魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero- 作:炎狼
ルーテシアとメガーヌが住まうロッジの裏には、それなりの大きさがある川が流れている。自然が豊かなカルナージ故、流れる水は綺麗そのものである。
流れも穏やかであり、泳いだり、遊んだりするのにはうってつけの場所である。
「あたし、いっちばーん!」
最初に川岸に現れたのはリオだ。彼女に続き、ヴィヴィオ、ルーテシア、コロナが続く。既に全員水着に着替えており、準備万端と言った様子だ。
「アインハルトさんも来てくださーい!」
振り返ったヴィヴィオの視線の先には、水着の上から上着を着たアインハルトが、少々恥ずかしげにしていた。
彼女の両隣には、水着を来たノーヴェとクロエの姿も見える。
「ホレ、呼んでるぞ」
「ですが、ノーヴェさん。できれば私は練習を……」
「まぁ、準備運動だと思って遊んでやれって。なぁ、クロエ」
「そだね。それにヴィヴィオ達の水遊びは結構ハードな時あるし。練習前の体解しだと思ってやってみようよ」
二人の言われ、アインハルトはやや不思議そうな表情をしつつも、最終的には上着を脱いでヴィヴィオ達の下へ歩いていった。
残されたクロエとノーヴェは、「やれやれ」と微笑を浮かべる。
「未だに堅物感があるねぇ」
「そんなすぐにゃあ直らねぇだろ。で、お前はどうする? 聖さんには遊んで来いって言われたみたいだけど」
「うん。遊ぶよ。けど全力で遊んじゃうと午後の訓練がきつくなるからね。肩の力を抜きながらって感じかな」
「そっか」
満足げに頷いたノーヴェであるが、何処となくその表情には呆れが見えた。
「なに?」
「いや、アインハルトもそうだけど、お前もお前でトレーニングが好きだなって思ってさ」
「……まぁ、否定はしないかな。時間ないし」
そう。クロエには時間がないのだ。母親との約束の期限までは、実際のところあと一年半ほどしかない。インターミドルも今年をいれて2回。それまでに優勝しなくてはダメなのだ。
自分が古代ベルカから続く、零王の血筋で、なおかつその零王の力が目覚めたと言っても、まだまだ不十分だ。
「お前も結構事情抱えてるもんな。すまん、うっかりしてた」
「謝らないでってば。母さんと約束しちゃったのは私だし。ホラ、せっかく遊びに来たんだから楽しまないと」
クロエは気にした様子もなく身体を伸ばす。ノーヴェも彼女の意図を汲んだのか、「だな」と短く答える。
すると、そんな彼女等の間に、フヨフヨとウサギのぬいぐるみ……もとい、ヴィヴィオのデバイスであるクリスが浮かんできた。
「ありゃ? クリスは行かないの?」
〈……! ……!〉
問いに対し、クリスは身振り手振りで体を動かし、なにかをあらわそうとしている。
「えっと、『外装がぬいぐるみなので、濡れると飛べなくなります』? 大変だなお前も」
「あー、綿が水吸っちゃうわけだ。というか、なんで外装をぬいぐるみにしたんだろうね」
ジェスチャーを交えた説明を終えたクリスを掴み、その体をムニムニと触りながらクロエは疑問をもらす。
「ヴィヴィオが小さい頃ずっと持ってたウサギのぬいぐるみがあったから、その名残じゃね。作ったのだってはやてさんとかだろ」
「なるほどね。ねぇ、フリーレンも外装変えてみる?」
〈わたくしは結構です。それよりも、水に入る前には軽く運動をしてくださいね。それと、わたくしはここでクリスと見学していますので〉
フリーレンはふわりと浮き上がり、クリスの隣に浮き上がった。すると、クリスもビシッ! と音がしそうな勢いで敬礼した。どうやら『気にせず行ってきて下さい!』と言っているようだ。
「クロエさーん! 向こう岸までの往復を競争するんで、一緒にやりませんかー」
「はいはーい。今行くよー」
コロナに呼ばれ、クロエもヴィヴィオ達の輪の中に入っていく。彼女を見送ったノーヴェは手ごろな場所にある岩に腰掛ける。
〈ノーヴェ様は泳がないので?〉
「あたしは一応保護者だからな。こん中だと最年長だし。なんかあった時に動けなきゃダメだろ?」
〈なるほど〉
フリーレンは納得したのか、クリスの頭の上にちょこんと乗る。同じ家で過ごしているだけあって、かなり中がよろしい様子である。
そしてフリーレンはノーヴェと共に、視線をクロエ達に戻す。
川を横断する形で泳いでいる六人はの順位は、上からクロエ、リオ、ヴィヴィオ、ルーテシア、コロナ、そして意外なことにアインハルトが最下位であった。
〈やはり、アインハルト様は水中での筋肉運用が上手くないようですね〉
「ああ。人並みには泳げるみたいだけど、アイツ等ほどじゃねぇわな。つか、相変わらずクロエのやつ、大体のことできんな。確か水泳もやってたんだっけか」
〈ええ。三歳の頃からやっていたようです。その他、ピアノなどの音楽関係、スポーツ関連、マナー、塾、護身術レベルですが格闘技も少々……。全て母親であるユスティナ様のご意向で受けていました。いえ、受けていたというより、受けさせられていたというのが正解でしょうかね〉
「うわー、あたしにゃ絶対に無理だなそれ。ウェンディとかセインが聞いたら卒倒しそうだ」
苦笑いを浮かべるノーヴェ。彼女の反応は当たり前と言えるだろう。
まだ小さな少女がそれだけの習い事をさせられていたと聞かされれば、誰だってこんな反応はするはずだ。
「クロエは根性っつーか、なんつーか……。忍耐力が半端じゃないな。その習い事だってかなり続けたんだろ?」
〈家を出るまではやっていましたね。何個かはやめたものもありましたが、あれはユスティナ様がやめさせた感じでしたし〉
「母親どんだけだよ……。あたしとは絶対そりがあわねぇわ」
〈彼女の行動も、全てはクロエ様を思ってのことだと思われますがね。ユスティナ様は愛情の向け方が不器用なのですよ。自分が正しいと思ったことをさせていれば、クロエ様も幸せだと思っていらっしゃる〉
「娘を思うが余り、ベクトルがひん曲がった感じか。辛いなそれ」
〈ええ。ですが、いずれはわかりあう日が来るでしょう。親子なのですから〉
そういうフリーレンの声音は、機械音声でありながらも、暖かみと落ち着きがあった。
しばらくノーヴェとフリーレンが話をしながら、ヴィヴィオ達を見ていると、アインハルトが疲れを見せながら戻ってきた。
「やっぱり、水の中はあんまり経験ないみたいだな。ほれ」
ノーヴェが温かいお茶が入ったコップをアインハルトに渡しながら言った。
彼女もそれを受け取ると、素直に頭を縦に振る。
「体力には少しは自身があったのですが……」
「いやいや、いきなりアイツ等の遊びについてったんだから、たいしたもんだと思うぜ」
〈はい。わたくしも思いました。それに、水中であると、筋肉の扱い方が違いますので。仕方ないと思われますよ〉
「フリーレンの言うことはもっともだな。あたしも救助隊の訓練とか出てるからわかるけど、水中で瞬発力出すには、陸上とは違った力の使い方が必要になるわけだ」
「じゃあ、ヴィヴィオさんたちは……」
「週二くらいでプール行って、遊びながらトレーニングしてるんだ。だから柔らかくて柔軟な筋肉が自然に出来てるってわけだな。クロエの場合はガキの頃から水泳してたみたいだから、体に馴染んでんだろ」
視線の先で遊ぶヴィヴィオ達を見やりながら、アインハルトは「なるほど」と納得したような表情をした。
「ちったぁ面白い経験できたろ? 役に立つことがあればなおさらいい」
「はい……」
アインハルトは改めて1人でやって来たトレーニングでは、なにが足りないかを感じたようだった。しかし、そこに残念さや悔しさは見えない。どうやら勉強になったようだ。
「んじゃ、せっかくだし面白いもんを見せてやろう。ヴィヴィオ、コロナ、リオ!」
その声に三人がノーヴェを見やる。
「ちょっと「水斬り」やってみせてくれよ!」
「「「はぁーい!」」」
三人はそれぞれ手を上げて返答すると、ある程度隣同士で間隔をあけ、構えを取った。
「水斬りというのは……?」
「ちょっとしたお遊びだよ。けど、おまけで打撃のチェックも出来るんだ」
言い終えると、その直後にコロナが「えいっ!」という気合いの声と共に、構えていた右の拳を水面に沿うように放った。
すると、水面が斬れた様に割れ、水柱が立つ。
彼女に続き、リオが拳を放つと、コロナよりも大きな水柱が立ち、ヴィヴィオが拳を放つと、三人の中で一番大きく水面が割れて、尚且つ水柱も大きく立った。
アインハルトが三人の水斬りに驚嘆していると、クロエが声を発した。
「ノーヴェー。私もやってみようかー?」
「ああ。頼むー。……アインハルト、よく見とけよ。クロエの水斬りは三人とは違って面白いぞ」
「はい」
彼女はクロエの姿をジッと見つめる。また、クロエの水斬りをジッと見るのは、彼女だけでなく、ヴィヴィオ達も同じなようだった。
クロエは一度大きく息をついた後、先ほどヴィヴィオ達がやったのとは違う構えをとった。拳を振りぬくことには変わりはないようだが、聖から教えられている彼女なりの構えかたなのだろう。
そしてクロエが拳を振り抜いた。その瞬間、リオと同程度の水柱が立った。一見すると、ヴィヴィオ程力がないのかと思いきや、そうではない。
彼女の水斬りに置いて特筆すべきは、水柱が進む距離だ。進む距離は三人よりも圧倒的に長い。
「クロエの場合はインパクトがそこまで強くない代わりに、精度が高いんだ。後々模擬戦することにもなるかもしれねぇけど、そん時は驚くと思うぜ。アイツの技の精度の高さにな」
「じゃあ、全員やったわけだし、アインハルトもためしにやってみれば? きっとできると思うよ」
ルーテシアに誘われ、アインハルトは頷くと上着を脱いで再び川に戻っていく。
川に半身を入れた状態で、彼女は先ほどヴィヴィオ達がやっていたように構えをとり、腰を捩じりながら回転の力を使って拳を鋭く打ち放った。
途端、水面が割れ、水柱が高く上がるが、距離はいまいちと言ったところだ。
それはアインハルトもわかったようで、どうにも納得がいっていないようだ。
「お前のはちょいと初速が速すぎるんだな」
疑問符を浮かべていたアインハルトに、ノーヴェが歩みより、ジェスチャーを加えながら解説をしていく。
「いいか。初めはこんなふうにゆるっと脱力して、途中はゆっくりと。んで、インパクトに向けて鋭く加速。そしてこれにスピードとパワーをいれてやれば――」
ノーヴェは言いながら足を水面に向けて振り抜いた。同時に今まで以上の水柱が上がり、数メートル先の水底が露になった。
「――こうなる」
「ちなみに私が魔力を込めてこれをやるとね――」
ノーヴェの解説の後、クロエがひょっこりを顔を出し、再び構えを取って拳を打ち出した。
水柱が上がり、水面が割れるまでは変わらないが、先ほどと違うのは、彼女の魔力が加わったことで、水柱と水面の一部分が凍りついたことだ。
「――こんなこともできる」
「そりゃお前だけだ」
「あいた」
若干ドヤ顔のクロエにノーヴェが軽めのチョップを落とした。まぁ、氷の変換資質を持っているが故の芸当なので、ツッコミを入れられるのは当たり前なのだが。
「じゃあ、アインハルト。さっき説明してみたとおりにやってみな。さっきよりは前に進むと思うぜ」
「はい」
アドバイスを受け、アインハルトは再び構えを取り、先ほどノーヴェが解説したように、拳を撃ち抜いた。
それによって発生した水柱は、先ほどと同じ位の高さではあるが、今度はそれにプラスして割れた水面が前進した。
「さっきよりも前に進みました!」
「二回目なのに、すごいですね! アインハルトさん!」
ヴィヴィオとコロナが声を上げて驚きを露にした。アインハルトとは言うと、コツを掴んできたようで、
「もう少しやってみてもいいですか?」
「はい!」
「どんどん、どうぞー!」
皆の声に、アインハルトは頷くと、再び構えをとって水斬りを行った。その都度、ヴィヴィオ達が黄色い歓声を上げている。
「さすが、アインハルト。飲み込みが早い早い」
「それはお前もだと思うけどな。さてはて、あの様子だとしばらく水斬りしてそうだけど、どうすっか」
「私が氷のスライダーでも作ろうか?」
「あ、それいい! 氷だから水流さなくても滑るからいいね!」
スライダーの話に、ルーテシアも乗ってきた。おもしろいこと好きの彼女らしいと言えるだろう。
「じゃあ、大まかなスライダーは私が作るから、滑るところの聖地手伝ってね」
「おう。そんじゃあ、始めるか」
「できれば大きいのがいいよね! 絶対楽しいから! 燃えてきた!」
「ルーちゃん、目が輝きすぎだってば……」
子供たちが川で遊んでいる頃、ロッジの近くにあるアスレチックゾーンでは、聖とスバルがタイムを競っていた。
ただ、若干スバルの方が早いように見える。
二人のレースは一進一退であったが、最終的になのはがいるゴール地点に先に到達したのは、スバルであった。そして僅差で、聖がゴールした。
走りぬけた聖は、一度大きな息をつく。
「あー、さすがに現役救助隊員、はえーはえー」
「聖さんも速かったですよー。私も気を抜いたら危なかったです」
「いやいや、着いて行くだけでいっぱいいっぱいだったところもあった。俺も自主トレ増やしとくか……」
顎に手を当てて考え込む聖であるが、それに対してなのはがタイムが記録されたモニタをスライドさせた。
「でも、実際のタイムは一秒も差がないから、たぶんアスレチックの得意不得意の差だと思うよ? 聖くん、普通に体力あるし」
「ならいいけど。でも、やっぱり元教え子っつーか、部下に抜かれるのは、やっぱり悔しいもんがあるからなぁ。よし、スバル。合宿中にまたやろうぜ」
「いいですよー。受けて立ちます!」
スバルも聖からの申し出にやる気満々な様子で笑みを浮かべた。
ふと、なのはが川があるロッジ裏を見やる。
「こっちのトレーニングはまだ続くけど、アインハルトちゃんはあっちで楽しんでるかな?」
「ヴィヴィオ達が一緒ですし、大丈夫ですよ」
「まぁノーヴェ師匠もついてるしな。それに、クロエもムードメーカー的な仕事はしてるだろ」
「歳が近いしねー。っと、そうだ……みんなは大丈夫ー? 休憩時間延ばそうかー?」
なのははクライミングのアスレチックの下にいる、ほかの面子に声をかける。
下を覗くと、そこには横になって体をプルプルさせているフェイトにティアナ。さらに肩で息をしているエリオとキャロがいた。
どうやら久々のなのは式トレーニングでバテているようだ。
「だ、大丈夫でーす!」
「つ、つかれてなんか、ないから……!」
二人はそうは言っているものの、どう見ても強がっているようにしか見えない。
「まぁ執務官ってのはデスクワークがメインだからなぁ。あんまり体を動かさなかった二人がばてるのも無理はないか」
「でも、聖さんも執務官ですよ?」
「俺はあれだ。実働も多かったし、それにクロエとのトレーニングもあったし、自分のためのトレーニングもしてたし」
「あぁなるほど。でも、エリオの息があがるなんて結構以外ですよね」
「自然保護官だから体動かすのは多いと思うけど、なのは式トレーニングは普段やらないからだと思うぜ」
肩を竦めつつ言うと、スバルは先ほどと同じような反応を取った。
その後、きつめのトレーニングをしっかりやった後、川で遊び終わったヴィヴィオ達と合流し、昼食をとなった。
昼食後、食休みも終えてたクロエは、聖と共に陸戦場にやってきていた。ここからは遊びではなく、トレーニングの開始だ。
二人はバリアジャケットを全展開し、向かい合っている状態だ。
「そんじゃあまずは軽くな。なのは達の方も気になるだろうが、今はこっちに専念するように。後々合流するし」
「はい! よろしくお願いします! 師匠」
「おう。んじゃ、かかって来い」
「いきます!」
クロエはダッシュして聖に近寄ると、拳を突き出した。
けれど所詮はスパーという軽いトレーニングなので、たいした速度はない。無論、聖とてこんな拳は軽く受け止める。
パシッ! という小気味良い音が鳴るなか、時折聖に言われて思い一撃を打ち込むときは、低く思い音が鳴り響く。
そのまま十数分、が経過し、適度に体が温まってきた頃、「よし」と彼が告げた。
「とりあえずスパーはこんなもんだな。模擬戦はもうちょい後にするとして、今度は俺からも手を出すから、組み手形式だ。気ぃ抜くなよ?」
「了解です!」
クロエが鍛錬に励んでるちょうどその頃、ロッジにある書庫では、ルーテシア、コロナ、リオの三人と、クリスが本棚から取り出した本を見ていた。
ルーテシアが開いているのは、アインハルトの祖先である、初代覇王、クラウス・G・S・イングヴァルトの回顧録である。
「この人が覇王イングヴァルト。よく見てみるとアインハルトも少しだけ面影があるよね。それで、こっちの人が、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。聖王家の王女にして、後の最後のゆりかごの聖王」
ページを捲った先にあった肖像にはオリヴィエが描かれていた。ルーテシアはさらに言葉をつなぐ。
「この二人の関係は歴史研究でも諸説あるんだよね」
「確か二人は生きた時代そのものが違うって説が主だよね」
「うん……。でもこの本だと二人は姉弟みたいに育ったってなってる」
「オリヴィエって確かヴィヴィオの……」
「複製母体だね。あとは聖さんもだね。ただ、あの二人を見ててわかることだけど、あんまり似てないから「二人のご先祖様」ってことでいいと思うよ。聖さんに至っては性別違うから、目つきなんてまったく別人だし」
ルーテシアの説明に、二人は「確かに」と苦笑いを浮かべていた。
コロナとリオは、二人とも聖からそれぞれの出生を聞かされているので、今更驚かない。
「けど、ルーちゃん。なんで聖王家の王女様と、シュトゥラの王子様が仲良しだったんだろうね」
「あ、そういえば」
「表向きはオリヴィエがシュトゥラに留学って形だったみたい。元々この二つの王家は国交があったし。でも、オリヴィエは王位継承権が低かったみたいだからたぶん……人質交換だったっていうのが濃厚かな」
「せ、戦国時代の人質っていうとあれだよね……」
「裏切ったら処刑するぞっていう……」
「そう、それ」
二人とクリスはガクブルと震えているが、ルーテシアはいたって平静にいう。
「けど、二人にはそんなこと関係なかったみたい。この本の途中は、ずっとオリヴィエ殿下のことばっかり」
ペラペラとページをまくっていくと、途中でオリヴィエとクラウス二人が描かれた肖像のページがあった。
ふと、コロナが思い出したようにルーテシアに問うた。
「ルーちゃん、クロエさんのご先祖のセラフィリアさんって人もこの二人と親交があったって聞いたけど、その人に関してはこの本に記述とかはないの?」
「うーん、残念ながらこの回顧録にはセラフィリアのことは載ってなかったかな。でも、こっちの本には色々面白い記述があったよ」
そういってルーテシアが取り出したのは、所々ボロボロになった古びた本だった。表紙の文字も削れていて、どんな記述がされているのかは一見しただけではわからない。
「これは?」
「前にアギトが送ってくれた本でね。それよりもホラ、ここ見える?」
ルーテシアが指差したページは表紙と同じように文字が擦れていて読みにくいものだったが、僅かに古代ベルカ語で書かれている記述が見える。
「これってなんて書いてあるの?」
「んとね、これはただの単語なんだけど、『シュネイ』って書いてあるんだよ」
「シュネイって確か、クロエさんのご先祖様が治めていた北国の名前!」
「そうだね。それで、この本のさらに後ろの方を見ると……ほら、ここ。今度ははっきりと見えるよね。これは『零王セラフィリア』って書いてあるんだよ」
「じゃあこの本はセラフィリアさんの回顧録ってこと?」
リオが問いを投げかけるものの、ルーテシアはそれに対して被りを振った。
「んー、そう思いたいのは山々なんだけど、残念ながらこの本はベルカの北のほうの地方の風土とかそういうのを記した本だから、セラフィリア殿下がどういう人だったとか、細かい記載はないんだ」
「そっかぁ……」
「少し残念だね」
「でも、なにも収穫がないわけじゃないよ。こうやって歴史の記述書に残っているってことは、クロエのご先祖様についてもっと詳しく書かれている本があるかもしれないでしょ? フリーレンに全部聞くって言っても、彼女が全部わかっているわけでもないだろうしね。劣化と風化防止の魔法がかけられていたと言っても、記録の中だと壊れている部分もあるみたいだし。だから、やっぱりもっと深く調べるには、本局の無限書庫に行くしかないかなぁ」
腕を組み、考え込むルーテシア。やはり、個人の蔵書では、歴史の深いところまで調べるには無理があるようだ。
そこで、三人がの前にモニタが表示された。モニタの中にはノーヴェの姿が見える。
『お嬢にコロナ、リオ。これからスターズが模擬戦やるらしいんだけど、見に来ないか? ヴィヴィオとアインハルトも行くってよ』
「「「行く行くー」」」
三人は答えたあと、モニタの電源を落として書庫を出る。
「模擬戦かー。今日もすごそうだねぇ」
「スターズの三人の模擬戦はなんていうか過激だからね。隊長クラス三人の模擬戦は次元が違うけど」
「今回も聖さんとなのはさん、フェイトさんの三人で隊長戦やるらしいよー。明日みたいだけどね」
「あ、でもアインハルトさんって、なのはさんが航空武装隊の戦技教導官って知ってるのかな」
「「あー……」」
リオの言葉にルーテシアとコロナが、思い出したように声を漏らした。
そして陸戦場に着いたとき、案の定アインハルトは目の前で行われている激しい模擬戦に驚き、キョトンとしていた。
既にフェイト達も合流しており、ちょうどヴィヴィオが全員の役職の説明をしているところだった。
すると、模擬戦を行っていたなのはが、スバルとティアナに休憩を宣言した。
「はーい。それじゃあ一旦終了!」
「「ありがとうございました!」」
「二人はこのあとウォールアクトやるんだっけ?」
「はい」
「エリオとフェイトさんも一緒です!」
二人の返答に頷いたなのはは、自身の頭上を飛んでいるフリードの上に乗っているキャロに声をかける。
「それじゃキャロは私とやろうかー?」
「お願いしまーすッ!」
キャロはそう答え、なのはとともに少し離れた場所に移動した。
その後、バリアジャケットからトレーニングウェアに戻ったティアナ達は、それぞれウォールアクトを始めた。
「皆さんずっと動きっぱなしですね……。局の魔導師の方は皆さんこんなハードなトレーニングを?」
「そうですね」
「まぁな。スバルは救助隊だし、ティアナは凶悪犯罪担当の執務官。他の皆だってそれぞれ頻度の差はあっても命の現場で働いてるわけだしな。力がなくちゃ救えないこともある」
「では、ヴィヴィオ様のお父様も?」
「はい。今はクロエさんの鍛錬をしてますけどね」
「聖さんの場合は、執務官が処理する案件でも特にヤバイ犯罪者連中を相手にするからな。明日なのはさんとフェイトさん、聖さんの三人で模擬戦するから見てみろ。次元の違いがはっきりわかる」
ノーヴェの説明にアインハルトは生唾をゴクリを飲み込んだ。同時に、体がうずうずとし始めたのを感じたようだ。
やはり、こういった光景を見せられると体を動かしたくなってしまうようだ。
ヴィヴィオもそれを見て彼女の意志が理解できたのか、アインハルトを誘った。
そして二人がこの場を離れようとした時、陸戦場の奥まったところで、一筋の蒼色の光が迸り、轟音とまではいかないが、ガラスが割れたような大きな音が鳴り響いた。
その場にいた全員がその音と光に視線を向けた。
無論、ヴィヴィオとアインハルトも音のした方角を見る。
「あれは……?」
陸戦場のレイヤー建造物の合間から見えたのは、陽光を反射してキラキラと光る氷の尖塔の先のようなもの。その光の反射加減と、色合いだけで見てしまうと、まるでサファイアのようだ。
やがて尖塔は音をガラスが割れるような音を当てて砕け散ったが、その塵際すらも美しい。
「まさか、あれはクロエさんの技?」
「かもしれないです。でも、あんな技私もみたことがないです。ノーヴェは?」
「いや、あたしもないな。多分新しく開発したんだろ。どういう撃ち方したのかはわからねぇけど、多分砲撃魔法だな」
「砲撃……」
「アインハルトさん、気になるなら見に行きますか?」
ヴィヴィオが首をかしげながら問うと、アインハルトはそれに対し首を横に振った。
「気にはなりますが、今はヴィヴィオさんと練習したいと思います。それに、クロエさんとは後で模擬戦をする約束になっていますので」
そのままアインハルトは歩き始め、ヴィヴィオも嬉しげにそれに続いた。
残ったノーヴェ達は、先ほど氷の尖塔があった場所を見やる。
「なぁ、お嬢。ここのレイヤービルってどれくらいの高さなんだ?」
「うーん、大体十メートル以下のビルのほかに、十四、五メートルあるやつもあるかな」
「ってことは、さっきの氷の高さは大体十メートル行くか行かないかぐらいか。かなり高出力な魔法だな」
「ノーヴェ、気になるなら行ってみればいいじゃん」
「いいよ。アインハルトも言ってただろ。どのみち模擬戦やるんだからその時にまた見せてもらうさ」
ノーヴェは肩を竦めると、スバル達の訓練に視線を向けた。
見ると、スバル達は訓練をしつつも、先ほどの氷の尖塔について話しているようだった。
「アレがクロエの新しい魔法かー。なんかすごそうだね」
「ええ。聖さんが鍛えてるだけはあるわね。去年はまだまだだったけど、もしかすると今年の模擬戦は結構追い詰められるかもしれないわ」
「ふふ。私達もうかうかしてられないね。エリオも同い年として無視できないんじゃない?」
「はい! 模擬戦のときは負けませんよ!」
ウォールアクトをこなしながら話をする四人は、驚きつつも明日行われる模擬戦を楽しみにしているようだった。
ノーヴェ達が氷の尖塔に驚いているちょうどその頃、クロエは息を整えていた。そして彼女は空中に浮かんでいる聖に問うた。
「今のどうでしたか!? 師匠」
「あぁ、威力は申し分なさそうだった。ただ、発射までの隙がでかいから、バインドは必須だろうな」
「じゃあやっぱり、
「どのバインドにするかは、その場その場の状況で使い分けてみな。それでだ……クロエ。さっきの
聖に問われ、クロエは考え込む。
……そういえば、何型とかあんまり考えずに開発してたかも。
この魔法を開発するに当たり、深く考えずに作ったのを思い出し、改めて質問されると、よくわからない。
「砲撃……ですかね? すみません、自分でも大雑把に作ったんで……」
「やっぱりな。いいか、あれは
「え?」
「普通の集束砲は、周囲の魔力を集束させて打ち出す。お前の場合は、集束させた魔力を一度槍の形にして、それを打ち出す。そして着弾と同時に、槍に集束していた魔力が一気に放出されて、氷の尖塔が形成される。言うなれば、お前の槍は魔力を集束させた槍型の爆弾だな」
「爆弾ですか……」
「普通はなのは見たいにレーザーっつーか、一本の魔力の筋みたいになるんだけどな。まぁ氷の変換資質ならではって感じだな。中々面白い思うぜ。だからもっと極めてみな。というか、無意識で集束砲が撃てるんだから、それだけでもたいしたもんだと思うけどな」
彼は空中から降立ち、頭を軽く撫でた。
クロエも褒められたことがうれしかったのか、「えへへ」とやや顔を赤らめる。
しかし、聖もただ褒めただけではなかった。
「けどな、クロエ。よく聞いてくれよ。集束砲ってのは、術者に負担をかけることもある。自分の実力以上のことをすれば、体が悲鳴を上げるし、最悪の場合魔導師人生にも関わってくる。そのあたりを自分でちゃんと理解して、この技を使うように。少しでも無理だと感じたら使用は控えろ。いいな?」
「わかりました。そのあたりは自分の体と相談してがんばってみます!」
「よし。そんじゃあ、もう一回オレと模擬戦して、その後なのは達に合流するか。陸戦の訓練もしたいだろ?」
「はい! よろしくお願いします!」
クロエと聖は再び構えを取って模擬戦の準備にはいった。
「みんな本当に元気でいいわねー」
ロッジに併設された温泉の掃除をしていたメガーヌは、陸戦場を映している中継モニターを見て感心した様子でいた。
「いやまったくそのとおりだねぇ」
そんな彼女に向けて声をかけたのは、聖王教会のシスター服に身を包んだ、水色の髪が特徴的な少女、セインであった。
「セインはいいの? みんなと遊んでこなくても」
「いやぁ、あたしは教会からこの新鮮野菜とたまごの差し入れをしに来ただけだからさ」
真面目に言ったものの、メガーヌは口元を手で押さえながら彼女を小突いた。
「そんなこと言っちゃってー。本当は遊びたいくせにー」
「ま、まぁそうなんだけどさぁ」
メガーヌの言葉はセインにとっては見事に図星だったようで、彼女は半笑いを浮かべる。
「けどまぁ、せっかくだから軽めの温泉サプライズの一つでも仕掛けて、楽しませてやっかなーって思ってるけどね」
ふふん、得意げな表情をするセインの瞳には悪戯っぽい色が見え隠れしていた。
はい、お疲れ様でした。
今回は原作とたいした変更点がなくて面白くないですね。すみません。
次回は序盤を温泉をやって、チーム戦まで持っていく感じで、その後ぐらいには零王対覇王をやりたいですね。
では、感想などありましたらよろしくお願いします。