【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
ロンダルグ連邦。
総帥執務室、バルコニー。
そこには1枚の絵画が飾られていた。
白い女神が光を放ち、争いを続ける人間達の武器を焼き払う様子を描き出した、宗教画だ。
第99管理世界ロンダルグには、神の怒りによって戦乱が終結したという伝承がある。
「『白亜の女神』によって双方の軍勢は滅ぼされ、その戦争の大儀は失われた」
1人の男が言った。
背広姿の、ロンダルグ連邦総帥である。
「なぜか?
それは間違った大義を掲げていたからである!」
目下には大衆。
これはロンダルグ全軍、そしてその他の民衆へ向けた演説であった。
「しかし、今の我々は違う!
外敵、時空管理局などと名乗り、次元世界に圧政を敷く彼等を討ち果たすという、正しき大義がある!」
広場に集められた大衆は静まり返っている。
当然だ、ここで騒ぐ者は射殺すると、作ったプログラムに書いてあるのだから。
「既に我々は再三に渡り、彼等に向けて警告、及び攻撃を仕掛けてきた。
だが、『白亜の女神』は現れない!
これが意味するところは、正しき大義が我々ロンダルグにあるということである!!」
「「オオー!!」」
一斉に雄叫びが上がった。
ロンダルグでは、『戦争』が過去数百年、起こっていない。
白亜の女神を、皆が恐れたのである。
しかし、水面下においては激しい抗争が繰り広げられていた。
銃や魔法の乱射事件が頻発し、政府要人の暗殺、果ては一般市民の思想弾圧まで、情けも容赦もなく行われてきたのだ。
敵対する勢力に対して行われるのは、戦争ではなくテロである。
戦争にならない、戦争と呼べないギリギリの線で、一部の人間のために、戦争よりも多くの人々が犠牲になってきた。
中には、『白亜の女神』の名の下に虐殺が行われたこともある。
そういうとき、ロンダルグの民衆は『天罰』と同じ意味で、『女神の目が黒くなる』と言ったそうだ。
これは、宗教画に描かれる『天罰』のシーンにおける『白亜の女神』の目が、昔からなぜか黒いことに由来する。
今も、『白亜の女神』の名の下に、ミッドチルダを征服する戦争が行われようとしていた。
演説後。
「『
「順調であります。あと10時間ほどで連続爆撃が可能になるでしょう」
「襲撃者は?」
「現在、基地より5キロメートル地点にて
撤退戦を繰り返しているようですが、殲滅も時間の問題でしょう」
「『エンジェル』は投入したのか?」
「いえ。
3名、狙撃兵を投入はしておりますが、いずれも撃破されております」
「そうか。捕縛できれば、ミッドチルダが滅ぶところを特等席で見せてやれ」
「はっ!」
背広の男、総帥は軍服の男に命じ、その後
数分後。
その部屋のモニタが反応した。
「なに?」
『お初、お目にかかる。あー、確か総帥閣下、だったよな?』
映し出されたのは、若い男。
管理局員の制服姿で、妙に馴れ馴れしい。
「なんだ、貴様は?」
『『イーノック』と言えば解りますかね?』
「『エンジェル』の裏切り者か!」
特殊部隊『エンジェル』には、それぞれ伝承にある天使の名が用いられる。
『イーノック』とは、『エノク』つまり後の『メタトロン』のことである。
ロンダルグでは、行方不明になった『エンジェル』の1員の名前でもあった。
とっくに死んだとされていたのだが。
『ま、本物はもう死んでますがね』
「なんだと!?」
『『
劣化ガジェットの大軍も、もうすぐ片付くそうで』
「ハッタリだ!援軍にしては早すぎる!」
『今から『
ハッタリかどうかはその後で判断すりゃどうですかね?』
「ば、爆破するだと?脅しのつもりか!」
『いえいえ、本当に爆破できるってんだからこっちも困っちまいまさあ』
「そんなことをして、貴様、どうやって生き延びるつもりだ?
1つの世界を滅ぼした兵器だぞ?爆破などすれば、貴様も助からん。
無論、地上で戦っておる者どももな!」
背広の男はできるだけ冷静に返した。
既に1500もの自動兵器を投入したのだ。
相手の戦力は割れている。
次元転送魔法により転移してきた増援が多少増えたようだが、大した人数ではない。
これはハッタリだろう。
『ま、言うだけ言いましたんで。後は降伏するなり適当に考えてくだせえな』
その言葉を残し、モニタは消えた。
「ふざけたことを……」
言って、現場の指揮官に繋げる。
『はっ、総帥殿!』
「先程、管理局の犬から無様なたれ込みがあった。まさかそれが真実だなどということはあるまいな?」
『そ、それが……突如『白亜の女神』が現れ、その従者達が
先程『エンジェル』を投入したばかりであります!』
「『白亜の女神』だと!?馬鹿を言え!あんなものは俗物どもを納得させるための方便ではないか!」
『大佐!『エンジェル』21名、全滅しました!』
『なんだと!?』「なんだと!?」
指揮官の男と総帥と、同時に声を上げた。
『
「これで最後!」
金髪黒衣の少女が最後の劣化ガジェットを真っ二つにした。
転位魔法で魔力をギリギリまで消耗したユーノとシャマル、アルフと一緒に、ミッド式の結界内で休んでいるのは、なのは、ヴィータ、他の管理局員達。
結界を貼って彼女等を守っているのは、リインフォース
結界の外で戦っているのはフェイトとザフィーラ、それに2人をサポートするピュア。
「あっという間に倒しちゃった……」
ユーノは目を丸くして呟いた。
「数だけの連中だったから、祈祷師が加わればこんなもんだろ」
「ピュアちゃんってホンマに凄かってんな……」
救援が到着したのは、戦闘が始まって3時間が経過した頃である。
はやてが結界を貼って、疲労でまともに戦えなくなっていたヴィータ達を保護。
救援が到着して安心したのか、今はユーノの腕の中で寝息を立てていた。
ヴィータはこの手の荒事に慣れているためか、ほっとした様子だが、その実周囲の警戒は怠っていない。
「今のがロンダルグの特殊部隊だったんだ?なんか、動きが全然……」
フェイトが戻ってきて首を傾げる。
はやても首を傾げる。
「調子悪かったんやろか?」
「いや、おそらく高くてランクA程度だからだろう」
ザフィーラが降りてきて言った。
“やはりか”
もし人の姿ならば、頷いていただろう。
“おそらく、質を揃えるという点で、ミッドチルダほど広域に手が届かないのだろう。
それに加えて、シェオールの術式阻害まで使われれば、差が開くのは当然だ”
「そうなんだ」
フェイトはちゃんとしたランク試験は受けていないが、魔力資質から総合ランクはAAAとされている。
シェオール祈祷師のサポートがあるとはいえ、地力が違ったのだ。
「じゃあ、『ロストロギア』を宇宙に飛ばすんやけど、ピュアちゃん大丈夫?」
「平気さ」
「ホンマにー?」
「来るときは皆に送ってもらったし、大魔法撃ったりしてないし、大丈夫さ」
はやては疑いの目を向けるが、半分はじゃれ合いである。
「ほんなら、ヴィザードさんも待ってるし、行こか」
「うん、クリア、『猛獣フォーム』」
ピュアが肩に乗っていた使い魔に命じると、子猫クリアは角の生えた巨大な猛獣に変化した。
クリアはゴリラを思わせる手で器用にピュアの体を掴むと、背中に乗せる。
はやても狼の姿のザフィーラに跨った。
「みんなー、ちょっと行ってくるでー」
「はい、こちらは任せて」
「いってらっしゃい」
シャマルとユーノが手を振る。
「ザフィーラ、気をつけろよ」
ヴィータはザフィーラに注意を促した。
狙撃兵の件である。
「大丈夫だ。問題ない」
ザフィーラは返し、先に走り出したクリアの後を追う。
フェイトも一緒だ。
狙われるとすれば、転送魔法を使うあちらだし、ユーノとシャマルにアルフも、しばしの休息のおかげで、攻撃されても少しは持たせることができる程度には回復している。
ヴィータ自身も、動けないほどではない。
『
「見つけたさ」
これから、詠唱が完了するまでの間、基地からの攻撃から護衛するのだ。
こちらのフェイトとザフィーラ、それに猛獣クリア。
はやては先程と同じく結界を貼ってピュアと共に、『
ただし、今回はピュアのサポートがない。
その分、温存していたクリアが戦力に加わる。
「みんな、ここが正念場やで!」
「うん!」「うむ」「にゃあ」
巨大な魔法陣が展開された。
ベルカ式魔法陣を2つ重ね合わせたような、シェオール魔法特有の魔法陣。
魔法によっては無展開無詠唱も可能で、魔力素の密疎を操作する術式阻害、サポートは術式すら必要ではない。
とはいえ、長距離転送などの大きな魔法は、基本的に長い長い詠唱が必要である。
だから、今回は転送に20分も時間のかかるシェオール魔法ではなく、はやてが
何をするのかというと、『
ピュアが対象物の座標指定を精密制御し、同時にはやての詠唱、術式をサポート。
大気圏外に対象物を飛ばし、そこで照射範囲の狭い『神の光』を用い、破壊するのだ。
『ロストロギア』を破壊などすれば大爆発を起こすだろうが、宇宙空間ならば大きな被害は出ない。
分厚い大気の層がバリアの代わりを果たし、爆発は大気圏の外を滑るように逸れ、地上までは届かないはずである。
長距離転送魔法で5分。
狭範囲の『神の光』で20分。
詠唱は同時に行うため、20分。
その間、ピュアとはやてを敵の攻撃から守り切る必要があった。
緊張の20分だった。
なぜか敵の部隊は顔を見せず、劣化ガジェットばかりだったが、遠距離からのライフルによる狙撃に気を配らなければならず、特に防御面で難のあるフェイトは、気の抜けない時間を過ごすこととなった。
「――、――」
ピュアの詠唱が周囲に透き通るように響く。
「うがー!」
猛獣フォームのクリアが放つ電気に変換された魔力散弾は、威力を落とせば30~40もの数に分散させることができるため、非常に頼りになった。
誘導はできないが、回避できない弾幕密度にすることは可能で、それはそのまま範囲攻撃になるのだ。
束ねて1つにすれば、ディバインバスター並みの威力になり、使い勝手が良い。
まだ経験不足で小回りが利かないため、それをフォローするのがフェイトとザフィーラの役目になる。
具体的に言うと、クリアが砲台となって最終防衛ラインを張り、フェイトは機動力でかく乱、ザフィーラは防御力で敵を集め、狙いやすくする囮の役目を担う。
襲撃してきた劣化ガジェットの数は数百に達していたが、目的は20分持たせるだけだったため、そう難しくはなかった。
「転送開始!」
“強制転移”
はやてが先に強制転移魔法を発動する。
ピュアの
「転移完了!私も戦闘に参加するで!」
“はいです!”
“立てるようになったばかりですので、あまり無茶はしないでください”
「わかってるって。ピュアちゃんに散々言っといて、自分だけ無理なんてできへんもんな」
はやてが参戦すると、一気に楽になった。
八神はやての資質は広域破壊と遠隔発生である。
多くの大魔法を扱い得る『蒐集行使』も手伝って、主な戦法は後方からの攻性支援だ。
「“『デアボリックエミッション』”」
本来、自分を中心に純魔力爆発を発生させる魔法だが、はやての資質、遠隔発生によって、任意の地点で発生させることができた。
ただこの遠隔発生、制御が難しく、精密制御は今は
劣化ガジェットの群れのど真ん中で爆発が発生したため、十数機の劣化ガジェットが巻き込まれ、誘爆する。
フェイトもザフィーラも馬鹿ではないため、敵のど真ん中に飛び込んだりはしていない。
あくまでピュアが守られている結界近くで戦っているのだ。
性能的にフェイトのスピードについていけない劣化ガジェットでは、こうなると包囲すらも難しくなってくる。
あと10分ほどを稼ぐなら、これで充分であった。
そして、ピュアの詠唱が完成する。
「“
「……」
“魔力が乱れてるですよ?”
はやてに、リインフォース
「……やっぱりどうしても、なんちゅーか、背筋がぶるっと来るんよ」
“風邪なのですか?”
「いや、そうやなくって」
『どうもこの子は天然さんやな』とはやては呟いた。
まだ作られて1年も経っていない
夕焼けの空に、一瞬だけ光が瞬く。
その瞬間。
ロンダルグ連邦は勝ち目を失い、ミッドチルダへの投降を余儀なくされたのだった。
第41話でした。
救援到着です。
反乱を終わらせる標的が確認できたため、当初の作戦を変更しています。
オキノドクデスガ再び。
『神の光』なんて大仰な通称ですが、これは狙われると撃たれるまで気付かない上に、基本的に回避不可能だからです。
魔力攻撃ではありませんからね。
対策はただ1つ、撃たれないことって感じです。
それでは。