【『にじファン』より移転】希望郷の白き魔女【テンプレに喧嘩売ってみた】   作:ひろっさん

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プレシアサイドで進みます。


006 理解の鍵

プレシアは目覚めた。

 

いつもの、自分の寝室。

余計なものは売り払っており、装飾品の類は一切ない、壁紙すら貼っていない、殺風景な部屋。

 

体の調子は悪くなさそうだ。

それがおかしいと感じる。

 

医学知識があるからわかるのだが、意識を失う前の発作でプレシアは命を落としていても不思議はなかった。

 

『集積器官変異症』とは、徐々に『リンカーコア』が変質していき、肉体に害を及ぼす病気である。

決して不治の病ではないのだが、症例が極端に少なく、ゆえに治療法も限られる。

治療にはミッドチルダへ行く必要があるのだが、治療用の設備があるのが管理局の管轄下にある大病院なのだ。

 

(アリシア)の蘇生という違法研究に手を染めている以上、治療を受けるのは同時にアリシアの蘇生を諦めるということを意味していた。

娘を諦めることなどできない。

ならば、自分で作り出すしかない。

しかし、『日和見症候群』の発症が彼女から時間を奪っていき、思考能力を奪っていった。

寝室に調度品の類がないのは、雑菌やカビなどの繁殖を極力抑えるためでもある。

 

そんなとき、『ジュエルシード』の情報が流れてきたのだ。

おそらくエネルギー貯蔵装置の一種。

それは同時に『所有者の願い事を叶える』という性質を持っていた。

 

その情報から因果律の干渉への可能性に辿り着く。

ただ、それだけで人間が蘇るのなら、誰も苦労はしない。

それが可能だったなら、世の中にはもっと永遠の命を得た人間が闊歩しているだろう。

 

だが、それに繋がる鍵となりうる可能性はあった。

すなわち、超技術文明の世界『アルハザード』への切符である。

 

病気のため、研究を続けるにはあまりに時間がない。

ならば、たとえ御伽噺であったとしても、『アルハザード』に賭けてみようという想いができた。

今から思えば、何も考えずに縋りついたのだろう。

 

『ジュエルシード』探しは、思いの外順調に進んだ。

失敗作(フェイト)に戦闘技術を教え、送り出すまでに少々時間はかかったが。

最初の1週間ほどで7つもの『ジュエルシード』を確保できていたのは予想外だった。

 

希望が見えてきたところで立ちはだかったのが、『アルハザード』からやってきたという、ピュアである。

あの異様な白さを持つ少女は、プレシアの最後と言っていい希望を、粉々に砕いてしまった。

 

プレシアは、(アリシア)が蘇生した後のことを、何も考えていなかったのだ。

『アルハザード』の技術がどんな代償を求めるかなど、まったく思慮の外だった。

 

ピュアがその話をしたとき、どんな表情だっただろうか。

全身が真っ白で陰影がわかり辛いため、表情もあまり記憶に無い。

 

そこまで考えたところで、手の平に温もりを感じた。

 

「かあさ……」

 

ベッドに寄りかかったまま寝言を漏らすのは、金髪ツインテールの少女フェイト。

 

以前まで感じていた嫌悪感は沸かなかった。

フェイトと自分の罪を較べれば、自分の方が遥かに罪が重いことを自覚した?

体調が良くなったことで、心に余裕ができた?

考えられる理由は色々とあるが、結論は出ない。

 

酷いことをしてきたと思う。

その自覚はある。

フェイトも、よく耐えてきたと思う。

ただ1つ、縋るべきものがプレシアだったのだとしても。

 

流れる金髪を撫でる。

そして気付いた。

 

フェイトに嫌悪感を抱かない理由。

それは。

 

もう何もかもが、どうでもよくなったからなのだ。

生きる目的を見失ったと言ってもいい。

だから、別の生き甲斐を探そうとしている。

 

自分が(アリシア)の蘇生を諦めようとしているのだと、このとき初めて実感した。

 

頬を涙が伝う。

このくらいは許されてもいいだろう。

泣くくらいのことは、赦されてもいいだろう。

せめて、眠るフェイトを起こさないように、声は押し殺して。

 

全部話してしまおう。

 

プレシアは思った。

ずっと1人で抱えてきたことについて、誰かにぶちまけることで、楽になろう。

その結果、フェイトに殺されることになるのなら、それでもいい。

管理局に突き出されるのなら、それでいい。

自分はそれだけのことをしてきたのだから。

 

 

 

しばらくして。

目覚めたフェイトがプレシアに縋り付いて、無事を喜び泣いていた。

 

そんなとき。

 

「ああ、ちょうどよかったさ」

 

様子を見に来たピュアが、『時の庭園』にあった予備のデバイスで作ったレポートを持ってきた。

 

そして、ピュアがプレシアに何をしたのかということの説明を、まずは一通り聞く。

それで妙に体調がいいことについて、説明がついた。

 

魔力集積器官(リンカーコア)の変質そのものは治せていないが、魔力の過補給(オーバーフロー)による自然治癒力の活性化を行ない、体力を回復させたのだ。

 

理論上、魔力を注ぎ込んで充溢(オーバーフロー)させれば、魔導師なら魔力集積器官(リンカーコア)からの影響を受けてある程度体力を回復させることは可能だというレポートを、プレシアは見たことがあった。

 

だが、それは魔力の貯蔵量が底をついていた場合の、疲労感を回復する意味だと思っていた。

それに、他者の魔力集積器官(リンカーコア)溢れ(オーバーフロー)させるとなると、凄まじい魔力集積能力が必要となる。

魔力集積器官(リンカーコア)は必要以上の魔力素を吸収しにくいという性質があるのだ。

吸収されずに散ってゆく魔力を超える量を注ぎ続けなければならないというのは、とても現実的な方法ではなかった。

 

しかし、ピュアの魔法はミッド式のそれとは根本的に思想(コンセプト)が異なる。

回復用の結界を展開し、それそのものを擬似的な『リンカーコア』にしてしまうのである。

もちろん、普通のものに較べて集積能力は低いが、内部に高濃度の魔力を満たすことで魔力の過補給(オーバーフロー)を維持する条件を整えることができる。

 

これはミッド式では不可能な方法だ。

使い魔やユニゾンデバイスに使用される『擬似リンカーコア』を、即席で作るようなものである。

『擬似リンカーコア』作成のための技術が必要になるし、結界内すべてとなると技術が確立していない。

一度術式に結合された魔力ならともかく、変換前の魔力素を集積する結界など、確認されたことがない。

元々そんな発想すらなかったのだ。

精々、消費した分を直接の受け渡しで補充する程度しかできない。

 

プレシアが今まで触れたことのない、未知な魔法技術であることは間違いなかった。

 

そして。

 

問題は次の、ピュアが作ってきたレポートだ。

彼女自身はデバイスというものを扱ったことがないらしく、使い方はアルフに教わったという。

 

内容は。

 

『『ジュエルシード』の使用方法とその性質についての解析、検証結果』

 

プレシアが眠っていた3日間で作り上げたのだそうだ。

理由はわからない。

いや、レポートを読み進めると、その目的は見えてきた。

 

まず驚いたのが、ピュアなら『ジュエルシード』を暴走させず、ほぼ自由自在に扱うことができるということ。

デバイスに記録された映像には、何度も『ジュエルシード』を発動させるピュアの姿が映っていた。

 

『ジュエルシード』とは、『擬似リンカーコア』内臓型のデバイスである。

擬似融合(ユニゾン)する性質を考えると、ユニゾンデバイスの一種と言うこともできるかもしれない。

魔法選択は祈祷式で、念話のような思念波を受け取って発動する。

 

ミッド式のデバイスの中で人格型(インテリジェント)デバイスと呼ばれるものがこの方式で、状況や脳波パターンの変化を計測し、AIが自動で使用するべき魔法を選択するというもの。

 

『ジュエルシード』の場合は深層心理にまで踏み込み、所有者が叶えたい心の奥底で眠る『願い』を受信し発動する。

当然デバイスであることから、使用できる魔法も叶えることができる願いも限られる。

実現可能なものについては融合するなりして普通に実現する。

実現不可能なものについては内蔵されているAIのようなものが判断し、ある程度『願い』を曲解して実現してしまうようだ。

 

ピュアは特殊技能(レアスキル)として『情動(エモーショナル)感応(・レセプション)』があるため、自分の深層意識を操作し、願う内容を書き換えることができる。

だからピュアは取り込まれずに自由自在に発動させることが可能なのだ。

 

重要なのはここからである。

 

『ジュエルシード』は膨大なエネルギーを内蔵し、発動方式や使用方法、利用している魔法の構成などがミッド式とはかなり異なる。

ピュアの故郷の魔法とも異なっているため、色々と使い方を試しながら、利用されている術式構成を列挙していた。

わかりやすく言えば、使用可能なプログラム言語を手探りで探していくようなものである。

 

プレシアが気になったのは、それが人体蘇生に関わる重要なものばかりということであった。

そして予想外なのは、そのうちの1つが成功している点である。

 

それは望んだ『魂』を精製し、器である肉体に吹き込む実験であった。

マウスの死体からクローンを複数作り、オリジナルとの僅かな性質の違いを埋めるために、『魂』の精製を行なったのである。

 

『魂』とは、ミッドチルダの技術に全く無いわけではない概念である。

使い魔作成時に擬似魂魄を作る際、用いられるものというイメージが一般的だろう。

しかし実際は擬似魂魄を作る術式は存在するのだが、擬似魂魄――『魂』――がどういう理論の下に作り出されているのかを解明した者がいない。

ゆえに、ミッドチルダでは『魂』の概念の存在は認められているが、全くと言っていいほど研究が進んでいないのが実情なのだ。

 

だが、最初の実験では失敗していた。

ピュアの注釈(コメント)によると、ピュアの故郷では『魂』の概念が重視されていたとはいえ、プレシアが求めているような完全な複製となると、どうしても『器』の問題が出てくるという。

『魂』は『器』によって微妙にその形を変えてしまうことがあるそうだ。

だから今回のように、単にそれらしい『魂』を作り出しただけでは完全な複製体ができないのである。

これに関しては、体内のどれかの臓器が『器』の役目を果たすことまでは判明していたが、どの臓器なのかは全くわかっていない。

もしかするとクローン体なら『魂』の変化が起きないかもしれないと考えたようだが、現実は失敗している。

 

成功した、というのは、地球にいるときにテレビで見たある番組が紹介していた症例から、推測を立てたのである。

 

それは心臓移植にまつわる逸話であった。

心臓提供者の性質や細かい癖が、移植を受けた者に顕れたというのだ。

それはつまり、心臓移植によって『魂』が変化を起こしたということに他ならない。

『魂』の『器』は心臓だったのだ。

 

これは内科治療技術や万能細胞技術が発達したミッドチルダや、強力な回復、治癒魔法のあるピュアの故郷では、発見されないであろう例であった。

地球のようにリスクの大きい原始的な臓器の直接移植を行うことが、まずないのである。

 

『ジュエルシード』は偶然『地球』に降り注ぎ。

ピュアは『時の庭園』現れ。

その間に心臓移植の話をテレビ番組で放映し。

それがピュアの目に留まる。

最後に、すべてを実現できる機材が『時の庭園』には存在し。

プレシア、すなわち自分には、それを実現できるだけの知識と経験がある。

 

これだけの偶然が重なって起きた奇跡であった。

 

 

 

「しょうがないわねえ」

 

苦笑する。

プレシアは深い闇を照らす光を見た気がした。

何もかもを投げ出してしまいたいと思っていたのに。

深い挫折を認める努力をしなければならないところだったのに。

投げ捨てたそれらを再び拾い集めなければ、という意欲を感じる。

 

心の底から、気まぐれでピュアを殺してしまわなかった自分に感謝した。

そして命の危険を押してまで自分を諭してくれたピュアに感謝する。

最後に、ピュアをこの『時の庭園』に転生させてくれた、運命の悪戯に感謝、だ。

 

 

 

 




第6話でした。
プレシアによるフェイト虐待の理由について、病気のせいにしています。
ま、虐待の原因なんてそんなものじゃないですかね。
心に余裕がなくなって、その人が何をやっているのか理解できなくなって、どう接すればいいのかわからない、なんて。
本人にとってはその程度のことが、特に子供にとっては人格を歪めるほどの、重大な虐待になっていることもあるようです。
逆にプレシアさんにそういう経験があるのかも、とかって妄想もしてみたり。

えー、後で大問題になることを、このピュアちゃんはやらかしています。
しかし、簡単に法に触れるからって止めるのも、どうかなって思っちゃうことなんですよね。
法律には限界があって、それを運用するのも活用するのも人間です。
あなたはこのピュアの行動について、どう思いますか?

それでは。
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