リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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さてと、更新です。
それといつの間にかお気に入りが100人を超えてました。
いやー、三ケタって嬉しいですね。


夕日の気持ちを分かっているのか?

「――原!!――幻原!!おい!!聞いてるのか!?」

 

「……え?はい?」

授業中、怒鳴る教師の言葉に天峰が何とか反応する。

 

「問4だ。……と言ってもその調子だ、聞いてなかったな?」

数学教師が指摘する天峰の机の上には、前の授業で使った古文の教科書が。

もういい。と小さく教師がため息を付いて黒板に向き直った。

 

(天峰のヤツ、一体どうしたんだ?)

何時もなら真面目に受けている天峰が、授業が上の空である様子を見て不安げに八家が眉を顰める。

今日登校してから、ずっとこの調子だ。

上の空というか、腰が入っていないというか、常にボーっとして話もしっかり聞いていない様だった。

 

 

 

「おい、どうした?お前らしくないぞ?」

授業が終わり、帰りの会が終っても天峰は何処かふ抜けたままだった。

 

「ヤケ……か?」

 

「しっかりしろって!!ほら、最新号の『ロリプレイヤー』だぞ?

夕日ちゃんっぽい絵の子もいるぞ?」

昨日の晩、近くの本屋で買って来たエロ本を制服の下から大事そうに取り出した。

ページを開くと、天峰の義理の妹である夕日に似ている子が過激な水着姿でポーズを決めている。

別のページには、街中でスタッフが許可を貰って撮らせてもらった小中学生の写真のコーナーもある。

それぞれ、最近の事を日記形式で教えてくれており、より自然なコメントが魅力だ。

他にも、体験談や妄想など、様々なコラムが乗っている。

何時もなら、天峰は速攻で飛び付くのだが――

 

「夕日ちゃん……夕日ちゃん……ううっ……夕日ちゃん」

じわっと天峰の目から涙が流れる。

止めどなくぽろぽろと零れ落ちる。

 

「た、天峰!?どうした?なんか悪い事したか?」

あわあわと慌てる八家。

胸ポケットに潜り込んでいる上ヶ鳥までもが心配そうに顔を覗かせた。

 

「ヤケェ……夕日ちゃんが、家を出ていくかもしれない……」

ぐずぐずと泣きながら天峰がそう零した。

 

「はぁ!?一体どうしたんだよ?

あれか?遂に下半身の魔物を押さえきれなくなって、あの子に手を出したのか?

一時の快楽に身を任せてはダメだってあれほど――いや、そこはむしろ責任とって結婚とか――」

 

「違う!!そんな訳ないだろ!!俺が夕日ちゃんを傷付ける事なんてする訳ないだろ!!」

机を殴りつけ、勢いよく立ち上がる天峰。

その音と衝撃にクラスメイト達が騒めく。

 

「あ――ごめん、ヤケ。今ちょっと気持ちの整理が出来てないから……」

周囲の様子に天峰が自分が何をしたのか、改めて気が付き自粛した。

 

「天峰?なんか悩みがあるなら言ってくれよ。

俺、あんまり賢くないけど、話せば楽になる事だってあるだろ?

話せるだけ、話してくれないか?」

八家の胸中にあるのは、自身の妹玖杜の事。

少し前まで、お互いの気持ちを分かり合えずあわや大惨事となりかけたのは、八家にとっても記憶に新しい。

天峰が居なければ、もっと悲劇的な終末を迎えていた可能性がある。

 

「ヤケ……ごめん、こればっかりは家の事――いや、俺の事だから自分で何とかするよ。

全部終わったら、ちゃんと説明するからさ」

無理して笑って、じゃあなと席を立つ天峰。

その背中は何処かさみしい物が満ちていた。

 

 

 

 

 

「ああ……くっそ……」

自宅に帰って来た天峰。制服を脱ぎ捨てハンガーに掛けもせずにカバンもほっぽりだして、ベットに体を投げる。

エアコンもかけず、ぼーっと天井を見る。

 

『…………天峰……』

 

「夕日ちゃん!?」

夕日の呼ばれた気がして、天峰が飛び起きる!!

しかし当然夕日はソコには居ない。そう、今日も学校が終わり次第病院に向かったハズだ。

いる訳が無かった。

時計を見るといつの間にか夕食の時間すら終わっていた。

どうやらずっと眠っていた様だ。

 

夏休み中、部屋にクーラーが無い夕日はかなりの時間を天峰と共に過ごしていた。

ついこの間まで、夕日はいた。すぐ近く、本当に近くに居た。

 

「はは、亡い女を想って妄想って書くけど、まさにその状態だな……」

自嘲気味に笑う天峰。

その時、家のドアが開く音がする。

 

「……ただいま……」

 

「夕日ちゃん!?」

今度こそ聞こえて来た、夕日の声に天峰が慌てて玄関まで走って行く。

 

「夕日ちゃん!!夕日ちゃん!!」

 

「あ……ただいま……」

天峰を視界に収めた夕日が小さく挨拶をする。

 

「よぉ、先輩居るか?」

後ろに居た霧崎も小さく手を振る。

先生の姿を見て、天峰が居間まで二人を連れて来る。

 

 

 

「よっす、霧崎」

 

「幻原先輩……」

居間で寛ぐ霧崎に、天峰の母親が手を振って現れる。

霧崎の前、対面する様にソファーに座って口を開いた。

 

「夕日の母親が目覚めたんだってな?」

 

「はい、そうです……」

母親の言葉に、天峰が固まる。

視界の端でも夕日が僅かに反応した。

 

昨日夕日は学校の授業中、母親が目覚めた知らせを受けそのまま病院に向かった。

そしてその日の夜遅くまで面会した後に、霧崎の車に乗って家まで帰ってきた。

今日も今日とて、学校が終わり次第病院へ向かったのだ。

 

「あ、ゆ、夕日ちゃん……あ、の」

何か夕日に言おうとして固まる天峰。

言うべき言葉はもう決まってる。

『おめでとう』だ。母親と引き離され、心の中にずっと在ったハズのトゲが抜けたのだ。

義理と言えど夕日とは兄妹、ならばこのめでたい事を自分の口から祝福するべきだと思う。

しかし、なぜか天峰の舌は渇き、たった一言を絞り出す事が出来ない。

 

「お、お母さんの事、良かったね」

 

「!!……うん……そうだね……」

一瞬だけ、驚いたように反応して再び小さく声を絞り出す。

 

「さてと、んで?夕日はこれからどうするんだ?

実家に帰るのか?」

 

「「!?」」

天峰の母親の言葉に、天峰夕日両名が驚く。

そこに追い打ちをかける様に霧崎が口を開く。

 

「そう……ですね。先輩のお家にこれ以上私の姪を世話させる訳にもいかないので……」

その言葉は、嫌な予感程度に留まっていた天峰の『夕日と離れる』事をよりリアルに想像させた。

 

「夕日、お前はどうしたい?」

母親の言葉に夕日が固まる。

 

「……う、う……わかんない……少し、時間が欲しい……」

 

「そうか、私はお前の気持ちを尊重するぞ?」

母親の言葉に、夕日は静かに頷くと自身の部屋へと向かっていった。

 

「さて、どうなるかな?」

 

「夕日次第で変わる事も多くあると思います」

母親の投げかけに、霧崎が答えた。

 

「アイツは、今まだ目覚めたばかりです。

いろいろと溜まっている問題もある。

例えば――」

 

「同居していた男、についてだろ?」

 

「ッ――!」

母親の言葉で天峰は今まで忘れていた、いや()()()()()()()()()男について思い出す。

 

夕日のから聞いた事が有る存在だった。

一人ボッチで夕日を生んだ母親は、夕日を認知しなかった血縁上の父親から、アパートの一室を与えられたらしい。ソレが手切れ金替わりであり、それ以来夕日の母親はそこで暮らしていたらしい。

夕日を育てられないと、夫を求めたのか、それとも人肌が恋しかったのか。

その家には複数の男が出入りしていたらしい。

 

二人が言っているのは、その中でも最後の男だ。

夕日母娘に虐待をし、母親はそれでも男を取り男に気に入られる為に夕日を虐待した。事実上夕日は二人から虐待を受けたのだ。

 

ある日その男は、酒に酔った勢いで夕日の右目をたばこで潰した。

夕日の悲鳴を聞いた母親は男と文字通り殺し合いをして、意識を失った。

母親は意識不明、そして男は病院で死亡。

 

最低の男だったとしても、夕日の母親は殺人を犯している。

 

「内容から十分情状酌量の余地はある……らしい。

けどやっぱり殺人だ。そこで夕日を子供として育てさせれば――」

 

「母親として、刑が軽くなるってか?」

 

「そうです……上手く行けば執行猶予だって――」

 

「夕日ちゃんをそんな道具みたいに言うなよ!!」

霧崎の言葉に天峰が食って掛かった!!

まるで母親の刑を軽くするための道具の様に話す霧崎が許せなかった。

 

「道具じゃねぇ!!事実だ。アイツを助けるには夕日の協力が要るんだ!!」

 

「夕日ちゃんの気持ちは!?そっちは知らんぷりかよ!!」

 

「天峰、落ち着け。霧崎だってしっかり考えてるんだ。

それにお前は夕日の気持ちを分かっているのか?」

ヒートアップする天峰を母親が諫める。

 

「夕日ちゃんだって、家に居たいって――」

 

「じゃぁなんで、未だに夕日は『坂宮』を名乗ってる?」

 

「あ……」

母親の言葉に天峰が黙った。

そうだ、夕日は同じ家に居ながらも未だに母親の苗字を名乗っている。

きっとそれは、未だに自身の母親に対して繋がりを求めているのだと、天峰は思った。

 

「夕日は優しい子だ。きっと母親も今は辛い時期なんだと思うぞ?

そんな親を支えたいってのは、きっと夕日の本心だ。

まぁ、最後に決めるのは夕日だがな?」

母親の言葉に天峰が黙った。

正直言うと、夕日にはそばに居て欲しかった。

だが、それは自分のワガママだと気が付いてしまった。

 

「ごめん、ちょっと席を外す……」

いたたまれなくて、感情の処理が出来なくなって天峰はその場から立ち去った。

 

「酷な事しましたかね?」

 

「大丈夫だ。アイツも強い奴だ、私と旦那の子だからな」

母親はそう言って、懐から煙草を取り出し火を着けた。

 

 

 

 

 

トン――トン――

 

「……天峰……居る?」

 

「やぁ、夕日ちゃん……」

天峰の部屋、そこに夕日がノックして入ってくる。

座る様にと、座布団を夕日に差し出した。

その反対側に、天峰が座る。二人の視線が絡み合う。

 

「ッ――お母さんの事聞いたよ。良かったね」

一瞬の躊躇そして絞り出す言葉。

夕日が、ぎこちなく表情を変えようとして、どんな顔をすればいいのか分からず停止する。

 

「ありがと……」

俯いてしまい夕日の顔はもう伺い知れない。

 

「今日もお母さんと話せた?」

 

「…………………………うん………………」

 

「そっか、やっとだもんね」

 

「………………………うん………………」

 

「お母さん、元気?」

 

「………………うん…………」

 

「ねぇ、夕日ちゃんは、またお母さんと暮らしたい?」

 

「………………………………………………………………………………分からない。

お母さんには支える人が必要。私はきっとそれに成れる。

けど、戻るのは怖い、天峰達と離れるのも、怖い……」

天峰の質問に夕日は黙りこくってしまった。

きっと夕日本人にも分かりはしないのだろう。

天峰と同じくはっきりと割り切る事が出来ないのだろう。

 

「俺は、俺は――」

俺と一緒に居て欲しい。そんな言葉を天峰は無理やり飲み込んだ。

さっきの母親と霧崎の言葉が胸の中で渦巻く。

 

真に願うべきは夕日の幸せのハズだ。なら言うべき言葉は決まっている。

 

「俺は、夕日ちゃんのお母さんの所へ行った方がいいと思うよ?せっかくの家族なんだしさ、二人で思い出を作るべきだよ。

やっとまた、家族に戻れたんだからさ」

無理して笑い、悩む夕日の背中を押した。

 

「……うん……わかった……ありがとう……」

何かを振り切る様に夕日が顔を上げる。

後悔するかもしれない、急いだ決断だったかもしれない。だけど、それでも夕日はその決断を選んだ。

嘗ては、偶然出会った顔見知りだった。

次は年の離れた恋人だった。

何の因果か兄妹に成った。

 

「天峰……バイバイ……」

そして再び兄妹は、只の他人に戻った。

 

「まだ、違うよ。この家にいる間は、まだ兄妹さ」

 

「……そうだね……お兄ちゃん……

ねぇ、今日は一緒に寝ていい?」

 

「うん、いいよ……」

離れ離れになる事を選んだ二人。

二人が、一人と一人に成るまで、せめてこの家にいる間は一緒に居ようと、同じ布団で寝むりに付いた。

この時間は確かに二人の中の残るハズだから。




終わりじゃ、ありませんよ?
まだ、続きます。
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