魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero- 作:炎狼
そして日も暮れた夜……。
ホテルアルピーノ露天浴場では、浴衣を着て涼んでいるティアナとスバル、そしてノーヴェの姿が見受けられた。
「そういえばノーヴェ。皆はどうしてたー?」
「さっきティアナも言ってたけど、流石に三連戦もやってたからぐったりって感じだったな。フェイトさん一家は団欒中だし、なのはさんはメガーヌさんとキッチンで談笑中。んで、チビ共は限界超えて頑張りすぎたもんだからベッドでぐったりって感じだな」
「だよねー。ヴィヴィオたち頑張ってもん」
「ノーヴェ。聖さんとクロエはどうしたの? 話に出てこなかったけど」
「あー、あの二人は……」
ノーヴェがティアナの問いにどう返すべきか悩んでいると、ふと目の前の露天風呂で水面が盛り上り、二人の人物が現れた。
スバルとティアナがそれに驚いて起き上がると、聞こえてきたのは聖とクロエの声。
「フハハ、その程度かクロエ! やっぱりまだまだ俺には勝てないなー!」
「いやいやいや、師匠。今のはずるいですよ! 水中で変な顔して笑わせるのナシですってば!」
「別にルールなんざ設けちゃいないからな。なんでもありなんだよ!!」
「あー、言ったなー! じゃあ今度は私が勝ちます!」
「いいだろう、行くぞオラァ!」
それぞれ水着を着込んだ二人は、再び水中に消えた。騒がしさから一転、妙な静けさが蔓延った露天浴場では、残されたティアナとスバル、そしてノーヴェがなんともいえない表情をしていた。
「えっと……あの二人、なにやってるの?」
「どっちが長く水中で息を止めてられるか勝負してるんだと。さっきからずっとやってる」
「げ、元気だなぁ……」
三人が呆れ半分、驚き半分な表情を浮かべながらも、どっちが早く上がってくるかを見守るが……。
「ねぇ二人とも遅くない?」
「そうね……潜って結構経つけど」
「まさか……」
三人がゴクリと生唾を飲み込むが、二人はいっこうにあがってこない。嫌な予感がしたのか、それとも静寂に耐え切れなくなったのか、ノーヴェが二人に呼びかける。
「お、おーい。二人ともーそろそろ上がってきてもいいんじゃ……」
彼女がそこまでいいかけたところで、再び水面が盛り上がって二人が同時に上がってきた。
二人は揃って体を真っ赤にしており、見ているこっちが熱くなるレベルであった。そして二人は一言。
「「し、死ぬかと思った!!」」
「「「でしょうね!!!!」」」
至極当然なクロエと聖の声に、三人は全く同じツッコミを入れた。
「なにやってんですか聖さん! それにクロエも!」
流石に馬鹿っぽい二人の争いに、ティアナが溜息交じりの声を上げた。二人はようやくスバル達の存在に気付いたようで、真っ赤な体を引き摺るようにしながら湯船から上がってきた。
「いや、二人で風呂に入ってたらどっちが息を長く止められるか勝負しようってことになって、今に至るって感じで……」
「同じく……」
「くだらないことやってないでちゃんと休んでください。疲れも取れませんから」
年下のティアナに注意され、聖はバツが悪そうにしながらもそれに頷き、クロエも素直に従った。が、完全にのぼせている二人はふらふらでその場に寝転がってしまった。
「あぢー……。クロエー、氷くれー」
「あいー……」
聖に言われ、クロエが手元にやや大きめな氷塊を生成して聖に手渡すと、彼はそれを自身の額の上に乗せて涼み始める。
クロエも同じようにそれを氷を作って頭を冷やしているが、それを見ていたノーヴェはヤレヤレと頭を振った。
「変換資質をなにに使ってんだお前は……」
「えー、でも氷って色々便利だよー。因みにこれ食べても無毒だしー」
そう言って彼女は自身が精製した氷をガリガリと食べ始めた。実体のある変換資質ならではと言うことなのだろうか。
「零王だって子孫がそんな使い方してるなんて思ってないだろうよ。まったく」
呆れた表情でノーヴェはいうものの、その表情にはどこか楽しげな雰囲気があった。
ぐでーっとしている聖とクロエを置いておき、スバルが呟く。
「そういえばそろそろインターミドルの時期だよね」
「そうねぇ。アインハルトも参加してくれると健全でいいんだけど」
「今頃お嬢たちがインターミドルのことは説明してくれてるだろうさ。それに、今日の試合で確信したよ。アイツの求めてる強さは、|競技者≪アスリート≫としての強さだ。命のやり取りでもねぇし、削りあいでもない。ましてや何かをするための強さでもない。練習重ねて、自分を高めて公正なルールの中で相手と競い合う」
「相手にも自分自身にも勝つ戦い、だよね」
「ああ」
頷いたノーヴェであるが、ふと、足元のほうから可愛らしい寝息が聞こえてきた。三人がそちらを見ると、氷を額に乗せたままのクロエが気持ちよさげに眠っていた。
「ったく、疲れてる癖に遊んでるからだっての」
「本当にそうだな」
唐突にダラーッとなっていた聖が起き上がった。体の赤みは先程よりも退いているので、涼んだのが効いた様だ。
「もう平気なんですか、聖さん?」
「ああ。クロエの氷のおかげで随分と涼めた。それにここは風通しがいいからな。しっかし、やっぱりアインハルトとクロエは根本的に違うな」
「それって、二人が目指してる方向ですか?」
「ああ。クロエが目指してるのは管理局の執務官。それに対し、アインハルトは競技者向き。戦い方一つを取っても、二人は全く違う」
三人も彼の言葉に思い当たる節があったのか、それぞれ頷いた。
「けどまぁ目指す方向や夢は違っても、皆で楽しくできるのが一番だけどな。……んで、ノーヴェよう。お前さんの方は覚悟は決まったのか?」
「まぁ、な」
「あ、それってヴィヴィオ達の「ちゃんとした師匠になる」ってことでしょ?」
笑いかけるティアナとスバルだが、ノーヴェはと言うと聖とはまた違ったベクトルで顔を赤らめ、そっぽを向きながら答えた。
「べべ、別に今更あいつらに師匠面する気はねーんだけど! ホラ、大会の出場にはコーチやセコンドの記名も必要だし、名義だけ貸すのも無責任だしさ!!」
「わかってる、わかってる」
「つか、ヴィヴィオたちはお前のことを師匠だ言ってるしな」
聖が肩を竦めながら言うと、ノーヴェは赤くなった頬を掻きつつ、視線を逸らす。すると、そんな妹の様子を見ていたスバルが、彼女に優しく告げる。
「ノーヴェの未来だってまだまだ探し中なんだし、この先どんな道に進むかヴィヴィオやアインハルトたちと探していけばいいよ」
「………おう」
時折スバルが待とう姉の雰囲気に、ノーヴェは気恥ずかしげにしながらも微笑を浮かべた。
「ギンガは姉感半端ねぇけど、こうしてみると、スバルもしっかりお姉ちゃんしてるって感じるな」
「ですねー」
聖の呟きにティアナが同意すると、スバルが得意げな笑みを浮かべてグッと拳を握った。
「姉です!」
彼女はそう答えるものの、ノーヴェはやや視線を逸らしながら……。
「……まぁ不本意ながら」
姉妹でそれぞれ違う反応にティアナと聖が笑っていると、小さなくしゃみが聞こえた。見ると、クロエが眠りながら体を一度ぶるっと震わせた。
お湯から上がってそれなりに経ったので体が冷えてきたのだろう。
「そろそろあがるか。わりぃけど三人とも、クロエのこと頼んで良いか? さすがに俺が着替えさせてやるわけにはいかねぇし」
「はーい。わかりましたー」
聖はスバルの返答を聞いてから男性専用の脱衣所へと向かった。
残されたスバルは、近くにあったタオルで軽くクロエの体を拭ったあと、彼女を背負う。
「華奢な感じに見えるけどしっかり筋肉ついてるなぁ」
「鍛えてる証拠ね。聖さんの鍛錬はきついから……」
「だね。あっ!」
スバルは何かに気が付いたのか、ふと背筋を伸ばす。
「ど、どした?」
「どうしたのよ急に」
「いや、クロエは力も成長してたけどこっちのほうも成長してるなぁって思って。多分、ティアがこれぐらいの時よりも育ってる」
彼女が言っているのはクロエの胸のことだ。おんぶしているため、クロエの胸の感触がダイレクトに背中に伝わっているのだろう。
が、そんな彼女に対して妹と親友は、軽めのチョップを振り下ろした。
「おバカ。変態的なこと言ってんじゃないわよ」
「前々から思ってたけど、スバル……お前胸好きすぎだろ。ティアナの胸だって触ってたんだろ?」
「それは親友の成長を確かめることも含めてたんだってばー。それにそのおかげでティアの胸もしっかりと成長し――」
「――スーバールー? それ以上言うと……わかってるわね?」
「は、は~い。分かりました~……」
笑顔ながらも凄まじい威圧感のティアナに気圧され、スバルは苦笑いを浮かべながらクロエを着替えさせるために脱衣所へ向かった。
その後、着替え終わってから目を覚ましたクロエと共に、なのはとメガーヌが用意してくれたドリンクを飲み、二日目は終了となった。
深夜。
ホテルアルピーノのお手洗いからクロエがあくびをしながら出てきた。
「うー……。なのはさんが作ってくれた飲み物美味しかったから飲みすぎたかなぁ」
ぼやきながら自室に戻ろうと廊下を歩いていくと、ふと視線の先にドアの隙間から零れる明りが見えた。
同時に誰かがしゃべっている声が聞こえる。
……あそこって確か師匠となのはさん達の部屋だよね。
もしかするとプライベートなことを話しているのかもしれないと、クロエは見なかったフリをして自室に戻ろうとしたが、『すこしだけなら……』という誘惑には逆らえず、逡巡したあとソロリソロリと抜き足差し足でドアの前まで行くと聞き耳を立てる。
『……れで、聖はどう考えてるの?』
『アイツの好きにさせてやりたいとは思うけどな。けど、危険なこともまた事実だ』
『三回戦ぐらいにはもう色々と吹っ切れてたみたいだけどね』
ドア越しなのでくぐもっているが、中にいるのはどうやら聖、なのは、フェイトの三人で間違いなさそうだ。
最初は誰のことを話しているのかあまりわからなかったが、次に聞こえた言葉でクロエは誰の話題なのかに気が付いた。
『零王の力、今日の最初まではおっかなびっくりだったけど、俺を倒した時と二回戦目、三回戦目は充分使えてたように見えた』
話題はクロエのことだったようだ。
『じゃあ後はクロエに任せきる?』
『それが一番良いとは思う。自分の力だ、俺が変に口を出すよりもアイツは自分でどうにかしたいんじゃないかって思うんだ。それに危険だといってもクロエにもう迷いはない。あの力だってもっと上手く扱えるようになるさ』
『……うん。聖くんがそう考えるのなら、私はなにも言わないよ。クロエも芯がしっかりしてるからね。きっと自分で考えてもっと強くなるはず』
『そうだね……。少し心配なところはあるけど、今はクロエを信じよう』
『ああ』
それ以降、三人の声は聞こえなくなり、ドアの隙間から洩れる明りも消えた。どうやら眠ったようだ。
クロエは耳をドアから離してゆっくりと立ち上がり、音を立てないように部屋に戻ると、窓をゆっくりと開けてから大きく深呼吸をした。
彼女は微笑を浮かべ、全天を覆う星を眺めながら口を開いた。
「ありがとうございます。師匠、なのはさん、フェイトさん……私は扱ってみせます。この力を、全力で」
決意、そして闘志を孕んだ眼光はどこまでも澄み渡り、そして真っ直ぐであった。
翌日の朝、食卓には全員が集まり行儀良く座っていた。テーブルの一番前に座っていた聖が軽く咳払いをする。
「それでは合宿三日目、今日も朝から元気に行くぞー。せーのっ」
彼がそのまま手を合わせると、それに続いて皆が手を合わせる。
「いただきまーす!」
揃った声で皆が言うと、一斉に朝食を食べ始めた。食卓にはベーコンエッグにサラダ、トーストにロールパンがバスケットに入れられて並べられている。
わいわいと話しながら食事をする皆の姿はさながら大家族と言った感じだ。因みに、スバルとエリオだけは皆よりも量が二倍ぐらいあった。
「そういえばアインハルト」
「はい」
不意にクロエがアインハルトに声をかける。
「デバイスの方はどうなったの? 私寝ちゃってたから聞きそびれちゃって」
「そのことでしたら、ルーテシアさんがお知り合いの方に連絡を入れてくれるとのことでした」
「あぁそうだった。アインハルト、八神家の皆さんと連絡取れたから。朝御飯食べたら一緒にお話ししよ」
「はい」
「あー、やっぱりそうなるよねー。古代ベルカ式だもんね」
八神家という単語を聞いてクロエはフリーレンを見やりながら思い出す。確かに、古代ベルカ式を扱えるデバイスを作るとすれば、あの家族が適任と言えるだろう。
クロエが頷きながらベーコンエッグを頬張ると、今度はアインハルトが彼女に声をかけた。
「クロエさん。今日の午後なんですが……試合をお願いしても良いでしょうか?」
「あ、そっかそっか。うん。いいよ、やろうか」
「ありがとうございます」
アインハルトが頭を下げ、クロエも微笑を浮かべる。
すると、それを聞いていたヴィヴィオ、リオ、コロナが……。
「クロエさんとアインハルトさんが試合やるんですか!?」
「それすっごい楽しみです!」
「二人が戦うなんてヴィヴィオとアインハルトさんが戦うぐらいわくわくします」
三者三様の反応を示すちびっ子達。が、そんな彼女らの姿を見てクロエは微笑を浮かべると同時になんともいえない感情に襲われる。
……なんていうか、この子達もバトルジャンキーな節があるというかなんというか。
彼女が思うのも無理はない。リオやヴィヴィオはまだしも、温厚そうなコロナでさえこの有様なのだ。
いや、この有様はさすがに酷いか。
とはいえ、ストライクアーツの選手らしいのは確かだ。
「クロエ、アインハルト」
「はい? なんですか、師匠」
そちらを向くと、なぜかメガーヌにあーんを強要されている聖が彼女の手を止めつつ、凄まじい眼光で彼を睨む二人の妻と視線を合わせないようにしていた。
「二人とも試合をするのはいいが、無茶しすぎないようにな」
「は、はい。分かりました」
「了解です」
アインハルトはキョトンとしながらも頷いたが、クロエは見慣れているのか、それとも呆れているのか特にリアクションもなかった。
その後、聖は執拗なメガーヌの行動についに折れ、『あーん』を受け入れてしまった。結果として、朝食の後に彼がなのはとフェイトに引き摺られて『オハナシ』をされたのは言うまでもない。
後でクロエがなぜメガーヌに聖と過剰なスキンシップをするのかと聞いたところ、彼女曰く「楽しいから」だそうだ。
内心でクロエは部屋に連行されていった聖に合掌しておいた。
朝食を終えたクロエは特にやることもなくぶらぶらとアルピーノ邸の周辺をうろついていた。
「師匠はまだオハナシ中だしなぁ。なんともやることがない」
〈訓練漬けでしたからねぇ。たまにはこういうのも良いのではないですか?〉
「まぁそうなんだけど」
〈それにアインハルト様との試合もあるのですから、ゆっくりのんびりするのも良いですよ〉
フリーレンの言うことも最もである。なので、クロエは近くの草原に寝転がり、空を仰いだ。
どこまでも続く蒼い空の中を流れる白い雲を見ていると、なんとも穏やかな気持ちになる。
「のどかだねぇ……」
〈カルナージは基本的にこの天候のようですが、メガーヌ様が言うには今日はその中でも格別なようですよ〉
「なるほどねぇ」
クロエは答えてから静かに目を閉じた。
呼吸を最小限にとどめ、自然の音を感じる。草木が風に揺れる音、鼻腔に抜ける花と土の香り、かすかに聞こえる川のせせらぎは、全てにおいて人の心を落ち着かせるエッセンスだ。
そのまま眠りそうになったクロエであるが、ふと「あっ」と声を漏らして起き上がる。
「そういえばフリーレンにずっと聞こう聞こうと思ってたことがあるんだった」
〈なんでしょうか?〉
「えっとさ、フリーレンにはセラフィリアさんの記憶だったり、記録は残ってないの? フリーレンはセラさんのデバイスだったんでしょ?」
〈それは……〉
彼女の質問にフリーレンは一度言葉を詰まらせる。が、やがてゆっくりと語り始めた。
〈……申し訳ありません。クロエ様。残念ながら記録はあまり残っていないのです。風化防止と劣化防止のプロテクトをかけられてはいましたが、それも万能ではないのです〉
「そっかぁ……。まぁそうだよね、もし最初からフリーレンが分かってたなら、こんな苦労はしないわけだし」
〈申し訳ありません〉
「いいよいいよ、謝らなくて。でもそうなると益々気になってくるなぁ。セラフィリアさんのこと」
〈わたくしが覚えているのはあくまで断片的な記憶ですが、彼女はクロエ様と似ていましたよ。城下町で遊んでいたのは良く覚えています。もっとも、彼女の生涯全ての記録はありませんがね〉
「覚えてるのはどのあたり?」
〈そうですね。セラ様の幼少時代の一部と、成人なさってからしばらくして、今現在八神指令が所持している夜天の魔導書との戦闘、あとは戦争の一部の記憶ぐらいしか残っておりません。それ以外は、全て破損しています〉
フリーレンはそういうものの、クロエは途中でなにかすごい言葉を聞いた気がした。
「えっとちょっと待ってフリーレン、今、夜天の魔導書と戦ったって言った?」
〈はい。もっと言えば、ヴォルケンリッターの方々とも戦いましたよ。あちらは覚えていないようですが〉
「……凄まじいことを聞いてしまった……。え、じゃあなに? セラフィリアさんはシグナムさんを同時に相手にして戦ってたの?」
〈はい。四人同時に相手取って善戦していましたよ。ですが、流石に数には勝てずに最終的には一部の魔法とリンカーコアの一部を蒐集されてしまいましたが。だから、今の夜天の魔導書には、かつてセラ様から蒐集した魔法が幾つか残っているはずです〉
「これまた衝撃の事実……。でもフリーレンからしたら夜天の魔導書だったり、シグナムさんはあまり好きになれないんじゃないの?」
クロエの言葉も最もである。普通であれば主を傷つけた犯人を許せるはずがない。その記憶が残っているのあれば、それはなおのことであるはずなのだが。
〈普通であればそうでしょうが。前にも言ったとおり、セラ様は強者と戦うのがお好きな方でして……。夜天の魔導書と守護騎士達に負けたあとも特に気にすることはありませんでした。寧ろ笑顔でしたね〉
「でも、それってなんか矛盾してない? 自分から戦争はしなかった人が、戦うのが好きって……」
〈確かに。ですが、クロエ様。自分から戦争はしなかったということは、裏を返せば戦争を吹っ掛けられたら全力で戦うぞということでもあります。ここから先は覚えていないので想像ですが、恐らくセラ様は自ら戦争をしなかった代わりに攻められることで強者を求めていたのかもしれません。自ら動くよりも、戦争を仕掛けられた方が早いですからね〉
「なんていうか、すごいアグレッシブというか、戦闘狂というか……」
〈そういう人だったんですよ。というか、聖王殿下と覇王殿下を招いたのだって、両殿下が武術に秀でていたからで――〉
と、そこまで饒舌に語っていたフリーレンだが、不意に言葉を止めてしまった。それにクロエが首をかしげる。
「どうかした?」
〈――いえ、記録に混濁とノイズが見られます。両殿下とあと一人……誰かがいたような……〉
「それってイクス?」
〈違います。少なくとも王ではなかった……アレは一体……?〉
フリーレンは記録を呼び起こそうとするが、やがてそれをやめてしまった。
〈申し訳ありません、クロエ様。エラーコードが多発したたため記録の探索を中止しました〉
「あぁうん。フリーレンがそう判断したなら全然構わないよ。無理はしないほうが良いしね」
〈ありがとうございます〉
「でもそっかぁ、セラフィリアさん。好戦的だったんだ。……私もアインハルトみたいに先祖の記憶とかあったらよかったのかな」
〈いえ。それはあまり良いことではありませんよ。過去の記憶を受け継ぐことは、それだけ先祖が味わってきた悲しいこと、辛いこと、全てを背負わなければなりません。アインハルト様も、それをずっと味わってきたのでしょう〉
フリーレンの言葉には重みがあった。そこで、クロエは自分の発言が軽率であったことに気が付く。
……こんなことがいえるのは、その苦しみを味わっていないから、だよね。そう考えると辛いかも。
「アインハルトは辛いのかな……?」
〈辛くないといえば恐らく嘘でしょう。恐らく彼女にはクラウス殿下の悲しみ、そして辛い過去が残っているのでしょう。ですが、だからこそ彼女とは本気でぶつかるべきなのです〉
「うん。わかるよ、なんとなく。だから今日の試合も全力で戦って、私が勝つ」
〈その意気です〉
クロエは今一度覇王との試合の覚悟を決め、空を見上げた。
クロエが外でぼんやりと空を眺めている頃、アインハルトもまたはやてとの会話を終えて、午後に行われる試合のことを考えていた。
「零王の力を受け継ぐ、クロエさんとの試合……」
アインハルトは自身の鼓動が早く脈打つのを感じていた。この感覚は嬉しさだ。昨日の陸戦試合でも味わった、強者と戦える高揚感だ。
しかも、クロエは覇王と親交があったという零王の直系だ。なおかつ、ヴィヴィオの父である聖の弟子でもある。実力は陸戦試合で見た限り、ヴィヴィオよりもあるといって良いだろう。
「実力は拮抗……いえ、恐らくはクロエさんの方が上。けれど、私は勝ちます」
アインハルトもまた零王との戦いを考えながら窓の外に広がる空を見上げた。
そして約束の午後。クロエはバリアジャケットを展開し、アインハルトも武装形態へと姿を衣服を変化させて二人は向かい合っていた。
アインハルトが武装形態になったことで、二人には身長差が生まれ、端から見るとアインハルトの方が年上に見える。
彼女らが立っているのは陸戦場の一角に設けられたなにもない広場だ。遮蔽物はなく、試合を行うには絶好の場所だ。
そして向かい合う二人の奥には合宿メンバー全員の姿があった。ヴィヴィオ達チビッ子はわくわくした様子で二人を見ていたが、大人組は真剣な眼差しを二人に送っていた。
やがてノーヴェが出てきて二人の間に立つ。
「それじゃ、これから始めるけどもう一度ルールの確認しておくぞ。ルールは昨日と同じDSAAのルールに則る。ライフポイントもこのタグで管理する。どっちかのライフが0になったら決着だ。今回は個人戦だからそれぞれのライフは8000に設定しておいた」
「了解」
「わかりました」
二人が頷いたのを確認したノーヴェはそのまま続ける。
「両者ともフェアな戦いをするように。あと、やりすぎるなよ」
最後に注意を促し、ノーヴェは一歩退いてから右腕を上げる。
同時にクロエとアインハルトは構えを取り、二人の鋭い眼光が交錯する。そして、ノーヴェの腕が振り下ろされる。
「試合、開始ッ!」
はい、今回はアインハルトとの試合開始まで行きました。
前半でクロエと聖が遊んでますが、どっちも水着着てるので大丈夫です。
氷は基本的に魔力ですが、食べられます。害はないはずと私の中で勝手に思ってますw
次回は参加申請の辺りまで行きます。
そして、クロエと大会上位者の関係がちょっとだけ垣間見えます。