、あるいは拷問するためである。
なぜならば、
だが、確かにこの施設には存在する。
「ほら、起きろ」
ヴィザードは
「き、貴様……!」
「おいおい、俺は親切でお前等を止めに来てやったんだぜ?」
「聞く耳持たん!」
「
ヴィザードは兵士の反応を無視して言った。
「『
「貴様らミッドチルダが開発した、シェオールを滅ぼした無差別大量破壊兵器だ。
知っていて当然だな。自分達で開発した兵器に焼かれて滅ぶがいい!」
「作られて200年も経ってる兵器に、対抗策がねえとでも思ってんのか?」
「なに?」
「そもそも、次元間爆撃も跳ね返せねえような国が、200年も管理局として広域に君臨できるかっての」
「跳ね返す、だと?」
「文字通りさ。『
ハッタリである。
本当にあるのかどうか知らないが、少なくともヴィザードはそんな話は聞いたことがない。
なにしろ彼が知る限りでは、ミッドチルダへ向けた次元間爆撃が行われたことがないのである。
オズ・グンナルはそれを調べたいと以前、申請したことがあったが、『伝説の三提督』の総意で却下されていた。
理由としては、次元間爆撃を行うとして、まずクラナガンに届く世界を制圧しなければならないからである。
個人で次元間爆撃を行っても、それは少なくともミッドチルダの統治を揺るがすような威力にはならない。
その上、クラナガンなどを狙えば、容易に
グンナルは当時、まだ要職になかったこともあり、情報開示請求は通らなかった。
『確かに、馬鹿どもがそういった防御兵器に頼って、施政を疎かにする事態を考えれば、請求の却下は合理的か』
と、グンナルは言っていた。
少なくとも、『
「無理だ」
兵士は言った。
「『
襲撃に対応してもう隔壁は閉じられた。ここからでは操作できない」
「ロンダルグが滅ぶかどうかって瀬戸際なんだぞ!」
ヴィザードは声を荒げる。
もちろん、演技だが。
「俺だって!どうにかできるものはどうにかしたいさ。
だが、今から上層部に連絡を取っても、我々末端兵士の言葉など届きはしない」
「クソッ!」
毒づいた。
ここまで来て、手詰まりである。
これでは外で頑張っている局員達、少女達に申し訳が立たない。
ただ、一刻も早く応援が届くのを祈るしか、できなくなってしまった。
ここで『劣化ガジェットを止めろ』などと口にすれば、本来の目的がバレてしまう。
ハッタリであることを疑われる。
そうなれば、それこそ詰んでしまう。
第40話でした。
ヴィザードが大活躍しますが、大体幻術とハッタリ、騙し討ちです。
スパイ活動が得意な人ですから、卑怯な戦法も仕方ないんですけどね。
現場チームは詰みました。
なのはの心に、順調にトラウマ形成中です。
数千の劣化ガジェットとか、どう考えてもあのメンバーで対抗できる数ではありません。
ただ、ここで魔力切れになると袋叩きの上、まず再起不能です。
原作と違って、急所に一撃では済みませんからね。
なのははこの先生きのこれるのか!?
それでは。