【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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冒頭欝話注意。


049 シェオール魔法研究室

それは、炎と共にある、もう1つの記憶。

 

戦争で滅んだ国で、唯一生き残った王族に拾われた。

その王族は、国の再興を望んでいた。

 

同時に、自分達を滅ぼした者達への復讐も。

 

そのために、力を求めているらしい。

そのために、自分は、その真っ白い容姿を利用されようとしていた。

 

自殺を防ぐため、拘束されていた。

だが、食事を摂らなければ、いずれ餓死する。

 

死の苦しみには、もう慣れた。

自分がそうなるのなら、別に嫌ではない。

 

耐え難いのは、他人が死ぬことだ。

 

 

 

「なぜだ、なぜ理解してくれない!」

 

その、唯一生き残った王族は、来る日も来る日も自分を説得しようとしていた。

点滴を打ちながら。

 

国民が敵国の奴隷として連れ去られ、苛酷な扱いを受けている。

でも。

復讐のために、古代に世界を滅ぼしたとされる、兵器を持ち出そうとしていた。

 

それはよくないこと。

 

兵器という力に頼れば、その言葉から説得力が失われる。

攻めて、攻められて。

そうやって泥沼の戦乱になり、ついには最初の目的すら失われ、戦いのために戦い、不毛な滅びの道へと、周囲を巻き込んでいく。

 

その事例を、自分はよく知っていた。

敵味方ごと戦場を焼き払った、残虐な王の顛末も。

 

 

 

ついに、計画は決行された。

兵器によって敵軍は焼き払われ、国民は故国復興に沸いた。

 

敵国の民は、奴隷として扱き使われ、そして。

敵国は国民を取り戻すべく、他国と手を組み、攻めてきた。

 

少年の国は切り取られ、国民は皆殺しにされた。

敵国は、滅びの道を避けるために、敵を皆殺しにする道を選んだのだ。

 

自分は、それが予想できていたことが悲しかった。

それを止められなかったことが悲しかった。

 

どうすればそれを防げたのだろうか。

 

燃え盛る王宮と城下町を、身動きが取れないようにベッドに固定された身体で眺めた。

 

「お前がやればよかったんだ!」

 

不意に、豪勢な服に身を包んだ少年が叫んだ。

 

自分がやれば?

 

「僕がどうすればいいか聞いた時も、何も応えてくれなかった!

応えてくれていれば……こんなことにはならなかったのに……」

 

動揺した。

 

やろうとしなかったのは事実だ。

どうすればいいか。

 

自分にそのノウハウはない。

だが、共に考えることは出来たはずだ。

この結末を、避けることができたかもしれない。

 

涙が出た。

 

「また、間違った」

 

それが最期の言葉になった。

 

崩れる柱が、自分をベッドごと押し潰したのである。

 

 

 

どうすればよかったのか。

 

手を出しても、出さなくても、自殺しようとしてさえ。

人は死んでいく。

滅んでいく。

 

わかっていたのに、防げなかった。

自分も力だから。

力を力として振るえば。

防げたかもしれない。

 

自分のせいだ。

また、自分が滅ぼした。

たくさんの人を殺した。

 

人々の怨念が、悪夢となって自分を(さいな)む。

 

なにかできることがあったはず。

人を助けなければ。

誰かを助けたい。

 

今も。

世界のどこかで、人が死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

「ピュアちゃん!?」

 

シャマルが、広域探査魔法を使おうとするピュアを取り押さえた。

力は弱いので、後方支援担当の非力な女性とはいえ、この真っ白な少女を取り押さえることは難しくない。

胸に抱き締めれば、何もできなくなってしまう。

振り解くだけの腕力がないのだから。

 

「……あ……」

 

ピュアは我に返る。

 

もう何度目だろうか。

睡眠時、夢を見ているとき、夢遊病のように、体が無意識に動くのだ。

いや、夢遊病そのものと言ってもいいかもしれない。

 

ピュアの、磨り減った心が抱える病の1つである。

これに対応するために、ザフィーラ、シグナム、シャマルと3人で交代でピュアに添い寝し、勝手に魔法を使おうとするのを取り押さえ、止めさせているのだ。

疲れすら回復できる魔導プログラムだからこそ可能な、24時間の介護であった。

 

昼間、闊達な友人達と遊んでいられるのが信じられないほど、ピュアの状態は悪い。

だが、永い転生生活では貴重な友人達との付き合いは、少女に良い影響を与えていた。

毎日のように見ていた悪夢が、3日に一度くらいには減ったのである。

 

穏やかに笑うピュアを見て、精神科医すらもが、この少女の身に起こっている数々の症状について、信じられないと言う。

情動(エモーショナル)感応(・レセプション)』によって自分の感情を読み取り、感情を操作する術を心得ているため、暗い部分は完全に隠せてしまうのだ。

 

そうやって隠すことが、ピュアにとって本当にいいことなのか。

いい訳がない。

しかし、熟達したシェオール魔法に対抗する手段が、今のところ存在しない。

無意識による魔法の使用を、止める術がない。

 

彼女は自身が強過ぎるゆえに、その心の傷をより深めているのである。

 

 

 

「……」

「何十年と続いてきた心の傷が、簡単に癒えるわけがない。今は気にせずに私達に甘えていてくれ」

「……うん」

 

起きてきたシグナムに頭を撫でられて、少し落ち着く。

 

一緒に暮らし始めて1年。

ようやく回復の兆しを見せ始めた自分の状態に、ピュアはほっとしていた。

こんな悪夢も、いずれは癒えるのだと。

そう考えることができたから。

 

いつか。

自分が優しい人を皆殺しにする悪夢を見ずに済むようになる。

そんな日を待ちわびて。

 

今日も、自分自身に怯えながら、生きていく。

 

 

 

 

 

 

 

アリシアにシェオール適性が発現した問題は、その母親プレシアと監視役ハラウオン一家が協力して解決した。

時空管理局の組織としての利点を最大に生かした結果、シェオール式デバイス開発研究室が新設され、そこの主任研究員として、プレシアが就任することとなったのだ。

 

元々、管理局内でシェオール魔法の専門研究部署を立ち上げる話があったらしく、それが多少早まった程度の話だったそうだ。

 

決定的だったのは、ロンダルグ反乱の際、提出された戦闘記録である。

AAAランク魔導師が3人に対し、魔導師20、自律小型兵器1000という圧倒的な物量差を、ピュア1人がサポートに付くだけで引っくり返してしまったのである。

その上に、強度は低いものの(アンチ)(マギリンク)(フィールド)が、まるでなかったかのように振舞う魔導師達。

 

それを管理局の普遍的な戦力にできるかもしれないとあれば、研究費を注ぎ込むだけの価値はあると、誰もが納得するところであった。

 

 

 

研究所内の人員構成について。

 

基本的には『チーム・シェオールタイプ』の人員をそのまま異動した形になる。

元が4、5人だったので、通常業務についても特に問題はない。

強いて言えば、本物の変態であるマリエルの同僚が死ぬほど悔しがっていたことくらいか。

 

プレシアが主任研究員になることについて、何か文句が出る可能性が考えられていたが、彼らの中でプレシアは伝説の人だったので、むしろ全体のリーダーである室長に推薦された。

入局してすぐに1つの部署を受け持つ課長クラスになるのはどうかということで、プレシアはその話を辞退したが。

 

専門に研究を行う場所ということで、事務専門の人員も入る。

 

その内の1人が、オーリス・ゲイズ。

今は亡き父レジアスと、リンディに鍛えられたため、本局内の情勢についてはかなり詳しい。

地上本部のことにも詳しく、また事務能力についても太鼓判を押されており、能力も知識も何も問題がない。

 

暫定の民間協力者に、ギル・グレアム。

と、リーゼロッテとリーゼアリア。

元執務官長として慣らした手腕は、直接戦闘こそ体力が追いつかないものの、事務程度なら十二分に対応できた。

そして通常業務の外にも、本局に大きな影響力が残っているため、評議会への睨みが利く。

 

グレアムはミッドチルダ首都クラナガンに住居を構えており、そこから通う予定だ。

以前から住んでいた場所で、ピュアやはやて、それに守護騎士達の入局、移住備え増築する予定だそうだ。

もっとも、それが予想外の大所帯になることは、彼らが知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

地上本部。

オズ・グンナルの執務室。

 

「ドクターは手を出さんと?」

「はい。今手を出しても無意味だとおっしゃっておられます」

 

ドゥーエから名簿を受け取りながら、グンナルは話す。

 

「賢明だな。今あれに手を出すのは、効率的には無意味だ。研究成果を横取りした方が、よほどいい」

 

身も蓋もない、徹底的な合理主義であり、感情のない意見。

だが、これが最高評議会をして危険視させ、同時に信頼を置く要因となっているのだから皮肉なものである。

 

「だが、彼は自分の欲望の赴くまま、研究対象を定めるはず。効率云々は二の次だ。

ということは、彼の興味は今はそこにないということか?」

 

ただ感情のない意見だけならば、中将というほどの地位には上ることができなかっただろう。

感情の有無による違いを冷静に冷徹に、機械のように計算することが、彼にはできる。

 

だからこそ。

ドゥーエは、隙があれば今すぐにでも殺そうと考えていた。

それほどの危険性を、このグンナルという男は感じさせるのだ。

 

「それで、例の研究室、どうするんですかい?」

 

それができない理由の1人。

 

ヴィザード・リックス。

グンナルの腹心で、つい半年前、同郷の暗部構成員候補を数人引き連れてきた男。

 

言葉遣いは荒いが、仕事は確か。

本局に潜入し、人知れず脱出してくることなどお手のものと豪語する、ドゥーエに匹敵する潜入能力を持つ男。

そのドゥーエにしても、他人に化ける特殊能力があるからこそ、同列でいられるのだ。

それほどの腕前を持つ、一種の怪物である。

 

「何人か、潜入させる」

「へぇ、手を出すんで?」

「物資器材搬入の作業員に紛れ込ませろ。彼女の能力に引っ掛かれば、元『天使』とて危うい」

「まあ、あの手の能力だけは無理ですな」

 

『情動(エモーショナル)感応』(・レセプション)

感情を読み取るというだけの能力だが、警戒心や敵意といった感情を読み取られると、暗部であることがバレる危険性があった。

ピュア1人ならどうとでも誤魔化せるが、背後にいるのはあのハラウオン親子だ。

 

英雄とまで言われた元執務官長ギル・グレアムから直接指導を受けた、エリートの中でも飛び抜けた食わせ者で、探りを入れていることに感付かれると、色々と厄介なのである。

 

「それに、研究や内部の事情に興味はない。

手を出してくる馬鹿どもに対応するには、渦中でない方がいい。

暗部を使って防衛陣を敷くのは、キール元帥からのお達しでもある」

「へぇ、そりゃ驚いた」

 

武装隊栄誉元帥ラルゴ・キール。

いわゆる『伝説の三提督』の1人で、地上本部ではトップの権限を誇る人物だ。

 

「彼が動いたということは、例の研究所は最高評議会でも迂闊に手が出せん。

我々にできることは精々網を張って、それに引っ掛かる馬鹿どもを締め上げる程度だ」

「本音は?」

「人の出入りの情報を集めろ。通信記録と合せれば、潰すべき阿呆が見えてくる」

 

地上本部には、予算がほとんど回ってこない。

そんな切り詰めなければならない状況を作り出している、管理局の予算を吸い上げておきながら何の役にも立たない場所があった。

いわゆる、天下り機関というやつである。

 

そういう場所を、最高評議会や『伝説の三提督』を利用して潰しにかかろうというのだ。

 

前任の地上本部司令長官レジアス・ゲイズが手を出せなかった部分でもある。

彼は類稀なるマネジメント能力によって少ない予算をやりくりしていたが、それでも足りなくなり最高評議会に泣き付く羽目になった。

それが凋落の原因である。

 

だが、グンナルは暗部の人間だ。

どこの誰が予算を無駄遣いしているかなど、調べればすぐにわかるのである。

 

普段ならば、最高評議会や評議会が口を出して邪魔をしてくるが、あらゆる権力の肝入りで行われる、近代シェオール式デバイスの開発事業についてだけは、話が別だ。

それを取り込むことができれば、ミッドチルダの軍事力の最も大きな部分を掌握するのと同じ、大きなメリットがある。

それだけに、そこを取り込もうとする動きにだけは、誰もが見て見ぬ振りをできない。

 

それを利用し、迂闊に欲を見せた者を即座に密告し、潰そうというのだ。

確たる証拠が挙がれば言い逃れができない上に、ことがことだけに上層部は動かざるをえない。

 

そして。

暗部ならば、証拠など幾らでも作る(・・)ことができる。

足を引っ張り、しかも情勢を見極められないような愚鈍を、彼は決して見逃さない。

 

自分達も迂闊に手を出せないこの状況は、グンナルにとっては利用すべき好機なのである。

 

 

 

 




第49話でした。
冒頭の過去話、また修正するかもしれません。
過去話は気分が載った時でないと、良い話が作れないように思います。
そのときは良い話と思っていても、後で見直すと黒歴史満載だったり。

本編の通り、原作とは人員構成がかなり変わります。
グレアムさんと猫2匹は、Sts本編まで残りませんが。
さすがに歳ですからね。
後はあの人とあの人を加え、あの人が抜けて最終メンバーってところになります。
詳しい内容は秘密です。

それでは。
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