魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero- 作:炎狼
試合開始の声と同時に駆け出したのはアインハルトだ。
一呼吸の後に一気にクロエに肉薄したアインハルトの速さには目を見張るものがある。彼女はそのまま魔力を乗せた拳をクロエの頭にヒットさせようとするが、クロエにはその動きが見えている。
頭上から振り下ろされた拳に、クロエは瞬時に反応すると、その拳を受け流し自身の足元に僅かに氷を張って体を急速に反転。
そのままアインハルトの懐にもぐりこんで、彼女の腹部に肘鉄を叩き込み、それに続いて裏拳を見舞う。
確かな手ごたえがクロエの拳に伝わり、アインハルトは苦い顔をしながらその場から後退する。
「……白雲流烈拳術、『
これは聖から教えてもらった白雲流の体術だ。相手の攻撃を受け流し、瞬時に懐に飛び込み、肘鉄から続く裏拳を叩き込む。所謂カウンターのようなものだ。
今のでアインハルトのライフは250減少。対してこちらは50。まだこちらが有利だが、油断は出来ない。しかし、恐怖もなければ、不安もない。今のクロエにあるのは勝利へ願望だけだ。
クロエは後退したアインハルトの隙を見逃さず、足に力を込めて駆け出す。そのまま彼女は右腕を振った。
同時に彼女の周りに円を描くように氷塊が展開する。
「
ガトリング。まさにその名の通り、クロエの周囲に展開した氷塊は連続して発射され、アインハルトに襲い掛かった。
けれど、この程度アインハルトが破れないはずはなく、彼女は小さく呼吸をしたかと思うと、襲い掛かった氷塊を全て砕き落として見せた。が、クロエから打ち出される氷塊はまだまだ止むことはない。
もとよりクロエには膨大な量の魔力が備わっている。そんな彼女だからこそできるシューターの連射。一つ一つの攻撃力は低くとも、隙を作るには充分のはずだ。
だから彼女は恐れずに攻めた。氷塊を撃ち落すアインハルトの真正面から。
が、アインハルトとて、氷塊のみに気を取られているわけではない。クロエの行動は見えていたし、攻撃法も予測がついていたのか、一度魔力を放出して迫る氷塊を全て同時に撃ち落すと、グッと腰を落とした。
その構えにクロエは覚えがあった。確かアレは陸戦試合でも何度か見た技。アインハルトの得意技だ。
「覇王流……」
小さな声と共にアインハルトの足から力が上ってくる。けれど、クロエにもそれは見えている。だからこそ、拳には拳で答えようと思ったのだ。
「絶零之……」
瞬時に右腕に魔力を移動させ、溜める。そして、二人は拳をほぼ同時に放った。
「断空拳ッ!」
「宝拳ッ!」
ほぼ同時に撃ち放たれた二人の拳は、重々しい音と共に衝突し、衝撃波が巻き起こる。
どちらの拳も充分に魔力が込められ、破壊力は抜群だ。が、ここはアインハルトに軍配が上がったようで、クロエはその場から大きく後退させられ、ライフも200ほど削られる。
だがアインハルトも無傷ではない、あちらも150のライフを失った。総計ならばまだクロエに余裕がある。
「やっぱり強い。様子見してると多分一撃で崩される」
〈では、どうしますか?〉
「師匠とやるときと同じだよ。動きをよく見て、そして、決定打を叩き込む。そして勝つ。それだけッ!」
クロエは再び氷塊を呼び出すが、今度は先ほどのものではない。今度放つのは誘導型のシューターだ。
「フロストハウンド」
声と共に打ち出されたシューターは変則的な動きをしながらアインハルトへと迫っていく。
向かってくるシューターにアインハルトは呼吸を整える。
……強い。氷を使った変則的な動きに、加えてヴィヴィオさんよりも卓越したシューター操作。そして、的確に隙を突いてくる攻撃法……。
クロエの力量は、アインハルトが想像していたとおりだ。
「けれど……!」
彼女は左足を引くと、息を吐きながら呟く。
「覇王流、旋衝破」
言い終えると同時に、アインハルトは飛んできたシューターを自身の手で包み込むように受け止めた。
氷のシューターとは言えど、構造上は同じシューターだ。だから出来ないことはない。クロエもこれには驚いたようで、顔は驚愕に染まっている。
そしてアインハルトは冷静に受け止めたシューターをそのままクロエに向けて投げ返す。
シューターはクロエ自身には当たらずに、彼女の手前に落ちたが、これこそがアインハルトの狙いだ。着弾したシューターによって、一時的にではあるが、砂煙が巻き起こりクロエの視界を塞ぐ。
アインハルトはそこを狙い、再びクロエに接近する。クロエも砂煙の合間からアインハルトが近寄ってくるのが見えたのか、防戦するために蹴りを放ったが、それは虚しく空を切った。
その隙を見逃さず、アインハルトの強烈な右フックがクロエの脇腹に叩き込まれた。
……入った!
アインハルトは手ごたえを感じたが、同時に違和感も感じた。どうも生身の人の体を殴った感覚ではないのだ。もっと硬いなにかを殴ったような……。
見ると、アインハルトの拳は確かにクロエに叩き込まれている。が、それは彼女の体にまでは達していなかった。
アインハルトが殴ったのは薄い氷の膜と魔力によって作られたバリアだ。衝撃を受け流すバリアでは、クロエのライフを大きく削ることは出来ない。現に、削れたのは400と低い数値だ。
もし確実に叩き込めていれば、1000ほどは削れていただろう。
瞬間、アインハルトは自身の顔面目掛けて放たれた拳を受け止める。
「さすがに強いね。アインハルト」
「クロエさんも」
それぞれがそれぞれの形で拳を受け止めている状態で、二人は言葉を交わす。やがて二人はどちらかともなく弾かれるように密着状態を解く。
すると、今度は二人同時に駆け出し、拳と拳が激突した。
始まったのは、拳打と蹴りの応酬だ。クロエが拳を放てば、アインハルトがそれに拳で答え、アインハルトが蹴りを繰り出せば、クロエも蹴りを繰り出す。
その中でも二人は着実に相手のライフを削り取っていて、クロエがライフを削れば、アインハルトもライフを削る。まさに一進一退の攻防が続いている。
二人の戦闘を見ながら聖が満足そうに呟く。
「クロエのヤツ。自分に自信が持ててるな。動きに一つ一つのに迷いがない」
それに答えたのはティアナだ。
「そうですね。アインハルトの方がクロエよりも鍛えていたはずなのに、クロエは充分戦えてる」
「それは戦闘スタイルの問題だろうな。アインハルトが求めているのは、競技者としてのい強さ。けど、クロエの場合は違う」
「それってどういうこと、パパ?」
ヴィヴィオが問い、リオとコロナも首をかしげる。聖は一度頷くと彼女たちにも分かるように説明する。
「アインハルトが求める強さはアスリートとしての強さだ。俺たち管理局員のように命のやり取りをするような強さじゃない。それに対して、クロエの求める強さは、より実践的で、相手を制圧する強さだ。この意味が分かるか?」
「えっと、クロエさんの方がアインハルトさんのものよりもより実戦に近い動きってことですか?」
「コロナ正解。クロエが目指しているのは、管理局の魔導師だ。局の魔導師には危険な任務もある。だから、クロエが夢を叶えて局員になった時、ストライクアーツじゃ戦えないんだ」
「スポーツと実戦じゃ違うからね」
フェイトが補足を入れたので聖はそれに頷き、話を続ける。
「スポーツは残念なことにスポーツでしかない。それをそのまま実戦には繋げられない。だから、俺がクロエに教えてるのは、実戦でも通用するような戦い方だ。言っちまえば、クロエの戦いは相手を制圧する戦い方だ。これだけでも、アインハルトとは差が出てくる。現に、何度かアインハルトも苦戦してるだろ」
聖が顎をしゃくって二人を指したので、ヴィヴィオ達がそちらを見ると、クロエの格闘戦技にやや押され気味のアインハルトがいた。
そしてクロエはと言うと、決して攻撃の手を緩めない。アインハルトに出来た僅かな隙も見逃さず、的確に、そして確実にライフを削っていく。
「アインハルトちゃんもあの歳の子から見れば普通に強い。けどね、クロエはもっと強いよ。力を使う覚悟をつけたからじゃない。陸士訓練校で培ってきた辛い訓練も、聖くんが叩き込んだ戦闘技術も、あの子は全部吸収してきた」
「自慢じゃないが、クロエは普通に強いと俺は思ってる」
聖の眼差しは真剣そのもので、決して嘘を言っているようには思えなかった。けれど、彼の言うことは正しい。
クロエは強いのだ。今までは自分の力に自信が持てなかったことで発揮はされてこなかったが、成長度合いは並の人間のそれではない。
だからこそ、覇王流を受け継ぐアインハルトとも五分以上の戦いが出来ているのだ。
「クロエの強みは、零王の力でも、氷結という特異な変換資質でもない。成長速度だ。特に、戦闘中での成長は目を見張るものがあるからな。この戦いの中でもアイツは成長してる」
聖が言ったところで、クロエが再びシューターを放ち、アインハルトを攻め立てる。しかし、アインハルトには旋衝破がある。シューターは意味を成さないはずだが……。
誰もが思い、アインハルトもシューターを投げ返す。再び先ほどの繰り返しかと思われたその時、クロエの成長速度を表すことが起きた。
クロエが投げ返されたシューターを自分で受け止め、再びアインハルトに向けて投げ返したのだ。
「おいおい……」
「この戦闘の中で、学んだってことですか?」
ノーヴェとスバルがそれぞれ驚いた表情を浮かべたので、聖は頷いたものの肩を竦めた。
「まぁこの試合だけじゃないだろうけどな。陸戦の時アインハルトが何回も使ってたし、見よう見真似でやってみたんだろ。けど、完璧じゃない。その証拠に、ホラ」
クロエの投げ返したシューターを見ると、アインハルトに届くかなり手前で爆発、四散して掻き消えてしまった。恐らく受け止める時に弾殻となっている氷を傷つけてしまったのだろう。
「成長は目を見張るものがあるが、使えるようになるにはそれなりの時間がかかる。それがクロエの課題だろうな」
「あれー、おっかしいな。アインハルトのやり方だとあれで間違ってないはずなんだけど……」
〈見よう見真似でやれたのはすごいですが、まだできるわけありません〉
相棒の言葉に内心で頷いておく。まぁ確かにそうだ。実践したのはさっきが初めてだったし、そんな簡単に行くわけはない。
ライフを見ると、クロエは残り4800。アインハルトは5000と、若干アインハルトの方が上回っている。
……このままちまちま攻めてても埒が明かないか。長引くとアインハルトに動きを見切られそうだし、ここはやっぱり短期決戦。
「それじゃ、行ってみようかッ!」
クロエは軽くジャンプした後、低い態勢のままダッシュ。アインハルトがそれに反応して身構えるのが見えたが、クロエは走る速度を緩めず、真っ直ぐに突き進む。
やがてアインハルトの近くまで行くと、彼女の手に魔力が集中し始めた。
……あの構えからすると、来るのは断空拳の直打? いや、カウンター狙いの打ち下ろしかも。
予測できる攻撃方法を考えながらも、クロエはスピードを緩めずに突っ込む。
拳を構え、クロエがアインハルトに肉薄した瞬間、アインハルトの右腕がクロエの右首筋を抉るように断空拳を放った。
その軌道は確かにクロエの右首筋を叩く軌道だった。しかし、断空拳はクロエの首筋には通らず、その名の通り空を断った。
クロエの姿が当たる直前で消失したのだ。アインハルトもそれに驚き、絶句した様子だったが、彼女は自身の背後に圧倒的な存在感を感じたのか、視線だけをそちらに向けた。
そこには金色の瞳を煌めかせ、眼光の筋を作り出すクロエがいた。彼女の足元を見ると、薄い氷の膜が展開していた。その膜はアインハルトの正面から右に円を描くように展開している。
これを使ってクロエは高速移動を可能にしたのだ。充分に助走をつけ、相手の懐から一気に背後に回りこむ。その姿はさながらフェイトやエリオのソニックムーブと言ったところか。
背後に移動したクロエはダンッ! と地面を踏みしめてアインハルトの背中目掛けて全力の拳を叩き込んだ。
が、アインハルトもさすがと言うべきか、クロエの動きに反応したアインハルトはギリギリで体を反転させて、背中への直撃コースを切り抜けた。
とは言っても、ダメージはしっかりと入ったようで、5000あったライフが4100にまで激減。アインハルトは衝撃により空中へ投げ出された。すぐさま彼女は空中で身を翻してクロエに向き直ったが、これこそがクロエの狙いである。
「残念だけど、アインハルト。私は容赦しないよ」
アインハルトは空中に投げ出されながらもクロエを見やる。
……あの一瞬、本当にクロエさんの動きが見えなかった。
氷を滑って移動したあの一連の動きをクロエが背後に回るまで知覚できなかったことに、驚きつつも、空中で態勢を整える。
「大丈夫。まだ、ライフには余裕がある」
先ほどの攻撃でダメージはクロエよりも下回ったものの、戦えないことはない。ただ、気をつけるべきなのは……。
「クロエさんの接撃型の砲撃魔法……」
そう。あの魔法の全力攻撃をくらえば、残りのライフをごっそり持っていかれる可能性がある。それに、クロエの魔法にはまだわからないものもある。
……迂闊に近づけば、一気に畳み掛けられる。
とは言っても、インファイターであるアインハルトが近づかずに攻撃するには、衝撃波を飛ばすか、クロエの放ったシューターを投げ返すぐらいしかない。
どうやってクロエのライフを削ったものかと悩んでいると、視線の先でこちらを見やっているクロエが指を鳴らしたのが聞こえた。
同時に、ゾクッとした感覚が背筋を駆けぬける。アインハルトが地上を見やると、そこにはクロエの魔法陣が展開しており、次の瞬間には三本の氷の柱が立て続けに射出された。いや、射出ではなく伸びたと言った方が正しいか。
とにかく、三本の柱は真っ直ぐにアインハルト目掛けて直進してくる。
「こちら側に接近してくる時に仕掛けていた……!?」
設置型の魔法だと気が付いたアインハルトは最初に襲ってきた柱を、腕で掴んでから跳びあがって避けきる。そして今度はその柱を足場に、連続で襲ってきた柱を拳で打ち砕く。
が、三本目の柱を砕いた瞬間、再び感じる殺気。
アインハルトがそちらを見ると、氷の柱の上に乗って突き進んでくるクロエが見えた。
「移動としての足場としても使うなんて……!」
「氷結の力は実態があるからね。こういう使い方も出来るんだよ、とッ!」
「くっ!!」
放たれた強烈な蹴りを腕をクロスさせて防ぐが、ここまで近づいた状態でクロエの周囲にシューターではない、完全な氷柱が展開されてアインハルトを襲う。
何発かは直撃したものの、大ダメージのコースは叩き落すことが出来た。だが、至近距離でぶつかったことで魔力による煙が彼女の視界を覆う。それにより一瞬だけクロエの姿を見失ったアインハルトだが、今度は頭上にクロエの気配を感じ取り、すぐさま防御態勢を取る。
瞬間、彼女の腕に衝撃が奔った。見るとクロエの踵落としがアインハルトの腕に深く食い込んでいる。だが、なんとか防ぐことが出来たと、彼女は内心でホッとするものの、彼女の耳にパチンという指が打ち鳴らされる音が聞こえた。
それにハッとしたアインハルトであるが、時既に遅い。
バキリという音と共に足場としていた氷の柱に巨大な亀裂が入り、そのまま柱が砕け散った。
「任意でっ!?」
「そう。私が生み出した氷は私の意のままに動かせる。砕く時も、作るときも、動かす時もねッ!!」
語気を強めたクロエは、そのまま足に力を込め、踵落としを振り抜いた。足場をなくしたアインハルトは、そのまま地面に落下し、叩きつけられる。
これだけでダメージは1000だ。残りのライフは2300。クロエとの差は歴然だ。
……氷を使った変則攻撃が読めない……! それに、クロエさんの戦い方はヴィヴィオさん達との戦い方とはどこか違う。
クロエの戦闘方法が異質なものであると感じ取ったアインハルトであるが、周囲には地面に叩きつけられて発生した砂埃が舞っていて視界が悪い。
先ほどの魔力による煙ほどではないが、見づらいことに変わりはない。
上を見ると、既にそこにクロエの姿はなかった。となると、既に地上に降立っているはずだ。
……クロエさんであればこの隙は絶対に見逃さないはず。だからここで迎え撃ちます。
一度クロエの動きを封じることが出来れば、断空拳の打ち下ろしと直打の二連撃から続く連続攻撃でクロエのライフを削り取ることは出来る。
アインハルトはその好機を逃さないように周囲に注意の糸を張り巡らせる。
やがて砂埃は少しだけ晴れてきたものの、まだ完全には晴れない。アインハルトの集中はさらに続き、クロエがどんな動きをしてきても言いように意識を張り巡らせる。
その時。アインハルトの背後に、土煙の中で揺らめく影が見えた。背後に現れた影に、意識を極限まで高めたアインハルトが気付かないことはなく、彼女は目にも止まらぬ速さで裏拳を叩き込む。
勢い良く打ち出された裏拳は背後に現れた影を確実に捉えて、直撃した。
それにはギャラリーも気付いただろう。しかし、アインハルトの腕に伝わってきたのは、人を殴った時の感覚ではなく、固いものを殴ったときの感覚だった。
やがて砂埃が完全に晴れた瞬間、アインハルトの顔は驚愕に染まる。
「これは……!?」
驚愕の声を上げるアインハルトの腕の先を見ると、そこには氷で出来たクロエの彫像があった。アインハルトが殴ったのは、その氷像のちょうど顔面の部分だったのだ。
すぐさまアインハルトは氷から手を退けてクロエの攻撃に備えようとしたものの、動かそうとした腕が動かなかった。
見ると、彼女の手は氷像から伸びた冷気が纏わりつき、凍結を始めていた。よくみると、氷像の中に魔法陣が展開している。
「くっ!」
何とか抜け出そうと、蹴りを放とうとするが、その足も動かない。なぜならば、足すらもすでに凍結されてしまっていたのだから。さらに、もう一方の腕さえも地面から伸びた氷によって拘束された。
「
声が聞こえたので、アインハルトは首だけを動かしてそちらを見ると、そこには腕に魔力を溜めながらこちらに歩み寄ってくるクロエがいた。
あの充填具合からすると、陸戦試合のときに聖に叩き込んだものと同程度の力か、それ以上の破壊力はあるだろう。
「これで終わりにさせてもらうよ。アインハルト」
普段の声とは明らかに違う冷徹な声。本当に勝負を決めに来る気だと確信したアインハルトは、すぐさま氷を砕こうとする。
「無駄だよ。私の氷はそう簡単には破れない。その氷は覚悟の氷、私の覚悟が宿る氷は強いし、硬いッ!!」
言い切ってからクロエは一息でアインハルトの眼前に躍り出ると、振りかぶった腕をそのまま一切の容赦なく彼女の胸目掛けて振り下ろした。
「
技名と共に放たれた拳は、的確にアインハルトの胸を捉えていたが、アインハルトはまだ諦めてはいなかった。
……これはクロエさんの覚悟の氷。そしてこれがクロエさんの覚悟の力。けれど、覚悟なら、私にだってあります!
クロエの拳の拳が迫るなか、アインハルトは凍結した腕に魔力を流す。
……ヴィヴィオさんのお母様の時のようにバインドを破壊することは出来ない。でも、このやり方ならできる!
流した魔力を腕の先で触れさせ、内側から爆発させる。自身にもダメージが及ぶだろうが、そんなことは気にしていられない。
……氷砕撃(仮)ッ!
今この場で生み出した技名を心の中で叫ぶと、腕を拘束していた氷が爆発し、腕が氷から解放された。
「なっ、この土壇場でッ!? でもっ!」
クロエはこのまま押し切ろうと、攻撃の手を緩めず、そのまま腕をアインハルトに目掛けて叩き込む。
「殴りぬける!!」
凛とした声が響き、アインハルトの胸にクロエの拳が突き立てられる。アインハルトは苦痛に顔を歪めるが、吹き飛ばされる直前、氷から解き放たれた腕をクロエの脇腹に向けて叩き込む。
「空破断ッ!!」
「うぐッ!?」
零距離からの空破断は、クロエの脇腹を的確に捉えていたが、彼女は吹き飛ばされない。足元を見ると、クロエは自身の足を氷で凍結させており、動かないように固定していた。
「ハアァァァァッ!!」
クロエの咆哮が響き、アインハルトは体を彼女の魔力が駆け抜けるのを感じた。
そしてクロエの魔力がアインハルトを貫通した時、勝負は決した。
「そこまでッ!!」
両者共に気を失うことはなかったため、ノーヴェの声を聞くことは出来たが、呼吸はどちらも乱れている。
二人のライフを見ると、アインハルトのライフは0。クロエのライフは、アインハルトが最後に繰り出した空破断により、4000弱あったライフは直撃を受けて1800ほど削られていた。
「勝者、クロエ!」
勝敗をノーヴェが宣言すると、氷が砕け二人の周囲をキラキラとした粒子が舞った。
二人はそれぞれ肩で息をしていたが、やがてどちらかともなく握手をした。
「お見事でした、クロエさん」
「アインハルトもナイスファイト。最後の空破断効いたよ~」
激戦ではあったが、それぞれわだかまりもなく終えることができたようだ。それに、アインハルトも負けたとは言えど満足そうな表情を浮かべている。
……負けてしまったけれど、勉強になった。次戦うときこそは。
内心で決意した彼女は、武装形態を解除した。それに続きクロエもバリアジャケットを解く。
「お疲れ様でした~、二人とも」
声のするほうを見やると、ヴィヴィオ、コロナ、リオが笑顔を浮かべて駆けてきていた。
アインハルトとの試合を終えたクロエは、ヴィヴィオ達と話した後休息を取っていた。
「勝てた……」
小さく零れた言葉だが、彼女の口元には薄い笑みがある。決して優越感ではない。ただ嬉しいのだ。自分の力を上手く発揮して、強いと思っていたアインハルトに勝てたことが。
「お疲れさん」
「あ、師匠」
頭上から声をかけられたのでそちらを見ると、スポーツドリンクを持った聖がニッと笑って立っていた。
彼からスポーツドリンクを受け取ると、聖は横に立って話を始めた。
「良い試合だったぜ」
「ありがとうございます」
「とは言ってもちょいちょい危なっかしいところはあったけどな。けど、言い勉強になっただろ。アインハルトも、お前も」
「はい。アインハルト、強かったです。今回は多分運も味方してました」
クロエは視線の先でヴィヴィオ達と話すアインハルトを見やる。恐らく、途中で勝負を短期決戦に切り替えたのがよかったのだろう。あのまま長引かせていたら、恐らくアインハルトに動きを見切られていた。
すると、今度はノーヴェが隣に座ってきた。
「運も実力のうちだ。でも、聖さんの言ったとおり、お前本当に強くなったな」
「ありがと、ノーヴェ。けど、私が強くなれたのは皆のおかげだよ。ここにいる人も、いない人も、皆が私に戦い方を教えてくれたから、私はここまで成長できた」
クロエはそこまで言うと、拳を握って顔の前に持っていく。
「だけど私はもっと強くなる。強くなって、あの人に認めさせてみせる」
「まっ、無茶だけはしないようにな」
「ですね。お前は無茶する時はホント無茶するし」
「うぐっ……」
二人に言われて彼女は苦い顔をしたが、その表情は晴れやかでもあった。
が、そこで彼女は思い出したように声を上げる。
「どした?」
「ねぇノーヴェ、確かインターミドルの参加申請って今日から開始だっけ?」
「ああ、だからこのあと参加申請するぞ。記入漏れのないようにな」
「うん。……今年の大会はきっと、すごい大会になるよね」
「だな。ヴィヴィオにも言ったけど、飲まれんなよ? お前はお前らしく戦えばいい」
背中を押すようなノーヴェの言葉に頷くと、クロエはノーヴェと共にアインハルト達の下へ歩いていった。
そんな彼女たちを見送りながら聖は小さく息をつく。
「やれやれ、我ながらとんでもない弟子を持っちまったか……?」
苦笑いを浮かべてはいるが、決して嫌な顔はしていない。寧ろ満足げだ。
「そんじゃまぁ、合宿が終わった後の特訓メニューでも考えますかね」
彼がそこまで言った時だった。不意に聖のプライベート通信に連絡が入った。本局のクロノからのようだ。
なんとなく嫌な予感がしながらも聖はそれに応答する。
『やぁ、我が
「ええ。楽しいですよ
『いや、さすがに僕もそんな野暮なことはしないさ。ただ、君に片付けてもらわなければならない案件があってね』
「俺が片付けないといけない案件……? なんですか?」
『詳しいことは送っておいたメールを確認してくれ。さすがに通信で話すのは憚られるからな。では、合宿を楽しんでくれ』
クロノはそれだけ言って通信を切ったが、聖は「めんどくせ」とぼやきながらシュトラルスに送られてきたメールを開いた。
しばらくその文面を読んでいた聖であるが、段々と彼の頬はヒクヒクとし始め、嫌な汗も浮かび始めていた。
「ま、マジか……」
その表情は不安感と言うよりも、どうしたものかと困惑しているようであった。
その日の内に合宿に参加中のヴィヴィオ達はインターミドルの参加申請を出した。
同時に、彼女達以外の選手達も続々と参加申請を提出した。
八神家のザフィーラの師事を受けているミウラ・リナルディ。
聖王教会のシスターシャッハの愛弟子であるシャンテ・アピニオン。
ヴィヴィオ達と直接的な関係を持つ者達は勿論であるが、上位選手達もそれは同じであった。
砲撃番長の異名を取るハリー・トライベッカ。
世界代表戦で優勝経験のある次元世界最強の女子ジークリンデ・エレミア。
そして、もう一人……雷帝ダールグリュンの血を(ほんのちょっとだけ)引くヴィクトーリア・ダールグリュンもまたその一人。
ミッドチルダ郊外にあるダールグリュン邸では、ヴィクトーリアが執事であるエドガーが淹れた紅茶を楽しみながら彼に問うた。
「エドガー、先ほど貴方聖王の娘が出場すると言っていましたね」
「ええ。聖王陛下も今年で10歳ですからね。以前世間を賑わせた覇王の子も出てくるかも申しましたが、それがどうかしましたか?」
「いえ、その二人は別にいいのですけれど……あの子は来るのかと思いまして」
「あの子というと、ジーク様ですか?」
エドガーが問うがヴィクトーリアは被りを振った。
「いいえ、第一ジークが出場するのならば最初から貴方、話しているでしょう。そうではなくて、あの子ですわ」
「あの子……あぁ、なるほど」
エドガーは納得がいったのか何度か頷いた。
「出場されると思いますよ。そういえば去年はお嬢様が会場に到着する前にミカヤ様に倒されてしまったので会うことが出来なかったのですよね」
「ええ。あの家出娘、どこでなにをやっているのかと思ったら、インターミドルに参加しているなんて……。まぁあの子も含めて叩き潰してやりますわ」
ヴィクトーリアは小さく笑みを見せると、その人物の名を呟いた。
「待っていなさい。クロエ」
「……ッ?」
〈どうかなさいましたか?〉
「いや、今なにか悪寒が……」
クロエは参加申請書を書いているとき背筋を走る悪寒を感じた。けれど、知らない感覚ではない。一度味わったことのある感覚だ。
恐らくは幼少期あたりに。
「なんだろ、背筋がこうゾクッとしたというかなんというか……」
〈調子が悪いのであれば早くおやすみになることをオススメします〉
「うーん、そういうことではないと思うんだけど……。まぁいいや、ちょっと鳥肌たっただけだし。っと、よし。これで申請書はオッケーかな」
〈記入ミスのないようにしてくださいね〉
「わかってるってば」
フリーレンに言われ、クロエは参加申請書に不備はないか確認していく。やがて全てに目を通し、不備がないことを確認した彼女は申請書を提出した。
「さてと、それじゃあキャロと遊んでこよーっと」
クロエは部屋から出て行って、一階にいるであろうキャロの下へ向かった。
Name:クロエ・コキルトス
Age:15
Style:白雲流烈拳術+ストライクアーツ
Skill:氷結
Magic:純古代ベルカ式
Device:フリーレン
IM参加履歴:1回
インターミドル予選開始まで残り、二ヶ月……!
はい、クロエ強かったです。
……強くしすぎたかな……。いや、でも王の力もあるし、ノーヴェともほぼほぼ互角に渡り合えるし、アインハルトとは求める強さも違うし、まぁでもこれぐらいはいくかなうん。
覚悟の氷、うむ、自画自賛のようだけどなかなかに良い言葉だ……。
さて合宿の主なイベントもこれで終わりです。
あとはミッドに帰って二ヶ月間特訓するわけですが……このときヴィヴィオ達はそれぞれ専属のコーチがつきますよね?
アインハルトはミカヤ、リオにはディード、コロナにはオットー、ヴィヴィオにはノーヴェが付きましたが、クロエにも付きます。
それはまた次回となりますが……聖ではありません。聖は聖で色々ありますので。
数で言うと二人ですが、この二人に鍛えられることで彼女は更にパワーアップします。もうすごいです。
そして後半で出てきたヴィクター……なにやらクロエのことを知っているようですが……どういった関係なのか。
それは選考会に入ってからになりそうですね。
では、次回もがんばって行きます。