【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】 作:ひろっさん
アリシアは、資質が低いものの、ミッド式魔法の適性を持っている。
姉フェイトのように変換資質は持っていないが、発動体であるデバイスを使えばそれなりに魔法を使うことは出来た。
説明しておくと、魔法の使用には、本来デバイスは必要ない。
本来それは、詠唱を代行させて戦闘や緊急時の魔法の使用を高速化するための道具である。
だから熟練の魔法使いは、完全詠唱することでデバイス無しでも魔法を使用可能なのだ。
もちろん、そこまで到達するには、苛酷な訓練か長期間の修行が必要になる。
少なくとも、実戦での使用に耐えるレベルにするには。
基本的に
プレシア・テスタロッサは歩きながら天を仰いだ。
スーパーマーケットからの買い物の帰り、リンディから念話を聞いたのである。
自分に最初に連絡が来た、本局への報告を一時止めてくれている彼女に感謝を述べて。
それから、家に帰ってみれば。
その隣では、薄茶色の髪の少年がどう手を出すべきか、困っている。
「お母さん、わたしシェオール魔法使えるようになったよ!」
母親を認め、とてとてと走り抱きついてくる娘。
ぐりぐりと頭を押し付けてくる。
可愛い。
本当に可愛い。
この娘は、随分とシェオールに執心していた。
ピュアにおねだりして、シェオールのことを教わっているのもそうだ。
だから、自分がシェオール魔法を使えるというのが嬉しいらしい。
顔が綻ぶのが自分でわかる。
選択肢は3つある。
1つ目は公表すること。
多く取材が来るかもしれないが、許可は出来ない。
ピュアが、既にシェオールのことについては、ユーノを通して情報を開示しているのだ。
それと引き換えに、マスコミによる取材活動は控えてもらっている。
また、マスコミに混じって、違法研究者の魔の手が伸びてこないとも限らない。
却下である。
2つ目は、逆に隠蔽すること。
リンディの協力があれば、ある程度隠すのは難しくない。
もちろん、アリシアがシェオール魔法を学んでいけば、いずれ露見することではあるが。
少なくとも、まだ幼いアリシアの自由を確保するための隠蔽には、意味があるはずである。
3つ目、人員を制限して情報を開示すること。
管理局の提督リンディに知られている関係上、あの一家に情報が伝わるのは仕方がない。
それに、同じ管理局員のギル・グレアム、八神家や高町家にも知られるだろう。
『闇の書』の件での義理堅さは知っているため、彼らは信頼できる。
だからそれについては問題ではない。
問題は、どこで情報を止めるか、ということだ。
アリシアは、人造魔導師としては成功例と言える完成体なのである。
少なくともあと半年ほどは、経過観察のために本局の設備で精密検査を受けなければならない。
本来はホルモンバランスなどを整えるため、一生定期的に検査を受ける必要があるのだが、フェイトはもう安定しているし、それよりも進んだ技術で生み出されたアリシアも、一生涯というほど医療機関に拘束されるわけではない。
人造魔導師計画、あるいは
ゆえにあの男、管理局には話してあるが、あの狂った天才が興味を示すかもしれないのである。
完全体というだけならばまだしも、シェオール適性を発現した場合は、どうなるかわからない。
現在、本局の医療部にてシャマルが働いているため、当面はなんとか誤魔化すことは可能だ。
しかし、かなり早い段階で、少なくとも本局技術部、医療部。
そして本局の上層部に対して、情報漏洩に対処できるだけの材料は、渡しておかなければならない。
結局、選択肢と言うほどの選択肢はないのである。
だが無いよりはマシか。
少なくとも、ピュアやグレアムやプレシアのように、法に背くか自分に背くかを選択しなければならない状況よりは、幾らかマシだろう。
たとえ少なくとも、その両方を満たす選択肢は確かにあるのだから。
幸い、階級的には一番上のリンディは、プレシアがいずれを選択するにせよ、協力すると申し出てくれた。
ならば、後は考えるのみだ。
アリシアを守り、その自由を妨げず、またフェイトやその友人達、そして恩人であるピュアにも配慮できる。
そんな
大丈夫。
プレシアになら、自分にならばできる。
なぜならば、これまでも自分は様々な不可能を乗り越えて、アリシアを
ならば、自分にできなければ、それは誰にもできないことなのだ。
本局。
ミゼット・クローベル本局幕僚総長の執務室。
ミゼットの元へ、一通のメールが届いた。
それは何気ない、業務報告や評議会からの依頼に混じった、何の変哲も無いメールだった。
送り主は、本局技術部本部長。
6つある本局技術部の、トップである。
『シェオール式デバイス開発計画における提案書』と銘打たれたメール。
それは、タイトルからは特に隠すような内容ではないはずであるのに、提督級すら閲覧不可という、高いアクセス制限がかけられていた。
シェオール式デバイス開発に関して、時空管理局としては特に開発状況などを隠しているわけではない。
費用や時間がかかろうとも、それは革新的な技術になるであろうことが、専門家の間でも一致した意見だからだ。
だから実験方法などについての意見も、広く集めているのである。
その点において、この高いアクセス制限は不可解ではあった。
しかし、内容を読み進めると、次第にその理由がわかってくる。
大雑把に言えば。
それは専門の研究部署の新設申請であった。
シェオール魔法研究室を本局内に設け、必要な設備を揃えようというのである。
ただし、ここまでならば評議会でも議題に上がっていた話であり、特に機密事項には触れない。
問題はその後。
申請書に紛れて、現在第97準管理世界に在住のプレシア・テスタロッサの娘、アリシアにシェオール適性が発現したという報告が記載されていた。
「なるほどねえ」
ミゼットは口元を笑みの形に歪めた。
確か、アリシアはまだ5、6歳の幼子であったはずである。
善悪の判断も付かない幼児。
連れ去って洗脳し、手駒にするには丁度いい年齢であった。
ゆえに、この機密指定は納得できる。
室長として技術部より1名出向させ、主任研究員としてプレシアを据え置く。
プレシアは過去に民間で研究員として働いていたことがあり、手腕においても充分期待できる。
そんな母の下に出入りする娘という位置付けを施せば、アリシアのシェオール適性発現については隠し通すことができるだろう。
そして、アリシアにシェオール適性が発現したという事実を鑑みれば、大々的にシェオール適性検査を行うためにも、専門の部署は必要であった。
費用が多くかかるために、技術部の末端という位置付けでは、どうしても無理が出てくるのだ。
ゆえに、ミゼットはこの申請書に認可印を押すことにした。
押すといっても書類はデジタル化されているので、地球で言う電子印鑑のようなものである。
ミッドチルダでは、画面にタッチするだけで認可印が押される優れものだ。
音声や脳波のみで認可印を押す操作にもできるのだが、ミゼットはどうもその辺の、身体を動かさずに印を押すというのが気に入らなかった。
セキュリティの問題もある。
今では複合印鑑が一般的であった。
音声には多くの情報が詰まっており、正常な状態と判断されなければ押印できないシステムができている。
また脳波についても同じだ。
微量の魔力を流して、その性質を読み取って認証する、変わったシステムもあった。
それでもなぜか静脈、血液成分、指紋、分泌物を利用した、自分の手で印を押すというのが気に入っているのである。
これも、歳を食った証であろうか。
自分が既にシワシワのお婆ちゃんであることは重々承知の上なのだが、やはりどことなく寂しいものがあった。
ふと思い付いて、ミゼットは完成した命令書に一筆書き添える。
『可能な限り協力する、とテスタロッサ氏に伝えておくように』
水色と青のボディスーツの女性に声がかけられる。
声をかけたのはスーツ姿の、できる秘書という感じの青髪の女性。
「クアットロ、調子はどう?」
「ウーノお姉さま。私は万全ですが、やはりトレディチは調整に時間がかかっていますわ」
「しょうがないわね。まだ完全に稼動できる状態ではなかったのに、
培養層の中には、黒髪の少女が浮かんでいた。
戦闘機人達の中で、本来作る予定になかったナンバーズ、
この少女こそが、本局に侵入して一切の痕跡を残さず、レジアス・ゲイズの残したデータディスクの中身を消去した本人である。
不完全な状態での強制稼動には、痛みや苦しみといった感情を排除する洗脳が行われた。
その代償として、作戦から1年が経とうという現在でも、目覚めることなく眠り続けているのである。
「あなたも少し休みなさい。任務の合間、ずっとこの子の調整にかかりきりでしょう?」
「そうですわね」
第48話でした。
シェオール式デバイス研究室発足へ、秒読みです。
アリシアとピュアの所属先なのは確定です。
シェオール魔法に関することについては、ここですべて取り扱わせるつもりです。
最初は前話とひとまとめにして1話で終わらせるつもりだったのですが、予想以上に長引いてしまったため、ちょこちょこと付け足して2話に分割しています。
それでは。