【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
慎重に足を動かす。
3枚重ねのビート板は、崩してしまったら
距離は5m。
足を少し動かすだけで、水面は酷く揺れた。
水面。
今、ピュア・フィエリアーナ・グレアムは体の半分を水面に浸けている。
ただ、水の温度は冷たくはない。
なぜならば、温水プールだからである。
隣では、この
はやては、下半身麻痺からのリハビリ。
ピュアは、特殊な事情からまともに歩くことができる機会が少なく、衰えた筋力を取り戻すべく、やはりリハビリ。
はやては緑と白の縞模様。
ピュアは水色。
2人とも、それぞれセパレートタイプの水着に身を包んでいる。
ぐらり、と身体が揺れた。
いけない。
このままでは半分体重を預けているビート板から転落してしまう。
落水してなおビート板にしがみついているだけの筋力は、自分にはない。
バランスを取ろうとして、高い方へ動く。
しかし、運動神経の悪さから、反応が遅れる。
どうしようもなく、反応が遅い。
一度崩れたバランスを立て直す能力が、ピュアにはないのだ。
「きゃん!?」
ざぶん。
と。
水中に落下した。
一瞬でビート板が逃げていく。
慌てて底に足を付こうとするが、どちらが上か、わからなくなる。
パニックになりながら、手足をばたつかせていると。
不意に抱え上げられた。
その腕は力強く、ピュアを水面より上へ引き上げた。
「けほっ、けほっ」
一瞬で溺れ、少し水を飲んでしまった。
しかも幾らかは気管支に入ったようだ。
気持ち悪い。
「大丈夫か?」
ピュアを抱え上げたのは赤髪ポニーテールの凛とした長身女性、八神シグナムである。
ピュアとはやて、2人の少女を守る騎士であり、家族であった。
水着は淡い黄色のビキニ。
「少し魔法を使うわ」
駆け寄ってきたのは肩まで伸びた金髪の女性、八神シャマル。
魔法でピュアの咽喉に入った水を取り除く。
それでもしばらくは咳き込むが、これは体の反応であるため仕方がない。
ちなみに、術式に認識阻害を混ぜているため、事情を知らない一般人が魔法に気付くことはない。
「これは意外なところで
「いい勝負やと思ったんやけどな」
「そりゃまあ、確かにそうなんだろうけどよ」
茶髪の少女はやてを抱えてやってきたのは、赤髪で2つのお下げの少女、八神ヴィータ。
はやては、ピュアが転倒した衝撃で発生した波によって転覆したようだ。
2週間に1度程度、ピュアとはやては温水プールにリハビリに来ていた。
バニングスグループが経営する海鳴私営プールへ。
ここへは、友人達と共に遊びに来ることもあれば、スケジュールの都合が付かず、今日のように八神家だけで来ることもある。
『闇の書』事件の完全終結から、半年以上が過ぎた現在。
はやての下半身の麻痺は、かなり回復してきていた。
ぎこちないながらも、とりあえず動かすことができているような状況だ。
ピュアは、人に手を取ってもらったり、壁に手を着きながらなら、それなりに歩くことができる。
ただ、虚弱体質のこともあり、今までの転生生活ではほとんど動く機会が与えられなかったのだ。
ゆえに、バランス感覚が衰えていて、気をつけなければすぐに転んでしまうのである。
ピュアは、ミッドチルダの最先端薬餌療法で、虚弱体質が少しずつ回復してきている。
しかし、元々の運動神経の悪さが影響して、子供用プールでもなかなか思うように歩くことができないでいた。
立っているのがやっとであるはやてとならば、プールの中で競争すれば、それなりにはいい勝負になるはずだった。
今回発見された最大の問題は、落水時、転倒時に起きる波である。
まだ両方とも、相手方が転倒した際は、その波によって道連れ状態になってしまう。
これでは勝負にならない。
一応は安全を考え、水深の浅い子供用のプールで行われていたのだが。
座った状態ででも、顔が出る程度しか深さがないのである。
まさかピュアが溺れかけるとは、シャマルもはやても予想外であった。
もちろん、ピュア本人がそんなことを予想していれば、勝負を受けたりはしない。
「お互いに、もうちょっとリハビリが進んでからっちゅー話やね」
「そうだな」
『山師』に匹敵するほどの実力を持つ、シェオール祈祷師ピュア。
蓄えた知識も経験も大人顔負けであり、この半年で親友アリサの学年トップの座を脅かすほど、頭もいい。
そんな彼女が抱える、数少ない、それでいて致命的な弱点。
それが運動神経だった。
「う~」
なにはともあれ、夏休みである。
ロンダルグ事件の事情聴取も終り、はやてとピュアは毎日の休日を満喫していた。
といっても、夏休みの宿題がある。
「うん、95点さ」
「うそぉっ、どこ間違えてたん?」
「銀の字の右側は『良い』じゃなくて上の点がないさ」
「あー、そうやった……」
漢字の書き取りなどについては一緒にやるものの、社会や理科については、主にはやてが問題を解き、それをピュアが採点するようになっていた。
こうやって、学校に行けずに勉強が遅れてしまっているはやてに、ピュアがつきっきりで教えているのである。
ちなみにピュアは全教科満点クラスだ。
国語については少し苦戦しているが、日本語というものは地球で随一の難しさを誇るため、ある程度は仕方がない。
それでも小学生くらいの問題なら平然と高得点を叩き出すのだが。
「はやてちゃーん、ピュアちゃーん、なのはちゃん達が来ましたよー」
来客に対応したシャマルが戻ってきて声をかけた。
「ちょうどええし、行こうか」
「うん」
傍らに控えていたクリアが、立ち上がったピュアの肩まで駆け上った。
はやては、シャマルが用意した松葉杖を両手に持つ。
そして、忘れてはいけないのが日傘である。
ピュアは色素が薄いため、特に真夏の直射日光には弱いのだ。
はやてが出かける際は、最近は車椅子を使わなくなっていた。
狂ってしまった『夜天の書』からの侵蝕がなくなったとはいえ、下半身麻痺から僅か半年で車椅子が必要なくなったのには、理由がある。
ピュアのシェオール魔法、回復結界を、ピュアの体調を見ながら使っていたのである。
リハビリは体力的に大変なのだが、体力を回復させる効果のあるこの魔法を使うことで、リハビリ可能な時間を引き延ばしていたのだ。
翌日の筋肉痛も軽減される、便利な魔法である。
月村邸。
準管理世界としての地球側の窓口であるここを、当主月村忍は妹すずかの親友達に貸していた。
ミッドチルダの魔法技術を吸収するという目的もあったが、今のところ技術的にその目論見は達成できていない。
これは、ミッドチルダの技術が、一般よりも進んでいる『夜の一族』の技術よりも、遥かに進んでいるからである。
何をどうすればその結果が出るのか、『夜の一族』の技術に詳しい忍でさえも、皆目見当が付かないのだ。
現在展開されているシェオール魔法、『変位相結界』も、魔力がない人間まで自由自在に選択し、ピュアの意思1つで結界の出入りが自由にできる理由が、全くわからない。
ミッドチルダの魔法科学でも、まだ解明されていないことなのだが。
ともあれ。
今日ははやての魔法訓練デビューである。
軽く1戦やってみて、はやての、というよりも、リインフォース姉妹の連携を確認する。
“
「ぶっ」
「ちょっと、それは……」
リイン妹の接続魔法にアリサとすずかは不意を突かれ、紅茶を吹き出した。
「どうしてか知らないけど、シェオール語って変な風に聞こえるよね」
「違う言語圏の人も、同じ反応をするんだって。『シェオール語反応』って呼ばれてるよ」
フェイトが首を傾げると、ユーノが説明する。
「同じ反応って……確かミッド語って英語に似てるんだったわよね?」
「それで同じ反応って、ちょっと無理かあるんじゃ……」
「その辺も実はよくわかってないんだ」
「シェオールって一体……」
いろんな意味で戦慄を覚えるアリサとすずか。
特にすずかは、特定のシェオール語で大暴走してしまったことがあり、わけのわからないこの現象について、早く解明されればいいのにと切に願っていた。
「はやてちゃん、行くよー!」
“
なのはが4発の誘導弾を放つ。
訓練用に威力を弱めたもので、これを必要に応じて防御するか、回避、撃墜するかを咄嗟に判断する訓練だ。
「迎撃、『刃
“
“はいです!”
はやての詠唱に、同期接続したリイン姉が術式を展開、リイン妹が制御する。
二度手間となるややこしい使い方であるが、これが管理局評議会の決定であるため、崩すわけにはいかない。
評議会は、現在の『
それゆえに、現在の技術で作られた
赤黒い両刃の投げナイフが虚空に出現する。
それは丁度なのはが撃った誘導弾の進路上、直前に出現し、避け損なった2つの誘導弾を撃墜した。
遠くに出現したのは、はやての魔法資質『遠隔発生』によるものである。
誘導弾の軌道を予測し、その進路上で避けられないような位置に配置したのはリイン妹。
その戦術を選択したのはリイン姉だった。
「もう1回!」
“
“はわ、今度こそです!”
慌てて遠隔展開したナイフは、残りの誘導弾を撃墜することに成功する。
とはいえ、合計10本ほど、壁になるように展開したためだが。
当然、効率的とは言えない。
“数を半分でもよかったかもしれません”
「私の反応もちょっと遅めやし、要練習やね」
“がんばるです!”
さすがに未熟な魔導師と
しかし焦る必要はない。
まだまだこれから、彼女らはどんどん強くなる。
はやてには、『夜天の書』の主に選ばれたほどの資質があるのだから。
第44話でした。
子供用プールで溺れる最強系主人公ってアリですか?
まあ、元々が長所を短所が台無しにしてるキャラですからね。
弱点はたくさんあります。
『ウホッ、良い男』再び。
シェオール語反応について若干説明があります。
まあ、言語が違うのにどうして同じ反応をするのか、ってことについて、説明を放棄したものと思ってください。
実際、説明なんてできないので。
シェオール語でも、一応詠唱に使うような言葉だけがそうなるって裏設定があります。
それでは。