【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
クロノを乗せた次元航行艦はロンダルグに到着していた。
『アースラ』は現在整備中であるため、別の艦だ。
事情を話し、乗せてもらったのである。
元々、宣戦布告したロンダルグに向かう予定だったのだそうだ。
現地の支局員を見捨てるわけには行かない。
それに、小型の次元航行艦が拿捕されたため、武装隊員を乗せて救出に向かうところだったという。
普通はここで次元空間での戦闘の1つも起きるべきかもしれないが、不思議なことに一切攻撃を仕掛けられなかった。
「どういうことですか?」
『『女神の瞳が黒く染まる』ことを、ロンダルグの人間は何よりも恐れるのです』
ロンダルグ艦隊の司令官の話によると。
どうやら、宗教上の理由であるらしかった。
元々ロンダルグ連邦は、宗教を前面に出して人心を掌握していたのだそうだ。
その宗教というのが、200年前に現れたという『白亜の女神』への信仰である。
その『白亜の女神』というのは、戦争ばかり繰り返す人々に怒り、天罰を下して戦場を焼き払い、戦争の原因となった魔法具をすべて破壊してしまったのだそうだ。
当時、世界に覇を唱えた魔道王から魔法を奪ったとも伝えられており、連邦議会の議員達の多くが慣用的に『白亜の女神』を畏れ敬い、戦争ではなく話し合いを重視するのだという。
それを利用したのが現在の議長であり、ミッドチルダとの開戦を決定した総帥である。
彼等は邪魔者に対して暗殺を仕掛け、巧妙に『白亜の女神』の仕業に仕立て上げ、信じさせた。
そうやって自分達の意に沿わぬ者達を排除し、現在の揺るぎない権勢を築き上げたのである。
『白亜の女神』というのは、目撃証言が非常に少ないものの、どうやら魔法具の力で圧政を布いていた王が侍らせていた奴隷の1人だそうだ。
その奴隷はいわゆる
彼女の血液は上質の魔力を含んでおり、
『白亜の女神』が光臨したのは、王が世界を手中に治めるための最後の戦場だった。
彼女は選民思想を唱えていた魔道王の施政に怒り、また王に対して対話を求めない対抗勢力に対して怒り、戦場に立った兵士を1人残らず焼き払ってしまう。
さらに魔道王が振りかざす力の源である、彼の魔力や魔法具をすべて奪い、どこへともなく去っていったそうだ。
そして。
ミッドチルダに征服戦争を仕掛けようとしたこの時期に現れたのは、つまりピュアである。
真っ白な髪に真っ白な肌、真っ白な瞳。
嫌でも目立つ。
その姿を見た兵士達はすっかり意気消沈し、攻撃を拒否しているのだそうだ。
『
人心掌握のために使ってきた宗教という口実が、裏目に出てしまったのである。
結果、ロンダルグ地上ではクーデターが起き、議長と総帥は兵士達に縛り上げられてしまっているそうだ。
「……というわけなんだ」
クロノは本局へ向かう艦の中、なのは達に説明した。
「それで、後半は魔導師が出てこなかったんだ」
フェイトが呟く。
「ということはピュア、お手柄だね」
なのはが微笑む。
12時間も休んでいたため、魔力や怪我はともかく、体力はすっかり回復している。
「え、そんな、わたし、大したことしてないさ」
“
「え、壊したの、だめだったさ?」
「いやいや、そういうことじゃないよ」
慌てるピュアに、ユーノは言った。
皆、苦笑いだ。
どうも、この真っ白な少女は天然気味である。
「そういや、ヴィザード・リックス三尉は?」
ヴィータが聞いた。
今回の作戦、実質指揮官は彼だったのである。
「彼はロンダルグの出身だからな。しばらくロンダルグに残って後始末をするそうだ」
「そうだったんだ……」
なのはは呟いた。
結局、彼が
ちなみに、クロノは話していないが、兵士達のクーデターをその口車で扇動したのはヴィザードである。
通信機越しであるが、『エンジェル』隊員にハッキングで手に入れたピュアの画像を見せて、総帥が兵士を騙していた手口を話したのだ。
指揮官はすぐに遠距離から確認させた後、攻撃の停止を命じた。
劣化ガジェットの大群は、総帥が捕まる直前に、直接命令を送信して送り込ませたのである。
次元航行艦で攻撃するようにも命じていたが、ピュアの情報を知った艦長がそれを拒否していた。
「(ピュアの存在が重要な役割を果たしたとはいえ、彼もロンダルグ連邦の反乱鎮圧に寄与していることになる。
貸し借りは無いかな)」
「ぶしっ!」
ヴィザードは盛大にくしゃみをした。
『さすがに疲れが出てきたかね?』
「誰かさんが陰口でも叩いてるんでしょうぜ」
通信の相手はオズ・グンナルである。
この慎重この上ない上司とは、通信で暗い話をしたりなどはしない。
誰に聞かれているか、わかったものではないからだ。
これは単に、いつ仕事が終わるか目処が立ったので、その報告である。
『ミクター・フォン・ロナルディオは他の世界へ逃亡を図ったが、逃亡先で本局が身柄を確保した。
管理局の転覆を図った疑いで、最低15年はブタ箱行きだ』
「評議会がそれで許しますかね?」
『言っただろう、最低は、と』
「なるほど。
エライことしてくれた連中も、これで静かになってくれると嬉しいところなんですがね」
連中、とは、『闇の書』事件の遺族。
その中でも、特に活動的で過激な意見を出す者達である。
今回の事件は、評議会における地位向上を目指した議員と、その過激派が結託し、それをロンダルグ連邦が利用した結果、大事件となったのであった。
「きつーいお仕置きをしてやってください。おかげで俺の仕事が山盛りになりましたから」
『安心しろ。量刑で済ますつもりは無い』
オズの言葉に、ヴィザードはぶるりと震えた。
管理局、ミッドチルダには、死刑というものが無い。
どんなことをやっても、基本的には罰が加算されていく量刑だ。
終身刑というものも一応はあるが、滅多なことでは適用されない。
それとは別に、『差し入れ』というものがある。
食事に、死なない程度の毒を混ぜるのだ。
その種類によっては、死んだ方がマシなくらいの苦痛を与えるものもある。
刑務所に勤める医者も心得ていて、その手のことはすべて病気と診断するようにしているらしい。
もちろん、その医者は暗部の人間である。
この『差し入れ』についても、滅多なことで行われることはない。
よほど恨みを買った人間でなければ。
ちなみに、ヴィザードの仕事というのは、
データを消し、人々に口止めをする必要があるのだ。
幸い、『伝説の三提督』から協力があり、管理局側へ流れる情報については止めてくれている。
そのため、ヴィザードは口八丁でそれが嘘であることを信じ込ませるだけでよかった。
元々、殺してまで口を封じるほどではないと言われている。
人数が人数であるため、顔を変えたりしてそれとなく接触するのに苦労しそうではあるが。
「それにしても、あれほどのもんだったとはね」
モニタを切って、カード型のデバイスを弄びながらヴィザードは呟いた。
シェオール魔法のデータを、こっそり入手していたのである。
何をどうやったのかというと、以前入手していた古代ベルカ式デバイスを解析し、不可解なセンサーを発見したため、同じものを自分のデバイスに搭載したのだ。
以前から、グンナルは不思議に思っていたそうだ。
一体どうやって、『闇の書』の守護騎士とピュアが接触したのだろうか、と。
シェオールは既に滅んでおり、何らかの協定があったとしても、既に失効している可能性が高い。
それに普通、魔法陣でも見なければ、その魔導師がどの魔法体系の魔法を修めているのか、解らないのである。
魔法陣などを展開したりすれば、当時の監視体制ではセンサーに引っ掛かっていた可能性があった。
そもそも、一体どうやって夜中に、人を襲わないと決めていたという守護騎士を呼び出したというのか。
報告書にあった特殊な念話?
会ったこともないのに、秘密の念話などできるわけがない。
あれは互いに念波の専用回線を決めておくものだ。
やるとするならその世界にいる魔導師を全て眠らせなければならず、夜中という点を差し引いても現実的ではない。
そこでグンナルは、古代ベルカ式デバイスには、シェオール祈祷師にしかできない何かを感知するセンサーがあるのではないかと考えた。
シェオール祈祷師に可能なことといえば、
ならば、魔力素の濃淡を感知することができるなら、シェオール魔法のデータも入手できるかもしれないと考えたわけだ。
実際、それは当たった。
ヴィザードのデバイスに実験的に搭載されたのは、高感度の
様々な種類の魔力素を感知するためには、魔力素がエネルギーであるという点を鑑みる必要があったのだ。
そのセンサーは今回、ピュアが展開していた
それがどのような作用を持つのか、それはわからないが、八神はやてが展開していた防御結界の外側が、びっしりと隙間なく、目に見えない魔法陣で埋め尽くされていたのである。
八神はやてが結界を出た後は、彼女を守るように展開されていた。
「あの嬢ちゃん、どうやら俺達が思ってるよりも、とんでもねえのかも知れねえな」
ヴィザードは頭を掻きながら呟く。
第42話でした。
なのはのトラウマ形成ついでに、グンナルが暗躍するのがこの捏造イベントの目的だったわけです。
ピュアの秘密の1つが敵側に知られました。
こういう話はレジアスさんや数の子ではできませんからね。
色々と超法規的な動きができるグンナルは重宝しています。
白亜の女神について。
気付く人は気付いていると思いますが、結構大きなイベントの伏線なので、コメントを差し控えさせていただきます。
それでは。