【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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004 たすけたい

それが夢だと気付いたのは、鏡を見たときだった。

 

(にじ)み、揺らぎ、ぼやけた視界の中、辛うじて自分の動きだとわかるもの、つまり大きな姿見の鏡を見つけた。

その中の自分の姿に違和感を覚える。

とはいえ、視界が不鮮明な状態では、大雑把なところしかわからない。

それでも、近付けば髪の毛が白か黒か、という程度のことは識別できる。

 

幸せだった頃の夢。

魔法による擬似視力が上手く調整できなかった頃ということは、おそらく改造手術を受けて間もない時期だ。

 

最初は口頭で、母から様々な故郷の逸話など、御伽噺にも近い話を教わった。

故郷の魔法の使い方を教わったのもその時期だ。

 

ずっと母に甘えていたように思う。

しかし、その母はもういない。

生きているのか、死んでいるのか、最早時間の感覚もなくなっている。

あれからどのくらいの時間が過ぎたのかも、自分にはわからなくなっていた。

 

そして、自分には、逢う資格も無い。

 

言ってはいけないことを言ってしまったから。

自分で幸せな時間を放棄してしまったから。

苦しみに耐えかねて。

母に酷いことを懇願してしまったから。

 

「お母さん、お願い、わたしを、殺して」

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

朝。

 

結局、フェイトは何も言わなかった。

おそらく、ピュアも触れてほしくないだろうと、そう思ったから。

 

「今日は経過報告でね、一度『時の庭園』に戻るんだよ」

 

朝食後、アルフが話す。

 

そういえばそんな話だったなとフェイトは思い出した。

もう地球に降りてから2週間が経つ。

そろそろ一度母に会って、協力してくれているピュアのことも含めた現在の状況を話さなければならない。

 

「わたしも、フェイトちゃんのお母さんに話したいことがあるさ」

「え?」

 

真っ白な少女ピュアの言葉に、フェイトは戸惑う。

今の母が本来部外者であるピュアの言葉になど、耳を貸すだろうか?

問答無用で殺されてもおかしくない。

 

「わたしは、『アルハザード』に行ったことがあるさ」

 

顔は笑っていたように思う。

しかし、目は決して笑っていなかった。

声も少し震えていたように思う。

隠そうとして、隠し切れない、複雑な感情。

 

「だから、ある程度『アルハザード』の技術も知ってるさ」

「でも、問答無用で殺されるかもしれないんだよ……?」

「大丈夫、わたしは死なないさ」

 

それ以上はフェイトもアルフも強くは言えず、結局ピュアは意見を押し通してしまう。

なぜそんなことを言い出したのか、ついに聞きだすことはできなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなもの嘘に決まっているでしょう?」

 

フェイトの母、長い黒髪の女性プレシアは断じる。

 

はっきり言ってしまえば、本当か嘘かなどどうでもよかった。

ピュアという少女が、会いたいと。

それだけの理由で貴重な自分の時間を奪うのが、許せなかっただけだ。

だから、これからこの人形にお仕置きをしようと思う。

ごく自然な流れだ。今のプレシアにとっては。

 

だから、深くも考えずピュアという少女の言葉を嘘と決めてかかった。

そのとき、声が割り込む。

 

「なら、殺してみればいいさ。わたしが言ったとおりに死体が消えれば、わたしの言葉は証明できるさ」

「ピュア!?」

 

フェイトが悲鳴のような声を上げる。

部屋に外で待っているはずなのに、ピュアは勝手に入ってきたのである。

アルフはピュアの後ろに控えていた。

 

彼女(アルフ)は、ピュアにフェイトの現状を打開するための光明を見出し、自ら扉を開いたのである。

このままでは何も状況が変わらないと知り、せめてフェイトが暴力を振るわれる前に、と。

 

「覚悟はできているようね」

 

死刑宣告をするプレシアに、ピュアは堂々とはっきり言った。

 

「覚悟も何も、わたしはもう、助からない(・・・・・)さ」

「何が目的?」

「終わった物語(悲劇)の主人公から、まだ続いてる物語(悲劇)の主人公への、ただの伝言さ」

 

 

 

ピュアはアルフに言ってフェイトを下がらせる。

フェイトは不安そうにしていたが、『大丈夫さ』と断言して押し切った。

 

「先に言っておくけれど、法に外れているからという意見は聞かないわよ」

「わたしの話をするだけさ」

 

宣言通り、ピュアは自分の『アルハザード』における体験を話す。

 

まず、ピュアは一度死んでいる。

彼女の母親はそんな娘を蘇らせるべく、『アルハザード』を求め、辿り着いた。

 

そこで見事娘は蘇るのだが、約半年後、娘はその願いを受けた母親に殺された。

 

「……意味が解らないわ。どうして蘇った娘を殺す必要があるの?」

「それが『絶望の都アルハザード』の嫌らしいところさ」

 

今、こうやってまともに話ができるのは、奇跡以外の何ものでもない。

 

ピュアがフェイトとアルフに聞かれるのを避けた理由の1つがここにあった。

ピュアに『リンカーコア』のような性質を持った魔法具を埋め込んだのは、ピュアの母親なのである。

それによってピュアは、『情動(エモーショナル)感応(・レセプション)』というレアスキルに目覚めた。

 

これが1つ目にして最大の奇跡である。

このとき目覚めた能力が単純な『電撃』だったなら、自分が発した電流でピュアの肉体は焼き尽くされ、一瞬の内にミネラルの柱となっていただろう。

あるいは『瞬間移動』だったなら、細胞一つ一つをバラバラに移動させてしまい、細切れになっていたかもしれない。

 

とはいえ、それでも『情動感応』は最初、容赦なくピュアに牙を剥いた。

近くに『アルハザード』技術の犠牲になり、絶望の内に死に行くだけの人々がいたために、その感情をダイレクトに受け取ってしまったのだ。

無理矢理『情動感応』に目覚めさせられたようなもので、それを制御したり、流れ込んでくる感情を受け止めるだけの精神力を、ピュア自身は持ち合わせていなかったのである。

 

当然、ただでは済まない。

負の感情に押し潰され、日に日に弱っていく娘を見かねて、母親はもう1つ『アルハザード』製の技術に手を出した。

強力な封印に使用できる魔法具を、娘の身体に埋め込んだのだ。

 

2つ目の奇跡は、それが何もしなければ無害な類の魔法具だったことである。

封印維持によって強い負担が発生するタイプだった場合、死までの時間が20秒ほどという魔法具があるのだ。

もちろん、丁寧に使い方を解説したデータベースなど存在しない。

 

この2つの奇跡を乗り越えて、半年は幸せに暮らした。

ただこれも、2人に『アルハザード』を出る理由がなかったためだ。

 

当然、『アルハザード』には力を求めてやってくる者もおり、そういった人間は脱出する手段を探す。

『アルハザード』にいる限りそういった人間の目を逃れることは不可能であった。

なぜならば、5ほどの摩天楼(ビル)と無人の民家のような家が10ほどある以外は、一面砂漠だったからである。

 

ピュアと母親はそういった人間に捕まり、脱出する手段の捜索を手伝わされた。

だが、ついに脱出法は見つからなかった。

ただし、『アルハザード』に居ながら、標的を暗殺する手段なら存在した。

それが、ピュアの『情動感応』を封じるために埋め込まれた、『アルハザード』製の魔法具だったのである。

 

それはピュアの『情動感応』と組み合わせることで、ピンポイントの遠隔爆撃を可能とするものとなった。

つまり、標的(ターゲット)の死の瞬間まで、ピュアの『情動感応』は標的(ターゲット)と繋がっているのだ。

 

死の絶望や苦痛は容赦なくピュアの精神を刻んだ。

それを思い出そうとすると、今でも体調を崩すほどに苦しんだ。

ピュア自身、それ以降のことはよく覚えていないが、1ヶ月以上はベッドに縛り付けられていたようだ。

 

なんとかまともに意識が戻った頃には。

身体はガリガリに痩せ細り。

寝汗で寝間着やベッドはベトベト。

髪の毛は白を通り越してほぼすべて抜け落ちていた。

 

そして。

看病に疲れてやつれた母を見て、ピュアは。

懇願した。

 

『お母さん、お願い、わたしを、殺して』

 

と。

 

 

 

「もし、プレシアさんがそんなお願いされたら。

ちゃんと生き返らないように。

転生しないように。

殺してあげてほしいさ」

「――!」

 

プレシアは口を開き、そして閉じる。

喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 

『できるわけがないじゃない。(アリシア)を殺すなんて』

 

ピュアの母親もそうだったに違いない。

そしてそんな自分を想像できなかったから、この悲劇は生まれたのだ。

 

ありえない容姿を持つ少女。

すべての色彩を失った少女。

本来の髪の色、瞳の色、肌の色は何色だったのだろう。

 

想像しかけて、その姿が(アリシア)と重なった。

 

「っ――!!」

 

ぞわり、と背筋に悪寒が走る。

一歩二歩と、後ろに下がる。

認めたくない、あってほしくない想像が脳裏を過ぎった。

 

ピュアの言葉を思い出す。

今のピュアでさえ、幾つかの大きな奇跡の産物なのだ。

 

目の前で爆発四散するかもしれない。

苦しんだ挙句に発狂して死ぬかもしれない。

もっと悪くすれば、プレシアが自分の手で殺すことになるかもしれない。

 

いや――。

 

そう、例えば。

永遠に苦しみ続ける――。

殺せなくなる――。

かもしれない。

 

ピュアのように(・・・・・・・)

 

ぐらりと。

視界が。

(かし)いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ピュア、大丈夫かな……」

 

金髪の少女フェイトは、オレンジ色の長い髪の女性アルフの胸に頭を埋めながら呟く。

しばらく前にピュアと暮らし始めてから、フェイトは不安なとき、こうやって誰かに抱きつくようになった。

 

マンションを借りているとはいえそれは1人用の部屋で、アルフはリビングのソファで寝るつもりだった。

そこにピュアが転がり込んできたようなものである。

事情を聞きフェイトが1人寝かせるわけにはいかないと、言い出した。

それからピュアとフェイトは、1つしかない大きめのベッドで一緒に寝るようになったのだ。

 

初日はフェイトが寝惚けてピュアを絞め殺しかけたりしたアクシデントもあったが、よほど心地良かったらしい。

不安があるとアルフかピュアに抱きつくようになったのは、それからである。

 

「ごめんよ、フェイト」

 

アルフは謝る。

今回ばかりはフェイトの気持ちもよくわかった。

 

今、戦闘力が皆無なその少女は、フェイトの母親プレシアと対峙している。

何かあれば念話で伝えるように言ってあるが、アルフが最も危険視している人物と密室で2人きりなのだ。

逆鱗に触れればいきなり殺されてもおかしくない。

 

アルフがフェイトを連れて部屋を出たのは、ピュアの名状し難い迫力に気圧されてのことだった。

あるいは虐待を受けているフェイトを救ってくれるのではないかと、思ってしまったのである。

 

今からでも部屋に戻り、2人の話に立ち会うべきかもしれない。

しかし、部屋に入る前、ピュアが言ったところによると、プレシアの意識がフェイトに向いていては、まともな話し合いにならないそうだ。

そうかもしれないとも思う。

 

使い魔であるアルフには狼だった頃の記憶が少し残っている。

それによれば、やはりプレシアのフェイトに対する接し方は、常軌を逸していた。

無理矢理に難癖をつけ、虐待に持ち込んでいる節すら感じられたのだ。

止めに入るアルフが近くにいれば、それすらも理由に振るう暴力を酷くした。

 

 

 

しばらく、アルフとフェイトは互いの不安を打ち消すように、座ったままじっと抱き合っていた。

 

『アルフさん、フェイトちゃん、プレシアさんが……!』

 

切迫した感情の乗った念話が届いた瞬間、2人はどちらからともなく身体を放し、部屋の扉を開けて中に踏み込んだ。

何の覚悟も持たないまま。

 

「ピュア……!?」

「無事かい――え!?」

 

戦闘の心構えを持って立ち入った2人は、その光景に意表を衝かれた。

 

「“――、――”」

 

真っ白な短い髪の毛、白い肌、白く濁った瞳の少女ピュアは、魔法陣を展開して呪文詠唱を行なっている。

その傍にいるのは、黒いウェーブのかかった長い髪の女性プレシア。

 

プレシアは地面に倒れ伏していた。

激しく咳き込み、大量の血を吐いている。

 

一刻を争う状況なのだと理解した。

 

「母さん!?」

「……くっ!」

 

母親の下に駆け出してしまったフェイトに、アルフは背を向けて部屋を出て、治療装置を探しに走る。

確か、近くの部屋にプレシア特製の医療用装置があったはずだ。

わけが解らないが、フェイトのためには、とにかく助けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

プレシアは一命を取り留めた。

ピュアが無理をして強力な回復魔法を使い続けた御蔭である。

 

『時の庭園』の検査装置とデータベースで調べた結果、ある1つの病名が浮かび上がった。

『集積器官変異症』。

魔力集積器官(リンカーコア)に発生する腫瘍、『(ガン)』である。

 

魔法の使用そのものには影響が出ないため、自覚症状がほとんど出ない難病だった。

症状はじわじわと増していく肉体への負荷。

それによって免疫力が低下し、他の様々な病気にかかりやすくなる。

 

今回の吐血はこの免疫低下によって併発した別の病気『日和見症候群』が原因であった。

『日和見症候群』とは、免疫力の低下によって普通は感染しないウィルスに感染したりする病気の総称である。

 

併発した病気はピュアの回復魔法と、プレシア特製らしき治癒装置の御蔭で快復しているが、『リンカーコア』の変異はその治癒装置では治せないようだ。

ピュアの強力な回復魔法でも、魔力集積器官(リンカーコア)そのものの変質まではどうにもならない。

ただし、ピュアの回復魔法は体力を回復させるため、それに伴い免疫力が回復しつつあり、すぐにどうこうという状況ではなくなっている。

 

根本的に治療する方法は、一応存在するようだ。

ただそれには、『リンカーコア』の魔力を直接操作することが可能な、専用の特殊な装置が必要となる。

だが、滅多に発症しない病気であるため、ミッドチルダに試作品が1基しか存在していない。

 

 

 

『ジュエルシード』探しは、しばらく中止になった。

それどころではなくなってしまったのだから、当然だろう。

 

フェイトは母の寝室に入り浸り、眠り続ける母の手をずっと握っていた。

 

また、ピュアも丸1日眠り続けた。

病気の応急処置のために、かなり無理をしたのである。

 

目覚めたピュアに食事を勧めながら、アルフは聞いた。

 

「一体、何があったんだい?」

 

プレシアは病気のことなど、アルフやフェイトには一切悟らせなかった。

それだけの精神力と執念を持っていたのだろう。

それがここへ来て、一気に悪化したように見えたのだ。

 

容態急変の原因はおそらく、精神的なもの。

ピュアがプレシアに話した内容に、自分の考えを覆す何かがあったに違いない。

アルフはそう思った。

 

例えば、プレシアが『ジュエルシード』集めを命じた、アルフも知らないような目的を諦めさせた、とか。

気を張って、病身を押してやり遂げようとしていたのだ。

妄執とも言えるその心を、ピュアの話が砕いてしまったような、そんな気がする。

 

「わたしの、身の上話をしただけさ」

「そうかい」

 

アルフは追求しなかった。

誤魔化しなのはわかっていたが、真実を知る必要があるとも思わないし、特別知りたいとも思わない。

最初から、言葉を濁すようなら話は打ち切るつもりだった。

 

 

 

 




第4話でした。
アルハザードの真実について、カミングアウトです。

プレシアさんの病状について、原作アニメで血を吐いていたことから、肺とか胃腸をやられたんだと思っています。
なので、最初は結核とか胃ガンとかだと思ってました。
しかし、結核やガンって治し方があるんですよね。
少なくとも魔法科学の発達した、またはそれを研究しているプレシアが、独力で治せないはずがないんです。
なので、病気を捏造しました。

最初に考えたのは血を吐く種類の病気。
次はプレシアの科学力でも、気付くのが遅れれば治せない病気。
そして感染(うつ)らない病気です。

フェイトが以前は結構な頻度で接触していたようですから、感染する病気だと無理があるんですよね。
なので、そういう条件から、免疫力を低下させる種類の病気にしました。
これなら肺の病気でも胃の病気でも何度でも発症しますから。

ま、ヤバイ病気だと分かりやすく伝えるのに、(ガン)っていう単語を使っただけではあるんですけどね。

それでは。
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