【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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番外にしてもいい程度のエピソードです。


044 練習風景

慎重に足を動かす。

 

3枚重ねのビート板は、崩してしまったら失格(アウト)である。

距離は5m。

 

足を少し動かすだけで、水面は酷く揺れた。

 

水面。

今、ピュア・フィエリアーナ・グレアムは体の半分を水面に浸けている。

ただ、水の温度は冷たくはない。

なぜならば、温水プールだからである。

 

隣では、この競争(レース)を提案した張本人である八神はやてが、同じく慎重に水を掻く音が聞こえていた。

 

はやては、下半身麻痺からのリハビリ。

ピュアは、特殊な事情からまともに歩くことができる機会が少なく、衰えた筋力を取り戻すべく、やはりリハビリ。

 

はやては緑と白の縞模様。

ピュアは水色。

2人とも、それぞれセパレートタイプの水着に身を包んでいる。

 

ぐらり、と身体が揺れた。

 

いけない。

このままでは半分体重を預けているビート板から転落してしまう。

落水してなおビート板にしがみついているだけの筋力は、自分にはない。

 

バランスを取ろうとして、高い方へ動く。

しかし、運動神経の悪さから、反応が遅れる。

どうしようもなく、反応が遅い。

 

一度崩れたバランスを立て直す能力が、ピュアにはないのだ。

 

「きゃん!?」

 

ざぶん。

と。

水中に落下した。

一瞬でビート板が逃げていく。

 

慌てて底に足を付こうとするが、どちらが上か、わからなくなる。

パニックになりながら、手足をばたつかせていると。

 

不意に抱え上げられた。

その腕は力強く、ピュアを水面より上へ引き上げた。

 

「けほっ、けほっ」

 

一瞬で溺れ、少し水を飲んでしまった。

しかも幾らかは気管支に入ったようだ。

気持ち悪い。

 

「大丈夫か?」

 

ピュアを抱え上げたのは赤髪ポニーテールの凛とした長身女性、八神シグナムである。

ピュアとはやて、2人の少女を守る騎士であり、家族であった。

水着は淡い黄色のビキニ。

 

「少し魔法を使うわ」

 

駆け寄ってきたのは肩まで伸びた金髪の女性、八神シャマル。

 

魔法でピュアの咽喉に入った水を取り除く。

それでもしばらくは咳き込むが、これは体の反応であるため仕方がない。

 

ちなみに、術式に認識阻害を混ぜているため、事情を知らない一般人が魔法に気付くことはない。

 

「これは意外なところで競争(レース)の問題点が露呈したな」

「いい勝負やと思ったんやけどな」

「そりゃまあ、確かにそうなんだろうけどよ」

 

茶髪の少女はやてを抱えてやってきたのは、赤髪で2つのお下げの少女、八神ヴィータ。

はやては、ピュアが転倒した衝撃で発生した波によって転覆したようだ。

 

 

 

2週間に1度程度、ピュアとはやては温水プールにリハビリに来ていた。

 

バニングスグループが経営する海鳴私営プールへ。

ここへは、友人達と共に遊びに来ることもあれば、スケジュールの都合が付かず、今日のように八神家だけで来ることもある。

 

『闇の書』事件の完全終結から、半年以上が過ぎた現在。

はやての下半身の麻痺は、かなり回復してきていた。

ぎこちないながらも、とりあえず動かすことができているような状況だ。

 

ピュアは、人に手を取ってもらったり、壁に手を着きながらなら、それなりに歩くことができる。

ただ、虚弱体質のこともあり、今までの転生生活ではほとんど動く機会が与えられなかったのだ。

ゆえに、バランス感覚が衰えていて、気をつけなければすぐに転んでしまうのである。

 

ピュアは、ミッドチルダの最先端薬餌療法で、虚弱体質が少しずつ回復してきている。

しかし、元々の運動神経の悪さが影響して、子供用プールでもなかなか思うように歩くことができないでいた。

 

立っているのがやっとであるはやてとならば、プールの中で競争すれば、それなりにはいい勝負になるはずだった。

 

今回発見された最大の問題は、落水時、転倒時に起きる波である。

まだ両方とも、相手方が転倒した際は、その波によって道連れ状態になってしまう。

これでは勝負にならない。

 

一応は安全を考え、水深の浅い子供用のプールで行われていたのだが。

座った状態ででも、顔が出る程度しか深さがないのである。

まさかピュアが溺れかけるとは、シャマルもはやても予想外であった。

もちろん、ピュア本人がそんなことを予想していれば、勝負を受けたりはしない。

 

「お互いに、もうちょっとリハビリが進んでからっちゅー話やね」

「そうだな」

 

『山師』に匹敵するほどの実力を持つ、シェオール祈祷師ピュア。

蓄えた知識も経験も大人顔負けであり、この半年で親友アリサの学年トップの座を脅かすほど、頭もいい。

そんな彼女が抱える、数少ない、それでいて致命的な弱点。

 

それが運動神経だった。

 

「う~」

 

 

 

 

 

 

 

なにはともあれ、夏休みである。

 

ロンダルグ事件の事情聴取も終り、はやてとピュアは毎日の休日を満喫していた。

といっても、夏休みの宿題がある。

 

「うん、95点さ」

「うそぉっ、どこ間違えてたん?」

「銀の字の右側は『良い』じゃなくて上の点がないさ」

「あー、そうやった……」

 

漢字の書き取りなどについては一緒にやるものの、社会や理科については、主にはやてが問題を解き、それをピュアが採点するようになっていた。

こうやって、学校に行けずに勉強が遅れてしまっているはやてに、ピュアがつきっきりで教えているのである。

 

ちなみにピュアは全教科満点クラスだ。

国語については少し苦戦しているが、日本語というものは地球で随一の難しさを誇るため、ある程度は仕方がない。

それでも小学生くらいの問題なら平然と高得点を叩き出すのだが。

 

「はやてちゃーん、ピュアちゃーん、なのはちゃん達が来ましたよー」

 

来客に対応したシャマルが戻ってきて声をかけた。

 

「ちょうどええし、行こうか」

「うん」

 

傍らに控えていたクリアが、立ち上がったピュアの肩まで駆け上った。

はやては、シャマルが用意した松葉杖を両手に持つ。

 

そして、忘れてはいけないのが日傘である。

ピュアは色素が薄いため、特に真夏の直射日光には弱いのだ。

 

はやてが出かける際は、最近は車椅子を使わなくなっていた。

狂ってしまった『夜天の書』からの侵蝕がなくなったとはいえ、下半身麻痺から僅か半年で車椅子が必要なくなったのには、理由がある。

ピュアのシェオール魔法、回復結界を、ピュアの体調を見ながら使っていたのである。

 

リハビリは体力的に大変なのだが、体力を回復させる効果のあるこの魔法を使うことで、リハビリ可能な時間を引き延ばしていたのだ。

翌日の筋肉痛も軽減される、便利な魔法である。

 

 

 

 

 

 

 

月村邸。

 

準管理世界としての地球側の窓口であるここを、当主月村忍は妹すずかの親友達に貸していた。

 

ミッドチルダの魔法技術を吸収するという目的もあったが、今のところ技術的にその目論見は達成できていない。

これは、ミッドチルダの技術が、一般よりも進んでいる『夜の一族』の技術よりも、遥かに進んでいるからである。

何をどうすればその結果が出るのか、『夜の一族』の技術に詳しい忍でさえも、皆目見当が付かないのだ。

 

現在展開されているシェオール魔法、『変位相結界』も、魔力がない人間まで自由自在に選択し、ピュアの意思1つで結界の出入りが自由にできる理由が、全くわからない。

ミッドチルダの魔法科学でも、まだ解明されていないことなのだが。

 

ともあれ。

 

今日ははやての魔法訓練デビューである。

軽く1戦やってみて、はやての、というよりも、リインフォース姉妹の連携を確認する。

 

同期接続開始(ウホイイオトコ)

「ぶっ」

「ちょっと、それは……」

 

リイン妹の接続魔法にアリサとすずかは不意を突かれ、紅茶を吹き出した。

 

「どうしてか知らないけど、シェオール語って変な風に聞こえるよね」

「違う言語圏の人も、同じ反応をするんだって。『シェオール語反応』って呼ばれてるよ」

 

フェイトが首を傾げると、ユーノが説明する。

 

「同じ反応って……確かミッド語って英語に似てるんだったわよね?」

「それで同じ反応って、ちょっと無理かあるんじゃ……」

「その辺も実はよくわかってないんだ」

「シェオールって一体……」

 

いろんな意味で戦慄を覚えるアリサとすずか。

特にすずかは、特定のシェオール語で大暴走してしまったことがあり、わけのわからないこの現象について、早く解明されればいいのにと切に願っていた。

 

「はやてちゃん、行くよー!」

Accel(アクセル) Shooter(シューター)

 

なのはが4発の誘導弾を放つ。

訓練用に威力を弱めたもので、これを必要に応じて防御するか、回避、撃墜するかを咄嗟に判断する訓練だ。

 

「迎撃、『刃()て、血に染めよ。穿(うが)て。ブラッディーダガー』」

Blutiger(ブルーティガー) Dolch(ドルヒ)

“はいです!”

 

はやての詠唱に、同期接続したリイン姉が術式を展開、リイン妹が制御する。

二度手間となるややこしい使い方であるが、これが管理局評議会の決定であるため、崩すわけにはいかない。

 

評議会は、現在の『蒼天の書(リインⅠ)』の前身となった『夜天の書』、『闇の書』と呼ばれたそれが復活することを恐れていた。

それゆえに、現在の技術で作られた融合騎(ユニゾンデバイス)でワンクッション置くことで、リイン姉が直接はやての体を操作するような可能性を断ち切ったのである。

 

赤黒い両刃の投げナイフが虚空に出現する。

それは丁度なのはが撃った誘導弾の進路上、直前に出現し、避け損なった2つの誘導弾を撃墜した。

 

遠くに出現したのは、はやての魔法資質『遠隔発生』によるものである。

誘導弾の軌道を予測し、その進路上で避けられないような位置に配置したのはリイン妹。

その戦術を選択したのはリイン姉だった。

 

「もう1回!」

Blutiger(ブルーティガー) Dolch(ドルヒ)

“はわ、今度こそです!”

 

慌てて遠隔展開したナイフは、残りの誘導弾を撃墜することに成功する。

とはいえ、合計10本ほど、壁になるように展開したためだが。

当然、効率的とは言えない。

 

“数を半分でもよかったかもしれません”

「私の反応もちょっと遅めやし、要練習やね」

“がんばるです!”

 

さすがに未熟な魔導師と融合騎(ユニゾンデバイス)に任せ切る形になるため、多くの経験を積んできたリイン姉といえど、初回では上手く行かないようだ。

 

しかし焦る必要はない。

まだまだこれから、彼女らはどんどん強くなる。

はやてには、『夜天の書』の主に選ばれたほどの資質があるのだから。

 

 

 

 




第44話でした。
子供用プールで溺れる最強系主人公ってアリですか?
まあ、元々が長所を短所が台無しにしてるキャラですからね。
弱点はたくさんあります。

『ウホッ、良い男』再び。
シェオール語反応について若干説明があります。
まあ、言語が違うのにどうして同じ反応をするのか、ってことについて、説明を放棄したものと思ってください。
実際、説明なんてできないので。
シェオール語でも、一応詠唱に使うような言葉だけがそうなるって裏設定があります。

それでは。
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