Fate/影青のアイテール   作:有部理生

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悪だくみは夕食の後で

 瓦葺の屋根、木の多い庭。和洋折衷、二階建て。閑静な住宅街に位置する、ごく一般的な日本の一軒家。

 

 おばあちゃんちに着いた私たちは、現在食事中。ここを神殿にしようとしたテオとの攻防があったが、先ほどまでの緊張に比べれば、概ね平和である。

 

(一般人の振り、忘れないで。それに魔力消費も抑えたいから、食事は普通に摂ってね。苦手なものはありますか?)

 

(いえ、特には。私は、イタリアに居りましたから、魚介も食べられますよ)

 

 というわけで、現在私たちは祖母のつくってくれた純和風の夕食を食べている。メニューはご飯とおみおつけ、鯖の塩焼きと、タコとワカメの酢の物、白菜の浅漬け。勿論手伝いは出来る範囲でしっかりした。

 しかし鯖、あとタコって。いや、おばあちゃんが悪いわけじゃない。ごく普通のメニューなんだが、その、なんだ。引きつった笑いが漏れてしまいそうで困る。

 

(美味しいですね)

 

(よかった、口に合って)

 

 特にタコは非常に不安だったが、事前の申告通り、彼の箸を動かす手は満遍なく、止まることがない。聖杯って箸づかいまでサポートしてくれるんだ、と若干遠い目をしつつ、海藻たくさん食べると体にいいんだよ、と勧めてみる。……全部魔力になっちゃうのは解ってるよ。でも少しは違うかもしれないだろ!

 

 おいしい、おいしい、といいながら私もご飯を頬張る。タコは好物である。エネルギー補給は重要だ。今の私は二人分養っているようなものだし。

 

(それにしても魔力供給に差し迫った重大な問題がないのは良かったなぁ)

 

 テオ曰く、私の魔術回路の数は全部で13本。魔術師ですらないマスターながら、最低限現界に問題ない程度の魔力は常に供給されているらしい。葛木先生よりははるかに恵まれている。喜ばしいことだ。ただし宝具の真名解放にはやや不安が残るらしい。魔力炉を作りましょう、と彼は言っていたけれど、どうしよう。

 

(やはり、ここを工房にするのは、駄目ですか?)

 

(二階に父が使ってた部屋があるから、そこは使える。多少はいじっても大丈夫。ただし! 現状復帰可能にすること。あと外からは、絶対に、魔力一筋さえバレないようにすること。簡易な結界くらいなら、まあ流れ弾防止にありかな……)

 

 懐かしい言葉だ、現状復帰。永久にここにいるわけではないからね。それに私は、家の中に罠とかあったら絶対突っ込む自信がある。祖母は魔術自体知らない上に、よくふらつく。危ない。そして一番おっかない魔術師殺しに対処するには、1にも2にも一般人の振り、これに限る。これらの理由で、先ほど神殿作成を拒否したのだ。そうそう、夕飯を食べたら他マスター等についても話しておかなくては。食事中には、これ以上のシリアスな話題はいいだろう。ご飯がまずくなる。

 

 食事の後、父はすぐに母を見舞いにとんぼ返りした。私は母への言伝を頼む。あとは残った私たちで後片付けである。

 

 長髪を後ろに流し、その辺にあった黄色のリボンで括った姿に微妙に既知感を覚えつつ、なんだかもうこの人眺めてるだけで楽しいからいいやー、と半ば思考を放棄してみたり。お腹いっぱいだと頭が働かないわー。

 エミヤみたいに現代人ってわけでも無いのに、妙に食器を洗う姿が手慣れているのは、実験室でフラスコを洗っていたりしたからなのだろう。記憶の中の私も経験があるからわかる。ちなみに私は横で皿拭いてます。

 無理はするなと言われたが、じっとしているのは罪悪感が強い。おばあちゃんはAE(好ましくない事象)でいうならGrade2、日常動作にも不安がある。

 

「悪いわねえ、手伝ってもらって」

 

「お世話になる以上、これ位は、させてくださいね」

 

 で、彼はというと。完璧に留学生のテオドール君になりきっている。誰だこの好青年。最後までずっとこの調子でいてくれたらと心から願う。しかしパラケルススに皿洗いさせてるって、真っ当な魔術師が見たら卒倒するんじゃなかろうか。

 

「割と楽しそうだね」

 

「!……そう、見えますか?」

 

 あれ、なんでこんなバツの悪そうな表情してるんだろ?

 

(本番は明日かな。今日は流石に疲れた。もう何もしたくない。あ、作戦会議は別ね。これ終わったら二人で父の部屋に)

 

(そう、ですね……)

 

 なんか思っていたのより暗いなぁ。記憶と微妙に差異があるような。

 

 リウマチの薬を服み、ニコニコしているおばあちゃんを後ろに見て、二階に上がる。

 

(んあーっ! まっだメトトレキサート承認されてないのかよ! 生物学的製剤は第1相終わってんだろうな? TNF阻害薬はともかくMTXくらいとっとと使わせろー! こ、のバカー!!)

 

(……頭に響きます。静かにしていただけませんか)

 

 別に彼に伝えるつもりでもなかったが、ドラッグ・ラグへの憤りがすぎたようだ。

 

(あ、ごめんごめん。漏れてたか。いや、関節リウマチって早期に強い薬で治療するのが肝要なのに、今ここでそれを知ってるのは私だけ。おばあちゃんに何もしてあげられなかったのが悔しくてね。あの足だとおばあちゃん、何かあった時に逃げられないかもしれないから……)

 

 具体的には泥だばぁの時とか聖杯が降霊した時とか。足が動かせるだけでいいというものでもないけれど、動作に支障があるとないとでは、生存率も変わってくるだろう。

 

(彼女の足なら、治ります)

 

(……Really?)

 

 二階の廊下で立ち止まる。

 

(何故、英語を。いや、私の、賢者の石の効果はご存知でしょう?)

 

(万能薬、不老長寿を与える、多分母を治療してくれたのもそれ)

 

(その通りです)

 

(あれ、慢性病にも効くの。自己免疫疾患だから単純な治癒力の強化じゃどうにもならないけど……血腫を消せるくらいだから……そうか……治るよなぁ……)

 

 ハハハと虚ろに笑う私。現代医学形無しじゃねーか。……確かに広めたくもなるわこれ。

 

(関節が変形していても大丈夫?)

 

(それ込みで、治せますよ)

 

(ありがたい。時間はどれだけかかる?)

 

(何でしたら、今からでも、直ぐに)

 

(いや、今すぐにはいい。おばあちゃんには悪いけど、急に治ったらそれはそれで怪しまれる)

 

 多分生前の死因、それやったからだよね。魔術で一般人を治療して、どう誤魔化すと言うのか。私たちの時は、緊急避難というか、母が意識を失っていて、半ば密室、私が召喚主という変則条件だから問題なかったのであって。それに、下手なことをすれば、おばあちゃんの方が症例研究の対象になって、それもまたややこしいことになる。

 

(無難なとこだと新薬の治験、でも一瞬だと流石にそれも無理。少しずつの改善は可能?)

 

(ええ、まぁ)

 

(ごめんなさいね、折角治してくれるというのに注文ばかりつけて)

 

(構いません、マスター)

 

(美月だってば。じゃあ、悪いけど、基本は今の薬が効いてるような感じでゆっくり治し、私が改めてお願いしたら一瞬で治せるようにしておいてくれる?)

 

 保険だ。万が一聖杯がどうこうした場合に、逃げられるように。命だけは助かるように。でも基本は私が連れ出すのだな、きっと。……思考がまとまりづらい。穴がある気がする。

 

(了解しました)

 

(ありがとう。じゃあ、改めて、作戦会議といこう)

 

 部屋に入った。元は父の勉強部屋だけあって、電気スタンドつきの机が一つ、押入れとタンス、色々と物の置かれた本棚。鉱物標本が埃を被っている。これはありがたく使わせてもらおう。今回は机は使わず、部屋の真ん中あたり、絨毯の貼られた床に、二人、直に座る。

 

 しかし、これまたある意味神経戦だな……胃が痛い。メタ知識も良し悪しだ。自分の……と駆け引きをしなけりゃならないなんて……

 

(まず前提として、私、各陣営の割と詳細な情報を知ってるんだけど……)

 

(英霊召喚までは、ともかく。そのような情報が、あるとするならば。どのように、入手なさいました? 少なくとも、今、私は、使い魔さえ放っておりません)

 

(未来でこの戦争の報告書みたいなのを読んだ。どうしてそれが読めたかは、あまり聞かないでほしい)

 

 嘘は一言もついてないぞ! さすがに物語云々は今は早い気がして、散々頭をひねった末に出た理由がこれだった。同一世界内での転生と思うかどうかは、テオの勝手である。

 

(……)

 

 そうだよなー、普通信じないよなー。それはよくわかる。先ほどの告白時は忘れていたが、未来からの転生となるとそれは魔法の領域だろう。単なる転生ならロアとかあるけど。ましてや、ある意味この世界を俯瞰できる世界からの転生など、魔術師であっても思いもつかないのではないだろうか。

 

「とりあえず、私の言うことがある程度真実であると思って聞いて」

 

 というかあっぶねー、焦っていたせいであんな風だったけれど、記憶の出どころについては、かなり綱渡りだったじゃねぇか。しかしもう止まらない。

 

「それは、命令、でしょうか?」

 

「いや、お願い。……できるなら、令呪はあなたのためだけに使いたい」

 

 私はあなたを繋ぎとめる楔となる、碇となる。そう、心に刻む。

 

「でもまあ、私自身もちょっと自分を信じられないんだ。あなたは半信半疑だと言ってくれた。記憶と現在の状況が違ってる可能性もあるし、話半分でいいから聞いてくれる?」

 

「いえ、拝聴しましょう」

 

「じゃあ、まずは……」

 

 取り出したるは電話帳。テオに電話台から持ってきてもらったもの。黄色い頁を開く。

 

「ホテル、ホテル……冬木ハイアット…っと」

 

「一体、そこがどうかしましたか?」

 

「私の記憶通りなら、ランサーと、ランサーのマスター、その婚約者が宿泊しているところ。ランサーの真名はディルムッド・オディナ。宝具は破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルク)必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)。前者は魔術の無効化、後者は癒えることのない傷を与える」

 

 テオと一緒に戦う場合、実は一番怖い相手だ。……他のやばいのはもう自然災害みたいなもんだと思って諦める。

 

「! それは車内で言っていた……」

 

「ええ。ただ、恐らく現在はディルムッドの魅了に婚約者がかかっていて修羅場中。マスターの名前はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。水と風の二重属性で時計塔のロード。水銀を使用した礼装持ち。最上階を神殿化し侵入者に備えているが、ハイアットホテル自体が爆破解体されてそれが無駄になる予定」

 

 画用紙に情報を書き書き。思考を整理したい。

 

「何ですか、それは。爆破解体……?」

 

この人が唖然とするレベルとか。いや魔術関係ない一般人でも普通思いつかねーよこんな手段。せいぜい加湿器に薄い……いやいや。

 

「ホテルの鉄骨に小型の爆弾を仕掛けて、こう、内側に倒れるように……魔術じゃないから神秘の秘匿には引っかからない。実行者はセイバーのマスター、衛宮切嗣。彼は魔術師殺しと言って、近代兵器を用いて魔術師を殺すのを得意とする魔術使い。火と地の二重属性、ただ問題はその起源。名前と同じく切断と結合。それを利用して、撃った相手の魔術回路を不可逆的に破壊する弾丸を礼装とし、大口径の銃で発射する。回路の励起の度合いに応じて威力が変わるのが特徴」

 

 遠い目をしないでください。まだ続きがあるんです。

 

「それと家系由来の魔術として固有時制御がある。時間操作の魔術を、体内に固有結界を展開して使用。自身に流れる時の倍率を変化させ、高速での戦闘や、逆に代謝等を低下させての索敵回避に使用」

 

「しかし、それは、反動が酷いでしょうに……」

 

「うん、だから通常は2倍くらいが限界だったはず。それでも使用後の世界からの修正はきつい。ただ、頑張れば3倍いけるし、鞘があったら4倍くらいまでは行けたはず」

 

「鞘?」

 

「セイバー、もし記憶の通りなら、多分アーサー王」

 

 ただし女だけどな! 万が一男の方だったらどうしよう。というかこれ男セイバーだとかなり不味いんじゃないか? 蒼銀的に。いや、ここはzero時空だから問題ない問題ない多分大丈夫。……強引にパニックを起こしかけた脳をなだめる。

 

「……約束された勝利の剣(エクスカリバー)と風王鉄槌がセイバーが持ってて、全て遠き理想郷(アヴァロン)は宝具の現物をマスター側が発見、セイバーに隠してマスター陣が持ち、再生能力を向上させる使い方をしてる、はず」

 

(というか賢者の石でも似たようなことができるんじゃない?)

 

(え、ええ……)

 

「あーもうここの陣営だけ話すことが多すぎてやんなるな! で、切嗣はアインツベルンに婿養子に入ってんの。小聖杯を体内に担うホムンクルスが妻で、今回は囮のマスターをやってる。簡単な魔術を使う助手が遊撃。何を犠牲にしても叶えたい、聖杯にかける悲願は世界平和」

 

(小さい頃の心的外傷からだと思うんだけど、感情と行動を乖離させることができる。それといわゆる武勲を挙げた英雄を嫌ってる。願いもその関係ね。魔術師も嫌いだけど、多分あなたは大丈夫じゃないかな)

 

 本性を出さなければ、という注釈がつくかもしれない。でも私の見立てでは相性良さそうな気がする。……渡さないからな。

 

「魔術師殺しに特化してるから、逆に魔術師じゃない相手の行動パターンは読みづらいみたい。私が一般人の振りしろ、ってしつこく言ってたのはこの人がいるから。恐らく私が、あなたを召喚したのは、他陣営には知られてないと思う」

 

「そう、ですね」

 

「ん、でここ冬木のセカンドオーナー、遠坂がアーチャー持ってるのね。真名はギルガメッシュ。多数の宝具を射出し攻撃。さらに神性が高いほど強く拘束する天の鎖、対界宝具である乖離剣エアも所持。普段は宝具の射出だけだけどね。……エア抜かれたら? 死ぬよ多分」

 

 何となくだが、テオはきっとものすごく英雄王を怒らせそうなタイプに思われる。遠坂の方も玲瓏館思い出すんで、会わせたくない陣営NO.1だ。

 

「実はこの陣営、監督役の聖堂教会と協力してる。教会のマスター、言峰綺礼はアサシン、ハサン・サッバーハを召喚してるんだけど、アサシンは宝具により80人ほどに分裂する能力持ち。個体間で情報共有が可能。諜報で得た情報を遠坂に流してる。このマスターも体術と洗礼詠唱を極めた代行者で、めちゃくちゃ強い。あとかなり面倒くさい性格だな」

 

 実際は性格というより、器質の問題だとは思うのだが。説明が面倒くさい。善とか悪とかふるのヤダ。所詮は相対的なものだ。それでももし絶対的な基準を定めるとしたら……

 

「ふむ、なかなか、厄介な相手のようですね」

 

「救いはアサシンは分裂すればするほど一体当たりの能力が落ちるとこかな。あとギルガメッシュの慢心。でも、まともに当たったら無理ゲー以外の何物でもないので、言葉は悪いが監督役と遠坂との癒着をネタにゆすります」

 

(強請る?)

 

(軽蔑されるかもしれないけど、正直死にたくないので。……そんな酷い条件は出さないよ。聖杯戦争中止と大聖杯調査のお願いくらい)

 

 誰が好き好んでラスボスと敵対するものか。強大すぎる魔王はどうにかしてなだめるものだろう。

 

「ここと関係するのが令呪システムを開発したマキリ。現代ではこの冬木の地に移住して間桐になってる。擁するマスターは間桐雁夜。おそらくバーサーカーで湖の騎士、ランスロットを召喚するものと思われる。宝具は手にしたもの全てに神秘を宿す、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)。ステータス隠蔽の己が栄光のためでなく(フォー・サムワンズ・グローリー)。令呪でもって解放する無毀なる湖光(アロンダイト)。……遠坂には娘が二人いるんだけど、虚数属性の下の娘が間桐に養子に出てる。でもまともに魔術を教えてもらえず、性的虐待まがいのことしかされてない。雁夜はその娘を遠坂に返すために聖杯戦争に参加」

 

「……!」

 

 ここで一度言葉を切る。実際はもっと色々ドロドロしてるのだけれどね。今はそれは必要ない。ただ視野が極端に狭くなっているのは、明らかに肉体的な苦痛が悪影響を及ぼしているのだろう、そう今は思う。

 

「雁夜は家の魔術を嫌って出奔していたから、ほぼ一般人と変わらなかった。現在刻印虫と呼ばれる使い魔みたいなのを体内に寄生させ、魔術回路として使用。その影響で余命僅か。遠坂時臣……アーチャーのマスターをひどく憎み、また魔術全体を激しく嫌っている」

 

 おじさん助けたいけどこっちもギリギリだからな。積極的に動けるとは思わない。ただ……正直将来の死亡フラグ消滅のためでもあるけど、もしできるなら桜ちゃんだけでも助けたい。……同じ女として、かつてと今子供である者として、あれはあまりにも酷い。

 

「それでお願いなんだけど、間桐雁夜に万が一会うことがあったら、応対は基本私に一任してくれないかな。魔術師であることは絶対に言わないように。半ば混濁したような状況下だと、あなたは遠坂時臣と混同されて襲われかねない。私なら、桜ちゃんと同年代の魔術師じゃない女の子ってことで、問答無用ってことはないはずだから」

 

 色んな意味で優雅上位種ですものね、あなた。言わないけど。相対したらこれまた怒らせて最悪の結末になる運命しか見えんよ、正直。それにいくら狂化していても、湖の騎士が幼女相手に最初からバッサリもないでしょう、多分。……楽観視が過ぎるかな?

 

「……解りました」

 

 素直でよろしい。……あれ、記憶の中の年齢を考えると、私ってこの人の享年の倍近く生きてることに……? いや、歳のことを考えるのはやめよう。

 それより、次でとうとう最後だ。今まで喋った文字数相当な気がするよ、殆ど記憶の引用だけど。……この組のことは特に慎重に。

 

「最後。ライダー、イスカンダルとウェイバー・ベルベット。宝具は雷を纏う戦車による突撃、遥かなる蹂躙制覇。それと固有結界、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)。固有結界内に生前彼に従った英雄をサーヴァントとして召喚」

 

「ライダーで、固有結界、ですか……」

 

 そういや、オジマンディアスの複合神殿も固有結界だったっけ。多少は記録に残っているのかな。青っぽいページをめくりながら、そんなことを思う。

 

「とんでもないでしょう? イスカンダルは受肉が望み。ただ、聖杯が汚染されてるとなれば、それには拘らないと思う。マスターも聖杯自体に強い興味があるわけじゃない。これは時計塔でウェイバーくんの先生やってるMr.アーチボルトも共通ね。どちらも功名心的なもので聖杯戦争に参加してる」

 

 あくまでざっくりだ、ざっくり。もちろん実際はもうちょい複雑。

 

「話が最初の方に戻ったところで、ランサーのマスターに恩を売るため、ホテルの発破を阻止したい。アレな手だけどさ、爆弾仕掛けられてからそれを全部回収して目の前に突きつける。できれば手土産に魔貌殺しをつけて」

 

 神代の魔眼でも蒼崎橙子製の魔眼殺しでなんとかなってるので、作れるかどうかに関しては心配していない。

 

(あなたにばかり迷惑かけているけど……)

 

(その程度、負担ではありませんよ)

 

(うん……)

 

 等価交換。あり得ざる命の恩を、どうやって返せばいいのだろう。どんどん負債ばかりが積み重なっていく気がして。

 

 かぶりを振る。

 

「なんか私ばかり話しててごめんね。父は今晩は帰ってこない。そうなると私が祖母と一緒に寝て、あなたはここで寝ることになるのかな?」

 

「私は、サーヴァントですので、睡眠は必要ありませんが」

 

 知ってるよ。

 

「でも、魔力、節約しなきゃ……」

 

 あれ。ああ。眠い。体が限界か、ちっ。

 全部言い終わって少し安心したからだな? でもあと、ほんの5分だけでも!

 

「基本、友好。戦闘、避ける。いのちだいじに」

 

 なんだか気持ちよくなってきた。歌が歌いたい。記憶の中、遠く口ずさんでいた歌。確か歌うことで魔法が発動するとかいうやつ。魔法つかいたい。

 

よんえく(iyon-eq) てぃきね(tiki-ne) ゆーていどぅ(yu-tey-du) びーうぇいいず(bee-wei-iz) いぇらえあ(ye-ra-ea)!」

 

「……何ですか、それ」

 

「んー、おまじない?」

 

 だから寝ちゃダメだってば……あ。

 

 ここで、私の視界は暗転した。

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