リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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今回から、少しの間八家が主人公の短編に成ります。
天峰の世界とは微妙に空気が違うので、その差を楽しんでください。


そうだ、ナンパに行こう。

海面を進む一艘の船。

水をかき分け、汽笛を鳴らし進んでいく。

目的地はこの先の島だ、とある一族が所有するその島は地元の人ですら近付く事は滅多にないのだという。

その島の名は『野祓い(のはらい)島』

 

 

 

 

 

「うーえっぷ!?キンモチワリィ……」

船の一室で、一人の少年 野原 八家が青い顔をしてビニール袋にかじりついている。

その表情は決して楽しそうな物ではなかった。

 

「八家大丈夫か?もう少しだから、がんばれ」

そう言って、八家の兄、野原家の次男である 永二(えいじ)が背中をさすってやる。

その言葉に促され、船の窓を覗くと目的地の島が見えてきた。

小さな島に、そこそこの大きさの屋敷。

さらには、外から見える様に作られたのだろうが半分、木に埋もれてしまった鳥居。

 

「帰ってきた……っていうか、あんまり思い出ない……」

気持ち悪さに耐えながら、自身の両親の一族の本家がある島を目にする。

 

 

 

「はぁ、地面が揺れない……当たり前の事って大切だなぁ~」

さっきまで揺られ続けていた八家が、揺れない地面にありがたみを感じる。

その横で、永二はてきぱきと荷物を下ろしていく。

 

「ありがとうございました」

 

「はいは~い。じゃ、また明日の朝ね」

永二が声を掛けると、船頭がにこやかな笑みを浮かべて海へと船を返していく。

 

「さ、行くぞ?」

 

「へぇ~い……」

八家が、後ろに広がる森をみてげんなりとしながら荷物に手を伸ばす。

 

海の次は森か、と小さく漏らして歩き始めた。

 

「なぁ、八家。最近玖杜が明るく成った様だな」

 

「ええ?ああ、アイツか……ちょっと、いろいろあってね」

永二は社会人として家を出ているので、基本的の家にいる事はない。

しかし兄弟同士、特に長男から4男までは割と頻繁に連絡を取るので家の内情がわかるらしい。

 

「七喜の話じゃ、部屋から出てこなかったし学校にも行ってなかったんだろ?

義務教育だから、留年は無いって父さん母さんは放て置いたらしいが……

こじれる前に、しっかりしてくれて助かったよ。お前、初めての下の兄妹だっていってかわいがってたもんな」

笑顔で話しかける、永二の言葉に八家が胸を痛める。

 

「永二兄さん……俺、実は……」

 

「お、見えた見えた」

八家の言葉にかぶせる様に永二が家を指さした。

 

「ん?何か言おうとしたか?」

 

「いや……何でもない」

八家は言えなかった。

自身が玖杜を激励するつもりの行為が彼女を追い詰めていた事を、その事によって玖杜が自殺未遂をしてしまった事も、玖杜を助けたのが自身でなく自身の友人の天峰である事も……

 

「おお、2番目と8番目。よく帰って来たな」

薄茶色の着物を着た、気難しそうな顔をした禿た老人が二人を見て口ひげを振るわせる。

この老人が野原家の現当主、野原老人だ。

80を超えようとする齢を感じさせぬ力々とした足腰と、見事に生え揃った歯が特徴的だ。

 

「おじいさん、今、来ましたよ」

 

「ちぃーす、じいちゃん……道もう少し整備しない?」

 

「こら、八家!!」

畏まる永二と、気だる気な様子の八家、そこに永二の叱咤が跳ぶ。

 

「ハハハ!8番目は相変わらずじゃな。

いい、いい。気にするな。

ほれ、さっさと入れ、話はそれからじゃ」

野原老人に連れられ、二が家に入って行く。

 

「ただいま帰りました。おじい様方」

永二が廊下に並ぶ、歴代野原家の方々の写真に頭を下げていく。

どれも白黒で、特徴のない顔をしている。

 

「仏壇でいいんじゃね?」

その様子をみて、八家が小さく声を漏らした。

 

「馬鹿!お盆がもう近いんだ、ご先祖様たちが帰って来てるんだぞ?」

 

「いや、俺ご先祖様とか、見えんし」

永二の言葉を無視して、居間へと入って行く八家。

昔から八家はこの家が得意ではない。

しかし、今年は八家たちが来る事になっているから仕方なかった。

*野原家は人数が多いため、お盆と言えど全員がそろう訳ではない、基本的に行きたいメンバーが志願するが、3年以内に行っていない者は半強制的に連れて行かされる。

 

 

 

「ははは、よく来たな。2番目に8番目、今年も祭りをやるから頼むぞ?

といっても、基本座ってるだけなんじゃが……」

居間の座布団に座って二人に、笑いかける野原老人。

地元では毎年、お盆に追わせて祭りがおこなわれる。

野原家は、その音頭を取る事になっているのだ。

 

「はい、おじいさん」

 

「お小遣い出るよね?」

 

「八家!!」

 

「構わん構わん、小遣いが欲しいなら、今年は屋台をやるからその手伝いじゃな。

売上の5%をやるぞ?」

野原老人の言葉に、八家が目を輝かせる。

永二は遠慮する様に話すが、相変わらず野原老人は「よいよい」と受け流すだけだった。

 

「さて、祭りの由来をお前らに話しておこうかの?」

野原老人の言葉に、永二は姿勢を正し八家はうんざりと言った顔をした。

 

「この島の名は知っての通り『野祓い島』じゃ。

これはの?まだ、京都に物の怪が跳梁跋扈する時代、物の怪を掃う役職として『祓い役』が定められた事に由来する――」

ぽつぽつと野原老人が話し始める。

 

 

 

 

 

陰陽師という役職が有るじゃろ?今となっては、想像上の役職に成り下がっているが、都では確かに有った役職なんじゃ。

 

有名な陰陽師は、都の帝や上役相手に仕事をした。

だが、物の怪どもは、都以外にもたくさんおる。

無辜の民草に手を出す物の怪は多い、まさに野を埋め尽くさんばかりの数じゃ……

その、無数の物の怪を掃うのが『野祓い』の仕事じゃ。

野祓いは弱きを救い、物の怪を改心させる仕事をしておるんじゃ。

 

『祓う』とは許す事、救う事なんじゃ……

 

野祓いはそれを行う者達、決して表舞台には出んが迷い悪さする物の怪を許す仕事なんじゃよ。

 

やがて、物の怪は時代の流れと共に姿を消した。

陰陽師、さらには野祓いの仕事も無くなったのじゃ……

野祓い達も『野原』と自分の名を改めた。

 

だが、先祖の魂が戻ってくるこの季節、同じく物の怪たちの魂も戻ってくるのじゃ。

儂らがそれを、鎮め宥めそして楽しませて再びあの世に返す。

この島そのものが、物の怪たちを呼ぶ出入り口なんじゃよ。

 

それこそが、我等野祓いに残された最後の仕事なんじゃよ。

 

 

 

 

 

そこまで話して、野原老人は話を終わらせた。

八家はその話を退屈そうに聞いていた。

 

なぜならこの話はもう、何度も聞かされた話だ。

幼い頃は、自分にも野祓いの血が流れていると、中二病的な興奮が有ったが今思ってみるとどうにも胡散臭い部分が多い。

 

まず『野原』なんて苗字はありふれている、そんな事を言ったら某世界一おませな5歳児も幽霊が見える事になってしまう。

 

第二に、野祓いなんて役職聞いた事は全くない事。

図書館に行こうがパソコンを調べようが全く出てこないのだ。

その事から八家は老人のたわごと程度にしか聞いていないのだった。

 

「さて、3日後には祭りが有るからな?それまでよろしく頼むぞ」

野原老人はそう話し、この会はお開きに成った。

 

 

 

 

 

「あー、暇だ。ビックリするほど暇だー」

ゴロゴロとあてがわれた部屋で寝転がる八家。

家から持って来たゲームはもう飽きているし、携帯電話もコレと言ってやりたいことは無い。

 

「八家、悪いけど買い出し行ってくれないか?

儂と永二は祭りの為の打ち合わせに行くからの。

夕飯はどっか外で適当に食ってくれ」

 

扉を開け、顔を覗かせたのは野原老人。

その後ろには、永二が立っていた。

 

「あー、解ったよ。丁度暇だったし……」

 

「ほれ、買い物メモと金じゃ、釣りはいらん。

適当に買いたいモノを買って来い」

少し多めのお金をもらい、3人は島のボートに乗った。

 

 

 

「ほいじゃー、頼むぞ?」

 

「へいへい!」

野原老人を後にして、八家は町の商店街に向かっていく。

 

「おお、野祓いん所の8番目!帰って来たのか?」

 

「今年は8番目が来たか」

 

「ハチバン目~」

野原老人の言葉が、商店街まで響いているので行く先々で話しかけられる。

老人をはじめ、小学生に至るまで……

昔からこの辺に住んでいる住人にはすっかり八家の事は知れ渡っているらしい、そしてその孫にまでも。

しかし誰も八家の名を呼ばず『8番目』としか呼んでくれない。

その事が八家に小さな苛立ちを感じさせる。

 

「八家だってのに……なんだよ、『8番目』って……」

適当な定食屋で、やって来るメニューを待ってる間も小さなむかむかは消えなかった。

数字で区別されている様な、嫌な感じ。

兄妹たちには、何らかの形で数字を意味する漢字が使われているがそれでも数字分けされるのは好きでなない。

実際八家は自身の友人には『ヤケ』とニックネームで呼ばれる方が好きだし、八家の妹も本名ではなくクノキというニックネームを使っている様だった。

 

「お待たせしました~」

 

店のお姉さん(叱ってもらいたくなるタイプ)がテーブルにかつ丼をおいてくれる、そしてさらに、フライドポテトと唐揚げのセットとミニうどんも。

 

「あれ?かつ丼だけしか頼んでないけど?」

 

「いいのいいの~、野祓いさんの所の8番目でしょ?

あそこのお爺ちゃんにはいつもお世話になってるから~」

ぽわぽわした雰囲気で、お姉さんがサービスと言ってさらに冷ややっこまで机においてくれる。

 

「は、はぁ……どうも」

自身の爺さんがどんな振る舞いをしているか分からないが、なかなか地元の人間に好かれているのは目の前の豪華になり過ぎた料理で理解できた。

 

「むぐ……うまい……」

ミニうどんに口を付けながら、八家が考える。

 

(爺ちゃんの威光を利用すれば、彼女出来るんじゃね?)

一瞬だけそんな馬鹿な事を考え、八家が笑う。

 

(冗談じゃないっての、恋人位自分で見つけてやる!!

そうだ、ナンパに行こう。

うっし!俺を『8番目』じゃなくてニックネームで呼ぶ恋人を作るか!!)

かつ丼、冷ややっこミニうどんを手早く平らげ、余った唐揚げとポテトを持ち帰り用に包んでもらうと荷物をまとめて、定食屋を後にする。

 

「さぁて、天峰の次は俺に春が来る番だぜ!!」

ナンパをするために、夕焼けに染まる町に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

木々の生い茂る山の中……

朽ち果てかけた鳥居が、山の中腹に神社と共に立っていた。

 

「すぅ……久しぶりだけど、空気が悪く成った気がするわ」

薄水色の着物をきた少女が、長い髪を揺らし一人つぶやいた。

髪飾りの鈴が小さく鳴った。

 

「全く、今代の野祓いは何しているんだか」

美しい瞳を鋭く尖らせ、山の神社から海を越えて見える野祓い島の鳥居を睨む。

 

「へぃ、おねぇさん!!観光?俺とどっか行かない?」

そんな彼女のイラつきを無視するかのように後ろから声が聞こえた。

 

「俺、野原 八家!!気軽にヤケって呼んでくれ」

 

 

 

祭りまであと3日。




田舎、神社、海、祭り、ワクワクする要素を適当にぶっこんだ!!
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