魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero- 作:炎狼
インターミドルの参加申請を終えた翌日、クロエ達は荷物をまとめてアルピーノ邸の外に出ていた。
オフトレツアーも今日をもって終了となのだ。水遊びやトレーニングから始まり、三連戦の陸戦試合、そしてクロエとアインハルトの一騎打ち。
そのほかにもピクニックやら散策やらを存分に満喫し、全日程が終了。一行はミッドチルダに帰るのだ。
「忘れもんねぇかー」
聖が皆に聞くと、それぞれバッグやらキャリーケースの中を今一度確認したが、特に問題はないようだ。
「大丈夫よ、聖くん。忘れ物があっても宅配で送ってあげるから」
「あぁいや、さすがにそれは世話になりっぱなしになるんで」
メガーヌの言葉に聖は頭を掻きながら遠慮がちにいうが、メガーヌはさらに彼にズイッと近づく。
「聖くんさえよければもう少しここにいてもいいのよ?」
「そ、それは遠慮させてもらいます。俺にも仕事あるんで……あ、あはは」
渇いた笑いを漏らす聖であるが、彼の背後では鋭い眼光を光らせる妻が二人。一方メガーヌはというと「あら残念」ともらし、面白げに笑いながらルーテシアの下へ戻っていった。
「聖くん」
「はひっ!?」
落ち着き払った声に聖が飛び上がり、彼は恐る恐る背後を見た。そこには満面の笑顔を浮かべるなのはとフェイトの姿があったが、なぜだろう、それを見ているクロエにも凄まじい威圧感が伝わってきた。
「ミッドに帰ったらオハナシね」
「oh……」
聖は額に手を当てて空を仰いだ。もう何度目かになる光景だが、クロエはとりあえず内心で合掌しておくことにした。
すると、皆の前に立ったメガーヌとルーテシアが軽く咳払いをしてから告げた。
「じゃあみんな」
「ご滞在ありがとうございました♪」
二人に言われ、威圧感たっぷりだったなのはとフェイトもいつもの笑顔を見せながらみんなと共にそれに答える。
「こちらこそ!」
「ありがとうございましたー!」
なのはとフェイトに続き、皆二人に頭を下げ、カルナージでのオフトレツアーは本当の終わりを迎えた。
ルーテシアたちが見えなくまで手を振りながら分かれたあと、次元港まで歩いていた一行であるが、不意にクロエは誰かが追ってくる足音が聞こえ、振り向いた。
最初は忘れ物があってルーテシアが届けにきてくれたのかと思ったが、振り向いたところにいたのは黒き召喚獣、ガリューであった。
「ガリュー? どうしたの?」
ルーテシアと同じく召喚獣を使役するキャロがガリューに問うと、二人はなにやらやり取りを始めた。
それを見守っていると、キャロが「クロちゃん」と呼んで来たので、荷物を聖に任せて二人の下に行く。
「どうかした?」
「うん。ガリューがクロちゃんに渡したいものがあるんだって」
「私に? ってキャロ、ガリューとしゃべれたの!?」
「うーん、しゃべってるわけではないけど、フリードと長く一緒にいるから召喚獣の気持ちみたいなのが、わかっちゃうのかな」
「へ~」
そんなことに感心していると、ガリューがクロエの肩を軽くつついてきた。
「あぁ、そうだった。それでガリュー、私にくれるものって?」
首をかしげながら問うと、ガリューは握っていた拳をクロエの前まで持ってきてから、拳を開いて中にあったものを見せてきた。
ガリューの掌にあったのは宝石のように綺麗なコバルトブルーの石だった。研磨はされていないので光は反射していなかったが、クロエはこのコバルトブルーの石の名前を知っている。
「これって、グレイシャーブルーの原石?」
「グレイシャーブルーって確か宝石の一つで、ものによってはすっごい高くなる宝石だよね!?」
「うん。私も何度か見たことあるけどすっごい綺麗な石だよ。でも、ガリューこれをどこで?」
問うと、ガリューは山の方を指差した。そして彼はキャロを見ると、キャロが彼の伝えたいことを代弁する。
「えっと、あの山の麓のあたりに洞窟があって、その奥にあったでいいのかな。それで、クロちゃんが悩んでたみたいだからあげるって」
「そっか……」
クロエはガリューからグレイシャーブルーを受け取り、それに視線を落としながら微笑を浮かべる。
……グレイシャーブルーの宝石言葉は『決意・勇敢・成長』。
ガリューがこの宝石言葉を知っていたかは分からない。けれど、この石が持つ言葉は今の自分にぴったりな言葉だと思った。
「ありがとう、ガリュー。大事にするね」
答えると、ガリューは満足げに頷いて胸に手を当ててから、軽くお辞儀をしてその場から姿を消した。
もう見えなくなってしまったが、最後にクロエは彼に言われた気がした。
「ねぇ、キャロ。ガリューはしゃべれないけど、さっき言われた気がする」
「なんて?」
「『がんばれよ』って」
「うん。私もそう言ってたと思うよ。ガリューは優しい子だからね」
キャロの言葉にクロエは頷いてもらった石を大事にしまいこんでから、キャロと共に聖たちの下へ駆けて行った。
アルピーノ邸に到着したガリューは、屋根の上に立ってクロエ達一行が帰った方角を見やってきた。
彼は人間の言葉をしゃべることは出来ない。意思疎通が完全に可能なのは、主であるルーテシアと、彼女の母親であるメガーヌ。そしてルーテシアと同じく召喚師であるキャロだけだ。
けれど、彼には人間の言葉の意味と、感情は理解することが出来る。
そんな彼の瞳に写ったクロエという少女は、最初、悩みと不安にがんじがらめにされているように見えた。
気にかけるようになったのはそんな彼女が、昔のルーテシアと重なったからだろう。母の意識を回復させるため、スカリエッティという犯罪者に協力してしまった彼女に。
しかし、この数日でそれはまったく別の感情へと変わった。今まで彼女の周りにあった不安や悩みは掻き消え、代わりに彼女の瞳には強い決意と覚悟、そして勇気が見えた。
だからこそ、ガリューはあの石を彼女に渡したのだ。あの美しい石と、決意をした彼女がどこか重なって見えたから。
しゃべることは出来ずとも、彼は心の中で唱えた。
『がんばれ』と。
「ガリュー、ちょっと手伝ってー!」
不意に家の中から主であるルーテシアに呼ばれ、彼は視線を外して家の中へ戻っていった。
カルナージから次元船に揺られること四時間。クロエ達はミッドチルダの首都次元港に到着した。
「ミッドチルダ到着~!」
ヴィヴィオが言いながら荷物を一端その場に置くと、聖が皆に告げた。
「そんじゃ俺らは車まわして来るから、大きい荷物は貸せ。先に車に積んどいてやる」
「お願いしまーす」
皆が大きめの荷物を聖、なのは、フェイトに任せると、彼等は駐車場に置いてある車を取りに行った。
残ったクロエ達の話題は、インターミドルの話に切り替わる。
「でも今日まではゆっくり出来たけど、明日から皆忙しくなるわねぇ」
「インターミドルに向けてしっかりトレーニングしなくちゃ」
「そのあたりは大丈夫です!」
「うちの
「まっ、気軽に鍛えていこうぜ。クロエはその辺どうなんだ? 聖さんからなんか言われてるのか?」
「んー、今のところ特には言われてないかな。けど師匠なら考えてくれてると思うよ」
「だな」
実際聖は適当なところもあるが、クロエの鍛錬の予定などはしっかりと立ててくれている。今回も恐らくはそうだろう。ただ、直前に言うところがネックであるが。
「でもインターミドルってかなり沢山の子が出場するわけでしょ? 予選会とかあるの、クロエ」
ティアナがクロエに問う。この中でインターミドルに参加経験があるのはクロエだけなので、聞いたのだろう。
「はい。予選の前に選考会っていう身体検査とかスパーリングとか、体力テストがあって――」
「――その結果で予選の組み合わせが決まるんです!」
クロエが途中まで言いかけたところでリオとヴィヴィオが興奮した様子で入ってきた。インターミドルに出場するだけあって下準備は欠かしていないらしい。
そしてリオに続くようにコロナが解説を始める。
「普通の人は「ノービスクラス」。選考会で優秀だったり、過去に入賞履歴がある人は「エリートクラス」で地区予選が始まります」
「そして勝ち抜き戦で戦っていって、地区代表が決まるまで戦い続けて、そうしてミッドチルダ中央部十七区から二十人の代表と前回の都市本戦優勝者が集まって、総勢21人でいよいよ夢の舞台、都市本戦です!」
「へぇ……。そういえばクロエは去年はどのあたりからスタートしたの?」
「えーっと、選考会でそれなりに評価が高かったみたいでスーパーノービスから始まりました。けど、地区予選三回戦でミカヤさんに負けちゃいましたけどね」
「まぁそのときは相手が悪かったわな」
ノーヴェも苦笑するが、そのとおりだと思う。なにせミカヤ・シェベルといえば都市本戦三位に入賞したほどの腕前の持ち主だ。普通、インターミドルの参加経験のない少女がいきなり勝てる相手ではない。
「あの、クロエさん。都市本戦が終わったらそこで終わりなのですか?」
「んーん、都市本戦のあとは都市選抜で世界代表を決めるの。ミッドは確か選抜メンバーは三人だっけ、コロナ」
「はい。そして選抜優勝者同士で世界代表戦が行われます」
「世界代表戦で優勝できれば文句なしの「次元世界最強の十代女子」ってわけだ」
ノーヴェが言った「次元世界最強の十代女子」というフレーズに、アインハルトの頬が少しだけ上気したのが見えた。
やはり、覇王流の名を示したいだけあって最強と言う単語は憧れるものらしい。しかし、ヴィヴィオ達はと言うと……。
「とは言ってもそんなのは私たちにとっては夢のまた夢……」
「狙うなら十年計画で頑張らないと……!」
「でも、いつかきっと!」
なんとも自信のなさそうな三人であった。けれど、彼女達はまだ10歳。これからいくらでもチャンスはある。
……けど私は今回含めてあと二回。
母と交わした無茶な約束がのしかかってくるが、彼女はすぐにそれを振り払う。もう迷わないと決めたのだ、だから彼女は勝ちに行く。たとえ相手が誰であっても。
「ノーヴェさん、率直な感想をうかがいたいのですが、今の私たちはどこまでいけると思いますか?」
「……もともとミッド中央区は激戦区なんだ。DSAAルールの選手として能力以上に先鋭化してるやつも多い。それを踏まえたうえでの感想ってことで聞けよ」
先ほどまでふわふわしていた空気が、ノーヴェの低い声で引き締まる。クロエもまたそれに耳を傾ける。
「ヴィヴィオ達三人は地区予選前半までだろうな。ノービスクラスならまだしも、エリートクラスのやつ等には手も足も出ねー。アインハルトもいいとこ行く予選の半ば、エリートクラスまで勝ち上がるのはきついだろうな」
厳しい言葉にヴィヴィオ達含め、アインハルトも悔しげな表情を浮かべる。クロエもそれぐらい厳しいことを言われると思っていたが、ノーヴェに言われたのは思いもよらない言葉だった。
「んで、この中で一番都市本戦に近いやつは、クロエ。お前だ」
「うぇっ!? わた、私!?」
「ああ。昨日のアインハルトとの試合でも、陸戦試合でも、お前の実力は格段に上がってきてる。特に零王の力に目覚めてからはそれが顕著だ。とはいってもこれはあくまで予想だ。クロエもまだ荒削りなところはあるから油断は出来ねー。けど、あたしはこの中で今のところ可能性があるのはクロエのみだと思ってる」
「でも、まだ二ヶ月あるよね!? その間全力で鍛えたら?」
ヴィヴィオが少しだけ声を強めて言う。彼女の後ろを見るとアインハルト、コロナ、リオが真剣な眼差しでノーヴェを見ていた。
「ま、どーなるかわかんねーな。……あたしも勝つための練習を用意する。頑張ってあたしの予想なんかひっくり返してみせろ」
「はいっ」
四人は声を揃えて返事をした。
その後、ノーヴェの立てたプランをアインハルトを除いた三人はそれぞれのデバイスに送信してもらったようだ。
基礎トレーニングは以前と変わらず一生懸命やるようだが、今回はそれぞれに課題が与えられた。
コロナはゴーレム召喚と操作の向上。
リオは春光拳と炎雷魔法の徹底強化に加え、武器戦闘。
ヴィヴィオは格闘戦技全体のスキルアップとカウンターブローの秘密特訓。
そしてアインハルトは既に覇王流という彼女のスタイルがあるため、それをノーヴェがいじくって崩れさせない為に、彼女は大会実力者とのスパーが主な鍛錬となった。
「いいなー四人とも予定が出来て。私なんてまだ師匠からなんにも言われてないよ?」
「大丈夫だよクロエ。聖さん、ああ見えてしっかり考えてくれてるから」
「今までだってそうだったでしょ? 私たちのころからあの人はあんな感じだから」
若干苦笑いの二人の様子からして、六課の時代から聖はあんな調子だったらしい。
そして次元港からそれぞれの自宅に戻った一行は、それぞれの生活に戻っていった。
クロエもまたアルバイトをしながら鍛錬に励む日々が二日ほど続いた。
三日が過ぎようとしたある日の夕刻。クロエはトレーニングが始まる前に聖に神妙な面持ちで話しを切り出された。
「クロエ。今から言うことを決して動揺せずに聞いて欲しい」
「な、なんですか?」
あまりにもいつもの彼とは違う雰囲気にクロエは背筋を伸ばす。彼は何度か悩んだような素振りを見せたが、やがて覚悟を決めたのか、息をついてから話し始めた。
「実はな、長期の任務が入っちまった」
「えぇッ!? ちょ、長期ってどれぐらいの期間なんですか?」
「約二ヶ月半だ」
「にっ……!?」
期間を来た瞬間、クロエはその場に膝から崩れ落ちた。二ヵ月半といえば、もうインターミドルの選考会が始まっているではないか。その間自分は師匠なしで鍛えなければいけないというのか。
しかし、クロエはまだ絶望しない。聖であれば二ヵ月半限定の師匠を用意してくれているはずだ。
「だ、大丈夫ですよね、師匠。な、なのはさんとかフェイトさんとかが見てくれたり……」
「すまん、なのはは教導で忙しいし、フェイトは別の任務が入ってる」
「じ、じゃあスバルさんとかティアナさんとか……!」
「確認とってみたけどどっちも忙しい。コーチをするにしても夕方以降になるらしい」
「え、エリオとキャロは……!?」
「自然保護官の仕事があるし、そもそも世界が違う。もっと言うとギンガも聖王教会も無理だ」
「かっ!」
予想した人々をことごとく撃ち落され、クロエはその場に仰向けに倒れこんだ。
「ぜ、絶望した……。私は今絶望と言う名の深淵にいる……!」
二ヶ月もコーチなしでどうやって鍛錬しろと言うのか。こんなことではアインハルトはおろかヴィヴィオ達にも抜かれてしまう。
しかし、次の瞬間聖の意味ありげな含み笑いが聞こえた。
「クロエ、絶望するにはまだ早い! 長期の出張が始まるのは明日からだが、俺は合宿のあとの三日間、四方八方の知り合いに当たった。当然さっきお前が言った人達にも連絡を取った。そして、結果からいうと、お前のコーチになってくれる人が二人見つかった」
「ほ、ほんとですか!?」
まさしく不幸中の幸いと言うべきか。クロエはグンッ! と腹筋の力だけで立ち上がると、聖に詰め寄った。
「その人達って私も知ってる人ですか!?」
「もちろん。というか、かなり世話になった。じゃあ、今から呼ぶからな。どうぞー」
聖が呼ぶと、市民公園にあるナイター用の照明の支柱の裏から、二人の人物が現れた。夕日に照らされた二人の姿を見たとき、クロエは「あっ」と驚いた声を上げた。
そして、二人が聖の真横に立つと、彼は軽く咳払いをした後告げた。
「えー、と言うわけで。俺の変わりに二ヵ月半お前のコーチをしてくれる、八神家のシグナム一等空尉と、リインフォースだ」
「二ヵ月半、お前の面倒を見ることになった。よろしく頼む、クロエ」
「よろしくですー!」
まるで初めましてのようであるが、クロエは若干驚きに呑まれながらも頭を振ってから聞いた。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください三人とも! え、シグナム一等空尉に、リインさんが私のコーチって……。大丈夫なんですか!?」
「なにがだ?」
「だ、だってシグナム一等空尉はミウラちゃんの指導とかが……」
「あぁ、そのことか。そのあたりは安心していい。私がミウラに教えるべきことは大体教えたし、なによりあの子は私の弟子ではなくザフィーラの弟子だからな。基本的な面倒はヴィータとザフィーラが見ている。だから心配は無用だ」
「わたしもミウラの指導に関しては直接的には関わってないから大丈夫ですー。おやつとかは作ってあげますけどね」
二人は特に気にしたふうもなかった。寧ろクロエの指導に前向きと言うか、そういった感じがする。
「お仕事とかは大丈夫なんですか?」
「主はやてから聞いたところ、そこまで忙しくもないとのことでな。二ヵ月半程度であれば一週間のうち多少空けても大丈夫だといってくれた」
「わたしもですー。なので、安心して大丈夫ですよ、クロエさん!」
リインフォースが胸を張る。二人の雰囲気にやや気圧され気味のクロエであるが、そんな彼女に聖が告げる。
「クロエ。今回は本当に悪かった。合宿の時にクロノ提督から任務の連絡はあったんだ。けど、あの時に不安にさせたくはなかった。だから、ギリギリまで黙ってたんだ。本当にすまん」
「あ、謝らないでください、師匠! 私を気遣ってくれたのは充分分かりましたから!。それに、シグナム一等空尉とリインさんをコーチとしてくれたんですから、全然誤ることなんてないです」
「あ、そう? じゃあ、気を取り直して明日からの予定を確認しとくか」
「立ち直り早っ! もうちょい余韻とかそういうのはないんですか!?」
「ない」
「そのばっさり具合逆に清清しい!!」
「お前たち、仲がいいな」
シグナムの溜息交じりの突っ込みをよそに、クロエは聖の余りの切り替えの速さに頭を抱えたが、表情は呆れ半分、可笑しさ半分と言ったふうだった。
聖は咳払いをした後モニタを呼び出してこれからの予定と、シグナムとリインフォースにコーチをしてもらう理由を話し始めた。
「明日からのトレーニングメニューは、基本的にはシグナムさんとの実戦が主になる。お前は実戦の中で学んで、成長するからな。かなり激しい鍛錬になると思うが、やれるな?」
「はいっ!」
「いい返事だ。んで、リインにもコーチを務めてもらう理由は、氷結の能力をもっと強化するためだ。俺の知り合いのなかで氷の力が使えるのはリインとはやてだけだからな。特にリインはそれに特化してる」
聖に言われ、リインフォースはビシッと胸を張ってにこやかに敬礼をした。クロエも彼女に頭を下げる。
「そんじゃシグナムさん、リイン、なにかあったらどうぞ」
二人に促すと、シグナムが薄く笑みを見せながらクロエに声をかける。
「クロエ。最初に言っておくと、私が教えてやれること少ない。戦術など「届く距離まで行って斬れ」としか言えないからな。だから、私から思う存分盗むといい。戦術もそして立ち回りもな」
シグナムに続き、今度はリインがクロエに声をかける。
「クロエさん。わたしも氷結の魔法に関しては最大限サポートします! あ、でも最初の方はアインハルトのデバイスの調整などもあるので、あまり参加できないので、その後になっちゃいますけどいいですか?」
「大丈夫です! コーチしてくれるだけでもありがたいです!」
「ならよかった。それじゃあ、これから頑張っていきましょう!」
リインフォースから差し伸べられた手に答え、クロエは彼女と握手を交わす。シグナムとも握手したところで、聖が「よし」と占めた。
「じゃあ今日はもう帰って休んどけ。明日からはかなりキツい鍛錬になるからな」
「わかりました。師匠は、明日出発するんですか?」
「明日の早朝だな。本局に行ってクロノ提督と合流して話を聞いて、そのまま現地に直行だ」
「そうですか。じゃあ、師匠も頑張ってください! 私ももっともっと頑張って強くなって見せますから!」
「ああ。楽しみにしてる。ほれ、今日はもう帰って休め」
聖に促され、クロエは三人に頭を下げてから踵を返して区民公園を後にした。
……シグナムさんとリインさんがコーチか。頑張らないと!
決意を新たに、クロエは翌日からの鍛錬に勤しむと誓うのであった。
クロエが区民公園からいなくなり、残された聖はシグナムとリインフォースに頭を下げた。
「ありがとうございます、シグナムさん。コーチを引き受けてくれて。リインもわるいな」
「気にするな。私とお前のよしみだ」
「わたしも全然大丈夫ですー。きっと強くしてみせますよ!」
リインフォースはどこか得意げだ。それに小さく笑みを浮かべていると、シグナムがポツリと漏らした。
「クロエは強く成長したな。聖」
「そう、ですか?」
「ああ。以前とは違い、真っ直ぐで、強い光を瞳に宿していた。鍛え甲斐がある」
「お願いします。アイツならきっとどんな困難でも乗り越えると思うんで。リイン、アイツが魔法関連で悩んでたら、助けになってやってくれ」
「はいです!」
リインフォースはビシリと背筋を伸ばして答えたので、聖は彼女の頭を軽くポンポンと叩いた。
「さて今日はこれで帰るぞ、リイン。聖、お前も朝早く出発ならば今日は早く寝ることだ」
「ウッス、ありがとうございます。それじゃあ、あとのことはよろしくお願いします」
聖の言葉にシグナムは踵を返しながら頷くと、リインフォースと共に区民公園から出て行った。
二人の後姿を見送りながら、聖は群青色に染まりつつある空を見上げながら呟いた。
「がんばれよ、クロエ」
そして彼はクロエに続いて自宅へと戻った。
夕食時、聖はヴィヴィオに自分が長期の任務に出ることを告げた。
「つーわけで、ヴィヴィオ。俺はしばらくいないけど、鍛錬頑張れよ。たまには連絡する」
「うん! パパもお仕事がんばってね。私は私でアインハルトさん達と一緒に頑張るから。クロエさんも、頑張りましょうね!」
「もちろん! 二人でもっと強くなって師匠を驚かしちゃおう!」
二人はハイタッチをしながら言う。なのはとフェイトも二人のそんな姿を見て微笑を浮かべていた。
その日の夜中、というより翌日の早朝。まだ太陽も上がっていない時間帯に、なのはとフェイトと共に自宅の玄関にいた。
「それじゃ、二人のこと頼むな。なのは、フェイト」
「任せといて。二人が頑張れるように、美味しいご飯つくるから」
「私も、二人をしっかりとサポートするから安心してね。聖も気をつけて」
「おう。それじゃあ、向こうに着いたら連絡するわ」
聖は二人と軽いキスを交わし、任務へと向かった。
翌日。クロエは早朝からランニングを開始し、手早く朝食を取った後、昨日の夜シグナムにメールで指定された場所へ自転車を使って向かった。
これは別に走っていくのが面倒くさいからではない。シグナムが「少し遠いから疲れるだろう」ということで自転車で来るようにと言ったのだ。
市街地を抜けてからも十五分ほど自転車を走らせると、ようやく目的の場所にたどり着いた。
「ここ、だよね」
クロエはやや不安そうにしながらも住所を確認したが、ここで間違いはなさそうだ。周囲を見回すと、区民公園と違って周囲に建物は見られない。
彼女の目の前に広がっているのは、学校の校庭ほどの広さがある広場だった。が、ただの空き地と言うわけではない。
広場を囲むように人の背丈ほどある塀が作られているのだ。そして、クロエが今立っている場所の両脇には『次元管理局第二十九修練場』と書かれたプレートが掲げてある。
が、手入れが行き届いていないのか、プレートの所々は錆びていたり、ヒビが入ってしまっている。塀を見てもそれは同様で経年劣化が進んでいる。
「クロエ」
不意に呼ばれたのでそちらを見ると、修練場の中央あたりにシグナムがいた。
クロエはすぐに自転車に認証ロックをかけたあと、足早にシグナムの下へ駆けて行った。
「すみません、シグナム一等空尉! お待たせしてしまって」
「いや、待っていないさ。それと階級はつけなくていい。お前はまだ管理局員ではない。それに今日は仕事できているのではなく、完全なプライベートだからな」
そういう彼女は身軽そうなジャージに身を包んでいる。
「では、シグナムさんで」
「うん、それでいい。さてと、ではそろそろ始めるか」
「ちょ、ちょっと待ってください。シグナムさん!」
早速鍛錬に入ろうとするシグナムをクロエが引き止める。シグナムは怪訝な表情をしながら小首をかしげた。
「どうした?」
「えっとここってなんなのかなって思いまして。入り口には二十九修練場ってありましたけど……」
「あぁ、その説明がまだだったか。ここは地上本部が形式上は所有している、その名の通り修練場だ。ただ、ここは立地的に人気がなくてな。基本的にはこんな状態なのだ。それに管理も行き届いていないから、端の方には雑草も生えているだろう」
彼女の言うとおりであった。確かに修練場の隅を見ると、所々雑草が生えていた。
「管理が行き届いていないから汚くなる。そして誰も使わなくなる。この連鎖というわけだな。しかし、今回はそれが逆にちょうどよかった。ここならば魔法を使った戦闘でも周囲に危害が及ぶこともないから、全力でやれる」
「なるほど」
「では説明も終わったことだ。始めるとしよう。バリアジャケットを展開しろ」
シグナムに言われ、クロエはフリーレンに命じてバリアジャケットを装備する。彼女と同時にシグナムもバリアジャケットを身に纏う。そして彼女の手には相棒であるレヴァンティンが鞘に納まっていた。
それぞれがバリアジャケットを身に付けたところで、シグナムが告げる。しかし、その声は昨日の声とも、先ほど前での声とも違う。非常に威圧感のある声だった。
「クロエ。昨晩も言ったが、私が教えてやれることは少ない。だから今一度言っておく、戦いの中で私から全てを盗め。戦法、足運び、立ち回り、攻撃のタイミング、全てを私から盗んで学べ」
「はいっ!」
「いい眼だ。では、始めるとしよう。言っておくが、ここから始まるのは模擬戦ではなく、本当の戦いを想定した実戦だ。無論、急所に入りそうなときは手加減をするが、それ以外では一切手を抜くことはない。だが、さすがに大怪我はさせられないからな、そのあたりは考慮する」
「ありがとうございます」
クロエが頭を下げる。が、クロエは自身の心臓が激しく脈打つのを感じた。しかしこれは決して恐怖ではない。これから始まるシグナムとの戦闘に心躍っている。ようは武者震いというやつだ。
やがて二人はある程度距離を取る。シャランという音と共にシグナムがレヴァンティンを抜き放った。
「時間制限はない。戦えるだけ戦う。それが私との鍛錬メニューだ。何戦かしたあとは休憩もとるから安心しろ」
「わかりました。よろしくお願いします、シグナムさん!!」
二人はそれぞれ構えを取る。
クロエは両の拳を柔らかめに握り。
シグナムは
二人の間に一迅の風が吹きぬけ、それが吹き終わった瞬間、二人は同時に駆け出した。
シグナムはレヴァンティンを上段から振り下ろし、クロエはそれに拳の甲で答える。
炎熱と氷結。
対となる二つの属性が激突した。
かくしてクロエの二ヶ月にも及ぶ特訓が始まった。
はい、お疲れ様でした。
もう調子が乗ってきたのでここまで書いちゃいましたwww
というわけでクロエのコーチはシグナムとリインでございます。
え? ミウラはどうするんだって?
ミウラは大丈夫ですよ。だってザッフィーとヴィータが基本的に教えてるみたいですし。そもそもザッフィーの弟子ですし。
あと、クロエは一度ミウラと会ったことがあります。フリーレンを新しくしたあとの調整の時ですね。話では出ていませんが。
そしていよいよ開始された過激すぎる鍛錬。
次回はその模様もちょろっと出して、リインによる氷結の講座もちょろっと挟みまして、最後のほうでは二人に対して新技的なものを披露するあたりまで書きたいですね。
因みにこの新技披露は読者の方々にはまだまだ秘密です。あくまで新技的なものなので、今までのような攻撃系の魔法であるとは限りません。
あとはヴィクターのシーンで少しだけクロエとのことを掘り下げられればいいですね。
では、次回もがんばって行きます。