【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
テスタロッサ家。
ついにと言うべきか、プレシア・テスタロッサの退院に伴い、彼女とその娘達が地球に住居を設けることとなった。
場所は、ハラウオン家、つまり時空管理局地球支部があるマンションと同じ建物の、別室である。
元犯罪者ではあるものの、最終的に大幅減刑、情状酌量の余地を認められたことで、監視の目はそれほど厳しくはなくなっていた。
その上、他のマンションも選択できたのに、支部のあるマンションに住むことに決めたのである。
再犯の動機が消えているということもあり、準管理世界である地球に住居を構えることを許されたのであった。
もっとも、支部のあるマンションの一室を借りたのは、娘達の強い要望があったからなのだが。
『闇の書』事件から1年が経過しようという冬の日。
今日、ここで行われるのは、ピュアによるシェオール語やシェオール魔法の講義であった。
テスタロッサ家の末娘アリシアが、シェオールについて熱心に知りたがるのである。
残念ながら、ピュアは死亡蘇生と長い転生生活によって、シェオールそのものについてはほとんど覚えていない。
しかし、母国語はシェオール語だし、資質があるのはシェオール魔法で、しかも高いレベルで習得している。
だから、ピュアはアリシアのために、週に一度はテスタロッサ家にやってきて、こうやって講義をするのだ。
一応、ピュアが持っているミッド式の医療用デバイスにも講義の内容は記録されるが、できるだけユーノにも声をかけるようにしている。
ユーノは遺跡発掘を生業とするスクライア一族の出身で、考古学に強い興味を持っているのだ。
最近は謎に包まれていた滅亡世界シェオールの歴史や文化について、なんとかピュアが持つ情報から紐解こうとしていた。
今日は、2人にシェオール魔法の資質があるかどうかの検査である。
まず、ピュアは自分の指先を僅かに傷つけ、そこから滲んだ血をコップの水に溶かす。
その血を媒体に魔力を流し込み、一定時間固定し、定着させる。
その血(見た目は水)を被験者が飲む。
以上である。
「私はシェオール適性を発現させる修行の内容を知らないさ。
だから、臨死体験をしたことのある人を試すくらいしかできないさ」
この特殊な儀式、特別な修行、臨死体験。
この3つの内、特別な修行については、ある事情からピュアは教わっていなかった。
そのため、臨死体験をしたことがある者に、特殊な儀式を施すという方法しかないのである。
「最初は、自分の中の
目を閉じると、温かな鼓動と共に、自分の胸に何かがあると感じられる。
それは金色をしていた。
なぜかはわからない。
それが金色をしていて、自分にとってはとても心地良いものであると感じられた。
「次に、自分の『リンカーコア』が何かを吸収してるのがわかるようになるさ」
どちらかといえば、領域が広がっている感じだろうか。
知覚領域が広がる感じ。
しかし確かに、自分の中の金色の
「最後に……少しの間だけ、施術者である私の魔力が認識できるようになるさ」
青い光が近くにある。
自分のものではない、やはり何かを吸収している、心臓のように脈打ちながら、心臓ではないもの。
「僕には感じられなかったよ」
「そうそう臨死体験なんて、してる人はいないさ」
「それもそうだね」
目を開くと、ユーノとピュアが苦笑している。
誰もが予想しなかった。
いや。
頭から抜け落ちていた、臨死体験者が1人。
その名はアリシア・テスタロッサ。
「ピュア、ねえ、ピュア、いっぱい魔法陣がある。これって何?」
「え?」
それは、ピュアが自身の修行の意味も含んで展開している、未発現の魔法陣であった。
詠唱などの準備に時間のかかるシェオール魔法では、こうやって気付かれないように発動前の魔法陣を準備しておくのが常識なのである。
それをデバイスの力を通さずに認識できたというのは、つまり。
「えっと……」
ピュアは、放出した魔力を操作して、周囲の魔力素の密疎を精密にコントロールする。
「わ、動いた!」
アリシアの言葉と視線に、ピュアは確信した。
「発現してるさ」
「え?」
「私が
シェオール魔法最大の特徴は魔力素操作である。
しかし、それは魔力の放出を伴う技能なのだ。
ノーコストノーリスクで行っているわけではない。
時には魔力の通り道を作るため、コイルのように未発現の魔法陣を展開することもある。
魔力素操作用の魔法陣というものも存在しており、それを操作することで魔力素を間接的に操作するのである。
アリシアが感知したのは、おそらくこの魔力素操作用の魔法陣だろう。
「でも、臨死体験なんて……」
「多分、『時の庭園』で復活したときさ」
「あ……!」
ユーノは声を上げた。
『時の庭園』で、瀕死の状態をプレシアが渾身の治癒魔法で持たせていたのである。
ピュアが駆けつけるのが遅ければ、その後をクロノが尾行していなければ、アリシアは死んでいた。
状態は意識不明。
プレシアの話では、一時心肺停止に陥ったのを、無我夢中で現世に引き戻したという。
臨死体験をするには充分すぎるほど、危険な状態になったことがあるのだ。
地球に来ていたリンディは、アリシアのシェオール適性発現の報せをどう扱うべきか、誰に相談するべきか、悩んだ。
現在、それを知っているのは施術者であるピュアと、その場にいたユーノ。
報せを受けたエイミィとリンディ自身。
それに発現した本人であるアリシアのみである。
相談するとすれば、順当に考えればギル・グレアム元提督である。
元執務官長という重鎮で、管理局の闇にもある程度精通し、何よりいざというときは管理局を捨ててでもピュアやはやてを守る選択をすることが、はっきりしている。
『闇の書』事件では、その想いゆえに事件を解決に導くことができた。
いずれこの情報は彼にも伝わるはずで、隠すことにメリットはない。
彼はピュアやはやての養父でもあるのだ。
もう1人、隠すことができないのは、発現した本人の母親であるプレシア・テスタロッサ。
彼女は色々と不安定なところもあるが、その娘2人、フェイトとアリシアの安全を最低限確保しておけば、敵に回ることはない。
まだ復調していないながらも、条件付Sランク大魔導師としての力は顕在だ。
もし敵に回せば、その病的なまでの親馬鹿ぶりで管理局という枠組みを破壊しかねない。
そして、そのときに忘れてはならないのが、フェイトとアリシアがプレシア側に付く、場合によっては八神はやてや高町なのはも敵に回るということだ。
そうなったら大戦争である。
ランクSがプレシア、ランクAAAがなのは、はやて、フェイト、守護騎士の4人と、エース級だけで8人もいる。
ロンダルグなどという有象無象の集まりよりも、よほど厄介なことになるだろう。
ピュアが仲裁に乗り出してくれることを願うしかない。
そう考えると、ある程度公表するとしても、最低限プレシアと相談するか交渉するかしなければならない。
まあ、対応さえ間違えなければ、そこまでの事態にはなるまい。
地球在住のピュアやアリシア、ユーノの親友達には漏れるかもしれないが、釘を刺しておけばそこから情報が拡散することはない。
今はとにかく、極秘回線でグレアムかプレシアと連絡を取ることだ。
リンディは今、久し振りの休暇を満喫中だったのである。
時間的にグレアムは仕事中。
ならば、今は地球のスーパーで買い物中のプレシアに、最初に念話で伝えるべきだろう。
薄暗い研究所内。
「ドクター」
青髪の男に、スーツ姿の女性が声をかける。
「何だい、ウーノ」
「シェオール適性が発現する可能性のある人物をリストアップしておきました」
「ああ、それか。悩んだのだがね。それは管理局側に流すことにしたよ」
「管理局側に、ですか?」
「シェオール魔法はミッド魔法やベルカ魔法の天敵だ。だが、我々がそれを研究するには、1つの壁がある」
「壁?」
「簡単なことさ。ピュア・フィエリアーナ・グレアム。今のところ彼女1人にしか使えない、ということだよ」
それゆえに、人海戦術で実験回数を増やし、法則を導き出すという、常套手段が採れないのだ。
無理に拉致しようとしても、彼女の体力という問題がすべてを台無しにしてしまう。
少し無理をさせれば即培養槽行き、調整を繰り返しても、データを得られる時間はあまりにも短い。
そんなことをするくらいなら、今はそのデリケートな扱いを管理局にやらせておくべきだ。
そして、シェオール魔法の適性者が多数出るのを待つ。
本格的な実験を行うのはそれからにするべきだろう。
今、事を
そうなるくらいならば、今は娘達に視線を向け、十全な状態で戦えるように万全を期すべきだ。
それに、彼が手掛けている研究は1つではない。
「それにしても、『伝説の三提督』も焼きが回ったね。
シェオール魔法を封じる方法について、極秘研究させるとは」
「違法研究者への命令ではないようですが、可能だとお考えで?」
「1つ、方法がある。大いに問題のある方法がね。
だが彼らがそれを認めることはないだろう。危険視するのなら、やってしまえばいいと思うんだが」
「そうですか……」
「そうそう、この件でやることがあるんだ。クアットロを呼んできてくれないかな?」
「はい、わかりました」
去っていく女性の表情は、どことなく嬉しそうだった。
第47話でした。
アリシアにシェオール適正が出ました。
彼女は原作では復活するはずのなかった人物なので、名前は原作キャラに借りていても、中身はオリキャラです。
これに関連して、1つ悩んでいることがあるのですが、言っちゃうとネタバレになるしで悩ましいです。
最後のスカリエッティさんについて。
ピュアを隔離封印する方法は、原作設定準拠で1つだけ考えています。
もう本当に、大いに問題のある方法ですが。
それでは。